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July 24, 2013

ロシアの反ゲイ弾圧

ニューヨークタイムズ22日付けに、ハーヴィー・ファイアスティンの寄稿が掲載されました。
プーチンのロシアの反LGBT政策を非難して、行動を起こさずにあと半年後のソチ冬季五輪に参加することは、世界各国が1936年のドイツ五輪にヒットラーのユダヤ人政策に反発せずに参加したのと同じ愚挙だと指摘しています。

http://www.nytimes.com/2013/07/22/opinion/russias-anti-gay-crackdown.html?smid=fb-share&_r=0

以下、全文を翻訳しておきます。

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Russia’s Anti-Gay Crackdown
ロシアの反ゲイ弾圧
By HARVEY FIERSTEIN
ハーヴィー・ファイアスティン

Published: July 21, 2013


RUSSIA’S president, Vladimir V. Putin, has declared war on homosexuals. So far, the world has mostly been silent.
ロシアの大統領ウラジミル・プーチンが同性愛者たちに対する戦争を宣言した。いまのところ、世界はほとんどが沈黙している。

On July 3, Mr. Putin signed a law banning the adoption of Russian-born children not only to gay couples but also to any couple or single parent living in any country where marriage equality exists in any form.
7月3日、プーチン氏はロシアで生まれた子供たちを、ゲイ・カップルばかりか形式がどうであろうととにかく結婚の平等権が存在する【訳注:同性カップルでも結婚できる】国のいかなるカップルにも、または親になりたい個人にも、養子に出すことを禁ずる法律に署名した。

A few days earlier, just six months before Russia hosts the 2014 Winter Games, Mr. Putin signed a law allowing police officers to arrest tourists and foreign nationals they suspect of being homosexual, lesbian or “pro-gay” and detain them for up to 14 days. Contrary to what the International Olympic Committee says, the law could mean that any Olympic athlete, trainer, reporter, family member or fan who is gay — or suspected of being gay, or just accused of being gay — can go to jail.
その数日前には、それはロシアが2014年冬季オリンピックを主催するちょうど半年前に当たる日だったが、プーチン氏は警察官が同性愛者、レズビアンあるいは「親ゲイ」と彼らが疑う観光客や外国国籍の者を逮捕でき、最長14日間拘束できるとする法律にも署名した。国際オリンピック委員会が言っていることとは逆に、この法律はゲイである──あるいはゲイと疑われたり、単にゲイだと名指しされたりした──いかなるオリンピック選手やトレイナーや報道記者や同行家族やファンたちもまた監獄に行く可能性があるということだ。

Earlier in June, Mr. Putin signed yet another antigay bill, classifying “homosexual propaganda” as pornography. The law is broad and vague, so that any teacher who tells students that homosexuality is not evil, any parents who tell their child that homosexuality is normal, or anyone who makes pro-gay statements deemed accessible to someone underage is now subject to arrest and fines. Even a judge, lawyer or lawmaker cannot publicly argue for tolerance without the threat of punishment.
それより先の6月、プーチン氏はさらに別の反ゲイ法にも署名した。「同性愛の普及活動(homosexual propaganda)」をポルノと同じように分類する法律だ。この法は範囲が広く曖昧なので、生徒たちに同性愛は邪悪なことではないと話す先生たち、自分の子供に同性愛は普通のことだと伝える親たち、あるいはゲイへの支持を伝える表現を未成年の誰かに届くと思われる方法や場所で行った者たちなら誰でもが、いまや逮捕と罰金の対象になったのである。判事や弁護士や議会議員でさえも、処罰される怖れなくそれらへの寛容をおおやけに議論することさえできない。

Finally, it is rumored that Mr. Putin is about to sign an edict that would remove children from their own families if the parents are either gay or lesbian or suspected of being gay or lesbian. The police would have the authority to remove children from adoptive homes as well as from their own biological parents.
あろうことか、プーチン氏は親がゲイやレズビアンだったりもしくはそうと疑われる場合にもその子供を彼ら自身の家族から引き離すようにする大統領令に署名するという話もあるのだ。その場合、警察は子供たちをその産みの親からと同じく、養子先の家族からも引き離すことのできる権限を持つことになる。

Not surprisingly, some gay and lesbian families are already beginning to plan their escapes from Russia.
すでにいくつかのゲイやレズビアンの家族がロシアから逃れることを計画し始めているというのも驚くことではない。

Why is Mr. Putin so determined to criminalize homosexuality? He has defended his actions by saying that the Russian birthrate is diminishing and that Russian families as a whole are in danger of decline. That may be. But if that is truly his concern, he should be embracing gay and lesbian couples who, in my world, are breeding like proverbial bunnies. These days I rarely meet a gay couple who aren’t raising children.
なぜにプーチン氏はかくも決然と同性愛を犯罪化しているのだろうか? 自らの行動を彼は、ロシアの出生率が低下していてロシアの家族そのものが衰退しているからだと言って弁護している。そうかもしれない。しかしそれが本当に彼の心配事であるなら、彼はゲイやレズビアンのカップルをもっと大事に扱うべきなのだ。なぜなら、私に言わせれば彼らはまるでことわざにあるウサギたちのように子沢山なのだから。このところ、子供を育てていないゲイ・カップルを私はほとんど見たことがない。

And if Mr. Putin thinks he is protecting heterosexual marriage by denying us the same unions, he hasn’t kept up with the research. Studies from San Diego State University compared homosexual civil unions and heterosexual marriages in Vermont and found that the same-sex relationships demonstrate higher levels of satisfaction, sexual fulfillment and happiness. (Vermont legalized same-sex marriages in 2009, after the study was completed.)
それにもしプーチン氏が私たちの同種の結びつきを否定することで異性婚を守っているのだと思っているのなら、彼は研究結果というものを見ていないのだ。州立サンディエゴ大学の研究ではヴァーモント州での同性愛者たちのシヴィル・ユニオンと異性愛者たちの結婚を比較して同性間の絆のほうが満足感や性的充足感、幸福感においてより高い度合いを示した。(ヴァーモントはこの研究がなされた後の2009年に同性婚を合法化している)

Mr. Putin also says that his adoption ban was enacted to protect children from pedophiles. Once again the research does not support the homophobic rhetoric. About 90 percent of pedophiles are heterosexual men.
プーチン氏はまた彼の養子禁止法は小児性愛者から子供たちを守るために施行されると言っている。ここでも研究結果は彼のホモフォビックな言辞を支持していない。小児性愛者の約90%は異性愛の男性なのだ。

Mr. Putin’s true motives lie elsewhere. Historically this kind of scapegoating is used by politicians to solidify their bases and draw attention away from their failing policies, and no doubt this is what’s happening in Russia. Counting on the natural backlash against the success of marriage equality around the world and recruiting support from conservative religious organizations, Mr. Putin has sallied forth into this battle, figuring that the only opposition he will face will come from the left, his favorite boogeyman.
プーチン氏の本当の動機は他のところにある。歴史的に、この種のスケープゴートは政治家たちによって自分たちの基盤を固めるために、そして自分たちの失敗しつつある政策から目を逸らすために用いられる。ロシアで起きていることもまさに疑いなくこれなのだ。世界中で成功している結婚の平等に対する自然な大衆の反感に頼り、保守的な宗教組織からの支持を獲得するために、プーチン氏はこの戦場に反撃に出た。ゆいいつ直面する反対は、彼の大好きな大衆の敵、左派からのものだけだろうと踏んで。

Mr. Putin’s campaign against lesbian, gay and bisexual people is one of distraction, a strategy of demonizing a minority for political gain taken straight from the Nazi playbook. Can we allow this war against human rights to go unanswered? Although Mr. Putin may think he can control his creation, history proves he cannot: his condemnations are permission to commit violence against gays and lesbians. Last week a young gay man was murdered in the city of Volgograd. He was beaten, his body violated with beer bottles, his clothing set on fire, his head crushed with a rock. This is most likely just the beginning.
レズビアン、ゲイ、バイセクシュアルの人々に対するプーチン氏の敵対運動は政治的失敗から注意を逸らすためのそれであり、政治的利得のためにナチの作戦本からそのまま採ってきた少数者の魔女狩り戦略なのだ。私たちは人権に対するこの戦争に関してなにも答えないままでいてよいのだろうか? プーチン氏は自らの創造物は自分でコントロールできると考えているかもしれないが、歴史はそれが間違いであることを証明している。彼の非難宣告はゲイやレズビアンたちへの暴力の容認となる。先週、州都ヴォルゴグラードで1人の若いゲイ男性が殺された。彼は殴打され、ビール瓶で犯され、衣服には火がつけられ、頭部は岩でつぶされていた。これは単なる始まりでしかないと思われる。

Nevertheless, the rest of the world remains almost completely ignorant of Mr. Putin’s agenda. His adoption restrictions have received some attention, but it has been largely limited to people involved in international adoptions.
にもかかわらず、そのほかの世界はほとんど完全にこのプーチン氏の政治的意図に関して無関心のままだ。彼の養子制限はいくらか関心を引いたが、それもだいたいは国際養子縁組に関係している人々に限られている。

This must change. With Russia about to hold the Winter Games in Sochi, the country is open to pressure. American and world leaders must speak out against Mr. Putin’s attacks and the violence they foster. The Olympic Committee must demand the retraction of these laws under threat of boycott.
この状況は変わらねばならない。ロシアはいまソチで冬季オリンピックを開催しようとしている。つまりこの国は国際圧力にさらされているのだ。アメリカや世界の指導者たちはプーチン氏の攻撃と彼らの抱く暴力とにはっきりと反対を唱えなければならない。オリンピック委員会は五輪ボイコットを掲げてこれらの法律の撤回を求めなければならない。

In 1936 the world attended the Olympics in Germany. Few participants said a word about Hitler’s campaign against the Jews. Supporters of that decision point proudly to the triumph of Jesse Owens, while I point with dread to the Holocaust and world war. There is a price for tolerating intolerance.
1936年、世界はドイツでのオリンピックに参加した。ユダヤ人に対するヒトラーの敵対運動に関して何か発言した人はわずかしかいなかった。参加決定を支持する人たちは誇らしげにジェシー・オーウェンズ【訳注:ベルリン五輪で陸上四冠を達成した黒人選手】の勝利のことを言挙げするが、私は恐怖とともにそれに続くホロコーストと世界大戦のことを問題にしたい。不寛容に対して寛容であれば、その代償はいつか払うことになる。

Harvey Fierstein is an actor and playwright.
ハーヴィー・ファイアスティんは俳優であり劇作家。

July 23, 2013

世の中の変わり方

安倍首相のことをこちら欧米メディアではかならず「右翼の」「国家主義者の」「歴史修正主義の」と形容詞がつけられていることを,日本にいる人たちはあまり知らないようです。

参院選での自民大勝を受けてロイターは今回の選挙後の安倍政権を「困難な経済立て直しという問題への関心を失ってその代わりに自身の国粋主義的目標に向かって突き進むのではないかという疑い」と報じ、あのフォックスニュースまでもが「アベノミクスはさておき、選挙後に日本の指導者は彼の国粋主義的政治課題をどれほどまで推し進めるのか」と懸念を示しています。フォーリンポリシー誌は「安倍晋三首相は彼の急進的国粋主義者の新憲法をもって歴史を書き換えようとするだろうか」、NYタイムズなどもそんな疑念を隠していません。

最近、アメリカ人の友人と一緒の夕食の席で、話題になったのがスーザン・ダンという女性歴史学者による新著「1940: FDR, Willkie, Lindbergh, Hitler-the Election amid the Storm(1940:FDR、ウィルキー、ヒトラー=嵐の中の選挙)」でした。長引く不況の中にあったアメリカの1940年大統領選挙を軸に、当時の世界のキープレイヤーたちの動きを描いたものです。

当時は大恐慌の余波で、このアメリカですら民主制度というものは行き詰まっているのではないかという空気が産まれていました。

すべては経済です。一般の国民の民意というのは経済によって支配されます。不況だと生きてゆけない。そうするとアメリカでは、当時ヨーロッパで台頭してきたドイツに目を向ける人たちが現れた。つまりナチズムこそが停滞する民主主義に変わる新しい政治制度なのではないか、と賞賛する空気です。

民主主義はとにかく面倒くさい。剛毅果断も独断専行もできない。なぜなら、民主主義というのは「何かをやるための制度」ではなく、独裁とか弾圧とか強権政治とかを「やらせないためにできた政治制度」だからです。良いことを断行するためのものではなく、悪いことをさせないための社会体制なのです。(日本の憲法96条なんてまさにその権化でしょう)

それをわかって付き合って行かないと、民主主義って「何もできない、時間が掛かる、よく機能しない制度なんじゃないか」というフラストレーションが高まるに決まっているのです。そこで当時のアメリカでは、ナチズム、ファシズムこそが新たな時代の希望ではないのか、という見方が出てきたのです。そして「翼よ、あれがパリの灯だ!」で有名な人気飛行家チャールズ・リンドバーグなどが、ドイツ・ファシズムの代弁者になっていったのです。

ヒトラーは、ファシストであると同時に、そういう民意を上手に利用する大変なポピュリストでもあった。ポピュリズムが許す民主主義の否定とファシズムへの傾倒……そんな政治状況、社会の空気は、今の日本と似ていませんか?

とにかく経済、でもその一義的な大義名分にくっつくように全体主義(とは名指しされないものの中身はまさにそうであるもの)が社会政策として併せて首相の口から語られる。経済復興を旗印に裏で浸透してゆくポピュリズムとファシズム。

選挙大勝から一夜明けて、首相は憲法9条改正について「いや最終的には国民のみなさんの投票で決まることですから」と、あたかも自分の強権は関係無さげに話しています。しかし共同は同日早くも「安倍政権、武器輸出に新指針検討 禁輸三原則『撤廃』も」と報じました。

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安倍政権、武器輸出に新指針検討 禁輸三原則「撤廃」も

 安倍政権は22日、武器禁輸政策の抜本見直しに向けた議論を8月から本格化させる方針を固めた。新たな指針の策定により、従来の武器輸出三原則を事実上「撤廃」することも視野に入れている。安倍晋三首相は撤廃に前向きという。政府筋が明らかにした。

 防衛省は26日にも公表する新防衛大綱の中間報告に新指針の策定方針を盛り込む方向だ。冷戦下で共産圏への技術流出を防ぐ目的の三原則が、武器の国際共同開発が主流の現状にそぐわないとの判断からで、野田民主党政権が進めた禁輸緩和をさらに徹底する。国内防衛産業を育成する狙いもある。(2013/07/23 02:00) 【共同通信】

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なるほど、時代は、日本は、こうして変わってゆくのです。

July 21, 2013

まずは撃て!

トレイボン・マーティン君殺害事件でのジマーマン被告無罪評決は、いまから21年前のハロウィーン前にルイジアナ州バトンルージュで起きた交換留学生服部剛丈君殺害事件の、ロドニー・ピアース被告無罪評決を思い出させました。

あの公判で辣腕と言われた被告弁護人アングルズビーは殺された服部君を身振り手振りを交えて「(ハロウィーンパーティー用の白いスーツという)奇妙な格好で自宅敷地に侵入し、かつヘラヘラと手を振り上げながら被告の近くへと向かってくる不気味な他人」として描写しました。「おまけにその手にはなにか黒い武器のようなものが握られていたのです(携帯電話でした)」「そんなならあなただって発砲していたでしょう?」と。そうして家の戸口に立った身長185cmの大柄な被告が身長170cmにも満たない体重60kgの小柄な少年を、あのダーティーハリーの44口径マグナムで撃つことが「正当防衛」となったのです。

トレイボン・マーティン裁判はこれよりも簡単でした。21年前にはなかった新たな「正当防衛」法が今回のフロリダ州を含む全米30州以上で制定されていて、「正当防衛」を立証するのにそんなに面倒な論理が必要なくなっていたのです。

その新法は「スタンド・ユア・グラウンド(Stand Your Ground)」法といいます。「自分の拠って立つ土地を固守せよ/一歩も退くな」という意味の、自分の権利を自分で守る西部開拓時代の勇ましいモットーをその名に戴いた法律で、「不正な脅威が迫っているという正当な確信があれば人は自己防衛のための当然の力を行使してもよい」というものです。そこに必要なのは「自分が脅威だと感じた」という「正しい確信」であり、これまで問われていた「差し迫った脅威だったか?」「脅威に対して退避行動を取ったか?」「過剰防衛ではないか?」などの要件をクリアする必要はありません。

これは、「犯罪者」に対する「被害者」の断固たる対決姿勢を保障することで犯罪そのものを減らそうというものなのですが、一方でこの法律が「Shoot First(まずは撃て)」法と呼ばれるように、何が何でもとにかく相手を撃ってから正当防衛を主張するケースが急増しているのです。そして多くの場合、撃った側が「脅威を感じた正当防衛」と主張すれば、撃たれた相手は死んでしまっていてそれに反論すらできないわけです。

事実、フロリダ州でこのStand Your Ground法が成立してから、「正当防衛」を主張する殺人事件はそれまでの3倍にも増えました。

今回の裁判でも陪審団は、トレイボン君が撃たれた瞬間にジマーマン被告に「馬乗り体勢になっていた」という検視結果などからジマーマン被告の「確信」した「脅威」を認めたのだろうと思われます。「脅威」があれば発砲も「正当防衛」であり、彼を有罪にはできません。なぜならそういう法律なのですから。

身長170cm、体重84kgの当時28歳の自称自警団員の被告が、身長は180cmながら体重は72kgしかない痩せた17歳の丸腰の黒人少年を「怪しいと思って」尾行し、自ら誰何し、そして結果的に取っ組み合いになって発砲したその経緯は、裁判ではほとんど問題とはならなかったのです。そこに人種偏見に基づくプロファイリングは存在しなかったのか、自称自警団というジマーマン被告のヒーロー気取りの独りよがりの正義感がそもそもの発端だったのではないかという問題は、被告弁護人の裁判戦略によってことごとく「関係のないもの」とされ、ただただジマーマン被告の行為が「スタンド・ユア・グラウンド」法に叶っているかどうか、だけが争われることになったのです。

この法律の制定を全米で推進しているのはあの全米ライフル協会(NRA)と、全米で企業に有利な立法や法改正を推し進める秘密主義の右翼団体「アメリカ立法交流評議会(ALEC)」です。そういえば服部君裁判でもNRAが被告の無罪を応援していましたっけ。

そこにあるのは「もっと銃を持とう! それで犯罪を減らそう!」という、例の、旧態依然のアメリカの西部劇精神です。そしてそんな銃の使用の正当性をめぐる争いのかまびすしさに、1人の少年の死の不当性という根源的な問題が、また無視されたのです。