October 12, 2017

The Storm (2017 BET Hip-Hop Awards Cypher Verse)

今年のBET(Black Entertainment Television)のヒップホップ・アワードでエメネムが登場してドナルド・トランプを激しくdisりまくるフリースタイルのラップを披露しました。

何て言ってるか、ざっと訳してみました。もちろんラップなんでちょっとわかりづらいところがあって、誤訳してるかもしれないけど、まあ、こんな感じだと思ってください。ちなみに訳してるのは意味であって、「韻」は踏んでません。あしからず。

これ、どうやったら動画をここに縁ベッドできるんだっけ?
思い出したらトライしてみますが、とりあえず今は文字だけで。


***
[Intro]
It's the calm before the storm right here
嵐の前の静けさってこのことだな

Wait, how was I gonna start this off?
あれ、どう始めるんだっけ?

I forgot… oh yeah
忘れた、ああ、そっか

[Verse]
That's an awfully hot coffee pot
ひどく熱いコーヒーポットがあって

Should I drop it on Donald Trump? Probably not
ドナルド・トランプにぶっかけるべきか? いや違うな

But that's all I got 'til I come up with a solid plot
いや、それしか思い浮かばない、マジにやること決めるまで

Got a plan and now I gotta hatch it
やることはある、いまはそれを考えてるとこ

Like a damn Apache with a tomahawk
トマホーク持った凶悪アパッチみたいに

I'ma walk inside a mosque on Ramadan
ラマダンのモスクに歩いて入るんだ

And say a prayer that every time Melania talks
そんでメラニアがなんか言うたびに俺は祈りを口にする

She gets her mou— ahh, I'ma stop
彼女はフェラ──いや、そりゃ言わねえ

But we better give Obama props
それより俺らはオバマを褒めるべき

'Cause what we got in office now's a kamikaze
だっていまホワイトハウスにいるのはカミカゼだぜ

That'll probably cause a nuclear holocaust
多分そいつが原爆ホロコーストをおっ始める

And while the drama pops
ヤバいことが持ち上がれば

And he waits for shit to quiet down he'll just gas his plane up
そのクソみたいなことが静まるまでの間、あいつは自分の飛行機満タンにして

And fly around 'til the bombing stops
空爆が終わるまで空の上でぐるぐる待ってるわけだ

Intensities heightened, tensions are rising'
激しさは増し、緊張が高まる

Trump, when it comes to givin' a shit, you're stingy as I am
トランプ、肝心な時にテメエは俺みたいにケチくさい

Except when it comes to havin' the balls to go against me, you hide 'em
俺に喧嘩売るキンタマが必要な時以外、テメエはそれを見せもしねえ

'Cause you don't got the fuckin' nuts like an empty asylum
なぜならテメエにゃもともと糞タマタマがねえからだ、もともと空っぽの避難所よ

Racism's the only thing he's fantastic for
奴の得意はレイシズムだけ

'Cause that's how he gets his fuckin' rocks off and he's orange
そうやって差別こいてセンズリこいて絶頂こいて、オレンジ色の

Yeah, sick tan
ああ、薄気味悪い日焼けクリームの赤ら顔

That's why he wants us to disband
奴にとっちゃ俺らが繋がってちゃまずいわけ

'Cause he can not withstand
だって奴がいちばん嫌いなのは

The fact we're not afraid of Trump
俺らはトランプなんか怖くないって事実

Fuck walkin' on egg shells, I came to stomp
綺麗事なんか言うか、俺は蹴り倒しに来たんだ

That's why he keeps screamin', "Drain the swamp!"
だから奴は悲鳴を上げ続ける、「沼から水を抜け!」【訳注:「ワシントン政界を浄化しろ」との選挙スローガン】

'Cause he's in quicksand
なぜなら自分が泥沼にはまってるから

It's like we take a step forwards, then backwards
まるで俺たち一歩進んで、一歩戻っての繰り返し

But this is his form of distraction
だがこれが奴流の話題そらし

Plus, he gets an enormous reaction
おまけに大受けするから調子に乗るし

When he attacks the NFL, so we focus on that, in—
NFLを攻撃したのも、俺らがそっちに目をやって

—stead of talkin' Puerto Rico or gun reform for Nevada
プエルトリコのハリケーンだとかネヴァダの銃規制だとかから目をそらさせるため

All these horrible tragedies and he's bored and would rather
こんなひどい悲劇が続いても奴は退屈でそれより

Cause a Twitter storm with the Packers
パッカーズの悪口ツイートの嵐の連投

Then says he wants to lower our taxes
で俺らの税金を下げるっていうんだが

Then who's gonna pay for his extravagant trips
じゃあ奴の贅沢三昧の旅費は誰が払うんだ

Back and forth with his fam to his golf resorts and his mansions?
家族ぐるみで自分のゴルフ場や豪邸に行ったり来たりの

Same shit that he tormented Hillary for and he slandered
さんざんヒラリーをどついたくせに同じネタを自分でやって

Then does it more
それからもっとひでえこと

From his endorsement of Bannon
バノンにお墨付き与えたり

Support for the Klansmen
KKKの奴らを支持したり

Tiki torches in hand for the soldier that's black
火をつけた人形を手に、イラクから祖国に

And comes home from Iraq
帰った黒人兵に見せつける

And is still told to go back to Africa
彼は今も言われてるわけだ、アフリカに帰れ、と

Fork and a dagger in this racist 94-year-old grandpa
この94歳のレイシストのジジイ【訳注:トランプのこと】の中には熊手と短刀

Who keeps ignorin' our past historical, deplorable factors
奴はずっと、俺らの過去の歴史、嘆かわしい出来事をなかったことにしたがってる

Now if you're a black athlete, you're a spoiled little brat for
で、もしあんたが黒人アスリートなら甘やかされた糞ガキ野郎ってことになる

Tryna use your platform, or your stature
自分の地位や名声を利用して

To try to give those a voice who don't have one
声なき連中の声を届かせようとしているってことで「糞ガキ」だ

He says, "You're spittin' in the face of vets who fought for us, you bastards!"
奴は言う、「我々のために戦った軍人たちの顔に唾を吐きつけるのか、このロクデナシが!」

Unless you're a POW who's tortured and battered
拷問されギタギタにされた戦争捕虜でもない限りは

'Cause to him you're zeros, 'cause he don't like his war heroes captured
なぜなら奴にとってはあんたはゼロだから 奴にとっての戦争のヒーローは捕まっちゃいけないものだから

That's not disrespectin' the military
あれは軍を馬鹿にしてるってことじゃねえ

Fuck that, this is for Colin, ball up a fist!
何言ってんだ、コリン(キャパニック)のために拳を握れ! 【訳注:黒人虐待に抗議してNFL試合での国歌斉唱で起立せず、契約保留になっているクオーターバック選手】

And keep that shit balled like Donald the bitch!
それを握ったままにしてろ、あばずれドナルドの丸める糞と同じく

"He's gonna get rid of all immigrants!"
「あいつは移民を全部根こそぎにしてくれる!」

"He's gonna build that thing up taller than this!"
「あいつはあの壁を今より高く作ってくれる!」

Well, if he does build it, I hope it's rock solid with bricks
そうかい、ならそれはレンガでガチに固めてほしいな

'Cause like him in politics, I'm usin' all of his tricks
なぜって奴が政治でやるように俺は奴のトリック全部を使って

'Cause I'm throwin' that piece of shit against the wall 'til it sticks
その丸めた糞をビタビタくっつくまでその壁に投げつけてやるから

And any fan of mine who's a supporter of his
だから俺のファンでもし奴が好きだってのがいたら

I'm drawing in the sand a line, you're either for or against
俺は砂の上に線を引く、おまえが賛成反対どっちにつくかってやつだ

And if you can't decide who you like more and you're split
それでもしどっちが好きか決められなくて

On who you should stand beside, I'll do it for you with this:
どっちの味方になるべきか股裂き状態なら、俺が代わってあんたに言ってやる

Fuck you!
死んでろ!

The rest of America, stand up!
そうじゃない方のアメリカ、立ち上がれ!

We love our military, and we love our country
俺らは俺らの軍を愛してる、俺らの国を愛してる

But we fucking hate Trump!
ただトランプはクソ大嫌いだってことよ!

October 09, 2017

ティラーソン解任?

先週、ティラーソン国務長官に関するニュースがいくつもメディアに登場しました。7月に囁かれたティラーソン辞任説に関してNBCが再調査し、彼がトランプを「モロン(低脳)」と呼んだと報じたのが端緒でした。7月のボーイスカウトの全国大会のスピーチでトランプが場違いにも「フェイク・メディア」やオバマケアをこきおろしたりワシントンの政界を「汚水場」呼ばわりしたりする政治発言を続けたので、ボーイスカウトの全米総長でもあったティラーソンが激怒して「モロン」発言につながったというわけです。ティラーソンって人は少年時代からボーイスカウトに参加してイーグルスカウトにもなったことを誇りに思っている人です。そんな場に政治を持ち込むこと、しかも自分の自慢ばかりするような政治演説をしたことが赦せなかったのでしょう。

息子の結婚式でテキサスに行っていたティラーソンはもうワシントンに戻らないと伝えます。この時はマティス国防長官や現首席補佐官のジョン・ケリーが「ここであなたが辞任するような政権混乱はどうしたってまずい」と慰留に成功しはしたのですが、さて今になってまたティラーソンが辞めるのでは、あるいは解任されるのではという観測が持ち上がっているのです。

特に4日、乱射事件のラスベガスに訪問してワシントンに戻ったトランプが自分のニュースを期待してテレビを見たら、そこではティラーソンの「モロン」発言で持ちきり。トランプは激怒し、それをなだめるためにケリーは予定の出張をキャンセルして対処したとか。しかしティラーソンはその後の"釈明"の記者会見でも大統領を「スマートな(頭の良い)人」と言っただけで「モロン発言」自体は否定はしませんでした。ホワイトハウス内の情報源によれば、2人の間はもう修復不可能だというのです。

報道はそれにとどまりません。ニューヨーカー誌はティラーソンの長文の人物伝を掲載。これまでの輝かしい経歴からすれば彼が「今やキレる寸前」でもおかしくないと思わせる感じの評伝でした。さらにはティラーソンとマティス、そして財務長官のムニュチンが3人で「suicide pact(スーサイド・パクト)」を結んでいるという報道もありました。3人の中で誰か1人でも解任されたらみんな揃って辞任するという「心中の約束」のことです。6日にはAXIOSというニュース・サイトで、トランプがティラーソンの後任に福音派の共和党右派政治家であるポンペオCIA長官を当てようとしているという報道がありました。

ちなみにポンペオは全米ライフル協会の終身(生涯)会員で銃規制に反対、オバマ・ケアにも強く反対ですし、オバマ政権がCIAの”水責め”などの拷問(強化尋問)を禁止したことに対しても、拷問をおこなったのは「拷問者ではなく、愛国者だ」と発言するほどの反イスラムの「トランプ的」人物です。

こんなにまとまってティラーソン国務長官のことがいろんな角度で報じられるというのは、メディアがいま彼の辞任・解任に備えて伏線作り、アリバイ作りをしているという兆候にも見えます。

そうなると問題の1つは北朝鮮です。表向き「核を放棄しない限り対話はない」と強硬姿勢一枚岩だったトランプ政権ですが、その実、ティラーソンの国務省が北朝鮮側と様々なチャンネルで対話の機会を探っていることが最近明らかになっていました。それに対してトランプが7日、「25年間の対話や取引は無に帰した。アメリカの交渉は馬鹿にされている」「残念だが、これをどうにかする道は1つしかない」とツイート。軍事行動を暗示して「今は嵐の前の静けさ」とも言ったのです。

私はこれまで、トランプ政権が「グッド・コップ、バッド・コップ(仏の刑事、鬼の刑事)」を演じ分けて北朝鮮をどうにか交渉の席につかせようとしているのではないかと、希望的に願ってきました。けれどこうしてティラーソンとトランプの不仲が表面化してみると、本当にカッカして北を潰そうと言うトランプを国務長官、国防長官、首席補佐官がマジになだめ抑えている、という構図が本当だったかもしれないと思い始めています。上院外交委員長でもある共和党コーカー議員がトランプを激しく批判しているのも、そんなティラーソンの国務省の姿勢と符合しています。

彼はNYタイムズの電話インタビューに「ホワイトハウスが今毎日毎日トランプを抑え込むのに苦労していることを知っている」などと語ったのですが、そもそも攻撃したのはトランプの方が先でした。コーカーはティラーソンに関して「国務長官はとてつもなく腹立たしい立場に立たされている」「国務長官は得るべき支援を得られていない」と擁護したのです。上院外交委員長として国務長官(外務大臣)を思いやるのは当然の話ですが、例によってトランプはコーカーへのツイート攻撃を開始したのです。まるで坊主憎けりゃ袈裟まで、みたいな攻撃性です。

ティラーソンが解任されたら北への軍事攻撃の恐れが一気に現実味を帯びます。北は自滅につながる先制攻撃を絶対に仕掛けません。けれどトランプは単に自分のやり方じゃないといって予防的な先制攻撃を仕掛けるかもしれない。そのとき日本はどうするのか? いや、その前に日本は何もしないのか?

22日の総選挙はそんな「兆し」だけでも大きく安倍自民党に有利に動くかもしれません。まさかそれを見越して安倍は「対話は何も役に立たない」とトランプをけしかけていたわけじゃないでしょうが。

September 05, 2017

横綱の折伏

北海道南端を超えてのミサイル発射、1年ぶりの地下核実験、立て続けに示威行為を繰り返す北朝鮮は9日の建国記念日にも今度は射程のうんと長いICBM(大陸間弾道ミサイル)の発射実験に踏み切ると言われています。その度に米韓日では新たな脅威が増大したと大騒ぎになるのですが、何度も言うようにこれは「新たな」脅威ではなく、ずっと以前から織り込み済みの北側の既定の挑発路線です。

織り込んでいなかったのはその早さです。本当はもっと時間がかかるはずだと思っていたICBMへの小型核弾頭の搭載が、ともすると直近に迫ってきているかもしれない。そしてそれはアメリカ政府の「レッドライン(踏み越えてはならない一線)」と言われてきたものなのです。

なのでトランプ政権の対北朝鮮の空気がやや変わってきました。朝鮮半島では禁じ手である武力行使に踏み切るかもしれないという嫌な感じが漂っています。何せ「核保有」は体制の必要条件であり、制裁があろうがなかろうが絶対に手放さないと決めている金正恩と、それに屈する形での「核保有」は核保有の連鎖を生むために絶対に認められないアメリカとの間で、解決策はどこにも見当たらないという感じになっているからです。この手詰まり感、「後手後手」感……。

北朝鮮に対しては米国は「圧力」「対話」「軍事行動」という3つの選択肢があると言われています。軍事行動は23年前の第1次北朝鮮核危機に際してクリントン政権が「韓国側の死者が100万人、米軍が10万人」という国防長官の報告を受けて断念、その後もブッシュ政権が02年に先制打撃を検討しましたが実行に至りませんでした。二の足を踏んだ理由である米国同盟側の損害の甚大さ予測は、北の軍事力の増強と比例して現在はさらに拡大し、三の足も四の足も踏むような状況です。

そこで米国は国連の場で北への経済制裁を呼びかけ、中露を巻き込んで「圧力」を強めるやり方に出ているのですが、それが功を奏するには時間がかかる。その間に北は核ミサイル開発を進める算段ですし、実際にこれまでもそうしてきました。

では「対話」はどうか?

米国にとってはこれは実は「対話」ではありません。これは「折伏(しゃくぶく)」なのです。金正恩に、その路線を進めるとどう転んでも自滅になると、詰め将棋のように理路を示し、折伏させる以外の場ではありません。

ところがいまトランプ政権は、国務省の東アジア担当の国務次官補は「代理」職で、しかもロシアが専門のスーザン・ソーントンです。国家安全保障会議にはマシュー・ポッティンジャーというアジア担当上級部長がいますが、彼も中国が専門。ニューヨーク・チャンネルで北朝鮮から例の脳障害の拘束大学生オットー・ワームビア(帰国直後に死亡)を連れ戻した国務省のジョセフ・ユン北朝鮮担当特別代表はあくまで実務担当で政治判断はできない。そればかりか国務省自体が予算と人員の大幅削減を強いられ、アジア担当の数百人のポストが空席のままなのです。つまり「対話」にしろ「折伏」にしろ、その場に出ていける人間がいないわけです。トランプ政権はそもそもやる気がないのか総身に知恵が回っていないのか。

「圧力」の効果は時間がかかり、「対話=折伏」には人材がいないしそもそも態勢も整えていない。ならば残されているのは再び元に戻って、先制打撃という「軍事力行使」でしかないのでしょうか?

アメリカは本来は土俵の中央でどっかと構え、北朝鮮に対して四つに組んでやるべきなのです。相手が猫だましをしてこようが蹴たぐりをかまそうが慌てる必要はない。そうして四つに組んでやって、相手が右に動けばそちらにちょっと動いて見せても結局は倒れず、左に引いても崩れず、さらにちょいと力を加えて相手の膝を折るぐらいのことはしてみせても決して倒したり土俵の外に投げたりはしない。何故なら土俵際の砂かぶりには韓国や日本や中国がいて、下手に投げ飛ばそうものなら彼ら全部が大怪我をするからです。なので土俵真ん中で「絶対に負けることはない」という横綱相撲を取り続けるのです。相手の面子を立てて「勝つ」ことはせずとも、そのうちに相手は疲れ、持っている技は使えず、横綱の「勝ち」は誰の目にも明らかになります。そしてそこで疲れ果てている相手の耳元に諄々と「自滅はやめろ」と説くのです。

それが北の核保有を認めるでも使わせるでもなく、しかも現状維持や凍結でもない「折伏」の道です。

それしか道がない。けれどこの横綱相撲の比喩を、それに似たソリューションを、トランプ政権は思いつくでしょうか? それより先に、国務省の予算削減と裏腹に国防総省予算の増大がここに来て嫌な感じの伏線になりそうな気までしています。そしてもう1つ、そこに追い討ちをかけるような北朝鮮によるEMP(電磁パルス)攻撃の脅しです。

電磁パルス攻撃によるアメリカの軍事インフラ、経済インフラ、生活インフラの破壊が、巷間言われるほどにとんでもないものなら、アメリカがこれを機に予防的先制攻撃に出るのは火を見るよりも明らかになります。それはロバの背を折る最後の1本の藁だからです。EMP攻撃被害の精確なアセスメントが急がれることになるでしょう。

August 30, 2017

米朝の詰め将棋

早朝6時前に発射されて北海道"上空"を超えて2700km飛んだという北朝鮮のミサイルのことで、28日の日本は朝から大騒ぎでした。TVでは「そうじゃない」と沈静化を図る専門家もいたですが、司会者が妙に気色ばんで番組を進行させるので、急ごしらえの台本がやはり危機を煽る安易な方向付けだったのでしょう。まあ、それ以外にどう番組を作れというんだ、という話でもありますが。なにせ首相声明だって「我が国に北朝鮮が弾道ミサイルを発射し、我が国の上空を通過した模様」ですから。

北朝鮮は「我が国」に向けて発射したんじゃありません。それに550kmの「上空」ってのはすでに宇宙であって、スペースシャトルの浮かんでいる400kmよりもはるか上です。万が一間違って何かの部品が落ちてきたって真っ赤に燃え尽きます。しかも日本をまたいで北のミサイルが飛んだのは98年にもあって新たな脅威ですらない。政府はなぜ慌てたフリをするのでしょう。「全国瞬時」という緊急警報「Jアラート」を鳴らしても具体的には「頑丈な建物に逃げて頭抱えてかがみなさい」ですから、まるで大戦末期の竹ヤリ訓練みたいな話です。

ともあれ、今回のミサイルからは、実は脅威というよりも次のような興味深い事実をこそ読み取るべきなのです。
すなわち;

(1)北の相手はこれからもこれまでも常に第一義的にはあくまでも「アメリカ」であって韓国や日本ではない

(2)にもかかわらず今回のミサイルは攻撃すると脅していた「グアム」ではなくアサッテの方角の北海道の南部通過の方向に飛んだ

(3)飛距離の2700kmというのもグアムまでの3300kmより微妙に短い

──つまりこれらは、アメリカを脅そうにも脅しきれない金正恩の心理を表しているのです。

金正恩はいま、混乱を極めるトランプ政権のその混乱をこそ実は恐れているのだと思います。それは格好良く言えばトランプの「予測不能性」の賜物なのですが、ロシアゲートで追い詰められ支持率最低でどん詰まりの彼に起死回生の一手があるとすればそれは北への軍事行動です。さらに、おおっぴらな戦争とともに「斬首作戦」までが吹聴されている。それは恐い。
 
金正恩はそれを回避させるためにのみミサイルと核の開発に邁進してきました。ところがそれが父・金正日の時代にはなかった反応を誘引してしまった。こちらが強く出れば向こうは退く、という期待は誤りです。強い作用は強い反作用を生む。これは物理の法則です。金正恩は強い兵器を所有して、それに見合う強い反発を受けてしまったのです。そんな自明にいまさらたじろいだところで遅いのですが。

そこに先日の国連の新たな制裁決議が追い打ちをかけました。中国やロシアも反対しなかったことで、さらには中国が、北による対米先制攻撃で米国の反撃を受けた場合には中朝同盟の義務を行使(すなわち加勢)しないとも示唆したことで、北は確実に追い詰められました。そんな時に自分から実際に攻撃することは蛮勇以外の何物でもありません。

ではどうなるのか? だからと言って北は核を手放すことは絶対にしません。そして米中も、北の核保有を認めることはメンツの点からいっても地政学的にいっても絶対にない。

ではどうするか? このチキンレースをあくまで論理の上で、詰め将棋のように推し進めることです。米韓はミサイル防衛網をより進化させ、北のミサイルの脅威を限定的なものに封じ込めます。すると米韓の反撃がより現実味を帯びることになる。もとより北朝鮮には第二段攻撃の能力などないのですから、北の戦略はそこで出口を失う自殺行為になります。

要は金正恩に、彼自身が生き延びる道はこのチキンレースを止めること以外にないといかに折伏するかなのです。さもなくば米中暗黙の合意の上での「斬首作戦」の道を探るしかなくなる──もちろんそれはすでに、並行して秘密裏に進んでいるのでしょうが。

August 23, 2017

バノンの退場

スティーブ・バノンの「首席戦略官」という職はトランプ大統領が彼のために特設したものです。この「特別職」はこれまでのホワイトハウスの序列とは別のところにいて、それゆえ彼が自由に動き回れる「影の大統領」とも言われたのでもあるのですが、実際のホワイトハウスの実務トップはそれとは別に「首席補佐官(チーフ・オブ・スタッフ)」という職位が用意されています。

これはこないだ、7月末まで共和党全国委員のプリーバスが務めていました。けれどオバマケア撤廃などでもさっぱり議会共和党の協力を得る繋ぎ役を果たしてくれずにクビになりました。

その後にそこに就いたのが国土安全保障省長官だった元海兵隊大将ジョン・ケリーです。その彼が就任直後からホワイトハウスの指揮系統の序列を本来の形に戻しました。つまり大統領への情報はすべて自分に集約し、これまで傍若無人に大統領と繋がっていた首席戦略官を、つまりバノンを特権的な優先序列から排除したのです。

その予兆はしかし、実は4月7日のシリア攻撃の直前にありました。攻撃2日前の5日、バノンは国家安全保障会議のメンバーから外されたのです。彼は「アメリカ・ファースト」の主唱者です。アメリカに関係ない海外のことには手を触れず、もっぱら国内問題に集中しようという主義。ですからシリアへのミサイル攻撃には断固反対。ところがトランプはそこでバノンの意見を聞き入れず、娘婿のクシュナー及び、やはり2月にロシアゲートで辞めたあのマイケル・フリンの後釜マクマスター安保担当補佐官(こちらは陸軍中将です)の助言に従ってトマホークを打ち込んだ。バノンはこのあたりからうるさがられていたのです。

ところで表向き強気で吠えまくるトランプは、誰がどう見ても1月20日の就任以来、イスラム圏からの入国制限から始まりメキシコの壁、オバマケア、税制改革と、公約政策のほとんどが失敗続きです。できたのは大統領令による独断専行ばかりで、それも裁判所に差し止められたりしてきました。パリ協定からの離脱宣言だってこの先議会でどうなるかわかりません。「誰がどう見ても」というのは、大統領自身が一番よく知っているはずです。おまけに例のロシアゲートの捜査の網がどんどん狭まってきている。トランプ支持者はすでに30%台前半しかいません。内心、焦っていなければただの鈍感。しかもその失敗はほとんどがバノンの主導してきた政策でした。

そこに降って湧いたのが12日のシャーロッツビルの衝突です。これは単に「ロバート・E・リー将軍像」の撤去反対派と賛成派の衝突ではありません。これは白人至上主義者やネオナチやオルトライトなど、元を質せば「ナチス=絶対悪」の流れから派生した有象無象の極右思想と、それに対抗しようとした「アメリカの価値観」との衝突でした。

なのでトランプが「両派ともにいい人々も悪い連中もいた」と言ったのは、「え、そこ?」というまったく枝葉末節な喧嘩両成敗論でした。彼が言ったように反白人至上主義者側にも先鋭的な暴力はあったでしょう。しかしそれをわざわざそこで強調するのは、この問題の本質からわざと目を逸らさせる、「アメリカの価値」への裏切り行為に他ならなかったのです。タブーを衝いて自分の型破りさを披瀝しつつ自分の数少ない支持者たちを喜ばせたがったのかもしれませんが、それは彼の大統領としての不適格性を露わにしてしまう以外何の意味もなかった。ロサンゼルス・タイムズは「Enough is Enough(もうたくさんだ)!」という社説でトランプを攻撃し、共和党議員からもトランプ擁護論は皆無です。そして、彼にそう対応しろと強く勧めたのもバノンだったのです。

NYタイムズによれば7月末にケリーとの間で8月14日のバノンの名誉ある退任が決まっていたそうです。つまりは先に書いた、ホワイトハウスの序列を元に戻した時点で既に退任も織り込み済みだったということです。ところがそこにシャーロッツビルの混乱が重なった。さらに追い討ちをかけるように北朝鮮への軍事行動の可能性を一蹴するバノン発言が雑誌に掲載されたのでした。これがロバの背を折る最後の藁の一本だったのか、それとも単なる蛇足だったのか。

リベラル系雑誌「 アメリカン・プロスペクト」に載ったバノン発言は「開戦30分でソウルの1000万人が北の通常兵器だけで死亡するという軍事的選択肢など、論外だ、あり得ない」というものでした。トランプの功績があるとすれば唯一その得意の脅迫口調で金正恩をビビらせているというものなのですが、せっかく北が一歩ひきさがった時にそういう戦略の舞台裏をバラしてしまうのは(とはいえ、バノンの言っていたことはみんなが言っている至極まっとうな普通の対応なのですが)、今週始まった米韓合同軍事演習の意味をも変えてしまう重大な「閣内不一致」。B-1B爆撃機を投入するとか、先制攻撃をも想定した、というブラフも本当にブラフだったってバラしちゃうことですから、トランプが激怒したのは言うまでもないでしょう。

かくしてバノンは「名誉なく」退任しました。トランプ政権はその弱体さゆえにいまケリー首席補佐官、マクマスター安保担当補佐官、マティス国防長官(元海兵隊大将)といった軍人たちに支えられる軍事政権になりつつあります。弱い指導者が軍に頼るというのは歴史が教えてくれています。それが国防予算の9%=500億ドルの増額と国務省予算の3割削減=人員2300人削減という数字に予兆的に表れていたとも言えます。

昨日、アメリカのアフガニスタン政策が刷新されました。権力の空白を避けるために再び米兵を増派する方向です。イラクでのISISの教訓を経て、オバマの立案した撤退戦略の見直しなのでしょうが、人気最低の大統領がこれまた軍事行動で国民の支持を得ようとするというのも歴史の事実です。そうすると、せっかく「ブラフ」で沈静化している北朝鮮問題も、このあと何が起きるかまたまたわからなくなってきたのでしょうか。

機能不全のホワイトハウス、「最悪の1週間」はいまも常に更新されています。

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