May 18, 2017

3 ストライク

ロシアゲート最中の捜査指揮者コミーのクビ、ロシアへの機密情報漏出、そして今度は、当のコミーのメモによる司法妨害嫌疑の表面化──これでストライクが3つ。トランプはもうアウトです。そんな彼がいまもまだ残っているのは、ただたんに彼がこの試合の主催者だからというだけの話。審判は解雇、選手はどうしたらよいかわからず、観客は総立ちで激しいヤジを飛ばしている。さて、試合を主催している彼はいつ球場の電気を消すつもりでしょう?

しかしこの2週間の動きのなんとも早いこと。蟻の一穴ではないですが、ここを境とばかりに出てくるは出てくるは。メディアも攻め所と判断しているのでしょう。

こんな時にコミーの後任のFBI長官になろうとする輩は出てくるのでしょうか? ひょっとしたらコミーの出戻りだってあるかもしれないというのに(つまりはトランプの辞任があれば、というのが大前提の話ですが)。

いやそれより、解雇が近いとされるスパイサーの後任の報道官だって、政権の屋台骨が揺らいでいる時に、あえてそんな仮初めかもしれない役職に就こうとする輩はいるんでしょうか?

というところで昨日から旅先でバタバタしており、藪から大蛇が出てきそうなこの顛末は東京に戻ってから書きましょう。ちょいとお待ちください。

May 17, 2017

トランプ大統領の終わりの始まり

週明け15日の夕方になって、「トランプ、先週のホワイトハウスの会談でロシア外相にISISに関する重大な機密情報を漏らす」という爆弾スクープがワシントンポストによって放たれました。CNNはそれをWaPo情報として報じ、間もなくニューヨークタイムズが自ら同情報を独自に確認して"Trump boasted about highly classified intelligence in a meeting" (with the Russians.)(高度に機密な情報についてトランプは会談で自慢げに吹聴した)と報じたのです。

「現在のホワイトハウスは空中分解寸前である」という話をアップしたばかりでこれです。トランプの辞任がもし起こるとすれば、発端は先週のコミー解任であり、それに追い打ちをかけたのが今回のこれだということが回顧的に言われることになるでしょう。

どういう話かというと、先週10日のホワイトハウス大統領執務室でのトランプ=ラブロフ会談で、トランプが突然事務方の用意した台本を離れて自分のコンピュータを開け、かくかくしかじかのテロ情報がある、としてシリア国内である同盟国の諜報エージェントが入手したISISのテロ情報──航空機に持ち込むノートブックコンピュータに生物化学兵器を忍ばせるテロ事案という詳細な情報だったとされますが、情報の性質上事実確認はされていません──をラブロフ外相と「大物スパイ」とされる駐米ロシア大使であるセルゲイ・キスリャクに「自慢げに」話した、というものです。

実は米国大統領は米国でただ一人、国家機密情報の開示判断をできる権限を持っています。したがってトランプは事実上、どんな機密を誰と共有しようがそれは合法です。ただしこれは、大統領以外ならば国家反逆罪で死刑にもなる行為です。つまり、大統領は国民から負託されら国民の代表の権限として、と同時に、国民からそういう権限を負託されてしかるべき常識的、理性的、知性的な判断力を有しているということが大前提となって初めて成立する資格なのです。それが非常識で非理性的で非知性的な人物に与えられるということは、そもそも想定されていませんでした。

今回のテロ情報をロシアと共有して何が悪いのか? 実際、トランプは;
As President I wanted to share with Russia (at an openly scheduled W.H. meeting) which I have the absolute right to do, facts pertaining...to terrorism and airline flight safety. Humanitarian reasons, plus I want Russia to greatly step up their fight against ISIS & terrorism
(大統領として、テロ、航空機の安全に関係する事実をロシアと(公に予定されていたホワイトハウスの会談の場で)共有したかった。私はそれを行う絶対的権限がある。それは人道的理由と、さらに、ロシアに、ISIS及びテロとの戦いを大きくステップアップしてほしいからだ)
と16日の早朝になってやっと自分のツイートで"釈明"というか"言い訳"をしたわけです。

しかし、シリア内戦において(というか本来はもっと広範囲においてなのですが)、ロシアはアメリカと敵対しています。ロシアはアサド政権を支援し、アメリカは反政府勢力を支援している。そこにさらにISISがいて三つ巴の戦いなのですが、ロシアはISIS攻撃と言ってアサド政権に敵対する反政府軍勢力をも激しく空爆したりしている。

つまりここで問題なのは、
1)この情報を知ったロシアが、シリア内戦での諜報合戦でこの情報につながるような特定の現地の情報源を割り出し、そこからさらにアメリカの同盟国の諜報要員をも割り出して、手段を選ばずにさらなる別の情報を得ようとするかあるいは抹殺するかしてしまう恐れがある。

2)この情報で動きだすロシアの諜報エージェントにISISがさらに反応して、現在のテロ情報の裏をかくテロ作戦に出て航空機の旅客の生命を脅かす危険がある。

3)この情報をアメリカに提供した同盟国及びその他のすべてのアメリカの同盟国が、トランプのアメリカに情報を提供するとどんなところでその情報が漏れて自国の諜報エージェントさらには諜報ネットワークそのものが崩壊する可能性が出てくると判断し、今度一切、重要な機密情報はアメリカに提供しない事態になる恐れがある。

ということです。

これは、先週問題化したコミー解任にまつわるロシアゲートの捜査妨害、指揮権発動的圧迫、国民への説明責任の冒涜、といった「政治的問題」よりはるかに始末の悪いものです。なぜなら、それらはまだ人間の生命に危害が及ぶ問題ではない。ところが今回の機密情報漏洩は(漏出、と呼んだ方がいいか?)直接様々な人々の命にかかわる問題に直結します。政治問題にする前に、とにかくこの情報漏出によるダメージを早急に手当てするが必要だ。つまり新たな情報の入手とその対策と、同盟国との情報ネットワークの信頼性の回復がまずは急がれる。政治問題化はその次です。そしてその政治問題化の時に、トランプはどう身を処すのか、という話になる。

ホワイトハウスはワシントンポストのスクープ以後、バノンやマクマスターや中枢閣僚が急遽参集して対策に追われましたが、執務室からは彼らが大声で怒鳴り合う声が聞こえてきたほどだそうです。一方でデイリー・ビーストのジャスティン・ミラーのツイートによればホワイトハウスの一般職員たちは自分のオフィスに閉じこもって、まるで死体安置所のように静まりかえっているとか。ピリピリした緊張の中で、みんな息を潜めて次に何が起こるのか、次に誰が怒鳴られるのか、さらには(前回のコラムで書いたように)誰が辞めさせられることになるのか、戦々恐々としているのでしょう。

そんな中でまずは国務長官のティラーソンが「会談ではいろいろと話し合われたが、情報源や情報入手方法、軍事作戦に関しては話し合われていない」という、ワシントンポストの記事を"否定"する”釈明”の声明を発表しました。ところがワシントンポストの記事はべつに「情報源や情報入手方法、軍事作戦」が漏らされたと言っているわけではないのです。まさに「機密情報そのもの」がぽろっとロシア側に披瀝された、と言っている。そしてその情報を得れば、ロシアの優秀な諜報機関が、「情報源や情報入手方法、さらにはそこから導き出される軍事作戦」に至るまで割り出してしまうだろう、ということが懸念されているのです。

それから数十分後、今度はマクマスター安全保障担当補佐官がホワイトハウスの前に出てきて、テレビカメラの前で30秒ほど声明を読み上げましたが、それも「WaPoの報道は誤りだ。私もあの部屋にいたが、情報源は明らかにされていない」と訴えるだけで、報道陣からの質問は一切無視してまた中に引っ込みました。

ところがそのマクマスターの「記事はウソ」(つまり情報漏洩はない、ということですが)声明も、先に触れたその半日後のトランプ自身の「ロシアと情報を共有したかっただけだ」というツイートで、「機密情報が共有されたのは事実だった」と否定されてしまう。

コミーの解任劇の状況説明がトランプと報道官のスパイサーや副大統領のペンスとで全く違ったように、この政府は正式な発表で本当に息をするように平気で事実と違う説明をする。説明責任など、目先の危機を回避するためならどうでもいいと思っている。

ホワイトハウスは、まさにリアリティTVか昼のソープオペラみたいになっています。政策は全く進まず、ボスは癇癪を起こして、ボスを操ろうとする輩たちが政権内部で権力の引っ張り合いをしている。そのうちにまたボスのストレスが高じて何をするかわからない状況になっている。しかもそのボスは、選挙期間中にEメール問題でのヒラリー・クリントンの機密情報の扱いを口を極めて罵っていた人物です。こんな余計なドラマなど必要ありません。

トランプが大統領になる前、私はあちこちで「トランプが国家機密情報を握ったら、辞めた後でも自分のビジネスとかに秘密情報を躊躇なく使う。そんな危険なことはない」と公言していました。しかしまさか大統領就任117日目というこんな時期に、国家機密の重要性を認識せずにこんな形で「危険」をもたらすとは、さすがにこれは想定外でした。

でも思うのですが、ホワイトハウス大統領執務室でのラヴロフ=トランプ会談、その場に居合わせた人間は限られます。そこでの情報がワシントン・ポストに漏れた。側近で、後顧を憂いてその情報を流した者が存在するわけです。それはいったい誰なのか? うーむ。

後顧を憂えて、トランプよりも、一大統領なんかよりも、自分の祖国にこそ忠誠を尽くす人物。

それが例えばあのマクマスターだったとしたら? ロシアゲートで訴追されそうなマイケル・フリンの後任として、ホワイトハウスの安全保障担当補佐官として立て直しに入ってきた陸軍中将。就任の条件として安全保障担当のスタッフの人事を自分に委ねてくれと迫った人物。

そういうドラマなら面白いな、と、よその国の話だからこそちょいと思ってもしまうのですが。

……とここまで書いた時に、ニューヨークタイムズが、今回のロシアへ提供の機密情報は、イスラエルからもたらされたものだというスクープを報じました。見出しは次のようなものです。

Israel Said to Be Source of Secret Intelligence Trump Disclosed to Russians

おいおい、これはまた大変な話です。

イスラエルとアメリカはもちろん大変な同盟国。そして、ロシアは、イスラエルと犬猿の仲であるイランと仲良し。一体この折り合いはどうつけられるというのでしょう。目を覆いたくなります。

May 15, 2017

次に辞めるのは誰か?

すこし遡ってコミーFBI長官解任の伏線を見てみましょう。

前回で触れたようにホワイトハウス内部は4月に入ってマクマスター安保担当補佐官の台頭と、さらにはその後のバノン一派の巻き返しで大変な権力闘争が吹き荒れていました。その4月末の就任100日のロイター・インタビューでトランプは大統領職を「もっと簡単だと思っていた」とボヤいています。

4月30日に取りまとめられた予算案では国境の壁、環境問題、オバマケア撤廃などの強気公約がほとんど盛り込まれず終いでした。5月1日のラジオ・インタビューでは南北戦争について第7代大統領のアンドリュー・ジャクソンが「こんな戦いをする理由はないと本当に怒っていた」と話し、一般常識も知らないと呆れられました(ジャクソンは南北戦争の16年前の1845年に死んでいます。おまけに黒人奴隷農場主で、たとえ生き続けていたとしても南北戦争に怒るなら逆の理由でしょう)。

積もり積もったストレスが噴き出します。その日のツイートで彼は「ジャクソン大統領は16年前に死んでいても南北戦争が起こると分かっていて怒っていたんだ」と意味不明の言い返しをしました。

そして翌2日、突然脈絡もなくヒラリーとコミーを攻撃したのです。

ツイートはこうです。「ヒラリーにとってコミーは最高の贈り物だった。どんな悪いことでもできるというフリーパスを彼女に与えたんだから」「トランプ/ロシアのウソ話は、選挙に負けた民主党の言い訳だ。まさにトランプの選挙戦が偉大だったってことじゃないか」

ここでは明確にヒラリー=コミー=ロシア疑惑の3つが繋がっています。公約したトランプ主義そのものの政策が思うように進まず、しかもロシアの影だけは延々と付きまとっている。それはさらに続きます。

3日、コミーが上院公聴会で、昨年10月28日のクリントンのメール問題再捜査発表に関し「選挙に影響したかもと思うといささか吐き気(nauseous)がする」と証言。さらにロシア政府の米政治への介入はあるかとの問いに「イエス」と答えました。トランプ当選はその結果だと言わんばかりに。(トランプはこの「吐き気」を、重大な影響を与えたかもしれないその関与の責任に対するコミー自身の恐れの表れではなく、自分が大統領になったことへの、自分へ向けられた嫌悪感だと受け取ったというアホな話もあります)

4日、あのオバマケアの再度の改廃法案が僅差でやっと下院を通過しましたが、「オバマケアは死んだ」と宣言したトランプの思惑とは裏腹に「上院通過は難しい」という論調が支配しました。

そんな時に当のコミーがローゼンスティン司法副長官にロシア疑惑捜査のためのFBI予算の増額と人員増強を依頼してきます。

8日、ロシアゲートで2月に辞任した安保担当補佐官マイケル・フリンに関して、オバマ前大統領も、昨年11月の当選直後のトランプに補佐官起用は危ないと進言していたこと、イエーツ前司法長官代理も1月の政権発足6日後という早さで「フリンはロシアから脅迫を受ける恐れがある」とトランプ側に伝えていた事実が上院公聴会で明らかになります。にもかかわらず、トランプはフリンを重用していたわけです。それに関してもトランプは「そもそもフリンを登用したのはオバマだ」という、責任転嫁にもならない話を持ち出して言い訳しました。この辺あたりから精神状態も良くなかった。

まだあります。追い打ちをかけるようにさらにはもうすぐ上院情報委員会が召喚状を出し、フリン並びにトランプ選挙対策本部長を務めたポール・マナフォート、選挙コンサルタントを務めたロジャー・ストーン、選挙の外交政策顧問を務めたカーター・ペイジに文書の提出を求めて、選挙へのロシア干渉の有無を調べるという情報が入りました。11日にはコミーの再度の情報委員会証言も予定されていました。

トランプの精神状態がまたも不安定だというのはホワイトハウス詰めの記者たちの話題になっています。人に会いたくないようだ、表舞台に出たくなさそうだ、ストレスの極みにある……云々。

そして迎えた9日夕、コミーの電撃解任が発表されたのです。

背景にロシアゲートとそのストレスがあることは明らかでしょう。トランプは、捜査が佳境に入りつつあるこの時期に捜査主体の中心人物を解任するという実に愚かな発作的行動に出たわけです。しかも報道官や副大統領までが、司法長官セッションズや司法副長官ローゼンスティンからの進言書簡(クリントンEメール問題の捜査終了を立件判断機関である司法省の職権を冒しまでして7月5日に独断で発表した失態と職権逸脱。10月28日の再捜査着手を通常の非公開捜査でよかったはずなのに「発表するか隠蔽するか」という二者択一であるかのように公表して発表を選んだとした失態)を受け取った大統領が、解任という苦渋の決断をしたのだという筋書きを用意して説明していたのに、「コミー解任は以前から自分で決めていた」と解任翌日のNBCとのインタビューでいけしゃあしゃあと披瀝した。次いでコミーに対し、「私たちの会話の録音テープがないことを祈ったほうがいい」と、訳のわからない脅迫ツイートまでしたのです。

この解任経緯説明の公の矛盾は有権者・納税者・国民への説明責任の不正です(しかも10月28日の件はまるでヒラリー陣営への同情ででもあるかのような、つまりは民主党も賛成するだろうね、と阿るような、取って付けたような解任理由です)。

同じNBCとのインタビューでは、解任を通告する自身のコミー宛て書簡にわざわざ関係もないのに「3回にわたり私が捜査対象でないと知らせてくれたことに本当に感謝している」と記した件に関して、当のコミーに自分が捜査対象か否か夕食の席と電話での2回の計3回も聞いていたという、日本でいえば「指揮権発動」のような捜査圧力をかけた事実を自分で明かしていました。おまけにあろうことか、コミーに自分への忠誠を要求していたことまで明らかになったのです。

頭おかしいんじゃないか? と誰でも思います。だって、これだけでトランプを2度弾劾できるほどのネタなのです。こんな司法妨害はありません。しかもそれを自分では司法妨害だとすら気づいていないでテレビカメラの前で滔々と雄弁に語る。この人は一体、何を考えているのでしょう?

気分次第でブチ切れ、気分次第で自慢にも転じるこの大統領に、ホワイトハウス内は戦々恐々です。それもこれも自分以外が悪いのだと、トランプは次に、報道陣へのウケが悪くて衝突ばかりしているスパイサー報道官を切る心算だとか、いやいや、共和党を全くまとめてくれないプリーバス首席補佐官を切る準備をしているとか、憶測が広がっています。これでは仕事など出来るものではありません。

トランプはコミーのことを「He's a showboat, he's a grand-stander, the FBI has been in turmoil. You know that, I know that. Everybody knows that.」と呼びましたが、「FBI」の部分を「White House」に変えれば「He」とはまるでトランプその人のことです。ホワイトハウスは空中分解寸前なのです。

予言しましょう。

この政権はやがて、弾劾より先に、この大統領自身を辞めさせることになります。

May 09, 2017

いったい何が起きているのか?

前回のこのコラムで、ホワイトハウスの権力構成が、軍と金融・産業界の立役者たちの台頭で「ハイパー共和党政権」の様相を呈し始めたと書きました。その核となったのはバノン首席戦略官の地位低下とマクマスター安保担当補佐官の起用だった、と。

シリアや北朝鮮問題への複雑なオトナ対応がそれを物語っていたのですが、それから1カ月も経たないうちにこのマクマスター補佐官とトランプ大統領が衝突し始めているという内輪話が伝わってきています。

2月にロシア疑惑で辞職したあのマイケル・フリンの後任補佐官マクマスター陸軍中将は、軍内部だけでなく共和・民主両党からも信頼の厚い国防の頭脳家です。就任早々から混乱続きのホワイトハウスもこれでやっと落ち着くだろうというのがワシントンの大方の期待でした。

ところが早くもバノン派の巻き返しが起きているようで、「マクマスターはアメリカ第一主義を公約してきた大統領を籠絡してその逆の政策を採らせようとしている」とトランプに吹き込んだり、主導権を維持しようとするプリーバス首席補佐官がマクマスターの人事構想を邪魔している、などの話が聞こえてきました。

その象徴的な出来事が韓国へのミサイル迎撃システムTHAADの配備費用10億ドルの問題でした。トランプは「この費用を韓国が負担せよ」と例の調子でブチかましたのですが、マクマスターはその無茶振りをフォローしようと「それは米国の公式な方針ではない」と韓国側に伝えた。それは至極真っ当な、実に常識的な話でしょう。

しかしトランプはそうは思わなかった。「韓国にも正当な負担をさせようとしたおれの努力を邪魔するな」と電話口で彼に怒鳴ったそうな。

それだけではない。安全保障担当として大統領へのブリーフィングは欠かせないのですが、トランプは、自分の質問をあまり受け付けずに講義するマクマスターの偉そうな態度がどうにも気にくわない様子だとか。そりゃそうでしょうね。冷静な分析家で理論家のマクマスターのプロフェッショナリズムは、思いつきの決断家であるトランプをどこかでバカにしているような"風味"を帯びてしまうのかもしれません。

トランプ自身もマクマスターを補佐官にしたことを後悔し始めたようで、つい先日には彼と同時に安全保障担当補佐官の後任候補として名の挙がっていたブッシュ政権時の国連大使ジョン・ボルトンを副補佐官にするのはどうかとも内輪で検討したらしい。しかしボルトンとマクマスターの2人も互いにソリが合わないだろうということで断念したとか。

そんなこんなで今月4日の米豪首脳会談の席にもマクマスターは同席せず、代わりに副補佐官のマクファーランドが付いていました。

そもそもトランプは前任のフリンとは選挙を通じて公私ともに仲が良く、その辞任も「泣いて馬謖を斬る」状態でした。そのフリンは「かろうじて正気とつながっている人物」とメディアから評されたこともある人で、現役時代には今はやりのフェイクニュースの原型というか、「フリン・ファクツ」という「フリン独特の事実認識」で有名な人でした。トランプとウマが合ったというのは想像に難くありません。

この衝突の行方はどうなるのでしょう? マクマスターを切るなどということがまた起きるのでしょうか? しかしそれはトランプ政権自体への再度の大打撃になる。いまだ波高しのこの政権の混乱──それはそもそも、個人的な好き嫌いがすべてであるトランプ個人の性格の問題だとしか思えないのですが。

と書いているうちに、今、FBI長官のジェイムズ・コミーを電撃解任というニュースが飛び込んできました。我が目を疑います。だってロシアゲート捜査の真っ最中に、その捜査対象のど真ん中にいるトランプが捜査主体の中心人物をクビにしたわけです。こりゃいったい、ホワイトハウスで何が起きているのでしょう?

アメリカの政治を語る時に、これまでは政策や法律の問題を論理的かつ歴史的に調べていけば済むことでした。ところがトランプになってからは誰が誰とくっついて誰が主導権を握っているかという話になってきています。これは日本の政治を語る時に政局を語らねばならないのと同じです。日本の政界は、論理や歴史というよりも派閥や人間関係で(おまけに党議拘束なんかもあって)政策が決まるからです。政局を考えることがすなわち政策を見通すことにもなる。でもそれはそもそもおかしな話で、アメリカの政治もトランプによって政局化、日本化している感があります。コミーの件については次回で詳しく書くことにします。というか、書かねばならないでしょう。

April 19, 2017

ハイパー共和党政権

北朝鮮問題の気がかりの一つは、米軍というのはこれまで本格展開した後で何もせずに引き返したことがほとんどないことです。数少ない例外は62年のキューバ危機でしたか。でも、いま対峙しているのはケネディとフルシチョフではなく、先週も書いたとおりトランプと金正恩です。
 
ところが先週から今週にかけ、トランプ政権の雰囲気が何やら明らかに変化してきました。シリア・アサド政権へのトマホーク攻撃、アフガン・イスラム国に対する大規模爆風爆弾(MOAB)の投下といったあからさまな軍事的見せびらかしに、一気に北朝鮮への先制攻撃の可能性が取りざたされましたが、不意に自制的、抑制的な発言が目立つようになった。

何と言ってもマクマスター補佐官(安全保障担当)の16日の発言「平和的解決のために、軍事オプションに至らぬ(short of a military option)すべてのアクションを取る」です。17日にはスパイサー報道官が「トランプ政権は北朝鮮にはレッドラインを設けない」とまで言っていました。

イケイケどんどん破茶滅茶煽動パタンからのこの変化は何なのでしょう? 私はこれは、トランプ政権が看板こそトランプという破天荒なトリックスターの姿を維持しながらも(それが彼が当選できた理由でしたから)、その内実は密かに従来型の共和党政権に戻そうとしている、そんな兆候の最初の表れではないかと勘ぐっています。

人事を見ればわかります。大衆への煽りとフェイクニュースでトランプ政権の「性格」そのものだった"影の副大統領"スティーブ・バノン首席戦略官が国家安全保障会議(NSC)から外れたのは、習近平との米中首脳会談(6〜7日)が行われる直前でした。バノンが主導してきた入国禁止令やメキシコの壁、オバマケア撤廃などのブチ上げ型の政策はいずれもうまく行っていません。おまけにロシアゲートの影がつきまとうのです。

ロシアとの関係で辞任したマイケル・フリンの後釜となったマクマスターの入閣条件は、NSCの人事を自分に任せてほしいということでした。そこでバノンが外れ、ダンフォード統合参謀本部議長らが常任メンバーに戻った。マクマスターは陸軍中将、ダンフォードは海兵隊大将です。そこに同じく海兵隊大将だったジェイムズ・マティス国防長官がいて、トランプ政権の外交政策の主要な一端を担うことになったのです。

もう一端は石油メジャー最大手エクソンモービル会長だったティラーソン国務長官、そして「倒産王」と呼ばれた銀行家・投資家のウィルバー・ロス商務長官です。ロスはトランプを例のタージマハルホテルの借金地獄から救った男です。この産業界のやり手たちが文民・経済外交の担い手です。そしてそこには財務長官のスティーブン・ムニューチン、国家経済会議(NEC)議長のゲーリー・コーンといったゴールドマン・サックス(GS)出身の金融界が控えている。

結果、今どういうことが起きているかというと、中国との貿易戦争は起きておらず、選挙公約だった為替操作国指定も北朝鮮交渉の労に免じてペンディングされています。オバマ政権の遺産であるとして破棄すると言っていたイランと核合意は破棄に動いていず、在イスラエル米国大使館のエルサレム移転も聞こえてこない。つまりアメリカ政府の外交は、なんだか少し落ち着きを取り戻しているのです。

それもこれもバノンが外れ、代わりにイヴァンカとクシュナーの娘夫婦が台頭し、そこに従来の軍産共同体に金融も加わった軍産金共同体の思惑が結集し、より強大なハイパー共和党型の政策が実行されようとしているからではないのか? それが発足100日を経てやっとまとまりつつある、まさに旧態依然のエスタブリッシュメントとしてのトランプ政権の正体ではないのか?──それが今現在のトランプ政権に対する私の印象です。

でもそれは、エスタブリッシュメントでがんじがらめになった閉塞状況の中で、そこを打ち壊してもらいたいと願って彼を支持した白人労働者達には、いったいどう映るのでしょうね。

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