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December 12, 2006

日本食レストラン認証制度という愚

 日本の農水省が海外で2万店を超える日本レストランの認証制度を来年度から導入するとかで、その準備の有識者会議を開いているそうです。

 ちらと農水省のサイトを覗いてみると「海外の日本食レストランの現状について」なんていう資料があって、アメリカでは「日本食と称するレストランは約9千店」で「10年間で2・5倍に増加」「うち日系人がオーナーとなる店舗は10%以下」で「経営者の多くは中国・韓国・ベトナムなどのアジア系の移民が主流」などということが書いてあります。で、結語は「そこで提供される日本食の多くは米国人の嗜好に合わせて変化したいわゆる『フュージョン型』」。なのでそういう日本文化の乱れた伝わり方を危惧して伝統的な本物を外国人にも知らしめたい、というわけですな。

 この報道発表を受けて日本では「ステーキみたいな厚切りしゃぶしゃぶ」「出汁のないお湯割り味噌の味噌スープ」「ぶつ切り白身魚にシラントロの載った刺身」だのと、海外で出会った妙竹林な“日本食”を例示して、鬼の首でも取ったかようなにわか海外日本食批評がテレビや夕刊紙を賑わせているようです。

 なるほど変なニホン料理は確かにあります。わたしも素うどんの上に茹でブロッコリーなんかが載って来たものに遭ったことはあります。フィラデルフィアで入った糞まずいアジアン・フュージョン店もありました。メニューがぜんぶ記憶から吹っ飛んでますけど。

 でも、そういうのにいちいち目くじら立てるのはなんだか違うような気がするのです。だって、ハムとタマネギとピーマンとスパゲティをケチャップで炒めるナポリタンなんてイタリア人が見たら目を剥くでしょうし、日本のカレーライスなんて本家とは似て非なるもの。それでも美味けりゃいいんだと自分のことなら言うくせに、外国人が日本のことで間違うと「どれどれ教えてやろう」としゃしゃり出てくるそのおこがましさがどうにも下品だ。日本食なんていまでこそ「洗練の極み、わからないやつは下司」みたいに喧伝されてもてはやされていますけど、世界三大料理には入っていないし、だいたい日本でだってとんでもない料理が出てくるんですよ。どのツラ下げて海外のなんちゃってジャパニーズを笑えましょう。

 でもね、まあ、口を出したい、その気持ちはわかります。でもだいたい文化のことでおカミが口を出してうまくいったためしなどないのだわ。変なものは放っておいても淘汰されます。まずいものは、日本人であろうがだれであろうがまずいの。そういう店は黙っていても潰れるんです。いいじゃないの、それで。

 なのに時代錯誤の勲章みたいな認証制度だなんて、それって、財政大赤字の中で税金を使うべきそんな重要なことなのですか。おまけに農水省のサイトには「我が国の食の変遷」だの「料理の起源」だの「主要国の食生活・消費水準」だの「ミシュラン・ゴーミヨ・ザガット比較」だのと、もっともらしいがまったく余計なリサーチが列記してあって、いやいや、ほんと、ヒマなのかバカなのか。有識者会議とかだってどっかの食品企業の社長だとか外食産業の社長だとか大層なメンツを揃えていて、タダで開けているわけではないだろうに、ねえ。これって潮流の「小さな政府」にも逆行した大愚行そのものでしょう。

 産經新聞12/8日付で、長戸雅子NY支局長はミッドタウンの小さな和食店に話を聞き、「日本政府の好みに味をあわせても意味はない。レストランは地元産業。地元の人が好む味に合わせ、創作するのは当然」というコメントとともに認証制度に疑義を挟む記事を書きました。

 いつもここで書いている「ブーレイ・アップステアーズ」の三上忠男シェフは発想は理解できるとした上で「でもどんな店がそんなものをもらいたがるんでしょう? どんな客がそんなもの見て店に入るんですかね?」と根本的な部分に疑問を呈します。

 たしかにそうです。その認証章、イタリアとかタイも同じようにお墨付きを出しているそうですが(でも、政府じゃなくて外郭団体ですよ)、わたしら、そんなもの、気にしたことありません。気にするのはそこに住んでいる人たちの評判であり、店の面構えであり、その種の情報ならいまはどんなことをしたって手に入ります。どこかすごい外国で飛び込みで入ってラーメンに天ぷらが載っていようと、そんなの自業自得、日本政府のお好きな言葉で言えば「自己責任」でしょうよ。だいたいそんなところでジャパレスに入るほうがどうにかしてるんだ。それとも日本政府はそういう「食の難民」のようなかわいい日本人観光客なら、「自己責任」のロジックには目をつぶってやって、そうそう、「邦人保護」の大義名分で救ってやらねばならないのでしょうか? バカいっちゃいけない。

 そんなことしてる金があるなら、無料で日本料理講習会を月一とかで現地で開いて、なんちゃってジャパニーズのクックたちをただで懇切丁寧に、人種卑下なんかもせずに誠意を尽くして教育してあげればいいだけの話です。有識者会議のお歴々に出席費だか交通費だかを払うより(おそらく1回で数十万円にはなるでしょう)、そっちのほうがどんなに効果的か。違いますか?

 認証制度、ワッペン配り、これは絶対に無用の長物です。何の役にも立ちません。役人のアリバイ仕事だ。
 農水省サイトはで以下のリンク先で一般の意見も求めているようです。ぜひ、税金の無駄遣いはやめろと書き込んでやってください。

農林水産省 海外日本食レストラン認証への意見募集