April 19, 2017

ハイパー共和党政権

北朝鮮問題の気がかりの一つは、米軍というのはこれまで本格展開した後で何もせずに引き返したことがほとんどないことです。数少ない例外は62年のキューバ危機でしたか。でも、いま対峙しているのはケネディとフルシチョフではなく、先週も書いたとおりトランプと金正恩です。
 
ところが先週から今週にかけ、トランプ政権の雰囲気が何やら明らかに変化してきました。シリア・アサド政権へのトマホーク攻撃、アフガン・イスラム国に対する大規模爆風爆弾(MOAB)の投下といったあからさまな軍事的見せびらかしに、一気に北朝鮮への先制攻撃の可能性が取りざたされましたが、不意に自制的、抑制的な発言が目立つようになった。

何と言ってもマクマスター補佐官(安全保障担当)の16日の発言「平和的解決のために、軍事オプションに至らぬ(short of a military option)すべてのアクションを取る」です。17日にはスパイサー報道官が「トランプ政権は北朝鮮にはレッドラインを設けない」とまで言っていました。

イケイケどんどん破茶滅茶煽動パタンからのこの変化は何なのでしょう? 私はこれは、トランプ政権が看板こそトランプという破天荒なトリックスターの姿を維持しながらも(それが彼が当選できた理由でしたから)、その内実は密かに従来型の共和党政権に戻そうとしている、そんな兆候の最初の表れではないかと勘ぐっています。

人事を見ればわかります。大衆への煽りとフェイクニュースでトランプ政権の「性格」そのものだった"影の副大統領"スティーブ・バノン首席戦略官が国家安全保障会議(NSC)から外れたのは、習近平との米中首脳会談(6〜7日)が行われる直前でした。バノンが主導してきた入国禁止令やメキシコの壁、オバマケア撤廃などのブチ上げ型の政策はいずれもうまく行っていません。おまけにロシアゲートの影がつきまとうのです。

ロシアとの関係で辞任したマイケル・フリンの後釜となったマクマスターの入閣条件は、NSCの人事を自分に任せてほしいということでした。そこでバノンが外れ、ダンフォード統合参謀本部議長らが常任メンバーに戻った。マクマスターは陸軍中将、ダンフォードは海兵隊大将です。そこに同じく海兵隊大将だったジェイムズ・マティス国防長官がいて、トランプ政権の外交政策の主要な一端を担うことになったのです。

もう一端は石油メジャー最大手エクソンモービル会長だったティラーソン国務長官、そして「倒産王」と呼ばれた銀行家・投資家のウィルバー・ロス商務長官です。ロスはトランプを例のタージマハルホテルの借金地獄から救った男です。この産業界のやり手たちが文民・経済外交の担い手です。そしてそこには財務長官のスティーブン・ムニューチン、国家経済会議(NEC)議長のゲーリー・コーンといったゴールドマン・サックス(GS)出身の金融界が控えている。

結果、今どういうことが起きているかというと、中国との貿易戦争は起きておらず、選挙公約だった為替操作国指定も北朝鮮交渉の労に免じてペンディングされています。オバマ政権の遺産であるとして破棄すると言っていたイランと核合意は破棄に動いていず、在イスラエル米国大使館のエルサレム移転も聞こえてこない。つまりアメリカ政府の外交は、なんだか少し落ち着きを取り戻しているのです。

それもこれもバノンが外れ、代わりにイヴァンカとクシュナーの娘夫婦が台頭し、そこに従来の軍産共同体に金融も加わった軍産金共同体の思惑が結集し、より強大なハイパー共和党型の政策が実行されようとしているからではないのか? それが発足100日を経てやっとまとまりつつある、まさに旧態依然のエスタブリッシュメントとしてのトランプ政権の正体ではないのか?──それが今現在のトランプ政権に対する私の印象です。

でもそれは、エスタブリッシュメントでがんじがらめになった閉塞状況の中で、そこを打ち壊してもらいたいと願って彼を支持した白人労働者達には、いったいどう映るのでしょうね。

April 11, 2017

予測不能な2つの要素

オバマがシリアの化学兵器使用に軍事介入を模索した2013年から14年にかけ、当時のドナルド・トランプは武力攻撃に反対するツイートを19回も繰り返していました。それが今回、なぜ急に方向転換して60発ものトマホークを射ち込んだのでしょう?

ホワイトハウスの伝えたかった物語は「大統領は犠牲となった子供たちの姿を見て決断した」というものでした。トランプ自身はさらに「アサドのこの残虐行為はオバマの弱腰と優柔不断のせいだ」ともツイートして相変わらずのオバマ責め。でも自らの過去との矛盾には頰かむりを決め込んでいます。

子供たちは毎日、世界中で殺されています。アメリカ大統領が人間味溢れた優しい人物だというのは好ましいことですが、ならば大統領を動かすには彼に悲惨な動画を見せればよいということになります。そんなことはない。そこにはもっと政治的な判断が働いているはず、いや、働いていなければなりません。

タイムラインで確認しましょう。シリアで化学兵器が使われたのは米国東部時間で3日深夜のことでした。やがて全米にもその悲惨な状況が放送され始めます。

4日午前10時半、情報当局による定例ブリーフィングで大統領は女性や子供たちが犠牲になったという情報をビデオや写真付きで知らされたということになっています。トランプはここで何らか軍事行動を決心したようで、同日中にさらに国家安全保障会議(NSC)が招集され米国が取り得る選択肢を検討するよう指示しています。

5日はヨルダン国王との面会がありました。午後1時にホワイトハウスで共同会見があり、そこでトランプは「シリアは一線を超えた。レッドラインを超えた」と発言。すでに軍事行動の腹を決めていたと窺えます。NSCはその日、具体的な軍事作戦の絞り込みを行いました。そこで決まったのが必要最小限のピンポイント攻撃。戦線は拡大させないということです。

そして6日は最大のイベント、フロリダの例のマール・ア・ラーゴで2日間の米中首脳会談が始まる日でした。一方で午後4時、トランプはシリア空軍基地へのミサイル攻撃にゴーを出します。発射時刻は首脳会談の会食もデザートにさしかかろうとする午後7時40分。そうしてその時がやってきて、トランプは習近平にシリア攻撃を報告しました。

ところでトランプ政権はその前週に、アサド退陣は優先事項ではないとしてオバマ時代からの政策の転換を発表していました。シリア内のISIS(イスラム国)駆逐はアサドとロシアにやってもらうという計画。これはロシアゲートで失職したあのマイケル・フリン安保担当補佐官と"影の副大統領"とも言われたスティーヴ・バノン主席戦略官らの「アメリカ第一主義」一派の戦略でした。

その舌の根も乾かぬうちのアサドへの攻撃。米国はまた「世界の警察」に戻るのか、とも言われています。

いえ、そんなことはありません。これはすべて6日の習近平との会談に向けての行動だったのだと踏んでいます。なぜならシリア攻撃は、アサド政権が本当にサリンを使ったのかを確認してからでも遅くはなかった。むしろその方が国際社会(国連)をも納得させられました。なんといってもシリアは化学兵器を全廃したと国際機関(OPCW)によってお墨付きを得ていたはずなのですから。

しかしトランプ政権は攻撃を急ぎました。この性急な行動はいかにもトランプらしい交渉術に見えます。交渉に入る前に、相手にイッパツかましたのです。北朝鮮問題で、習近平との交渉で「北に対してもやるときはやる。だから速やかにかつ強力に働きかけを行え」という暗黙の、かつ強烈なメッセージを大前提として臨むためです。首脳会談の本題はその翌日に話し合われる予定でした。

トランプは支持率36%という異例の不人気にあえいでいました。不人気の米国大統領は支持率回復のために軍事行動に打って出るというのが常です。トランプはそこでずっと、まずは北朝鮮への軍事行動を仄めかしてきました。

ところが北朝鮮への武力行使はソウルと東京がミサイルの標的になる。難民は押し寄せ韓国のGDPはゼロになる。クリントン政権の1993年から検討されている攻撃計画はリスクが多くて実行不能というのが、この24年間変わらぬ結論です。だから北への強硬手段は、実はブラフでしかない心理戦なのです。

しかしそこに降って湧いたようにシリアの化学兵器使用疑惑が起きたのでした。おそらくトランプはこれで「物怪の幸い」とばかりにシリア叩きをひらめいたのでしょう。シリアはすでに紛争国で、ミサイルを射ち込んでも北朝鮮のようなドバッチリは少ない。おまけに米中首脳会談で中国による「北への圧力」の圧力にもなる。ひいてはシリアの向こうにいるロシア・プーチンに対しても、やるべき時にはやるという自分の毅然さを国内に示すことができて、それはロシアゲートの目くらましにもなるだろう。さらには「化学兵器」「赤ん坊殺し」というキーワードは民主党も反対できない絶対的な不正義だから国内の支持も多いはずだ。ヒラリーでさえニュースを受けてシリア攻撃を要求したのだから……と。

それが今回のトマホーク攻撃でした。結果、攻撃を支持する国民はCBSの調査で57%と過半数。政権支持率も微増したようです。

もう一つ、見逃せない変化があります。トマホーク攻撃までの3日間で、トランプ政権内で重大な人事の変更がありました。白人至上主義者でフェイクニュースでの情報操作も厭わぬスティーヴ・バノンがNSCから外れたという5日付けのニュースです(なんと、私は前回の2月のブログエントリーで、次に辞めるのはスパイサーかケリーアンかバノンかって呟いてるんですな、いや我ながら慧眼慧眼)。そこに本来のメンツであったはずの統合参謀本部議長のダンフォードと国家情報長官のコーツが加わることになりました。これを主導したのがフリンの後任に2月に安保担当補佐官となったマクマスター陸軍中将です。トランプに示した後任就任の条件がまさにこのNSC人事を主導することでしたから。

これはイスラム圏からの入国禁止やオバマケアの撤廃という選挙公約を画策したバノンや、反PC(政治的正しさ)路線の若きスピーチライター、スティーヴ・ミラー補佐官らの白人至上主義かつ反グローバリズムかつ破壊主義的ハチャメチャ一派がいま、トランプの娘イヴァンカとその夫ジャレッド・クシュナー、さらにその2人とつながるマクマスター、ジェイムズ・マティス国防長官、ダンフォードらの軍人閣僚に政権運営の主導権を奪われつつあるということです(実はその奥にもう一つ、国務長官のティラーソンや商務長官のウリルバー・ロス、財務長官のムニューチン、国家経済会議議長のゲーリー・コーンといった産業・金融界人脈が控えているのですが)。

さて、シリア攻撃を終えて現在、トランプは朝鮮半島周辺にカール・ビンソン、ロナルド・レーガンという空母2隻を展開させるなど、いまにも北朝鮮を攻撃するようなシフトを敷き始めました。

軍人というのは実戦の厳しさを知るので実は戦争を嫌います。北への攻撃など頭がおかしくなければできない、というのが24年変わらぬ結論であるということは先に述べました。おまけに北の軍事施設はこの間に地下に潜って攻撃困難となり、瞬時の無力化はまずもって不可能です。つまりアメリカによる平壌への先制攻撃は、次にソウルと東京にミサイルが飛んでくるという展開になります。東京ではそのとき国会、霞が関周辺で42万人が犠牲になります。

だからこそ戦争は、より無理になっているという状況は変わらないのです。

ただしそこでこれまでと変わったことが2つだけあります。それがトランプと金正恩という、2人の予測不能な指導者の登場です。お互いに頭がおかしいと思っているであろうその相手の出方を、お互いが読み間違える恐れはなきにしもあらず。トランプ政権内の軍人閣僚たちに期待するのは、そんな時の正気の状況分析と抑制力なのです。

February 15, 2017

対米追従外交

日米首脳会談に関して官邸や自民党は「満額回答」と大喜びです。安倍首相も帰国後のテレビ出演でトランプがゴルフで失敗すると「悔しがる、悔しがる」とまるでキュートなエピソードでもあるかのように嬉々として紹介していました。でも、これ、アメリカ男性にはよくある行動パタンなんですよね。「少年っぽくてキュートでしょ」と思わせたいというところまで含んだ……。

「満額」とされる日米の共同声明は日本政府がギリギリまで文言を練ってアメリカ側に提起したものでした。安保条約による尖閣防衛などに関してはすでにマティス国防長官の来日時に言質を取っていたものの、外交というものはとにかく「文書」です。文字に記録しなければ覚束ない。

対するトランプ政権はアジア外交の屋台骨もまだ定まっていませんでした。日本の専門家もいません。そこに日本の官邸と外務省が攻め込み、まんまと自分たちの欲しかったものの文書化に成功したわけです。

でも、その共同声明の中にひとつ気になる文言があります。

「核及び通常戦力の双方によるあらゆる種類の軍事力を使った日本の防衛に対する米国のコミットメントは揺るぎない」

日本政府は米国の核抑止力に依存していることは認めています。しかしここにある「核を使って」とまで踏み込んだ発言を、これまで日本はしていたでしょうか? 「抑止力」とは核を実際には使わずに相手の攻撃を防ぐ効果を上げる力のことです。でも、その「核」を「使う」と書いた。これは大きな転換ではないのでしょうか? どの日本メディアもその点について書いていないということは、私のこの認識が違っているのかもしれませんが。

いずれにしてもアベ=トランプの相性は良いようで、産経新聞によると安倍首相は「あなたはニューヨーク・タイムズに徹底的にたたかれた。私もNYタイムズと提携している朝日新聞に徹底的にたたかれた。だが、私は勝った…」と言って、「俺も勝った!」と応じたトランプの歓心を得たとか得ないとか。

ただですね、報道メディアを攻撃するのはヒトラーの手法です。歴史的には褒められたもんじゃ全くないのですよ。

さて、マール・ア・ラーゴでの2日目のテラス夕食会で「北朝鮮ミサイル発射」の一報がホワイトハウスからトランプのもとに飛び込んできて、前菜のレタスサラダ、ブルーチーズドレッシング和えを食そうとした時にテーブルは慌ただしく緊急安保会議の場と化したんだそうです(CNNの報道)。その時の生なましい写真が会食者のフェイスブックにアップされて、一体こういう時の極秘情報管理はどうなんているんだと大問題になっています。安全保障上の「危機」情報がどうやって最高司令官(大統領)に届くのか、それがどう処理されるのか、というプロトコルは最高の国家機密です。つまりはアジア外交どころか絶対にスキがあってはいけない安保関連ですら、トランプ政権はスカスカであることを端なくも明らかにしてしまったわけです。大丈夫か、アメリカ、の世界です。

そこには血相を変えたスティーブ・バノン首席戦略官とマイケル・フリン安保担当大統領顧問も写り込んでいました。そしてそれから2日も経たないうちにそのフリンが辞任するというニュースも飛び込むハメと相成りました。

フリンはそもそもオバマ政権の時に機密情報を自分の判断で口外したり独断的で思い込みの激しい組織運営のために国防情報局(DIA)局長をクビになった人物です。当時のフリンを has only a loose connection to sanity(正気とゆるくしか繋がっていない)と評したメディアがあったのですが、事実と異なる情報を頻繁に主張したり、確固たる情報を思い込みで否定することが多く、そういうあやふやな情報は職員からは「フリン・ファクツ Flynn Facts」と呼ばれていました。まさに今の「オルタナティブ・ファクツ(もう一つ別の事実)」の原型です。

そんなフリンが昨年12月、オバマ大統領によるロシアの選挙介入に対する制裁があった際に、その解除についていち早く駐米ロシア大使と電話で5回も話し合っていたというのが今回の辞任の「容疑」です。そもそも彼は「宗教ではなく政治思想だ」と主張するイスラム教殲滅のためにロシアと手を組むべしという考えを持っていた人です。そのためにオバマにクビになってからはロシア政府が出資するモスクワの放送局「ロシア・トゥデイ」で解説役を引き受けたりもしていました。ロシアとはそもそも縁が深い。

今回の辞任は民間人(当時)が論議のある国の政府と交渉して、政府本来の外交・政策を妨害してはいけないというローガン法という決まりがあって、それに違反していると同時に、政策に影響を与えるような偽情報を副大統領ペンスに与えていた(ペンスには当初「制裁解除の交渉はしていない」と報告したそうですが、その後にその話は「交渉したかどうか憶えていない」と変わり、ならばそんな記憶力のない人物に安全保障担当は任せられないという話にもなりました。要は、法律違反、利敵行為、情報工作、職務不適格)という話です。まあしかし、それもフリンのそんな電話会議のことをペンスが承知の上だったなら副大統領までローガン法違反の”共犯”ということになりますから、それはそう言わざるを得ないのかもしれませんし。

つまり疑惑は辞任では収まらないということです。疑惑はさらに(1)こんな重要案件でフリンが自分一人の判断でロシア大使と会話したのか(2)その交渉情報は本当にトランプやペンスらに伝わっていなかったのか(3)ロシアとは他に一体何を話し合っていたのか、と拡大します。おまけにトランプ本人の例の「ゴールデンシャワー」問題もありますし。

実はトランプ陣営でロシア絡みで辞任したのは選挙期間中も含めこれでポール・マナフォート、カーター・ペイジに次いで3人目です。ここでまた浮かび上がるのがトランプ政権とロシアとの深い関係。だってトランプ自身も昨年7月の時点ですでにクリミア事案によるロシアへの制裁解除を口にしていたのですよ。この政権がロシアゲートで潰れないという保証はだんだん薄く、なくなってきました。

ところでそんな懸念はどこ吹く風、ハグとゴルフでウキウキのアベ首相は3月に訪独してメルケルさんに「トランプ大統領の考えを伝えたい」とメッセンジャー役を買って出る前のめりぶりです。トランプ政権の誕生で戦後日本の国際的な位置付けや対米意識により独立的な変化が訪れるのではないかと期待した向きもありますが、自民党政権によるアメリカ・ファーストの追従外交には、今のところまったく変化はないようです。

ところでこの「追従」って、世界的には「ついじゅう」と「ついしょう」の両方で捉えられています。就任1カ月もたたないうちにメキシコ大統領と喧嘩はする、オーストラリア首相とは電話会談を途中で打ち切る、英国では訪英したって議会演説や女王表敬訪問などとんでもないと総スカンばかりか英国史上最大の抗議デモまで起きるんじゃないかと言われている次第。こうして西側諸国から四面楚歌真っ最中のトランプ大統領が、アベ首相をキスでもしそうなくらいにハグし歓待したのも、そういう状況を考えると実に頷けるわけであります。

さあトランプ政権、次は誰が辞めさせられるのか? ショーン・スパイサーか、ケリーアン・コンウェイか、はたまたスティーヴ・バノンか──この3人が辞めてくれればトランプ政権もややまともになるとは思うのですが、しかしその時はトランプ政権である必要がなくなる時でもあります。アメリカは今まさに「ユー・アー・ファイアード」のリアリティ・ドラマを地で行っているような状況です。

January 25, 2017

今度はオルトファクト?

「オルト・ライト Alt-Right」だとか「脱真実 Post-Truth」だとかやたらと珍妙な政治用語に今度は「オルト・ファクト Alt-Fact」が加わりました。オルタナティヴ、つまり「そうじゃない、別の事実」ということでしょうか。

今回の出典はトランプ大統領就任式の人出についてのスパイサー新報道官の発言がきっかけです。オバマさんの最初の就任式(09年)の180万人に比して圧倒的に少ない「25万人ほど」とされたことに対し、この新報道官、「メディアがわざと過少な数字を報じている」「これは過去最大の就任式の人出だった、ピリオド」と、はっきり言ってキレ気味発言。

しかし空撮の写真を比較しても明らかなように(というか、オルトライトの連中はこの空撮写真自体をトリミングだとか角度が違うとかすり替えだとか加工だとか言ってるわけですが)、この過少報道内容は「事実」ではない。それを指摘されて、今度は同僚のケリーアン・コンウェイ新大統領顧問が「あなた方は虚偽だと言うが、スパイサーは別の事実 Alternative Fact を示したわけだ」とかばったのです。

それにしても「別の事実」って何だよ、それ?

スパイサー報道官の本音は「聴衆の数の話だけではない。トランプ大統領の信用性や大統領が示す運動を傷つけようという試みが常にある。非常にいら立たしいし、やる気をそがれる」ということらしいですが、こういう子供じみた対応はトランプ政権の「政権というものへの不慣れ」から生じる混乱です。

「政権」を起動させようとしているのかしていないのか、まるでいまもまだ選挙戦期間中ででもあるかのように全てを「勝ち負け」で考えるクセは続いており、相手の反応ばかりを追ってそれに対抗しようとすることだけが至上命題であるかのような浮ついた言動が目立ちます。就任式の人出のことなどどうでもいいことなのに、大統領自身まで「150万人はいた」と嘯くほど。そればかりかもう2ヶ月半も前に済んだ大統領選で、つい昨日の話です、改めて不法移民が300万から500万人投票したせいで総得票数でヒラリーに負けたとまた繰り返しているのです。

ロシアが握っているとされる例の「不名誉な情報」に関しては「裏も取れない情報をリークした」メディアを「ゴミ溜め」呼ばわりしたのに、「150万人」だとか「300万から500万人」だとかいう裏の取れない数字を発する自分の口は「ゴミ溜め」なんぞではなく、これはきっと「別の事実」製造器なのでしょう。オルトファクトとは、客観的とされる事実ではなく、自分に都合の良い解釈に基づく「事実」ということなのです。

本当にそんなことはもうどうでもいいのです。政権が発足してもう6日が経とうというのに閣僚はまだ3人しか議会承認されていません(しかも4人目に承認されそうなのは利益相反が最も危ういエクソンモービルのレックス・ティラーソンです)。オバマ時代もブッシュ時代も就任式時点で7人の長官が承認されていたのにです。

そのせいで各省庁とも引き継ぎがうまく行っておらず、国務省、国防総省、国家安全保障省といった喫緊の国際情勢を扱う省庁を中心にオバマ政権の次官・局長級の50人以上に暫定的な留任を依頼している状態。一方で在外米国大使は「新政権の顔」とばかりに全員を就任式時点で解任し、しかも新大使を決めきれずに大使不在状態が続いているというチグハグさ。

にもかかわらず簡単な手続きだけでどうとでもできる「大統領令」は就任直後から多発気味。オバマケア、TPP、そんな大問題をサイン1つで決めてしまってよいものなんでしょうか? だいたい、英国首相やメキシコ大統領、さらには安倍さんまでが続々と会談を望んで殺到するというのに、対応できる担当者さえまだわからないのです。そのくせホワイトハウスのウェブサイトからは、オバマ政権で培われてきたLGBTQの人権問題や気候変動などの環境問題に関する記述などが一斉に削除されました。

ことほど左様に政権交代を印象付ける意匠は派手やかに尽くされていますが、その中身のスカスカさは就任式の人出どころではありません。大丈夫なんでしょうか、アメリカ?

January 15, 2017

不名誉な情報

トランプ記者会見は日本ではとても奇妙な報道のされ方をしました。トランプにとって「不名誉な情報」のニュースが日本ではほとんど報道されないままだったので、彼と記者たちがなぜあそこまでヒートアップしているのかがまるでわからなかったのです。

で、彼の興奮は例によっていつもと同じメディア攻撃として報じられ、速報では「海外移転企業に高関税」とか「雇用創出に努力」とかまるで的外れな引用ばかり。NHKに至っては「(トランプは)記者たちの質問に丁寧に答えていた」と、一体どこ見てるんだという解説でした。

日本のメディアのこの頓珍漢は、米国では報じられていた「モスクワのリッツ・カールトンでの売春婦相手の破廉恥な性行為」が事実かどうか、裏が取れなかったことに起因しています。

日本のTVってそれほど「裏取り」に熱心だったでしょうか。例えば最近の芸能人らの麻薬疑惑。逮捕されれば即有罪のように断罪口調で飛ばし報道するのに、結果「検尿のおしっこがお茶だった」となると急に手のひら返しで「さん付け」報道。つまりはお上のお墨付き(逮捕)があれば裏は取れたと同じ、お上がウンと言わねば報じもしないというへなちょこでは、権力監視のための調査報道など、いくら現場の記者たちが頑張ったとしてもいつ上層部にハシゴを外されるか気が気じゃありません。

しかも今回のCNNの報道は、未確認情報を真実として報道したのではありません。CNNが報じたのはその未確認情報を米情報当局がトランプ、オバマ両氏へのロシア選挙介入のブリーフィングにおいて2枚の別添メモで知らせた、という事実です。これはトランプが指弾したような「偽ニュース」などではありません。しかもそれが大変な騒ぎになることは容易に予想できたのに日本のメディアはその事情すら報じ得なかった。

一方「バズフィード」はその「不名誉な情報」を含むロシアとの長期に渡る関係を記したリポート35枚をそのままサイトに掲載してしまいました。「米政府のトップレベルにはすでに出回っていた次期大統領に関する未確認情報を、米国民自らが判断するため」という理由です。

こちらは難しい問題です。「噂」を報じて国民をミスリードする恐れと、情報を精査して真実のみを伝えるジャーナリズムの責務と、精査できるのはジャーナリズムだけだというエリート主義の奢りと、そしてネット時代の情報ポピュリズムの矛盾と陥穽と。

いずれにしても日本のメディアは丸1日遅れで氏の「不名誉な情報」に関しても報道することになりました(裏取りは吹っ飛ばして)。その間にTVは勝手な憶測でトランプ氏を批判したり援護したりしていました。しかもCNNを排除した次の質問者の英BBCを、氏が「That's another beauty(これまた素晴らしい)」と言ったのを皮肉ではなく「ほめ言葉」として解説するという誤訳ぶり。BBCが「これまた素晴らしく」トランプ氏に批判的であることを彼らは総じて知らなかったわけです。

いや問題はそんなことではありません。問題の本質は、トランプがプーチン大統領に弱みを握られているのかどうか、米国政治がロシアに操られることになるのか、ということです。

真偽はどうあれ、今回の「暴露」でその脅迫問題云々がこの新大統領にずっと付きまとうことになります。いや、いっそのこと、「ああ、やりましたがそれが何か?」と開き直っちゃえばいいのにとさえ思います。そもそも女性器をgropingしたとかおっぱいを鷲掴みにしたとかしないとか、そんな山のような女性醜聞をモノともせずに当選したのです。「ゴールデンシャワー」など、脅しのネタなんかに全然ならないはずですからね。

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