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January 14, 2008

Bar Blanc

2008-01-11
フレンチ-アメリカン
Bar Blanc(バー・ブラン)
☆☆☆
142 W 10th St(ウエストヴィレッジ)
New York, NY
212-255-2330

ブノワで食わされたあのロースト・ポークのどうでもよさを、さらに際立たせてくれると書けばよいのかそれともそれを覆い尽くして癒してくれたと言えばよいのか、とても美味しいロースト・ポークに新年早々出遭いました。そうそう、これです、ロースト・ポークはこうでなければなりません。皮をわざと残してそこをカリカリカリッとさせ、そうして肉部分はやわらかなれど肉の食感を保ってしっとりと火が通っている。もう、こんなに穏やかに幸せな気分にさせてくれるお肉はありません。まあ、ご覧あれ。

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まず、皿に置いたお肉のたたずまいまでブノワのとは違います。これは重要。料理人が、いかに自分の作ったそれを大事に思っているか、それが表れるからです。客のためのプレゼンテーションというよりも先に、まず自分の作品にシェフ自身がどれほど傾注しているかということなのです。
ブノワのはこれです。比べてみて。

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その差は味のみならず歴然でしょ。

さて、2008年最初のレヴューはグリニッヂヴィレッジに1カ月前に開店したばかりの「バー・ブラン」です。「白いバー」という意味で、フロアを除いて内装は白で統一されています。1カ月前といっても、ここを作ったのは「Bouley」のシェフだったセザール・ラミレスと、メートルディのディディエ、セクレタリーだったピエール、そして業務法律顧問だったキウォン・スタンドンの4人です。レストランがどういうものであるかを知り尽くしている彼らのことですから、1カ月にしてすでにインスタント・トップレストランです。訪問した11日は金曜日で、いやいや、店内はじつにウエストヴィレッジらしい喧噪(私たちはバースペースのテーブル席でしたのでなおさら)に満たされ、じつにニューヨークでした。

私たちは5人でテイスティングメニューを頼みました。ですので、メニューにあるのとはポーションもアレンジメントも少し違うと思いますが、印象は掴めると思います。冒頭に紹介したのは5コースの中での最後の肉料理でしたのでそれは再度、最後に詳述するとして、まずはアミューズが2つ供されました。

ちっちゃなブリオーシュ。中にちょっとだけブリーが挟まってて、さらにトリュフオイルの香りです。こんなにちっこくて、でも口にしたとたん顔の筋肉がへなっとなります。
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これはちょっと甘酸っぱいビーツのジェリーとたおやかなクレームフレーシュのアイスクリーム。フルール・ド・セルがジェリーの上に掛かっています。なかなか洒落た陶のスプーンを見つけてきましたね。
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そうして最初の前菜が2種類のマグロの刺身と、フォワグラの蒸したのです。
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向こうっ側の2つがマグロ。手前がフォワグラ。マグロはメニューにあります。
右上のがポン酢と黒トリュフのドレッシング仕立て。これはみんなちょっと塩っぱいと言ってましたが、わたしは気にならず。
左上のは黒タマネギとイカ墨と味噌のソースに、上にゴボウのフライとマイクログリーンが載ってますね。
フォワグラは、これまた蒸してまるでアン肝のように軽く上品に仕上がっています。それを定番の果物のソース(リンゴ?)の上に置いて、さらにフルール・ド・セルでカリカリ食感を加えています。木の芽が裏返しなのはご愛嬌です。これは、ほんと、鮟肝もこうやってポン酢の代わりにべつの甘くて酸っぱい林檎やブドウで食べさせても面白いかもしれないですね。

ほんでもって、次のこれも美味しかったの。
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中央のはすごい軽い羊のリコッタチーズの上にローストしたウサギの肉をいろいろ成型してスライスしたのを敷いて、そんで上に載っているのはリ・ド・ヴォーです。茶色いソースはジュですね。右上にはウサギのレヴァーペースト(といってもものすごく滑らかでクリームたっぷりの絶品)。手前と奥のマイクログリーンに隠れているのはちっちゃなクリミニマッシュルームを甘酸っぱく漬けたもので、これがまたファッティな皿のアクセントとしてなかなか頭の良い配置です。
んで、うまいんだ、このコンビネーション。ウサギの肉のやさしさ。子牛の胸腺の火の加減。セザールって、こんなに肉料理が上手かったっけ? これはメニューでは前菜のところにSlow Roasted Rabbit and Sweetbread Saladとして表記されています。
いやいや、困ったなあ、こういう素敵なレストランがあちこちにできると、金がいくらあっても足りなくなります。

次は何? そうそう、これ。ホタテ。纏っているのはフィロ・ドー(薄いパイシートみたいなのです)、で、奥にエスカルゴが2つ隠れています。
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いやいや、こう振り返るとやっぱり美味かったんだなあ。どんどん味を思い出してしまってまた食べたくなってくる。メニューにもPan Seared Jumbo Scallopというのがありますが、これはエスカルゴも入ってるしソースも違うかもしれません。このスープっぽいソースの緑はたしかタラゴンです。エスカルゴにタラゴンが合うところからの即興かもしれません。ホタテのジュースがベースでしょうか、全体をなんとなくシトラスの風味とともにまとめあげています。

そんでもって、写真ではなんだかわからんが、低温調理のサーモンです。
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サーモンはとろとろほろほろです。その上にプレザーヴド・トマトを掛けて、そこにハーブのパスタのシートを載っけて、そこにさらに白ワインの泡のソースを覆いかぶせてるんですね。
これね、じつはわたし、いちばん面白いと思った。このジャム状にしたトマトが何とも味が濃くて、オレンジの味まで含んでいる。サーモンのオレンジソースは定番ですが、このトマトがめちゃくちゃ濃くて美味しいのです。でも、残念ながら塩っぱすぎたの。量で調節して、もっと少量にすればよかったのかもしれませんが、そのアンバランスによってトマトの濃さに占領されちゃった感。ウーム、残念。

そんで料理コースの最後は冒頭のポークです。
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メニューではMilk Fed Porceletとあります。乳飲み子の豚の仔っこ。うー、かわいそ。心して食させていただきましょう。というかほんと、こういうのを不味くするなら調理人は罪人です。
中央のがそのロースの部分ですね。脂身の部分まで付いているのが日本人の私にはうれしい。左側に、さらにその脂身を越えてカリカリの皮がちょっと剥がれているのが見えるでしょ? うひひ。
で、右奥のはバラ肉部分の角切り。その上から橋のように渡されているのはクラッカーの上にその豚の頬肉とかで作ったテリーヌをちょぼちょぼと並べているわけですね。
バラ肉部分は調理法が違うのか、もっとワイルドな味がしますが、とにかくこのロース部分が美味しい。しかも下に敷いているのが芽キャベツの賽の目切りの、なんというの? ちょっと甘酸っぱい感じのもので、これも豚肉にぴったりなんだ。ソースは2種類。肉汁にシナモンとスターアニス(八角)のと、オレンジのです。これがまた押し付けがましくなく、さりげなく肉の味を両脇から支えるのです。

というわけで、腹一杯になって、デザート。
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オヴンから出したての熱々のアーモンドケーキと、洋梨とマスカルポーネのソルベ。
そんなに甘くなくて美味しい。まあデザートメニューは驚くというのではなく、手堅くという構成です。
デザートを凝るのはやはりグランメゾンですから。ここはほんと、スペースといい造作といい、ご近所のしゃれたレストランという位置づけ。デザートで客を惹き付ける必要はないでしょう。

でも驚いたのが食事が終わって厨房に謝意を伝えに訪れた時です。(中央の笑顔の眼鏡がセザールです。あら、彼、腕にタトゥー、すごいな)
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10人以上が働いてるのです。この規模でこのクックの多さは贅沢なもんです。素晴らしい。

さて、初回の訪問はじつに満足の行くものでした。
Allen & Delancey のときにも書きましたが、ニューヨークはいま、第2次なんだか第3次なんだか、レストラン業界に新しい波が生まれています。一流どころで修行したシェフたちが続々と自分の店をオープンさせて、それがいずれもなかなかよい仕事を見せています。Allen & D はいま現在、もう予約の取れない人気店です。

そこでこのバー・ブランの参入です。
この日の料理はいずれも実に洗練されたもので、ブーレイの尾っぽをまだ引きずっているようにも感じました。というか、ブーレイがセザールの料理だったのですが。
私が今回、サーモンのトマトに惹かれたように、今後はもう少し尖る部分もあっていいのではないか。何せここはヴィレッジです。顧客層も若い。大人の味と同時に、食べると思わずニヤけてしまうような遊び心のある皿を見せても面白いと思います。

本日のテイスティング・メニュは1人90ドル。
ワインは50ドル前後でじゅうぶんに美味しいものがそろっています。
私たちはサンセール($48)から急に贅沢して2003 Chateau de Puligny Montrachet Puligny Montrachet Folatieres($148)、2002 gevrey chambertin sarl maurice chapuis($105)といただきました。

November 07, 2007

ALLEN & DELANCEY

2007-11-02
フレンチ・アメリカン・イングリッシュ?
Allen & Delancey
☆☆☆
115 Allen St.
Manhattan, NY
Lwer East Side (at Delancey St)
212-253-5400

いま確実に、NYにレストランの第2次ルネッサンスが訪れていると思います。
おそらく30歳前後の新しいシェフたちが、続々といま独立したりスポンサーを見つけて店を出したりいます。その中で頭角を現す者たちが、5人もいればすごいことです。

彼らはいわゆるXブーレイ、Xダニエル、Xグラマシー・タバーン、Xどこそこなのです(エックス〜〜と読みます。かつての〜〜という意味で、つまりむかしどこそこで働いていたやつ、ということ。ちなみにマイ・エックス・ボーイフレンド、は私の前の彼氏、という意味です)。

NYは90年代初めからいわゆるブーレイが牽引役となってダニエルが出てきてジャン・ジョルジュが現れ、ル・ベルナルダンのトップがエリック・ルペールに代わり、グラマシー・タヴァーンのトム・コリッキオが追いかけておそらくモダーン・キュイジーヌの第一次黄金期を形成した。そこにデュカスやナパのトーマス・ケラーがやってきて、一気にテーブル単価を高めた新型のレストランビジネスも持ち込みました。

で、そういう人たちはいま50歳前後なのですね、もう。

それで、そういうところを経験した若手たちが出てきているのです。それが20代30代の若手。これはじつはこの日のアレン&デランシーにやってきたから気づいたことではなくて、その前に10月29日にチェルシーのはずれのTrestleというちっちゃい普通の街角のレストランに入って、そこが伏線になって考えたことです。そこで食ったものがとてもエスプリに溢れておいしかった。え? なに? だれなの? と思ってウェイターに聞いたら、グラマシー・タヴァーンで料理していたロルフというシェフだと言う。ふーん、グラマシー・タヴァーンは最近行ってなかったけど、90年代の後半、ブーレイが閉まっていたときに唯一通ったレストランでした。トム・コリッキオの店です。最近、シェフが代わったみたいだけど。

いや、今日はALLEN & DELANCEYの話です。

ここのシェフは、じつはすでにここで書いたことがあります。
ニール・ファーガソン。
ゴードン・ラムジー@ザ・ロンドンNY。そこのオープニングシェフで、私が食べた後であそこをやめ、それでどっか郊外に行っていて、最近1か月ちょっと前に戻ってきてこの店を開いた。

ゴードン・ラムジーには☆☆☆を付けました。再訪していないので、ニールがシェフじゃなくなってからどうなっているのかは検証の必要があります。

さて、このニール、やはり素晴らしいのです。「ゴードン・ラムジーのレシピを再現する」という宿命を与えられたレストランでも、おいしかったのはやはり彼の差配のせいだと、この日改めてわかりました。
で、調べてみたら、彼、パリのラルページュ (L'Arpege)やブルゴーニュのレスペランス(L'Esperance)で働いてたのね。ふーん。アルページュは最近あんまり評判よくないけど、両方ともミシュランの3つ☆ですもんね。

さて、店名のとおり、ここはロウワーイーストサイド、アレン・ストリートとデランシー・ストリートの北西の角にあります。店内はほとんどロウソクのみの明かりで構成されています。まずバーカウンターがあって、奥に二つのダイニングルームがあります。べつにかしこまってません。カジュアル、アンド・エレガント、って感じです。またマリアさんと行ってきました。
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オープンしてまだ1か月ちょっとなのでテイスティングメニューもワインペアリングもありません。おまけにテーブル席もなくてバーカウンターでの食事です。でも、テイスティングメニューとワインペアリングをやってくれました。いずれは必要になるんだもんね、われわれを実験台にやってみればいいのです。

ということで、メニューからの小さなポーションでの組み合わせとなりました。
しかし、ゴードン・ラムジーのときにも言いましたが、ニール・ファーガソンはブラウンソース系がうまいのです。なんといいますか、かなり男っぽい。それも、さわやか系の男、って、言ってることわからんわね。はは。

じゃ、行きますか。

Shavings of Hamachi, Pink Grapefruit Beads, Pickled Fennel Bulb
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ハマチ、好きなんだよねえ、こっちの人って。わたしはほとんど食わないです。トロだって、よほどおいしいって言われなくちゃ食べないもの。赤身は食うけど。
で、ふつうは英語でイエローテイルっていってたんだけど、最近のスシブームで、みんなハマチって呼ぶようになった。そんでそのハマチです。シェイヴしてます。つまり削ぎ切りです。でね、そのリッチな脂っぽさを、グレープフルーツの酸味で中和します。ピンクのグレープフルーツなのは、味というよりも色合いの美しさでの選択です。そこにやはり甘酸っぱく漬けたフェンネルが散らしてあります。それとイエローベルペッパーのみじん切りも。
グレープフルーツは、ハマチに合います。はは。おいしいの。情けない、かんたんに宗旨替え。

Caramelized Bone Marrow, Caviar, Shallot Puree
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でね、これ、ヒットです。骨髄です。それをきっとオヴンで焼いてずるっと出したのをまたそのまま焼くのかな、ソテーするのかな、ソテーしたら溶けちゃいそうだな、どうするんだろ、とにかくキャラメライズします。そんでね、そこになんと、キャヴィアを載せちゃうのよ。キャヴィアみたいな高価なモノを、ってんで驚いてるんじゃないのよ。なんと、ってのは、どういう組み合わせですか?っていう驚きです。それが、合うのよ、あなた。このキャヴィア、でも、チョウザメのキャヴィアかなあ。なんか、もっとあっさりしてたような気がします。この濃厚な塩味が、骨髄の濃厚さに別の角度の濃厚さを加えて、うまいんだ。驚いたね。
下に敷いてあるのはエシャロットのピュレです。それと茶色いジュは子牛とかのジュですよね。中に何が混じっているのか、何となくナッツのような気もしたんですけど、ナッツは入れてないと言います。しかし、これは何ともじんわりとおいしかった。すばらしい。あ、そうよ、ニール・ファーガソンはこういう茶色いソースが上手なのよ、そうだったそうだった。
奥に写っているのはいっしょにどうぞっていう付け合わせのトーストしたブリオーシュです。

Sea Scallops, Celery Root Cream, Braised Cippolini Onions, Verjus
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ほら、ホタテもこういう茶色いソースです。というか、ヴェルジュという、未熟なグレープの果汁と熟したグレープの実と、梨かなあ、この四角いの。それと丸い茶色のは小タマネギのカラメライズしたやつですね。ピュレはセロリの根です。これもさりげなくおいしい。おほほほほ、って感じです。
そうねえ、味のメリハリなのかなあ。

Braised Fluke Fillet, Cauliflower Cream, Parsley Root, Trompettes
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でね、お魚もうめえのよ。これね、ヒラメ。それをブレイズってのは油でいためてそれからちょっとの汁を使って蒸し煮にするという感じなんだけど、もうこの塩焼きっぽい感じに、下に、なんだったっけなあこの野菜。白いのはカリフラワークリームだって。で、隠れてるけど、パセリの細い根っこがグリルされて敷いてあるの。パセリの根っこなんて、初めて食ったわ。そんでほんとにパセリの根っこの味がするのです。はは。
で、このお皿、全体としてとっても清楚なうれしい味がしました。うひー。

Slow Roasted Porkbelly, Pickled Pear, Parsnips, Fenugreek Syrup
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お肉はこれです。斜めになっててわかりづらいけど勘弁。豚バラ。これをゆっくりロースト。それで、手前はエリンギです。ちゃんと隠し包丁が入ってるよ。左のごろんとしたのはパースニップ。緑のはサヴォイキャベツ。手前の紫はワインに漬けたんだろう梨です。泡は忘れた。ぽつぽつ落ちているのがフェニュグリークのシロップなんだろうなあ。ワインペアリングやってたんで、この辺から記憶が雑になるわ。
でも、しっかりとおいしうござんした。

American Cheeses from Saxelby’s
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アメリカのチーズの取り合わせも出してくれました、梨とイチジクが添えられています。
そうね、梨がこんなに出てくるから、ホタテに付いてきた四角いのは梨じゃなかったかも。すんません。

で、デザートです。
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はーい、楽しうございました。

コースはぜんぶで75ドル。
ワインペアリングは45ドルでした。
普通にアラカルトで頼むとアペタイザーが15ドル前後、アントレが25ドル前後です。つまり40ドル+ワイン+デザートで食べられちゃう。
今回のこのコースとワインも、すんごいお得感いっぱい!

ところでわたし、いっつもめんどくさくてワインのメモはしないんだけど、ほんとはこういうブログではワインのこと知りたい人も多いんだろうなあ。こんどからメモすることにしましょうか。でも、そうすると料理が楽しめないんだよね、せわしなくて。ウーム、悩む。

で、帰り際、地下の厨房にシェフに表敬訪問。金曜の夜ということもあってすんごく込んでいました。
お忙しいところ、ありがとうね、ニールさん!
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満足して帰りました。
ごっつぁんっす!

January 24, 2007

WD~50

2007-01-21
ニューアメリカン
WD~50
料理 ☆
デザート ☆☆☆
50 Clinton St.
New York, New York
212-477-2900

いまやニューヨークで最もヒップなレストラン街となっているクリントン・ストリートにこのレストランはあります。ロウワーイーストサイド、ハウストンの東端に近い位置から南に伸びる一角です。この一角の再開発のきっかけは1999年の71 Clinton Fresh Food というレストランでした。そこを父親とともに開いたのが今回、wd~50でシェフを務めるWylie Dufresne(ワイリー・デュフレスヌ)です。wd~50はもちろんそのシェフの頭文字と住所ナンバーから来ています。2003年4月の開店だそう。デュフレスヌはいま36歳、ジャン・ジョルジュでスーシェフを務めていたといいます。うーん、わたし、ジャン・ジョルジュ、あまり(というか、正直言うとまったく)感心したことがないの。

アップステアーズの真ちゃんと2人で行ってきました。NYは寒い日が続いています。6時半の予約。店構えはなんとなくちゃち。大学祭の模擬店みたいな感じは店に入ってすぐの白木のバーやクロークがベニヤみたいに見えるからでしょうね。でもメニューはずいぶんと強気です。アペタイザーが15ドル平均、メインは30ドル。ちょっとしたグランメゾンみたい。で、やっぱりここでも105ドルのテイスティングメニューを頼みました。それに65ドルのワイン・ペアリングです。

で、結果は、というか経過は、料理はほとんどディフォーメイション(変形)とディコンストラクション(脱構築)の「エル・ブリ」スタイルです。やっぱりフェランの革命は大きいんでしょう。でも、こういうスタイルを一度知ってしまった人たちに、果たして最初の「ええ? 何、これ? どうしてこうなるの? うわぁ、すごい、面白い!」っていう感動は、どうなんでしょう、再現されるのでしょうか。どっちかっていうと、ああ、頑張ってるなあ、ってなってしまうんですよね、私の場合。で、最終的には、それで美味いのかどうか、ということなんですよね、やっぱり。それに、たとえフェランがやっていないこと、やったことないこと、知りもしないことでも、こういうのって、あ、エル・ブリだなあって思われちゃうでしょ。それ、かわいそうですよね。たとえば英国バークシャーにあるヘストン・ブルメンタールの「ファット・ダック」。ゴーミヨーで19点、ミシュランで3☆というすごいレストランだけど、フェランがいなかったら、もっとすごいと思われてたろうなあと。

ま、御託を並べてないでとっとと食い始めましょうか。まあ、すごいってほどじゃないけど、まあまあ美味いですよ。まずくはない。でもね、あとで書きますが、ここはデザート。ペイストリー・シェフのアレックス・スッテューパック(Alex Stupak)ってのが、これは私、参りました。素晴らしい。26歳です。うーむ。

ということで、最初はどかんと「フラットブレッド」が配置されます。これ、どっちかというとインドのぱりぱりパンに似てるものすごく薄いクラッカーですね。
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で、ファーストコースは烏賊ヌードルですって。その上の褐色のヌードルはオリーブのジュースを固めた麺ですね。そこにパラパラとオレンジ・ソイル(乾燥オレンジの粉末です)がかかっていて、向こう側の緑のはアルグラ(ルッコラ)のペーストと呼んでます。烏賊はスクイッド、ちっちゃなヤリイカですね、それを湯がいて千切りにした。うーん、ヌードルには日本人は驚かないなあ。これではアルグラのペーストの味が際立って緑っぽくておいしかった。アルグラとオレンジって合いますからね。でもそれだけかなあ。

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2品目は、これ、目玉焼き(サニーサイド・アップ)。

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笑っちゃうけど、おいしいです。何かというと黄身は人参ジュースになんかの凝固剤を入れて丸く凍らせる。で、室温に戻すと表面だけが固まっていて形をホールドする。下の白身はココナッツジュース。それに上手い具合に寒天みたいなのを混ぜて、これ、ほんと白身の食感にそっくり。上にはカルダモン塩とオリーブオイルが掛かっています。人参ジュースがおいしいの。でココナッツの味と合わさって、いいコンビネーションです。これは買いですね。

3品目は、これ、わからんでしょ?

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料理名は「フォワグラ・イン・ザ・ラウンド」、つまり球形のフォワグラ。この薄い肌色の球体がフォワグラのペーストをメソセルロースで固めたやつね。黒っぽいボールはちっちゃな麦チョコ。緑はクレソンのピュレ。オレンジ色のちっちゃな粒は、あられです。食感および塩味の加味用ですかね。で、底にはバルサミコをフリーズドライして粉にして丸くしたのがちょっと入ってる。つまりフォワグラのチョコ風味バルサミック和え、って感じね。でも、よくわからん。フォワグラの味も薄くて、最初にちょっと感じるだけで、よくわからん。なんだか、何を言いたいんだか、わからん。まずくはないが、うまくもない。ふうん、って感じ。

次。

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向こう側は冷たいカニ肉のサラダロール、それにミントの千切りが載ってる。手前はあれよ、寿司屋のガリを天ぷらにしたやつ、下に刷毛で塗ってるのは発酵ブラックビーンのペーストね。豆鼓かね。もちょっとまろやかな味をしてたからブラジルの黒豆かしら。で、どんな味かって、想像するとおりの味ですよ。黒豆ペースト、ちょっと醤油っぽくていい感じ。でもそれだけ。

あ、真ちゃんはカニとエビ類がだめなんで、なんだっけ、スモークした鰻にブラッドオレンジのゼストが載って白い千切りは黒蕪(皮だけ黒いので切ったら白、何の意味があるのか?)。で、おかしいのが黄土色のゴミみたいなの、これ、鶏皮のペーストなんだってさ。味、けっこう強くてしょっぱかったです。

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次は5品目で、これ、ちゃんとした一品料理のたたずまいでした。
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スモークタンみたいな、ピクルドタンと言ってますがね、タンのハムみたいな感じのスライス。やわらかくて優しい味です。で、キューブはマヨネーズを揚げたんだって。これも凍らせて成形してパン粉つけて揚げたんだろうね。黒っぽい刷毛目はトマトのピュレにモラーシス(糖蜜)を混ぜたもん。モラーシスの味強すぎ。これはチョコレートとメキシコの乾燥ポブラノの「アンチョ」チリなんかを混ぜたほうが合うような気がしますね。左の端にはね、手前がロメインレタスの細かい賽の目切り。向うがレッドオニオンの乾燥粉末ね。

次はミソスープ、セサミヌードル、って言ってますが、味噌ではなくてお澄ましの濃いのですね。
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ジャパニーズスープをみんなミソスープと呼んでしまっているという、初歩的な誤解です。かわいいもんですが。で、胡麻ヌードルってのはこれ、プラスチック容器に入っていて、ちゅーっと押すとにゅるにゅると出てきて、スープの高温で固まるという仕組み。スープ、コンソメみたいに濃厚で悪くなかったです。だ〜か〜ら〜、ヌードルにはわれわれ、驚かないんだってば。

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次のはラングスティーン、つまり手長エビね。隠れてて分らんだろうけど、このエビ、おそらく50度くらいで加熱処理してて食感が生っぽくて甘くて透き通ってて、おいしい。べつに真っ赤なハイビスカスペーパーなるものは甘酸っぱくアクセントをつけるもんだろうけど、なんかもっと違うもののほうがいいなあ。エンダイブも三角に切って湯通しして冷やしてエビの色と食感に合わせてます。でね、下に敷いてあるソースみたいなのはソースじゃなくて、ポップコーンのピュレ。よくまあ考えるわね。ホント、ポップコーンの味がする。

真ちゃんはエビがだめだから、タルボットです。量がほんのちょっぴり。焼いてあって三角に切って、写真では右奥に重ねてあるのがそう。
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真ん中のオレンジはコーヒーとサフランのドレッシング、緑のはネギ風味のブルグァ(Bulger=小麦を半ゆでにし砕いて乾燥させたもの)。白い棒状のはサルシフィ(西洋牛蒡ですね)。ここね、さっきから言ってますが、野菜の料理の仕方が上手い。ちゃんと野菜の味がするのさ。それは買い。

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で、料理の最後はスクワブ(雛鳩)の胸肉のビーツまぶしロースト=右端。白いのはココナッツ・ペブル(小石)と。それに混じってる赤い塊はカタバミだっていってた。うーん、微妙な味でした。

というわけで、面白いっちゃ面白い。がんばってるっちゃがんばってる。だから☆あげるのにやぶさかではない。でも、ここはテイスティングより、アラカルトでちゃんと食べた方がいいのかもなあ、って思いました。でもふとこのロケーションに思い及ぶと、ここクリントン・ストリートは圧倒的に若者たち(20〜30歳代?)が多いんだ。するってえと、やっぱりこういうの、そういう人たちにはすごく面白いし刺激的なんだろうなあと思うのでもあります。店もそういう作りだしね。

とはいえ、しかし!
しかし!

次に出てきたデザートで私はぶっ飛びました。
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これ、真ん中の棒状のは柚子のカード(チーズみたいに牛乳を凝固させたもの)で、緑色の粉末やクリームはピスタチオなんだけど、驚いたのはこの白い泡です。何の味がしたと思います?
口に含んだとたん、え、これ、あれだよ、あれ、クリスマスのときのクリスマスツリーの匂いだよ。あの、樹脂の匂い。そんなの、食べるの? 聞いたら、spruce(トウヒ)風味のヨーグルトだって。ひー。
いや、驚いたのは「そんなもの」という意味だけではなく、柚子のカードとピスタチオと、そうしてそこにやや苦みのある木の香りを混ぜ込んで、出来上がった全体の味の、なんともいえぬほど刺激的かつ控えめな雄弁さ。これはすごい。甘さも絶妙。揮発性の樹脂のもたらす効果の、いやはや、参りましたね。寡聞にして、私は木を使った食べ物をこれまで知りませんでした。あ、シナモンは木といや木だけど……。あと、木の実もそうか。でも、いわんとすること、わかるでしょ?

続くコーヒーケーキ、リコッタの泡、マラスキーノチェリーのピュレ、チコリのアイスクリームの盛り合わせも、あーた、いいじゃありませんか。
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最後は生チョコの捻れたのにアヴォカドのピュレ、ライムのソルベ、そこにすっと一直線でリコリスのシロップが流れています。
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組み合わせの妙。おいしい。素晴らしい!
このアレックス・ステューパック、メニューを見たら他に「松の木」や「サッサフラス(米国のクスノキ)」のエキスを使ったり、梅干しも使ってるなあ。で、デザートの3コースメニューが25ドル、5コースが35ドルって! それだけを食いにここに来る価値あり。私はそのアレックスのデザートのために再訪いたします!(あらら、ウェブサイトの写真見たらかわいいじゃないすか。この日は日曜でいなかったのだ)。こいつは天才です。
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あ、ワインを書くの忘れた。ペアリング、あまり合ってないのもありましたが、おいしかったのはホワイトバーガンディーです。Pouilly-Fuisse のVV "La Croix" Robert-Denogent 2004。キャラメル、バター、スモークの風味が程よかった。あと、スクワブと一緒に出されたオーストリアのZweigelt Heinrich 2003もよかったです。私ら結構飲んだんで、65ドルの元は充分取りましたね。はは。