December 05, 2017

司法取引の意味するもの

ところで前回のフリン訴追の続きなのですが、彼の起訴罪状が「FBIへの虚偽供述」だけだったことに「ん?」と思った人は少なくなかったでしょう。おまけに一緒に起訴されると言われていた彼の長男の名前もない。虚偽供述は最高禁固5年なのに彼への求刑はたった6カ月。何だ、全然大したことない話じゃないの、と。

実は今回の訴追はそれがミソなのです。

フリンは、トルコ政府の代理人として米国に滞在するエルドアン大統領の政敵をトルコに送還する画策を行なっていたことが疑われていました。これは無届けで外国政府の代理人を務めることを禁じたFARA法(Foreign Agents Registration Act)違反。さらに昨年12月の政権移行時にキスリャク駐米ロシア大使に接触してオバマ政権による経済制裁解除の交渉をしたという容疑もある。これも民間人が政府とは別に外交交渉をすることを禁じたローガン法違反です。それらから下手をすると米国の重要な情報をロシアに与えたスパイ容疑や国家反逆容疑まで発展してもおかしくない。すると本来は禁固十数年から数十年、あるいは終身刑まであったかもしれない重罪容疑者です。それがたった禁固6カ月……。

この大変な減刑は、もちろん司法取引によるものです。裁判の余計な手間を省くために有罪を認め、その代わりに「罪一等を減じる」というのが司法取引なわけですが、今回は罪「一等」どころか二等も三等も減らされています。

これは普通の取引ではありません。裁判の手間云々よりも、フリンを懲罰に処するよりも刑事罰に処するべき重大な人間がいて、その人物を訴追するに足る情報をフリンが捜査当局に渡す代わりに刑を減じるという取引だったということです。そうじゃなきゃこんなに減刑されない。

そして、フリンよりも重大な人物とは誰か? フリンは国家安全保障担当の大統領補佐官でした。大統領補佐官は実は閣僚級(つまり各省の長官と同じ)ランクです。日本の報道ではフリンと一緒にキスリャク大使に接触していたトランプの娘婿ジャレッド・クシュナーが狙いだ、という解説がなされています。しかしクシュナーは政権内では上級顧問です。これはたとえ「トランプ一家」の人間とはいえ「格下」です。例えば暴力団事案の立件で組長の罪を減じる代わりに情報を取引して、組長代行を挙げようなんてことは起きません。

では誰か? ロシア疑惑ではセッションズ司法長官が関係を疑われているので、この問題では捜査にタッチしないと自ら宣言しています。ならばセッションズか? しかしセッションズはフリンと同格です。同じランクで訴追するなら複数の人間でなければ取引は成立しない。

ではトランプ政権でフリンよりも位が上なのは誰か? それはペンス副大統領とトランプ大統領の2人しかいないのです。つまりモラー特別検察官のチームは、フリンとの司法取引でペンスかトランプ、あるいはその双方を標的にしたということなのです。

これはリチャード・ニクソンの辞任以来の大事件へと発展する可能性があるということです。

フリンがトランプとくっついたのは2015年夏。そして今年2月の辞任以降4月までトランプと接触していました。つまりそのおよそ21カ月間=1年9カ月というトランプの今回の政治経験のほぼすべてを網羅して、フリンは彼のすぐそばにいたのです。そんなフリンが完落ちした。これはトランプにとっては(もし違法なことをしていたのなら)大変な脅威でしょう。

モラーが事情聴取したクシュナーも重要な情報源です。が、捜査チームはクシュナーは家族を裏切らないだろうと踏んだ。だから突破口はクシュナーではなく、フリンだったのでしょう。クシュナーを呼んで話を聞いたのは、フリンが事前に教えてくれたことに関して、つまりはロシアのキスリャク大使との関係において、クシュナーがどう嘘をつくかをテストしたわけです。クシュナーは本丸と一緒に起訴できるから、それは後回しで良い──そんなことが見える今回のフリン訴追なのです。

さて、こりゃまずいと思ったからか、トランプのツイートがまた荒れています。フリンの訴追と有罪答弁を受けて、即「フリンを辞めさせたのは彼がペンスとFBIに嘘をついていたからだ」とツイートしたら、「大統領、それを知っていてその後に(当時のFBI)コミー長官にフリンへの捜査をやめるよう指示したのならば、それは立派な捜査妨害に当たりますよ、とあちこちからツッコミが入りました。そうしたら翌日に慌てて「コミーに捜査中止を指示したことはない」とツイート。それだけでなく、今度はトランプ個人の弁護士が「実は”嘘をついた”と知っていたというあのツイートは私が草稿を書いた。事実関係を間違えた」と名乗り出る始末。

本当に彼が草稿を書いたのか、それとも人身御供の身代わりを指示されたか買って出たか、トランプの一連のあのトチ狂ったツイートに草稿があること自体が疑わしいのですが、何れにしても大統領側の慌てぶりが漏れ見える事態です。

するとトランプの訴追はこの「捜査妨害=司法妨害」が手っ取り早いと受け取られているようで、トランプ大統領の弁護団が4日、今度は面白い論理を繰り出してきました。「大統領はそもそも司法妨害などし得ない」という論理です。つまり、大統領はFBIなどの捜査当局の最高執行官なのであるから、何を「指示」しようがそれは「妨害」ではなく「指揮」だ、というのです。ここまでくると呆れてモノが言えません。

何れにしてもモラー特別検察官チームはトランプ=ペンスを射程に入れました。一方で、FBIの自分のチームから「反トランプ」的なメールを出していた捜査官をクビにするということもしていて、これも昨日ニュースになっていました。このニュースはつまり、「特別検察官チームは大統領への政治的な意見を基に捜査をしているわけではない」というメッセージを世論に向けて表明したわけです。「政治的な思惑ではなく、事実に基づいて捜査している」というさりげないアピールなのです。

これからどうなるか? 捜査の結果が出るまでどれほどの時間がかかるか? それはまだわかりません。大統領は慣例的に「起訴」されたことがないので、何かの罪状が明らかになってもそれで訴追というのではなく、特別検察官が議会へ結果を報告して、次は議会の仕事=弾劾裁判になります。それがいつか、そこまで行くか、それを考えるとトランプ一家は気が気ではないホリデーシーズンからの年越しとなるでしょう。

December 01, 2017

フリン危機

感謝祭(23日)の深夜にニュースが飛び込んできました。ロシア疑惑に関連して2月に辞任した元大統領補佐官マイケル・フリンの弁護士団が、トランプ側の弁護士団に「今後は情報共有を中止する」と通告してきたというのです。これは、逮捕・起訴が近いとされるフリンがこれから、モラー特別検察官チームと司法取引をして捜査協力に転じることを示唆しています。つまり情報共有を続ければ今後は捜査情報を漏らすことになるのでもうできない、という意味です。

フリンは就任前にロシアの経済制裁解除をめぐり駐米ロシア大使と事前接触したことに関連して辞任しました。このフリンと一緒になって動いていたのがトランプの娘婿ジャレッド・クシュナーや長男ドナルド・トランプJr、そしてペンス副大統領です。もしフリンが知っていることを洗いざらい話したら、政権中枢やトランプ家族を巻き込む強制捜査へと進むかもしれない、とSNS上では今トランプ大嫌い派が期待に浮かれています。

ロシアゲート捜査の大変な火の粉をかわすために、トランプ側にはいま大きく2つの方途があると思われます。

1つは彼が「本当のロシア疑惑」と呼ぶものに別の特別検察官を立て、そちらに目を転じさせることです。これはヒラリー・クリントンが国務長官だった時代に、ロシアへのウラン大量売却契約が結ばれ、その見返りとして巨額の金がロシア側からクリントン財団に寄付された、という疑惑です。ロシアゲートからは自分が関係している恐れがあるために捜査に関与しないことを宣言しているセッションズ司法長官が、これに関しては特別検察官の任命が適切か検討するとコメントしていますが、これは一時的な目くらましにしかならないでしょうし、これはこれ、ロシアゲートはロシアゲートですから、このことで痛み分けにはならないでしょう。だいたい、見え見えの戦略にアメリカの世論が騒がないわけがない。

もう1つは北朝鮮カードです。トランプはアジア歴訪直前で北朝鮮へのツイートの言葉を随分と軟化させていて、これは何かあったかと思ったのですが、それは習近平が親書を持たせた特使を北に送るつもりだとトランプ側に伝えていたからだったと後になってわかりました。けれどその特使は金正恩に面会を拒絶され、思惑は失敗に終わります。するとトランプ政権はすぐに北朝鮮へのテロ支援国家再指定を行いました。

北朝鮮問題はロシア疑惑と何の関係もありません。このテロ支援国家の再指定も実は次に何かあった時、あるいは何も進展のなかった場合の既定路線上のさらなる制裁策でした。けれどこれがロシアゲート捜査の目くらましになることは間違いありません。この国の大統領は支持率が極端に落ち込む時は戦争でそれを解決するのです。あのビル・クリントンさえ、1998年のモニカ・ルインスキー事件で弾劾裁判まで受け、支持率ジリ貧の時にアフガニスタンやスーダンへの爆撃を行ったのです。

そう、戦争の火蓋が切られたらロシア疑惑など吹き飛んでしまいます。戦争をしている大統領は辞めさせにくい、辞めさせられない。

まさかそんなことのために、とは思いますが、この大統領は「まさかそんなこと」を次々とやってのけてきている人です。ただし北朝鮮に対する軍事行動に踏み切るのはそれなりの理由づけが必要。そんな理由を手にするために、トランプが奇妙に意識的にさらなる挑発を続けるかどうか、それを見ていれば彼の次の行動が予測できます。もっとも、現時点では在韓や在日米軍に増派などの大きな動きは起きていませんし、韓国や日本にいるアメリカ人への退避勧告もありませんから、喫緊に大変なことになるというわけではありません。

そんな中で北朝鮮は米国東部時間28日の午後1時過ぎに新型とされるICBMを発射しました。実はちょうど1ヶ月前の10月28日に北は「我々の国家核戦力の建設は既に最終完成目標が全て達成された段階」と表明していました。つまり「もう実験も必要なくなった」という「理由」を作って9月15日からこの2カ月半ほどミサイルも撃っていなかったのです。それが、今週初め27日あたりに北朝鮮軍幹部が「(次回の)7回目の核実験が核武力完成のための最後の実験になる」と語ったということがニュースになっていて、なるほど、テロ支援国家再指定の報復の意味も込めてこの75日ぶりのミサイル(核)実験となったのでしょう。しかしこれも、ではもう表立ったミサイル発射や核爆発実験もとうとう必要なくなって打ち止めなのかということになります。

日本ではこれをいつもどおり北の「挑発行動」と呼んで大騒ぎしているのですが、これを「挑発」と呼ぶには無理があります。いくら金正恩の気質に問題があるとしても、北朝鮮が体制崩壊、国家滅亡につながる米国先制攻撃に踏み切ることは考えられません。つまり繰り返されるミサイル発射実験と核実験は、「我々にはこれだけの武器があるのだから軽々に攻撃するな」という「示威行動」「デモンストレーション」なのです。「挑発」してアメリカが(というかトランプが)それに乗ってしまったら元も子もない。挑発なんかしていないのです。

同時に、北にとってこの「核」は交渉でどうにかできる取引材料でもありません。それを取引なんかして失ったらたちどころに攻め込まれて命がなくなってしまう死活的な最後の「宝刀」なのです。核放棄なんてあり得ない。あるとしたら米朝の平和条約締結しかない。そしてアメリカ側は、核を保有したままの平和条約など、世界の核不拡散体制を崩壊させるものとしてこれもやはり到底受け入れられるものではないのです。

かくして現在、この問題は米朝中、そして日韓も含めて三すくみ、五すくみの状況です。二進も三進も行かない。

そこで今度は、トランプの気質問題が出てきます。国内政治情勢もままならず、国際政治でも英国の極右団体代表代行の反ムスリムツイートをリツイートしたり、何をやってるのか支離滅裂なこの大統領は、こんな北朝鮮の閉塞状況にしびれを切らすのではないか? そしてそこにもしロシアゲートが弾けて、どうしようかと辺りを見回した時にこの「北朝鮮カード」があった場合、この人は北の恐らくはまだ続いているであろう「示威行動」を「米本土に対する明確な脅威」とこじつけてあの9.11以降のアメリカのブッシュ・ドクトリンと呼ばれる「正当防衛的」な(しかしその本当の目的は別のところにある)「予防的先制攻撃」に打って出るのではないか? 

前段で書いた「フリン危機」がロシアゲートから北朝鮮問題に飛び火することは、そうなるとあり得ないことではない。アメリカは、戦争をするとなったら同盟国にだって知らせずに開戦します。北への攻撃は、実際に実行される場合、日本政府へはたった15分前に通告するだけなのです。

そんなトランプ政権を「100%支持する」と繰り返す安倍首相は、本当に開戦となったらわずか数日で数百万人の犠牲者が出るかもしれないという事態に、いったいどういう責任を取れるのでしょうか。

いま開戦を阻止できるのは、11月18日に「大統領が核攻撃を命令しても「違法」な命令ならば拒否する」と発言した米軍核戦略トップのジョン・ハイテン戦略軍司令官(空軍大将)ら、正気の現場の軍人たちだけかもしれません。こんな時、文民統制ではなく軍人統制に頼りたいと願ってしまう倒錯的な異常事態がいまアメリカで続いているのです。

November 08, 2017

おもてなし外交のウラ事情

ビル・マーというコメディアンが面白おかしく且つ辛辣に政治批評を展開する「Real Time with Bill Maher」というHBOの人気番組があります。先週末のその冒頭は、拍手喝采の中で登場したその彼が「いや、みんななんでそんなにご機嫌なのかわかってるって。ついさっきトランプがアメリカから出てったからね」と口火を切りました。ハワイとアジア歴訪に旅たった大統領を揶揄したものです。「ずいぶん気が楽になった。子供たちをサマーキャンプに送り出した親の気分だ」と。

軽口はまだ続きます。
▼12日間のアジア旅行。トランプに、あんたがいなくなったら一体この国の面倒は誰が見るんだと誰かが聞いたらしいんだが、トランプが言うには「誰だっけ? 俺がいる時には?」
▼訪れるのは中国、日本、フィリピン、ヴェトナム、韓国......トランプの「MAKE AMERICA GREAT AGAIN」の帽子を作ってる国だ。
▼中でも中国は重要だよ。トランプはあそこに壁を視察に行くわけだから。あの壁(万里の長城=the Great Wall)のおかげで、あそこでメキシコ人の姿はもうずっと見ていない。あの壁はすごい。
▼それからヴェトナムだね。彼が昔、徴兵逃れで行かなかった国。それで今度はやっと大統領として行けたわけだ。誰だっけ、ドジャーズが負けたって言ったのは? (ドジャーズは「身をかわす人たち」の意味。つまり「徴兵回避の人たち」。ナショナルリーグの優勝決定戦で負けてワールドシリーズに行けなかったドジャーズに掛けて、実世界のドジャー=徴兵逃れのトランプはちゃっかり負けていないという皮肉)
▼ハロウィーン、子供たちに何を配ったかは知らんが、ロバート・モラーの家では起訴状が配られたね。
▼ニューヨークのテロ。トランプが即座にツイートしてた。「バカで弱腰の大統領のせいでこうなるんだ。あ、ちょっと待て、今の大統領は俺だった」
▼ツイッターの従業員が退職最後の日にトランプのツイッターアカウントを11分間、消した。まあ色々あるが、私はその彼に言いたい。「Thank you for your service! (お務め、ありがとう!)」

その話にもあったロシアゲートですが、今週はマナフォートの次にあのマイケル・フリンが息子ともども逮捕・起訴されるという観測が出ました。ワシントン・ポストはトランプ周辺の計9人が選挙中及び就任移行期間中にロシアと接触したと報じ、大統領は大変な不機嫌の中で旅立ったとされています。そのせいか、エアフォース・ワンの中での同行記者の質問「今や中国の中で権力基盤を固めた習近平は世界で最も力のあるリーダーではないかと言われるが?」に、トランプはムッとしたのか「So am I(オレも同じだ)」と答えたそうです。常に誰かと比較して自分を位置付ける、そういう性格なのでしょう。

そんな中での日本の「おもてなし」でした。イヴァンカへの歯の浮くようなチヤホヤした日本のTVカヴァレッジはアメリカでも報道されましたから父親も知っていたでしょう。とにかく日本はこの親子に対してとても気分がいいようです。世界で日本だけです。ゴルフ接待もそうでしたが、安倍=トランプの個人的な蜜月ぶりをことさら強調してウキウキしている国は。昨年11月の当選後真っ先にトランプ・タワーを訪れた安倍首相一行にしても、実はトランプ陣営もそんなに早く来るとは思っていず「慌てて断ろうとしたがすでに機上の人でキャンセルできなかった」というエピソードをトランプ自身がジョークとして披露するくらい"ブッチャケた"仲なのです。

それはいずれおそらくは米国務省の対日外交にも影響し、「大統領とアベがああも仲がいいのだから」と、日本にそうはきつい政策は取らないでおこうとの「忖度」が働くかもしれません。しかしそれは今回はまだ十分ではなかったようです。

2日間にわたる会談を終えて共同記者会見に臨んだトランプは日本の経済を称賛し、そこでアドリブに転じて「I don’t know if it’s as good as ours. I think not, okay?(だが我々の経済ほどいいかはわからない。私は違うと思うよ、オーケイ?)」とすかさず自国民へのメッセージに変えました。

ワシントン・ポストはこの「オーケイ?」をまるで子供にウンと言わせる時の親の口調、と評しています。「And we’re going to try to keep it that way. But you’ll be second.(我々はずっとそのまま(1位)でいるつもりだが、でもキミたちが2番手なのは確かだ)」とトランプは続けました。安倍首相は隣でニヤニヤと曖昧に笑っていました。

もう1つ、この仲の良さの歪つさが垣間見られた時がありました。トランプが「アベ首相が米国からより多くの兵器を購入すれば、北朝鮮のミサイルを上空で撃ち落とせるだろう」と言った時です。「重要なのは米国から大量の兵器を買うことだ。そうすれば米国で多くの雇用が生まれ日本には安全をもたらすだろう」と。

今夏の北のミサイルの日本"上空"通過の際に「日本はなぜ撃ち落とさなかったのか」とトランプが言っていた、と報じられたのはこの伏線だったのでしょう。もちろん高度3500kmは「上空」でも「領空」でもない宇宙空間で、撃ち落とす権利や能力はどの国にだってありません。けれど安倍は「日本の防衛力を拡充していかなければならない。米国からさらに購入していく」と鸚鵡返しに応じました。それはまさに「100%共にある」と言った日本の首相の言葉通りの姿勢であり、それが米国民向けのプロパガンダであることも容認するお追従ぶりです。

もちろんそれには裏事情があります。日本の保守や右翼が純粋な国家主義と親米という相矛盾するねじれた2本柱で成立しているのは、戦後日本で民主的で平和的でリベラルの象徴のような憲法を作りながら一方で冷戦の暗雲が立ち込めた時にそのアメリカ自身が戦前戦中の守旧派政治家や軍人や右翼フィクサーを「復活」させた「大恩人」だったからです。戦後の民主平和国家は、一方で防共の砦として右翼と保守とが政治の表と裏の両方の舞台に配置された国へと変貌させられていたのです。岸信介や児玉誉士夫のことを思えばそれは容易に得心できるでしょう。

そんなねじれが安倍首相に見事に受け継がれています。どんなことがあってもアメリカの機嫌を損ねたら自分の権力が危ないことを、彼はまさに岸信介から教わったのです。たとえそれが彼の被害妄想であったとしても、その彼が今の日本の最高権力者。最高権力者の妄想は最高に強いのです。

こんなにおカネを使って「おもてなし」をしたのはそういう事情です。売り込みに当たっては日本の都合など斟酌せずにどんどん「アメリカ・ファースト」で押し通すのがトランプの勝手な「国益」だと重々知っていても、それを隣でニヤニヤ笑って受け止めるしかない。それでもせめてもどうにか”ご斟酌”していただきたいと、「お土産外交」「おもてなし外交」を懸命に展開しているわけです。外交というゴリゴリにパブリックな交渉を、プライベートな場に引き込んでどうにかできると考えるのはあまりに日本的でナイーブな話なのですが、安倍サイドにはそれしかすがるものがないのでしょう。実際、共同記者会見の二人を見ていて、私はついひと月余り前の米自治領プエルト・リコの知事とトランプの共同会見を思い出していました。

9月20日のハリケーン・マリアの上陸で甚大な被害を受け全島停電にまで陥り、すがるものと言ったら米国大統領だけという悲惨な状況の中、知事はそれでも2週間経ってやっとやってきたトランプを歓迎し窮状を訴えました。けれどかの島は今も復旧ままならず、今も停電下の生活を強いられている住民は多く、劣悪な生活環境は続いています。トランプは、自らに関係のないことにはかくも無頓着かつ他人事の対応しかしない。あるいは、自分に都合が悪くなると「友情」であってもなんであって、さっさと排除してしまうことは、これまでにクビを切られた(そしてこれからクビを切られる)異様な数の閣僚たちのことを思い出せば明らかでしょう。

NYタイムズはタクシーの後部座席から運転手の安倍首相に拡声器でバンバン命令するトランプ大統領の風刺画を載せましたが、欧米メディアにはなべて日本が米国の従順で都合の良い下僕のように映っている。それは今回の訪日でほぼ確定した日本像、安倍政権像となりました。イメージ戦略として失敗ですが、それもしょうがない。レッテル貼りだ、印象操作だ、などと抗弁しようにも関係ありません。そしてその間もホワイトハウスからはロシア疑惑や歴史的低支持率を吹き飛ばしてしまおうという「北への武力行使準備」のキナ臭い情報が聞こえ続けているのです。デビュー間もない村上龍が著した『海の向こうで戦争が始まる』という小説の題名が、私の頭のどこかで微かに明滅しています。

October 31, 2017

アジア歴訪前に窮地のトランプ、次の一手は?

11月8日は「トランプ当選」が決まったあの選挙からちょうど1年。政権は相変わらずツイッターでトランプ節炸裂の大統領と、その後始末に相努める実務派幹部たちとの奇妙かつ絶妙なバランスの上で"安定"した低支持率を保っています。

「安定」と書きましたが皮肉ではありません。傍から見るとデタラメに聞こえるトランプ節ですが、これが支持の中核層に絶え間なくエネルギーを注入している。これが続く限り支持率は決定的に下がることはない、というか最初から低い値だったのですが、意外と3割からは下がらないので今を迎えているのです。

10月末のNBC/WSJの最新共同調査が出ました。トランプ大統領への支持は38%、不支持は58%と不動の不人気なのですが、これまでも他の調査では32%という数字が出たこともあります。38%はこの調査では過去最低ですが、まだまだ底値までは余裕があります。しかし問題はむしろ、この調査で現れた民主党支持層では10人中9人までが不支持(支持7%、不支持89%)で、共和党支持層では10人に8人までが支持(支持81%、不支持17%)という大分断の方です。この合わせ鏡のような対称性がどんどん鮮烈になっています。方やトランプがやることなすこと全部ダメ、方や全部オッケーという真っ二つなのです。

これまでの政権の実績を見てみると、オバマ政権のすべてをひっくり返すような意欲満々のツイートとは裏腹に、オバマケアは今も潰されずに機能していますし、メキシコの壁もサンプルは出来たが予算から言っても建ち並ぶ未来の景色は見えてきません。現在は法人税と個人所得税などの大幅減税公約が焦点になっているのですが、トランプ政権の示すような減税を実行したら財政破綻すると、共和党内部からも異論が続出。おまけに財源確保策として出ているのは地方税額を連邦税の控除対象にしないとか確定拠出型年金の非課税枠を小さくするとか、どうしたって「普通の人たち」の生活を直撃するような内容。いわばそんなヤバい内情を見せないがために、ツイートでさんざん景気の良い話や自慢話を続けているようなものなのです。そうして共和党の本流からは公然とトランプ批判、というかほとんどサイコパス、ソシオパス呼ばわりみたいな非難までもが聞こえ始め、対するトランプも「類い稀な見事なカウンター・ファイター」(最近のスティーヴ・バノンのトランプ評)ぶりを見せて悪口の限りを叫びあげ、それで支持者たちが拍手喝采するというパタンが繰り返されているのです。

しかしなぜそんなことがうまく行っているのか? それはひとえに株価がずっと上昇しているからです。文字通りの景気の良さ(というか好調な株価)を背景に、この政権への全面的な不信にはまだ至っていない。前述の調査でも、トランプの対応に対して支持するという人が不支持より多かったのは、「テキサスやフロリダでのハリケーン被害対応」(48%対27%)と「経済」(42%対37%)の2項目だけだったのです。

つまり逆を言えば、この株価、経済が崩れたら、トランプ政権はあっという間に見限られるということです。

だとすると、北朝鮮問題はどうなるのか? 株価維持のためには軍事的暴発は絶対に回避しなくてはなりません。一方で軍事行動は支持率回復の魔法の杖。まるでその布石のように米国ではまた対話派のティラーソン国務長官の解任説が燻り続けています。5日の日本から始まるアジア歴訪で、トランプ大統領は北朝鮮への予防的先制攻撃を根回しするのでしょうか?

そんな中、とうとうモラー特別検察官によるロシア疑惑の強制捜査が動き出しました。昨年8月までトランプ陣営の選挙本部長だったポール・マナフォートとその友人のリック・ゲイツが昨日30日、正式起訴されました。罪状は、2006年から2015年にかけてウクライナの親ロシア派政治家ビクトル・ヤヌコビッチ前大統領とその政党の「未登録代理人」として活動していたことを背景に、オフショア口座を使った巨額の資金洗浄を共謀して私腹を肥やした罪や、外国組織の代理人として未登録のまま活動したなどというものです。

そしてそこに、トランプ陣営とロシアとをつないだ若いエネルギー・外交顧問ジョージ・パパドポウロスもFBIに対する偽証罪による起訴として連なっていることがわかった。その彼の情報が今回の捜査の端緒として重要な役目を果たしているとみられているのです。

彼はすでに7月に逮捕され、10月5日には罪を認めて司法取引をした。偽証罪というのは色々罪を免れるために事情聴取に対して嘘の弁明をしたということで、けれど最終的に彼はそれを認め、今度は一転、自分の罪を軽くするために当局に彼の知る本物の情報を渡すことになった、ということです。捜査の突破口として、彼の証言から捜査はまだまだ拡大・進展するでしょう。何せパパドポウロスは、選挙期間中に接触したロシア政府関係者の通称「教授」や自称プーチンの親戚の「ロシア人女性」との密会を、逐一トランプ選対本部の「スーパーバイザー(管理者)」に報告しているのですから。

さてこうなると、冒頭に触れたトランプ大統領の支持率の底値30%が揺るぎ始める事態が早晩訪れることになります——支持率回復のために、この大統領は次にいったい何を考えるのでしょうか? 日本の安倍首相は、そんなトランプ大統領へのどんな力添えの言葉を準備しているのでしょうか?

October 12, 2017

The Storm (2017 BET Hip-Hop Awards Cypher Verse)

今年のBET(Black Entertainment Television)のヒップホップ・アワードでエメネムが登場してドナルド・トランプを激しくdisりまくるフリースタイルのラップを披露しました。

何て言ってるか、ざっと訳してみました。もちろんラップなんでちょっとわかりづらいところがあって、誤訳してるかもしれないけど、まあ、こんな感じだと思ってください。ちなみに訳してるのは意味であって、「韻」は踏んでません。あしからず。

これ、どうやったら動画をここに縁ベッドできるんだっけ?
思い出したらトライしてみますが、とりあえず今は文字だけで。


***
[Intro]
It's the calm before the storm right here
嵐の前の静けさってこのことだな

Wait, how was I gonna start this off?
あれ、どう始めるんだっけ?

I forgot… oh yeah
忘れた、ああ、そっか

[Verse]
That's an awfully hot coffee pot
ひどく熱いコーヒーポットがあって

Should I drop it on Donald Trump? Probably not
ドナルド・トランプにぶっかけるべきか? いや違うな

But that's all I got 'til I come up with a solid plot
いや、それしか思い浮かばない、マジにやること決めるまで

Got a plan and now I gotta hatch it
やることはある、いまはそれを考えてるとこ

Like a damn Apache with a tomahawk
トマホーク持った凶悪アパッチみたいに

I'ma walk inside a mosque on Ramadan
ラマダンのモスクに歩いて入るんだ

And say a prayer that every time Melania talks
そんでメラニアがなんか言うたびに俺は祈りを口にする

She gets her mou— ahh, I'ma stop
彼女はフェラ──いや、そりゃ言わねえ

But we better give Obama props
それより俺らはオバマを褒めるべき

'Cause what we got in office now's a kamikaze
だっていまホワイトハウスにいるのはカミカゼだぜ

That'll probably cause a nuclear holocaust
多分そいつが原爆ホロコーストをおっ始める

And while the drama pops
ヤバいことが持ち上がれば

And he waits for shit to quiet down he'll just gas his plane up
そのクソみたいなことが静まるまでの間、あいつは自分の飛行機満タンにして

And fly around 'til the bombing stops
空爆が終わるまで空の上でぐるぐる待ってるわけだ

Intensities heightened, tensions are rising'
激しさは増し、緊張が高まる

Trump, when it comes to givin' a shit, you're stingy as I am
トランプ、肝心な時にテメエは俺みたいにケチくさい

Except when it comes to havin' the balls to go against me, you hide 'em
俺に喧嘩売るキンタマが必要な時以外、テメエはそれを見せもしねえ

'Cause you don't got the fuckin' nuts like an empty asylum
なぜならテメエにゃもともと糞タマタマがねえからだ、もともと空っぽの避難所よ

Racism's the only thing he's fantastic for
奴の得意はレイシズムだけ

'Cause that's how he gets his fuckin' rocks off and he's orange
そうやって差別こいてセンズリこいて絶頂こいて、オレンジ色の

Yeah, sick tan
ああ、薄気味悪い日焼けクリームの赤ら顔

That's why he wants us to disband
奴にとっちゃ俺らが繋がってちゃまずいわけ

'Cause he can not withstand
だって奴がいちばん嫌いなのは

The fact we're not afraid of Trump
俺らはトランプなんか怖くないって事実

Fuck walkin' on egg shells, I came to stomp
綺麗事なんか言うか、俺は蹴り倒しに来たんだ

That's why he keeps screamin', "Drain the swamp!"
だから奴は悲鳴を上げ続ける、「沼から水を抜け!」【訳注:「ワシントン政界を浄化しろ」との選挙スローガン】

'Cause he's in quicksand
なぜなら自分が泥沼にはまってるから

It's like we take a step forwards, then backwards
まるで俺たち一歩進んで、一歩戻っての繰り返し

But this is his form of distraction
だがこれが奴流の話題そらし

Plus, he gets an enormous reaction
おまけに大受けするから調子に乗るし

When he attacks the NFL, so we focus on that, in—
NFLを攻撃したのも、俺らがそっちに目をやって

—stead of talkin' Puerto Rico or gun reform for Nevada
プエルトリコのハリケーンだとかネヴァダの銃規制だとかから目をそらさせるため

All these horrible tragedies and he's bored and would rather
こんなひどい悲劇が続いても奴は退屈でそれより

Cause a Twitter storm with the Packers
パッカーズの悪口ツイートの嵐の連投

Then says he wants to lower our taxes
で俺らの税金を下げるっていうんだが

Then who's gonna pay for his extravagant trips
じゃあ奴の贅沢三昧の旅費は誰が払うんだ

Back and forth with his fam to his golf resorts and his mansions?
家族ぐるみで自分のゴルフ場や豪邸に行ったり来たりの

Same shit that he tormented Hillary for and he slandered
さんざんヒラリーをどついたくせに同じネタを自分でやって

Then does it more
それからもっとひでえこと

From his endorsement of Bannon
バノンにお墨付き与えたり

Support for the Klansmen
KKKの奴らを支持したり

Tiki torches in hand for the soldier that's black
火をつけた人形を手に、イラクから祖国に

And comes home from Iraq
帰った黒人兵に見せつける

And is still told to go back to Africa
彼は今も言われてるわけだ、アフリカに帰れ、と

Fork and a dagger in this racist 94-year-old grandpa
この94歳のレイシストのジジイ【訳注:トランプのこと】の中には熊手と短刀

Who keeps ignorin' our past historical, deplorable factors
奴はずっと、俺らの過去の歴史、嘆かわしい出来事をなかったことにしたがってる

Now if you're a black athlete, you're a spoiled little brat for
で、もしあんたが黒人アスリートなら甘やかされた糞ガキ野郎ってことになる

Tryna use your platform, or your stature
自分の地位や名声を利用して

To try to give those a voice who don't have one
声なき連中の声を届かせようとしているってことで「糞ガキ」だ

He says, "You're spittin' in the face of vets who fought for us, you bastards!"
奴は言う、「我々のために戦った軍人たちの顔に唾を吐きつけるのか、このロクデナシが!」

Unless you're a POW who's tortured and battered
拷問されギタギタにされた戦争捕虜でもない限りは

'Cause to him you're zeros, 'cause he don't like his war heroes captured
なぜなら奴にとってはあんたはゼロだから 奴にとっての戦争のヒーローは捕まっちゃいけないものだから

That's not disrespectin' the military
あれは軍を馬鹿にしてるってことじゃねえ

Fuck that, this is for Colin, ball up a fist!
何言ってんだ、コリン(キャパニック)のために拳を握れ! 【訳注:黒人虐待に抗議してNFL試合での国歌斉唱で起立せず、契約保留になっているクオーターバック選手】

And keep that shit balled like Donald the bitch!
それを握ったままにしてろ、あばずれドナルドの丸める糞と同じく

"He's gonna get rid of all immigrants!"
「あいつは移民を全部根こそぎにしてくれる!」

"He's gonna build that thing up taller than this!"
「あいつはあの壁を今より高く作ってくれる!」

Well, if he does build it, I hope it's rock solid with bricks
そうかい、ならそれはレンガでガチに固めてほしいな

'Cause like him in politics, I'm usin' all of his tricks
なぜって奴が政治でやるように俺は奴のトリック全部を使って

'Cause I'm throwin' that piece of shit against the wall 'til it sticks
その丸めた糞をビタビタくっつくまでその壁に投げつけてやるから

And any fan of mine who's a supporter of his
だから俺のファンでもし奴が好きだってのがいたら

I'm drawing in the sand a line, you're either for or against
俺は砂の上に線を引く、おまえが賛成反対どっちにつくかってやつだ

And if you can't decide who you like more and you're split
それでもしどっちが好きか決められなくて

On who you should stand beside, I'll do it for you with this:
どっちの味方になるべきか股裂き状態なら、俺が代わってあんたに言ってやる

Fuck you!
死んでろ!

The rest of America, stand up!
そうじゃない方のアメリカ、立ち上がれ!

We love our military, and we love our country
俺らは俺らの軍を愛してる、俺らの国を愛してる

But we fucking hate Trump!
ただトランプはクソ大嫌いだってことよ!

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