March 20, 2019

「危機」の正体

50人の死者が出ているニュージーランドのモスク襲撃事件に関するトランプの対応にまた批判が集まっています。追悼ツイートの書き出しが「My warmest sympathy and best wishes」と、まるでホールマークのカードみたいなテンプレだったこと(ホールマークというのは全米どこのスーパーに行ってもどーんと棚があるくらいの大量生産カードメーカーです)。〆も「God bless all!」とこれまた無神経なキリスト教定型句であること。記者会見で聞かれても白人至上主義を非難しなかったこと。アーダーンNZ首相に「ムスリムの人々に同情と愛を」と促されても、実際は逆に様々なヘイトツイートを乱発して先週末を過ごしたこと。

言葉尻の問題ではありません。トランプ政権発足後8日目の大統領令はイスラム圏からの入国制限でありシリア難民の入国禁止でした。「イスラム教徒は我々を憎んでいる」「米国内の問題はイスラムという名の問題だ」というツイートもしてきました。2017年8月のシャーロッツビルの白人至上主義集会で、抗議の人々に車が突っ込んで女性が死亡した際も彼は「どっちもどっち」論で同主義への名指しの非難を回避しました。つまりトランプ政権の文脈的かつ構造的な問題なのです。

ここまで露骨な迂回は、彼の支持者たちの核心部に白人至上主義者たちが存在すると知っているからです。今回のこの男もトランプのことを「白人のアイデンティティと新たな目的のためのシンボル」と位置づけ(もっとも、指導者や政策立案者としてはこき下ろしていますが)、犯行目的を「移民によって白人は絶滅の危機に晒されており、白人の子供の未来を守るために犯行を起こした」と記しています。

これは安倍首相が(これまたテンプレ定型句で批判したような)漠然たる「テロ」事件ではありません。明確にイスラム教徒という特定集団を標的にした憎悪犯罪です。犯人は自らを「普通の白人男 an ordinary white man」と表現していますが、これも(安倍支持層の核心部に存在する)勝手な「日本至上主義者」である日本のネトウヨたちが自分を「普通の日本人」と称するのと同じ、ヘイトスピーカーたちの常套句です。

トランプ主義は彼らの危機感をエネルギーにして増殖してきました。英紙ガーディアンの興味深い調査があります。15年以降欧州ではムスリム移民が激減しているのにかかわらず、実際のムスリム人口比率と、人々の想像する同比率には4〜5倍もの差があるというものです。例えばドイツでは実際のムスリム人口は5%にもかかわらず人々は21%いると感じているし、フランスでは8%弱なのに31%以上いると思われている。同じくアメリカではわずか1%ほどのムスリム人口が、16%もいると妄想されているのです。

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分断、分断と騒がれますが、これは「危機」への対応の仕方の違いなのでしょう。互いにとって一方は必要以上に危機を言い立てる神経症であり、一方は必要以下に危機に鈍感な平和ボケだと映る。重要なのは、双方ともその行動は「自衛のため」なのだということです。問題はだからその「自衛」が、今回の白人至上主義者の犯人の主張する「絶滅の危機」のように今厳然とここに存在する「危機」へ対する自衛なのか、それとも回り回って寛容と包摂こそが将来の「危機」を回避するのだという自衛なのか、ということなのです。

事件後、お隣の豪州では反イスラム発言を繰り返す極右上院議員フレイザー・アニングの頭に17歳のウィリアム・コノリー少年が抗議の卵を打ちつけ、議員がこの少年を殴り返すという動画がネットで拡散しました。豪首相は少年ではなくアニングの方を非難し、「彼のような考え方が豪州に存在する余地はない」とまで言い切りました。今や「エッグボーイ」として有名になったコノリーの訴訟対策費およびさらなる卵の購入費として集まった支援金の5万豪ドル(約400万円)を、彼は全額モスク犠牲者の遺族に寄付するそうです。

一方、当のニュージーランドではモスクでお祈りするムスリムの人々に寄り添おうと、非ムスリムの住民たちがモスクの入り口前に集まって中の人たちを守るという動きが全土で広がっているそうです。

このエントリーを上げた後で、アーダーン首相が19日の特別議会で次のように演説しました。

"He sought many things from his act of terror, but one was notoriety - that is why you will never hear me mention his name,"
このテロ行為から彼は多くのものを手にしようとしました。その一つは悪名です──だから今後、私が言葉を口にする時、あなた方はその男の名前を決して耳にしないでしょう」

"I implore you, speak the names of those who were lost rather than the name of the man who took them. He is a terrorist. He is a criminal. He is an extremist. But he will, when I speak, be nameless."
皆さんにお願いします。命を失った大勢の人たちの名前を語ってください。その命を奪った者の名前ではなく。その男はテロリストで犯罪者で過激派だ。そして私が言葉を発するとき、その男は無名のままで終るのです」

この言に深くうなづいて、私はエントリーしたこのテキストから「その男」の名前を消すことにします。知りたい人は他の記事でわかりますから。なるほど、悪名を求める者の名を決して広めない。当初、現地からの事件報道で、確保された犯人の姿そのものにボカシが入っていました。それは単に人権への配慮かと思ったのですが、その姿を晒すのとは逆に、そういう意味での映像の排除もありかもしれない。名前は報じるにしても。

無名のまま葬り去る、存在しなかったことにする、その屈辱──「報道」という立場からは例えば冤罪を防ぐ、訴追に抗議する、という可能性からもその名を報じないわけにはいかないでしょうが、「容疑者が悪名を獲得することをも妨げる」という発想は、日本の報道に慣れている私にはありませんでした。

アーダーン首相はこの時の演説を「あなたの上に平安がありますように」を意味するアラビア語の 「アサラーム・アライクン(Al-Salaam Alaikum)」で始めたそうです。ホールマークの安っぽい決まり文句でも「Gad bless all」でもなく。

March 03, 2019

一時代の終わり〜寿司田NY閉店

マンハッタンで34年の歴史を持っていた「寿司田」NY支店が2月28日で2店舗とも閉店したそうです。ネタもコメも見劣りしたNY本格寿司の黎明期、ミッドタウンで日本企業駐在社員のホームシックを癒してきた同店ですが、閉店理由はトランプ政権のビザ締め付け。新規、更新とも厳しく、日本から送り込む寿司職人が確保できなくなったと言います。

今のような東京の有名店進出がなかった90年代、寿司田は数少ない「ちゃんとした」寿司が食べられる店の一つでした。93年に私がNYに赴任した時に、加藤さんという私より若干若い板前さんも同じく東京から寿司田ロックフェラー店に異動してきてすぐに馴染みになり、色々と新しい寿司を実験しては私に食べさせてくれました。蛸には黒胡椒が合うとか、NYならではのスモークサーモンの皮を炙った手巻き寿司とか、若かった私が江戸前だけでなくNY寿司の自由さを教わったのもこの店でした。

寿司職人のビザは「H-1B(エイチ・ワン・ビー)」という特殊技能職ビザで、高度な技能を持つ専門職の外国人労働者が対象です。有効期間は3年ですが1度の更新が可能で、その期間内で永住権(グリーンカード)を取得すればそのまま独立したり店を渡り歩くことも可能です。なので「H-1B」は寿司職人に限らずアメリカン・ドリームを追い求める技術"移民"たちの最初のステップなのです。

このビザ締め付けは「アメリカ・ファースト」のトランプが就任直後の17年4月に署名した大統領令「バイ・アメリカン、ハイヤー・アメリカン(米国製品を買い、米国民を雇おう)」から始まりました。べつに「寿司職人をアメリカ人にしろ!」というのではないのですが、他分野での規制強化でとばっちりを受けたという形です。これで最も打撃を受けたのは、カリフォルニアのシリコンバレーなどで働いていたインド人ら海外からの優秀なIT技術者たちでした。

「H-1B」はオバマ政権下の2016年までは年間30万人前後に発給され、その7割がインド人技術者でした。それが現在は10万人余にまで発給が減ってきています。インド人だけではありません。これまでアメリカのIT産業を支えてきた海外からの技術者たちは、トランプ政権となってから4割がアメリカ以外の移住先を探し、うち3割がお隣カナダへと去っています。この大統領令が報じられた時、「アメリカはこれでIT分野での世界一の座を危うくするだろう」と懸念する声が上がりましたが、「ファーウェイ問題」などいま問題となっている中国などへのIT技術流出も、この大統領令によって新たに加速しているのかもしれません。

「寿司田」閉店のニュースは、私がツイートしたらあっという間に(きっと昔のNYで寿司田を知っている)数千もの人がリツイートして、それぞれ思い出を披露していました。

ちょっと拾ってみると……「寿司田の名物、具がぎっしりの太巻きが」「NYに住んでた時何度かお世話になりました。なんちゃって寿司が多い中きちんとした寿司が食べられるお店だったのに残念です(´・ω・`)」「私もお世話になりました。寿司田ほどの規模あるグループが撤退とは、、、」「NYの楽しみ!分かります。私はロックフェラーセンターの弊社オフィスの1階の寿司田。和食が壊滅的なDCからAmtrakでNY出張する時は、寿司田が楽しみの一つでした。ディール決めてブローカーに奢らせたwwwのも懐かしい。」「なんですと・・・お世話になりました。てか、助けられました。残念ですね」……云々。

まあ今は食べるだけで200ドル、300ドルも珍しくない本格江戸前の高額個人店が競い合うNYです。寿司田の閉店は一つの時代が終わった象徴のようにも思われます。

February 19, 2019

トランプと始皇帝

国境の壁をめぐる非常事態宣言記者会見の受け答えを聴きながら、思わず「矛盾してるだろ」と一人ツッコミをしたのは私だけではないはずです。「喫緊の事態に対応しなければならない」という宣言のはずが、トランプは「I could do the wall over a longer period of time(壁はもっと時間をかけることもできた)」「I didn’t need to do this, but I’d rather do it much faster(こうする必要はなかったが、もっと手早くやりたかった)」と口にしたのです。このどこが非常事態なのか?

不法移民の7割は合法的に入国しながら滞在期限切れで留まっている人たちであり、米墨国境を違法に越えて拘束される人の数は2000年に160万人だったのが現在は40万人に減っており、さらに犯罪者になる確率は不法移民よりも米国生まれの市民の方がはるかに高い。テロ容疑者はほぼ空港で拘束され、米墨国境では数人に過ぎず、密売麻薬も国境越えよりも航空機や船舶での搬入が大半です。

これらの事実を背景に、これから下院、上院で同宣言無効決議が採決され、可決されても大統領が拒否権を行使し、あるいは同宣言は「違憲、職権乱用、さらに連邦議会が割り当てた国民と州の予算の盗用」などとする訴訟(19日時点で既に16州が提訴)が行われて下級審で支持され、それで最高裁まで争われて結論、という進み行きになります。つまり決着までかなりかかる。その間、壁の建設は事実上差し止めになります。

ということは、この非常事態宣言は実効性は甚だしく乏しく、「壁を作る」というよりも壁を作ると「宣言する」ことが目的です。何のために? 大統領再選のための支持者たちに「自分は戦っている」と見せるために。そうです、これはつまり選挙用のパフォーマンスです。

そもそも大統領には予算を提案する権利はありません。予算は議会の専権事項で、三権分立が機能しています。もし大統領が非常事態宣言で予算まで自分で決定できる前例を認めたら、共和党は未来の民主党の大統領がこれまた「国家の非常事態」だと言って気候変動対策費でもなんでも自分で工面してしまうのを認めざるを得なくなる。

共和党が多数の上院でもこれを危惧する議員たちが非常事態宣言に反対すると見られる所以がそれです。法廷闘争にしても、保守とリベラルが5対4とされる最高裁であってもこの非常事態宣言は、中絶や同性婚といった保守道徳の関係する訴訟と違い、国家権力の構造を揺るがすものですから純粋に論理的に「違憲」と判断されるはずなのです。

おまけに最高裁長官のロバーツ判事はトランプ政権になってから政治バランスを重視し始め、昨年12月の移民規制強化をめぐる判断でも今月初めのルイジアナ州の中絶規制強化に関する訴訟でも、リベラル側の意向に沿った規制強化反対の判断をしているのです。なのでこれほど自明な大統領の権限逸脱、非常事態のデッチ上げを黙過するはずがありません。

トランプの公約は「国境の壁を作る」ではなくて「国境の壁を作る費用をメキシコに負担させる」でした。今回の非常事態宣言を支持する世論もわずか30%ほどでしかありません。これは盤石とされるトランプ支持者層の最低ラインです。

しかも今回の政府閉鎖回避のための当初要求の壁建設費57億ドルが、いまは非常事態宣言で図に乗ったのか工面額が80億ドルに膨れ上がり、全体では最終的に230億ドル(2兆6千億円)もかかるとさえ言われます。

いやいやそんなもんじゃありません。作ったら作ったで膨大な維持管理および修繕費が毎年かかるわけで、それだけで済むわけがない。昨年からの大型減税で10年で1兆ドル(110兆円)も膨らむとされる深刻な財政赤字の中、彼は何をしたいのでしょう?──完成した「壁」を眺め「ザ・グレイト・ウォール!」と感激したいのでしょうか?  同名の「万里の長城」を作った始皇帝に自分をなぞらえたいのでしょうか? そういえば自身を批判する学者を生き埋めにして殺し本を焼いた「焚書坑儒」の始皇帝は、まさに「フェイクニュース!」とメディアを殲滅しようとするトランプ大統領に重なりもします。

もっとも、彼が始皇帝の歴史を知っているかは別の話ですが。

ちなみに、9.11の起きた2001年、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領は9月14日に非常事態宣言を行い、それからグラウンド・ゼロとなった世界貿易センタービル跡地に行って犠牲者の追悼式を行いました。一方のトランプは、2月15日(金)にこの非常事態宣言を行ってから3日連続でゴルフコースを回ったのです。最初の問いに戻りましょう。どこが非常事態ですか?

January 30, 2019

大坂なおみという「窓」

昨秋の全米に次いで全豪オープンでも優勝という快挙、そして世界ランキング1位という大坂なおみ選手に日本中が湧いています。一方で、彼女が「国際」的になればなるほど彼女を「日本人」として持ち上げる日本のメディアの「非・国際」的あり方が異様に映ることにもなっています。

その一例が彼女のスポンサーでもある日清食品のネットアニメCMでした。そこで描かれた彼女の容姿が肌も白く髪の毛もふんわりしていて「大阪選手に見えない」との声が挙がり、それを欧米メディアが「ホワイトウォッシュ(白人化)」として取り上げたことで、日清側が急きょこのCMを公開中止にするという事態にもなりました。

まあ、アニメに描かれるキャラクターというのはだいたいが「非・日本人」的に目が大きかったり髪が黒じゃなかったりほぼ無国籍化しているんですが、日清側=アニメ作家側が彼女をどう見ても「非・大坂なおみ」的に「白く」変身させてしまった理由は何だったのでしょう? ともすると「黒く」描くことが逆に失礼に当たると"斟酌"した? だとすれば、それこそ「ホワイトウォッシュ」を肯定する大きな考え違いです。

日本の世間はどうも人種問題やそれに絡む人権問題については何周も遅れてしまっていて、自分たちが今どこにいるのかさえ考えていないようです。なので相変わらずコントなどでは黒人の役で顔を黒塗りにする「ブラックフェイス」が行われたり、黒人役のセリフが田舎弁だったりします。

60年代の黒人解放運動を通して「Black is Beautiful」と自尊を訴え、70年代にはアリサ・フランクリンが「I'm Gifted and Black(私は才能があって黒人)」と歌った意味を、日本社会では知る必要がなかった。対してハイチの父と日本の母の間に生まれた大阪選手は自分が白く描かれたことに関して「なぜみんなが怒っているのかはわかる」と、もちろん理解していました。

実はもう一つ、人種問題ではなく女性問題でも大阪選手は日本の世間の周回遅れを炙り出しています。それはやはり優勝記者会見で、日本のTVリポーターが対戦相手の感想を「日本語でお願いします」と求めた時のことです。

大阪選手は日本語では表現し切れないと思ったのでしょう、「英語で話します」と言ってクビトバ選手が2年前に強盗に利き手を刺される重傷を負ったこと、それを克服して決勝で戦ったことを称える立派なコメントをしました。

ところでなぜ「日本語でお願いします」と求められたのでしょう?

おそらくこれは、大阪選手のたどたどしく可愛らしい日本語を聞くことで、日本の視聴者とともに彼女を「カワイイ〜」と言って微笑ましく言祝ごうという企図だったのだろうと思います。それは無意識にであっても女子選手に、いや女子たち全般に、「可愛らしく微笑ましい」存在であることを強制する仕草になります。それは、日本ではあまり意識されませんが「国際的に」は明確に男性目線のセクシズムです。

しかも彼女の優勝以来、日本のTVのワイドショーでは大阪選手がいかに「日本人」らしいか、いかに「日本の誇り」かの話題を続けています。彼女が頭角を現してきた1年前には、彼女の褐色の肌やチリチリの髪を見て「日本人には見えないよなあ」と言っていた人も少なくなかった日本の世間が、いまは手のひらを返して「日本人」を強調するのです。

そんなとき私はいつも歌人枡野浩一さんの「野茂がもし世界のNOMOになろうとも君や私の手柄ではない」という短歌を思い出します。

大阪選手が、世界が日本を見る窓になっています。私の願いは、彼女が同時に、日本から世界を見る窓になってくれることです。もちろんそれは彼女の仕事ではなく、私たち日本に住む日本人の仕事です。

January 12, 2019

トランプの家

政府閉鎖の原因であるメキシコ国境の壁建設をめぐり、トランプが「非常事態宣言」の可能性に触れたとき、ああこの人は本当によくテレビを見ているんだなと呆れると同時に感心もしたほどです。合衆国大統領には予算を作り出す権限はありません。予算編成権限は議会のものです。つまり国境の壁は、作ろうとしても大統領にはカネがない。

どこかに使えるカネがないか? 6年前、2013年から始まったネットフリックスの人気政治ドラマ『House of Cards(邦題ハウス・オブ・カード)』では、悪辣の極みのフランク・アンダーウッド大統領が自分の人気取り政策である雇用創出プログラム「アメリカ・ワークス」を実行に移すため、まさに非常事態宣言を行って連邦緊急事態管理庁(FEMA)にプールの30億ドルの災害緊急基金を転用するアイディアを思いつきます。

アンダーウッドは補佐官らに「非常事態とはどういうものだ?」と確認します。

補佐官は「スタフォード法によると、非常事態とは大統領の決定に基づく状況下で──」「つまり非常事態を決定するのは大統領ということだな。どんな場合でも?」「はい、人命や公衆衛生、治安を守る目的であれば」「失業は犯罪を増やし健康を害し社会を不安にする」「しかし訴訟になります」「訴訟になるころには(プログラムの)効用も理解される」「しかしこんな予算の再分配はこれまでどんな大統領もやったことがありません」「Thank you gentlemen. That's all I need!(ありがとう、諸君。知りたいのはそれだけだ!)」

「雇用プログラム」と「国境の壁建設」という違いはあれど、さらにカネの捻出さきがFEMAかどうか(報道では国防予算という説もあります)もありますが、非常事態宣言によるカネの捻出法は、まさにこれです。トランプがこのドラマからパクったという証拠はありませんが、まあ、本も読まずにテレビで"勉強"する大統領です。大統領の仕事や権限もアンダーウッドから学んで「いない」とも言えないのがこの人です。

ちなみにこの『ハウス・オブ・カード』、人を人とも思わぬ気持ち悪い大統領像をケヴィン・スペイシーが好演していたのですが、スペイシー本人が昨年、長きにわたる共演の若者たちなどへの性的虐待で告発され、昨年の最終シーズン6ではドラマ内ですでに死んでしまったことになっていました。それ以前に、権謀術数の限りを尽くして大統領にまで成り上がったこのアンダーウッドも、トランプが大統領に就任したシーズン5からはその破茶滅茶ぶりがそっくり現実の大統領にお株を奪われた格好で、物語もやや失速気味だったのです。

なにせマティスが辞任(トランプは解任だと言い換えましたが)する元となったシリア撤兵も「すぐとは言ってない。ISISが殲滅されるなどの条件が満たされればだ」。いやいやいやいや、大統領、あんた「掃討完了」「すでに撤退指示」と言ったでしょ──と1から10までこの調子ですから。

それにしても政府閉鎖に関する民主党とのやりとりを見ていると、この人はまるで北朝鮮のような瀬戸際外交ならぬ瀬戸際交渉が好きなようです。チキンゲームは、普通は(給与未払いの連邦職員らの)犠牲をもいとわない神経の持ち主が勝ちでしょう。しかし民主党もそんなトランプを止めよとの民意で下院多数派になったのですから、簡単に折れるわけにも行きません。

対中、対北朝鮮、対ロシア。本来なら今年はアメリカが最も毅然とした政策を取らねばならない年です。けれどトランプにとってはむしろ政府閉鎖のゴタゴタを言い訳に自分で仕事をしないで済むのがいいのかもしれません。なにせモラ0ー特別検察官チームの捜査報告や下院委員会での調査が迫っていて、面倒な大統領職などやってる場合じゃないわけで。よって北朝鮮はポンペイオ任せ、トルコや中東はボルトン任せ、対中貿易交渉はライトハイザーやナヴァロ任せ。国防長官も首席補佐官も司法長官もいないホワイトハウスの新年です。

ちなみに、「ハウス・オブ・カーズ」というのは「トランプのカードで組み立てた家」のこと。ちょっとした衝撃で壊れてしまうものの例えです。今更ですが、実に予言的な命名です。

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