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April 11, 2007

饗屋 Kyo ya

07-04-08
和食
饗屋(Kyo ya)
☆☆
94 E. 7th St.
New York, NY., 10009
212-982-4140

うーん、うまい。
こんなにちゃんと美味い店ができたのだ、ニューヨークに。しかも、イーストビレッジに!(7丁目のファースト・アベニューとアベニューAの間です、ってかファーストに近いけど)。食べ終わったときの感想は「こんなところに……!」でした。

素晴らしい店です。和食の店です。フュージョンではない。きちんと正しい和食の店。こういう店は潰してはいけません。まだ開店して10日くらいだと聞きます。
私たちが行ったこの日は日曜でしたが、ですんで客が少なかったのだと思いたいが、聞くとまだやはり知られていないようで、客足は鈍いと。看板出してないからかもしれないけどねー。
みなさん、ほどほどに口コミで知らせましょう。美味しいものを知っている人だけに知らせましょう。そうして適度に満杯の店に育てましょう。並ばないと入れない店にしては私たちが困ります!

前口上はそのくらいにして、なにがいいのかというともちろん出汁なんですけど、そのうえで味の塩梅です。ニューヨークの普通の和食の店はみんなお弁当屋さんの味になってしまいます。なんでもない炊き合わせや煮付けが真っ黒だったりしてがっかりします。それがここでは京料理のリズムをもってすっくと存在している。そこにあるのは同時に、押しつけがましくないほんのちょっとの気の利かせ方。

半地下の入り口を開けようとしたときに気がつきます。扉は重たい鉄製です。こんなずっしりした扉はふつうはグランメゾンのものです。そこからややUターン気味の回る動線に沿って客席部に入るとイスとテーブルがまたきちんとしています。この日はアップステアーズの三上さんと、パナソニックの会長夫人の3人の席。日本酒でしょうか、やはり、ということで手取川大吟醸を頼みました。73ドル。日本酒は高く付くのはしょうがありません。でも、この冷やし方、きれいでしょ? 効果的かどうかはべつにしても。ま、すぐ呑んじゃうんだしね。
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で、気持ちよく始まったテーブルで適当に料理を頼みました。その中から、一品目にきちんと「向付け」にあたる刺身が出てきました。鯛、ハマチ、サーモン、赤身と魚自体に珍しさはないもののきちんと揚がった場所を言ってくれます。それぞれに茗荷とかラディッシュとか紅タデ、花穂じそといった芽づま・穂づま、けんが載っていて、飾り包丁も入っています。サーブしてくれたミキさんは、山葵の隣に添えられていた、番茶で戻してきらきらと花開くようになった柏の実(バクダイカイ)を、漢字では「莫大海」当て字で「爆大開」と書くことをわざわざ紙に書いて教えてくれました。

二品目は生湯葉と雲丹の出汁合わせですが、湯葉の質もよいし実に濃厚ながら上品な味に仕上がっています。
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三品目は胡麻豆腐。これがまたアイディアですね、さいころ状に胡麻豆腐を切って、ガラスの器に入れて冷たいだしをたっぷりとひいてあるのです。で、季節の筍とオクラが散らしてあります。水貝の風情です。でも胡麻豆腐です。きれいだし、胡麻豆腐のくどさが口の中で出汁で洗われて、これがいいんだなあ。気が利いている、というのはこういうことです。
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続いて牛タンの味噌漬け。これもまたいい味してるんだ。タンの臭みがまったくないし、味噌の塩み、甘みがちょうどよい。で、真ん中のトマト、これ、日本のみたいに甘い。どこで買えるんだろ。
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次は大和芋の海苔巻き。いま、NYでは大和芋も手に入るんだねえ。
これはまあ普通だったけど、次のノレソレは酢にはカボスを使ってるのかなあ。ふつうの醸造酢の味じゃなかった。これも気が利いてる。
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私がこの日いちばんほほうと思ったのは、じつは次に頼んだ大根の田舎煮です。青梗菜と長ひじきが添えられています。そしてこの大根、めちゃくちゃ鰹節の味がするの。カツオなのかサバ節かもしれない。とにかくぐいっと味がしみこんで、それまでが上品だった分、なんだかうわ〜ってうれしくなっちゃうというかほこっとするというか、やられましたね、こりゃ。こういう序破急というかね、緩急というか、ツボというか、知ってますね、こいつぁ。
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そのほかにもね、あ、この辺で2本目の酒になったのかな、澤ノ井の木樽仕込みみたいなの。100ドルくらい。いや、酒が旨いわ、こういうのといっしょだと。で、白魚の唐揚げとか、イイダコと里芋の煮物とか、エビしんじょとお焦げの油炒めあんかけとか、ジャガイモ饅頭のキノコ餡とか、いや、いろいろ食べた食べた。

これはラムの北海道風のグリルですね。まあ、ジンギスカンだれです。漬け込んであるから肉がやわい。これはジンギスカンにうるさい北海道人の私にはやや中途半端だったかったかな。別にタレも付いてるんだけど、ちょっと甘い。もそっとスパイス、ショウガとシナモンかな、効かせてもおいしいかも。
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ほかにも、サバの味噌煮が、これがちゃんとちゃんとじつにうまかった。味醂の味がいいのかなあ。ニューヨークではどこもかしこも西京焼とかで出てくる銀ダラも、ここでは「赤酒煮」として供しています。

そう、つまりね、料理屋も頭を使わないとだめだということかね。
たとえばお茶を、こうやって客に選ばせるという楽しさもいい。これでカネが取れるんですもん。1ポット4ドルですよ。で、この青年はヤンくん。在日韓国人だそうです。だから日本語は母国語。ワインや酒にもなかなか詳しい。で、なんと、むかし我が家に同居していた信ちゃんと、かつて「酒蔵」で一緒に働いていたそうな。「信さんとマイミクシでつながってますよ」ですって。縁は異なものですなあ。
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ニューヨークでは珍しいことですが、ここは鮨を出しません。鮨を出さずにニューヨークで和食屋をやれるか。これは大命題。だから、つぶしてはいけないのです。

板長は園力(その・ちから)さんといいます。45歳だっけ? そのくらい。
で、厨房には煮方やデザート係など5人も日本人が入っていました。みんな若くて仲良さそうで、これだものしっかりしているはずです。

あーおいしかった。で、お会計は最初のビールから始めいぇこんなけ食って飲んで、最後に飯も頼んでデザートも食って、料理は1人90ドル。酒は1人60ドル。そこにチップと税金で、1人190ドルずつ払いました。
必ず再訪しましょう。
もういちど念を押しておきますが、みなさん、味の分らないヤツらにはここは教えないで、宝物にしましょうね。