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おけいすし

07-02-20

おけいすし
☆☆☆
東京都渋谷区神宮前2-3-26
03−3405−4610

たしか7年ほど前でしょうか、さいしょにここを訪れたのは。で、以来、日本に帰ってきて余裕のあるときはここでじっくりと飲み食いしています。でも、これまで都合6回ほどしか来ていないですけど。はは。

ここはね、「鮨屋さん」という枠ではないのかもしれません。酢飯と鮨種とで構成される総合的なコースメニューを供するレストラン。コンセプトとしてはフレンチなんでしょうね。わたしは基本的にそういうのが好きなんだわ。

こんにちは、といって予約の名前を告げて席に着くでしょ、すると2掬いほどの「酢飯のおじや」が大きな器にちょこっと出されます。そして「蛤の冷たいスープ」もおちょこで出てくる。これはね、お酒を飲むひとにまずは少し胃になにか入れてから、というサジェスチョンなのね。やさしいでしょ? で、ビールを頼むとあっさりした「湯通しキャベツと玉葱のサラダ仕立て」みたいな酢の物が小皿で出てきます。あ、「蛤汁」「キャベツのおひたし」って言葉を使えばよくある和食だなあ。でも、そういう「よくある感」じゃないのだわ。

ビールを注ぐと「ほうじ茶で煮たものすごくやわらかい蛸の足」が3cmほどのブツ切りで2切れ供されます。美味しいです。同じく「水蛸の頭と吸盤の刺身」が、長方形の皿に盛られます。身の下に練り梅が忍ばせてあります。美味しいです。

つぎにさりげなく緑の葉包みの握りが1つそっと置かれます。口に含んで、あ、これ、「桜の葉」の握りだ、と頭の中に春風が通り過ぎます。あれですね、桜餅の塩漬けの桜の葉。餅を包めるんだもの、酢飯を包めないはずがない。でもその発想はなかなか気づかないうれしいものじゃないですか。四六時中鮨のことを考えているプロに、代わっていろいろなものを発見してもらって、わたしたちはその上澄みだけを頂く。そしてそれにお金を払うわけです。代金というのはそういうことですわ。身代わり料。

お酒は冷酒で頼むと、たしかここは菊正が出てきます。ふつうの菊正です。純米ではあるかもしれないけど、酒が主役じゃないから、あまり個性が強い吟醸とか大吟醸ではない。で、刺身から出てきます。ってか、メニューがないのだと思う。いつも座ると自動的にいろんなものが出てくるから。お腹が減ってると言えば早めに鮨にスイッチする感じ。今日は鮨で行って、ともいえそうです。でも昨晩はなあんとなく飲みモードだったので、瀬谷正二さんもそれを察知したのでしょう。そんな感じで料理が出てきます。

まずは「大トロの1辺焦し」です。カウンターから正面に常に火を入れてあるコンロがあってそこに鬼おろしみたいな魚焼き器が渡してあります。なんか、金属は宇宙ロケットの素材らしいですよ。熱を受けても変形しないんだって。で、そこに大トロのブロックの一辺をのみ、じゅっと押し付けます。すると脂が焼けて煙がブワッと立つ。その煙を浴びてトロの表面が燻される。で、それを切って刺身とする。うんめえ。そこに、またぜんぜんテクスチャーの違う「鮪の血合いの佃煮ふう」もそっと小皿で差し出されます。とてもあっさりした、甘くない味付け。長時間煮込んだ牛スジにも似た食感です。酒が進みます。さらに「鮪中落ちと山葵の握り」が続きます。1つを真ん中ですとんと包丁で分けて、わたしと連れに半分ずつ。マグロの脂に負けない山葵の味だということは、かなりの量のわさびを入れて調和させている。その塩梅、これは必然だったのだと頷かされます。

続いて昆布〆平目の刺身、そして昆布〆平目の縁側の握り。この昆布〆はぐいっとしっかり。平目は拠って飴色に近く、その食感はモッチリねっとり。醤油につける必要もなく滋味に満ちています。

イカはもちろん先日のどこかのように甲イカではありません。墨烏賊の身と耳の刺身が細切りにしてその透明な身をさらしてきます。そこに烏賊墨と海老の頭のお吸い物が、そうね50ccほど、ちょこっと。うめえ。塩加減も絶妙。さらに「薄く切った塩鯨の脂身と皮」は、これは脂の質がやはり魚と違って、癖はあるけど好きなひとは好きだろうなあ。「氷頭なます」と「焼き北寄貝」は、今回、北海道で食べなかったんでうれしかったです。

「〆鯖の刺身」「〆鯖の塩焼き腹身」と続きます。さらに酒が進んで、「うちでいちばんうまいもの」と「生ウコンの輪切り」が5、6枚、出されました。石垣島だそうです。ふうん、日本ではウコンが流行ってるんだ。そういえば泊まっているとーちゃんちでも冷蔵庫に「ウコンの力」なんてドリンクが入ってますしね。

「口直しの味の濃いトマト」は、すごい味です。やっぱり日本はトマトがすごい。ここからそろそろ腹いっぱいで、握ってもらうことにしました。

最初は「昆布〆鱚の握り」。鱚は身が弱いので、昆布で〆たわけか。あまくてたいへんよろしい。
続いて「鮪赤身の漬け」。これは近年食った赤身で最高です。この部位なんだよね、いつも、求めてるのは。どこなんでしょう。身がほろほろと崩れるようなの、口ん中で。これ、部位に関係するんだよね、たしか。でも、うますぎてそのことを訊き忘れた。とほほ。

次も絶品。表面だけさっと蒸し器で煽った「雲丹の握り」。蒸し雲丹というのはうまいのに出逢ったことがない。ですからこれは蒸し雲丹ではないのです。雲丹を箱ごと蒸し器に入れてさっと熱にくぐらしてやる、って感じの手当てを施す。すると身が締まるのねえ。それで味もうまい具合に凝縮される。ひえーって感じなのだ、うまくて。

そうそう、次の「干瓢の巻物」を食べて、わたし、干瓢はかくあるべしというのを、ここで知ったのだなあと思い出しました。ぐいっと濃いめに甘辛く煮込んで、ぐいっと山葵を利かせる。江戸っ子だねえ、って感じの気っ風の良さ(干瓢巻きが江戸っ子文化なのかは知らねども)。

そういえばここの酢飯もわたし好みなの。ってか、ひょっとしたらインプリントなのかもね、ここで最初に鮨のすごさを知ったわけだから。
酢飯は、ほら、いつもいってるように、酢がきちんと利いているわけです。塩は入らない。砂糖も酢を立たせるためだけに最小限。で、しっかり「お酢し」。基本的に酢が好きだという母親譲りの好みの問題とはいえ、鮨は酢の飯であるというそのコンセプトどおりの味なのです。好きだなあ。

最後は「焼き穴子の握り」をどろりと詰めたたれのひと垂らしで。もう、100年もののバルサミコみたいなドロりさです。いいっすねえ。
デザートは「黒砂糖の卵焼き」。もうカステラ状態。それに包丁は入れず、握り職人のしっとりした手でむぎゅっともぐ。5cmX4cmくらいの角になりますかね。そうして「大蜆のみそ汁」で終ります。

写真、撮れませんでした。こういう店ではなんとなく、写真を撮るなんて作業がはなから浅ましいものに思えてしまい……。

おけいすしは鈴木正志さんという大将が始めた店で、じつは大将は、なんかわたしなんぞにはおっかなくて、この瀬谷さんとかその下の埼玉繭夢さん(本名だよん)に握ってもらったりするくらいがいちばん楽でくつろげます(大将は隣というか続きの間である「鈴政の部屋」で握っています)。お二人ともほとんど無駄口をたたきませんが、瀬谷さんは、シャレを言うときでも真面目な顔でちらっと口の端から漏らすように言う。それが下品に落ちないカギなんでしょうね。目が、これも仕事、という感じで茶目になってから軽口を発する。素晴らしいプロです。

上記のごとく食べて、なんどもお代わりの酒をもらって、2人で今宵は39800円。食べ物が1人15000円。銀座久兵衛と比べてなんとお得感のある店。残りはお酒と税金です。じつに納得の値付けではありませんか。

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