« February 2016 | Main | April 2016 »

March 22, 2016

サフランから広がる世界

世界で最も高価なスパイスであるサフランは小売りだと1gで15ドルから40ドルもします。高いものだと金やプラチナにも匹敵する値段です。そのサフランが、タリバンとの戦いで荒廃したアフガニスタンで大量に栽培されていたことを知る人はあまりいません。そこに気づいたISAF(国際治安支援部隊)の若い米兵たちが退役後の今、現地のサフラン農家を組織・支援し米国のトップ・レストランなどへの販路を展開する会社を設立して注目を浴びています。現地農家はこれで収入が3倍になり女性の雇用も開拓、米側も高品質純正サフランを安価で入手できる、誰にとってもウィンウィンのビジネスです。

退役米兵が設立したのは「ルミ・スパイス(RUMI SPICE)」(本社・シカゴ)。アフガニスタン北西部ヘラート地区の農家に接触し、これまでに35軒と契約を結びました。CEOのキムバリー・ジュンさん(29)は6年前にアフガニスタンで治安部隊として地域再建と女性の社会進出の仕事に関わりました。そこには同僚兵で共同創設者となるエミリー・ミラーさん(29)=現最高広報責任者=もいて、退役後、ともにハーバード・ビジネススクールに入ってMBAを取得しました。そんな頃に、もう一人の共同創設者となるキース・アラニズさん(33)=現社長=からスカイプがかかってきたのだそうです。

当時アラニズさんはまだアフガニスタンで米陸軍の兵務に就いていて、彼女たちと頻繁に連絡を取り合っていました。ジュンさんは「アフガニスタン支援でやり残してきたことがたくさんあると気にかかっていた」と話します。アフガニスタンのサフランを米国市場につなぐというアイディアはその中で生まれました。それが会社という形になったのが、2年前、2014年の3月でした。

ジュンさんはそれから何度もアフガニスタンへ飛んで現地の農家と交渉する一方、サフラン畑の水事情を改善する専門家も雇います。さらに手作業で雌シベだけを選り分けねばならないサフランのために、これまでに現地の75人もの女性雇用を新たに創り出しました。「女性の社会進出と地位向上も私たちの目標の一つなのです」とミラーさんも言います。

ところでアフガニスタンの社会問題の1つはタリバンの資金源たるアヘンの密造です。原料となるケシ栽培根絶のために米国政府はこれまで9000億円も支援拠出してきましたが、タリバンは毎年200億円をも密売アヘンから得ています。「ルミ・スパイス」の目的はこのケシ栽培を、より高価なサフラン(クロッカスの一種)に置き換えることでもあります。

発足から2年、このユニークな事業がニューヨークのトップ・シェフたちの目に止まらないはずがありません。これまでに「ブーレイ」「ル・ベルナルダン」「ダニエル」「グラマシー・タヴァーン」などザガット、ミシュランの錚々たるトップ組がこぞって仕入先を「ルミ」に変更。その品質はシェフ、デヴィッド・ブーレイ氏も「色も最高、香りも最高。アフガン農家の誇りを感じる」と太鼓判を押しています。同社サイト(http://www.rumispice.com/)もサフランとオレンジのスープからサフラン・マキアートやサフラン・ウォッカ・カクテルまで、ユニークなレシピを紹介してネット販売顧客は全米4万世帯に及ぶとか。またホールフーズなどの大手スーパーなどの一般小売販路も拡大中です。

アメリカは世界中でいろんな横暴なこともやりますが、それとは別に、各々の善意をビジネスの形で実現しようというアメリカ人の個人的なアイデアと実行力にはいつも感嘆せざるを得ません。