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September 04, 2007

信天翁(あほうどり)

2007-08-17
焼き鳥
信天翁(あほうどり)

千葉県柏市あけぼの町(厚生病院入口交差点)

8月はビザ更新で日本におりました。で、この日は、NYでお世話になったご夫妻のお招きで印旛沼花火を見にいらっしゃいということで柏のご自宅に泊まりがけのお呼ばれ。花火前夜ということで、すぐ近くの焼き鳥屋で飲もうとなって行ってみたら、これがたいそう気持ちのよい焼き鳥屋さんだったのです。

焼き鳥なんて、あなた、単に鶏を切って刺して焼くだけです。
千駄ヶ谷の鳥ナントカだとか、そんなだけでエラそうにしてもらっても困るというのがここ数年訪れた「高級焼き鳥屋」の評価だったのですが、よっぽどひどい店じゃないと鶏肉そのものの質の違いなんてほとんどわかりません。焼き方とかプレゼンは変わりますがね、日本ではどこでももう単なるブロイラーじゃないよい地物や銘柄鶏が入るようになってるんで、ちゃんと焼けばだいたいのレベルでうまいのです。

そしてこの信天翁、そういうすべてを「ちゃんと」してる。
なんといっても切り揃えと串刺しがきれいです。これは食感に影響します。すっときれいな角が立つと刺身がおいしいのと似ています。でもちょっとそれと違うのは、火の影響です。
もも肉でも胸肉でも内蔵肉でも、正肉を切るときにきちんとその切り目にエッジが立てば、そのエッジのところが火によってきれいにキャラメライズされます。つまりカリッと見事な焦げ目ができる。「焦げ目」と書くと「焦げている」みたいですけど、焦げというのは炭化のプロセスで食べられません。だからちょっと違うのですが、日本語にはキャラメライズに相当する適当な単語がないのだ。「焼き目が付く」「黄金色に焼ける」というのもそうですが、でもそれだと「見た目」に主勢が置かれてしまってこれまた違うんだなあ。いずれにしても肉を焼くときには、このキャラメライゼーションの好悪こそが味の70%までを支配してしまいます(数字は適当っす)。

さてその焼き鳥、入ってL字型のカウンターに沿った焼き台で大将がパタンをぜったいに崩すことなく丁寧に焼いてくれます。タレはありません。ぜんぶ塩です。その手塩の振り方も打ち水のようです。気持ち良い。胸、腿、鶏レバー、鶏ハツ、鶏皮、軟骨などいずれもじつに真っ当です。身は締まっているし、外側カリッ、中ジュワッ、です。しかも塩だからいくらでも食えちゃう。鶏皮の串打ちなんか、真面目なおばあさんの針仕事のように、見事に縒りが揃ってるの。こういうのだけでもうじつにうれしい。

焼き鳥以外にもいわゆる焼き台のある居酒屋メニューはそろっていますが、その一つ一つがきちんと選ばれています。ジャガイモも丸ごと焼いてくれるのですが、そこに落とされるイカの塩辛もおいしいです。板わさもありますが、この板わさ、小振りの板かまぼこを一本ぜんぶ出してくれるんだけどその切り方が、どっかのクラブ(ホステスが隣に座るようなところです)で出てくるような飾り包丁で、出てきたときに思わず「うわー、すごい」と感嘆した後、ふとおねえちゃんクラブのことに気づいて笑っちゃうわけです。聞くと、大将は数年前に脱サラした人で、そんでこの店を開いたんだが、食べ物の技術は勤め人時代に全国出張したときにあちこちで飲み食いしたその経験だけが頼りだったとのこと(まあ、それだけじゃないでしょうけれどね)。この板わさ飾り包丁もそうやって憶えたんですってさ。はは。

で、ここがポイントなんですが、とにかく安いんです。そういう一品も300円とか500円とかですよ。
酒も冷蔵庫にいいものが揃えてあります。焼酎も、よくこんな小さな店にこれだけ、というくらい逸品が数多く。

そうしてそういう店を維持している大将も、なかなかの逸物だと感服しました。でも、ぜんぜんエラそうじゃありません(笑)。背筋の通った、茨城弁の美丈夫です。こういう店を近所に持てる日本は、やはりうらやましいですね。