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May 31, 2007

こなから

2007-05-29
居酒屋
こなから

東京・豊島区北大塚1-14-7
03-5394-2340

東京に住む旧知のアメリカ人大学教授に誘われて大塚にあるこの店まで連れてきてもらいました。駅北口からちょっと歩くだけ。大塚なんて、学生時代に「山手線一周歩け歩け深夜強行」をやったときに通り過ぎたことがあるくらいで、ふつうは来ないよなあ。

でも、ミシュラン風にいえばこの店は「この店だけのために大塚に行ってもよい」というような店でした。料理の一つ一つが小気味良い。まあ、酒菜ですけれど、こういう小品であればあるほど、奇を衒えない分だけ屋台骨がしっかりと見えてしまう。ここの屋台骨は白木の檜の柱。技自体が自然と溶け込む、みたいな(大袈裟;;)。

んで、びっくりしたのが(まあ、お店とは関係ないけど)近頃の焼酎の旨さでした。
ここも例によって焼酎の品揃えが豊富なんですが、560円だったかな、「まんこい」っていう焼酎は、飲んでいてまるで上質な年代物のカルヴァドスみたいな味がしましたし、名前忘れちゃったけどもうひとつのはアルマニャックだった。それをグラス一杯、ほとんど5分の1の値段で飲める。焼酎恐るべしです。

まずはポテトサラダから。というのは、生ビールを頼んだら、これがまた名人芸のぽっくりの泡立てで、なんだか、生ビールにはポテサラじゃありませんか? はは。ビールって、泡を飲むわけじゃないが、この泡と唇との接触でずいぶんとそのあとの味の印象が変わる。英語で、good kisser(キス名人)という言葉があるんだけど、ビールって、このキスの上手い下手と似てません?
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とってもまろやかなのは卵が入ってるから。それとタマネギのスライスの混ざり具合もよかった。日本のポテサラは心を落ち着かせる作用がありますわん。

お刺身も皮目の焼き霜、昆布〆ときちんと仕事をしてあります。焼き霜のは鰆。昆布〆は平目。
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アスパラのおひたしの上にはとろろ昆布です。きれいでしょ。見た目どおり、奇麗な味です。
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赤絵の皿に、新生姜と平いんげん。胡麻と豆腐のソースのこの上ないクリーミーさは裏漉しの手間でしょう。
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野菜づいてる、というのも、初夏の風情もあってたのむはしから美味しいから。
これは白菜としめじの煮浸し。
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それとこれは根曲がり竹の焼いたの。
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あとでネットで調べたらこのお店、やっぱりあちこちで絶賛されてました。人気メニューというのもあるらしいけどそれは今回はミスしてたみたい。ってか、お肉はたのまなかったし。

なんだかとても清々しい気分でお店を後にしました。
ちなみに「こなから」というのは「小半ら」と書くらしいですね。「半ら」はお酒の半升のこと。そのさらに半分を「小」を付けて呼んだんですね。つまり2.5合。お酒はこのくらい飲むのがちょうどよいっていわれてるそうです。はい、いつもオーバーしております。ぐぷぷ。

May 29, 2007

ピノ・サリーチェ

2007-05-28
イタリアン
ピノ・サリーチェ(circolo ITALIA Pino Salice)

東京都渋谷区鶯谷町15-10 ロイヤルパレス102
03-3496-3555

May 26, 2007

フリッツ

2007-05-26
洋食
フリッツ
☆☆
東京・千代田区永田町2-13-10
プルデンシャルタワー1F
(赤坂見附)
03-3500-3755 

今回の日本ツアーの最初の夜は、もうどうしても食べたかった豚カツにしました。

アメリカにいると、豚カツのまず豚が美味くない。さらにその豚から脂身がきれいに削ぎ落とされていてうまみもなにもあったもんじゃない。そんで大変なストレスになるわけです。ってまあ、それほどでもないけど。

で、その食い初めの豚カツ、どこに行こうか、と迷った揚げ句、豚カツ屋さんではなくてこの洋食屋さんに行くという選択をしたのでしたが、これが大正解。美味いとは聞いていたのですが、これほど美味いとは思わなかった。

わたしはそもそも、豚カツは肩ロースに近いほうのリブロースの、ロース芯がちっちゃくて、外縁の脂身の他にもう一本ロース芯を取り巻くように脂の入っている、そしてその間のさしの入った赤身の部分が美味しいんだよねえ。何てんだっけ、この部位。その大判のチョップを、ざくざくしたパン粉で包んでラードで揚げる、というのを至上のものとしております。でも、もうこの際、細かいことは言わないからとにかく早く食べようよ、ということで3人で行って、いろいろ頼みました。

そんなときでもビールを飲んでワインを頼んでしまう業深い私たちですが、まずは前菜としてソーセージやらパテやらポテサラやらキュウリの浅漬けやらの6種盛り。いいんでないかい。
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それから、これ、何だと思います?
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鯵フライなの。フィレにして揚げたのね。おいしいのだ。サクサクです。そんで、ソースが、タルタルは普通でしょうけど手前のふわふわしてるの、これ、天つゆの泡ソースでした。おもしろいねえ。というか、こんなところにまで泡ソースが拡大してるのだなあ。

で、これはコロッケ(1個480円)。でもコロッケは普通でした。というかイモイモしてて、その芋がちょっとでんぷん質が固まっててそう感心しなかったです。
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でもこの、あたかも縄文火焔土器のごとき風情のミンチかつ(780円)、いい姿ですねえ、これはジューシーで美味しかったわ。
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で、さあ真打ちは、この超厚切りロース(2680円)! 絶品です。
値段に文句は言えませんってな感じの味と顔つきです。
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ここ、三元豚と鹿児島黒豚の2種類があるようで、黒豚のほうは1.5倍高いんですけど、頼んだのは三元豚。でもわたし、分らないと思います、違いが。どっちとも美味しいから。こうなるとリブロースとかいってなくてもうまい。まったく豚臭くない。そりゃ当然ですわね、日本じゃ。おまけに、ラードで揚げたのかと勘違いしてしまった私です。でもじつは油はサラダ油と胡麻油のブレンドだそう。勘違いはこの肉自体の持つ脂身の味だったのです。甘いんだわ、すっげえ。

で、わたしたち、ここまで来たら欲張りで、食ってないものも食っちゃおうということでこの鹿児島黒豚のロースのパンソテーをたのんじゃいました。
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これこれ、この大判。写真で言うと、右側の三角の部分がいちばん美味しい部位。さっき書いた部分。

ポークソテーって、わたし、自分でおいしいソースを作れます。ここのはちょっと甘かったけど、あのね、お肉を取り出した後のフライパンのこびりついたビッツを生かしてそこに白ワインとブランデーとちょっとだけマスタードとお醤油とちょっとだけウスターソースとちょっとだけお砂糖と胡椒と、そんでお酢(シェリービネガーがいいけど米酢でも結構)とレモン果汁を入れて、最後にバターを入れて混ぜてとろみをつけて出来上がり。お試しあれ。

豚カツとかフライなんてね、油がよくて揚げるものがよければだいたいは何でも美味しいんだけど、でもわたし、今回はエンドルフィンが出っぱなしでこの単純な料理に☆2つを出してしまいました。しっかし、世の中に豚カツほどじんわりと嬉しい食べ物ってあるんでしょうかねえ。

この夜は、ワインもボトルで飲んで1人6000円ほどで済みました。おほほ、堪能っす。
(だれか、こんどはラードで揚げてるおいしいところ教えてくれないかしらん)

May 14, 2007

Upstairs

2007-05-12
懐石・鮨・フレンチ
Upstairs at Bouley(ブーレイ・アップステアーズ)
☆☆☆
130 West Broadway
(corner of Duanes St.)
NY., NY.
212-219-1011

しかし、名だたる菊乃井やおけいすしやゴードン・ラムジーやらに同じ3つ☆を付けてるんだけど、どう考えてもここはまったく「格」ははるか下です。だって割烹においてはカウンター席というのは上席なんですが、ここはアメリカ。カウンター席はファストフード用と受け取られている席扱い。しかもその席はL字型で6席しかなくて、その向こうの調理スペースは1畳分もないようなところに2人の板前さんが入っているのです。

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(こうです。向うが三上さん、右側が山田さん)

おまけにここのウエイターたるやサービスは最低、さらにひどいことにじつにひんぱんに勘定書を間違える。百歩譲ってアメリカ人だから日本料理のことが分からないというのはしょうがないかもしれないが、頼んでもないものがついていたり、2人なのに3人の計算になっていたりは日常茶飯事。ですんで、ここで飲み食いする時は、最後に必ずきちんとビルを見てチェックアウトしなければ後から何でかなあといやな思い出し方をすることになります。ですんで必ずチェックアウトです。まるで満員電車から降りるたびにスリに遭わなかったかとポケットを確かめる癖がついてしまうようなもんです。

なのになんで☆3つを付けるのかは、ひとえにただただ、うまいからです。確かにここは美味しい。
そうじゃなきゃとうに来るのを辞めている。いやな思いをしても食べたくなる。困ったもんです。
前にも書いたが、☆の数はかなり客観的に料理の質です。もっといえば味だけの点数です。

さてこの日のアップステアーズは初夏のメニューに変わったということでのレビューです。

日本の食堂には大きく分けて割烹と料亭があります。もっとも、東京では料亭というのは政治家や経済界の重鎮たちが密談を兼ねて会食をするところ、みたいなイメージがありますんで、30代半ばで東京を離れた私なんぞには、しかも新聞社では社会部だったこともあって、世に言うバブル期ではあったもののそんな大層なところに行く機会なんぞそうそうあるはずもありませんでした。でも、京都の料亭というのは違うようですね。嵐山の吉兆はお昼でも3万円以上しますが、座敷に上がって上げ膳据え膳ですからその値付けもむべなるかな。でも菊乃井なんかはもっと安い。これに瓢亭を加えて3大料亭でしょうか。これはいわばフレンチでいえばグランメゾンです。客の要望に従ってきちっと台本を組み、多少の遊びはあろうものの寸分の隙もなく大団円までを演じ切る。交響曲を最終楽章まで奏でるようなもんです。

一方の割烹は即興が命のジャズライヴみたいなもん。レパートリーは用意してあるがその日そのときの客の反応で思いつくまま自分の抽き出しを開けて変奏してみる。このアップステアーズは、形式はファストフード・カウンターの扱いですが、心意気は割烹です。当意即妙、臨機応変。メニューどおりには事は運ばない。まあ、でもこの狭さでメニューにある料理も、つまりは店内のテーブル席から来る鮨の注文や一品料理の注文もさばかねばならないので大変でしょうがね。

先日来、デギュスタシオン、そして饗屋と出かけましたが、この2店、じつによいながらもメニューのバラエティがそう豊富というわけではないので、さてその辺のメニュー以外の守備範囲がどこまで広いのか、次の来店あたりから確かめてみたい気もします。

この日の一品目はシェフ三上さんの漬けた海鞘(ほや)に生雲丹を載せてアラレを散らしたもの。
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漬けたばかりの海鞘のその漬かりが浅くて、まだ生の海鞘の磯の香りが立ちのぼります。それをいいあんばいの塩が表層部分でくいっと押さえ込む。まさに海のミネラルの甘みと塩み。そこに雲丹の脂分の甘みが覆いかぶさる。絶妙です。海鞘はこのくらい漬かりが浅いうちのほうがいいかもしれません。いや、わからん。漬かり込んだら漬かり込んだでまた美味くなるかもしれない。そのほんの微妙な違いを知りたくなる、そんなミニマリズムの結晶です。

2品目は山田さんの作り立てのごま豆腐です。
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これは見事です。じつにクリーミーでごまの風味がぱあっと口の中に行き渡るのに、どこにも味の力みがない、じつに穏やかな、悟ったようなごま豆腐です。しかもこの日は出汁つゆでまっすぐ勝負です。かつ節がすごく利いているのに、そのうまみをすべて抱き込んでしまうような、やさしく、たおやかなごま豆腐。色気すら感じるわ。
すごいねえ、と言ったら、これ、山田さんが吉兆時代に学んだ作り方なんですって。そんで、吉兆はあの、精進料理の神さま、じゃねえか、仏さまか、といわれる尼さんで有名な大津の月心寺のごま豆腐の作り方を伝授してもらっているんですって。なるほどねえ。すごいもんだなあ。

そうしたらこんどは三上さんから、卵豆腐です。
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卵豆腐とはいえ、ひとくち口に含んで、やられました。フォワグラの脂を使ってる。三上さん、「これは月心寺ではなくて、うちの近所の◎×寺に伝わるもんです」なんて軽口を叩いていましたが、じつはこの日来る前に電話で冷たい茶碗蒸しとか食べたくなるんですよねと言ったら、これを作っていてくれてたというわけ。なかにはロブスターの身と海老の身とハートオブパームとそして百合の根が入ってました。うめえったらありゃしません。

次は焼き物です。
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これもすごかった。右側が鱧(はも)。どういう発想か、ヤングコーンを巻き込んで蒸して焼いてある。このヤングコーンが食感といい、不思議にアクセントとなって鱧のうまさを引き立てています。わさびもいい。
左側は太刀魚。これ、なんかの漬け焼きだなあ。ちょいと干してもあるんだろうか、素晴らしい旨味。おまけにアワビの出汁の入った鼈甲餡がかかっているのです。
ピンクのはギョウジャニンニクの茎の部分の甘酢漬けです。

ほんでもってお次はお肉と来ました。
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ラムです。うみゃー。
ちゃんと日本食になってるの。このラム、ブーレイの食材をかっぱらってきたっていってましたが、まあ、確かにものすごく質のいい、臭みのまったくないおいしい肉であるのでしょう。三上さんはそこにポケットを作って里芋のつぶしたのを忍び込ませ、そんで、どうやって味付けしたのかなあ、ひょっとしたら醤油と味醂と酒だけかもしれない、クセのある羊肉をとても素直な、おとなしいよい日本の子にしてくれました。添えの野菜の相性の良さはいうまでもありません。ラムの餡ときちんと通底しているのは野菜のすべてが出汁に浸されていたからです。

んで、次のこの穴子の煮こごりで私はぶっ飛びました。
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口に入れるや否や、イノシン酸もグルタミン酸もグアニル酸も、炸裂です。なんじゃ、これは、という感じ。
参りました。おまけに雲丹も入ってるし。
で、この煮こごり、その「こごり」方がふるふるなの。もう、固まるか固まらないかのそのちょうど境界線上で綱渡りしているような危うさ、淡さ。パン、と手を叩けばそれだけでタラタラと液体になってしまうような、そんな感じ。あの栗原はるみの危ういゼラチン菓子よりもさらに儚い陽炎のような。あはは。でね、じつはこの煮こごり、かなり黒七味が利いてるのです。それがでも逆に味の深みを教えてくれるのさ。ちょうど、海底に射し込む一条の夏の陽光が遠い海面までの距離を教えてくれるように。
ほんと、これ食ってて、途中、涙出るかと思ったくらい。
旨かった。

なんだか元気になって、まだ食える、って言ったら出てきたのがこれ。
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コウベビーフの切れ端(笑)をマグロに見立てて、ヅケにして焼いたものの上にとろろならぬ、長芋素麺を短く叩いたものを載せたもの。マグロの山かけの変形ですわね。でも、マグロとは違う牛肉のグレイン(筋め)の質感には、すりおろした芋ではなくてこうしてみじん切りのようにした長芋のほうがちょうど同じような食感、質感になって、それらが呼応し合って面白い効果を出しているのでした。こういうのを瞬間的に判断するというのか、それともそこまで理として考えているのではなく直観的にわかってしまうのか、その辺が三上さんのすごいところです。

いやいや、堪能しました。
このあとは鮨に移り、カニのミソ和え、鯛と千枚漬け、〆鯖、白ミル貝、大トロ、マグロ赤身漬け、ホタテ、いか、鯵叩き、と握りでいただきました。
腹いっぱい。大満足。
しっかし、この2人にちゃんとした場所とちゃんとした器を与えて、ちゃんとしたウェイティングスタッフで仕事をさせてあげたいものです。いや、言い方が違った。仕事をしていただいたら、客としてそんな幸福はありません。

で、しっかり、メートルディの持ってきたお勘定はこの日も2人で100ドル余計についておりました(笑)。
って、笑いごとじゃないわな。
いったい、どうしてこんな間違いをするんでしょうかね。困ったもんです。

May 08, 2007

Degustation

2007-05-04
フレンチ・タパス(スペインの小皿料理)?
Degustation(デギュスタシオン)

239 E. 5th St. (bet. 2nd & 3rd Aves.)
NY., NY., 10003
TEL 212-979-1012

去年の10月以来の再訪です。やっぱりここは面白いし美味しいし、はてさて、☆ではありながら、この直前のエントリーである☆☆のジャン・ジョルジュよりも褒めた書き方になるのはどうしてでしょうかね。まあ、判官贔屓かしら?

だって、見てください、このキャパですよ。厨房もなにも、オープンキッチンはコの字型のカウンター19席に囲まれたこのスペースだけ。逃げも隠れも出来ません。そこで仕込みをして調理してアセンブリしてプレゼンテーションもなかなか考えてあって、はいどーぞとなれば、そりゃあなた、感激します。
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前回はおとなりのジュエルバコのテーブルに座ってこちらから皿を持ってきてもらったのでよくわからなかったのですが、今回は目の前で展開する調理の仕組みがわかりました。やっぱり限度はあります。メニューは前菜っぽい小皿が5ドルとか6ドル、そして10ドル前後のラインがあって、メインとしても食べられるヴォリュームのある肉や魚介ものが20ドル前後です。値付けはものすごく良心的。ワインも35ドルくらいからと、とても安心して飲み食いできます。ここはなんといってもイーストヴィレッジ。その雰囲気を忘れないぞという気概さえ感じます。ただ、メニューの数は20種類くらいと限られる。おまけにいつも忙しそうで、カウンターながらいわゆる日本の割烹のようなインプロヴィゼーション、アドリブ、即興の妙みたいなものは難しいかもしれません。いや、どうかしら、もうすこし通って常連になったら試してみられるかもしれないけれど。

で、この日はアップステアーズの常連ですっかり仲好しになったマリアさんのお友達、テキサス・オースチンのスーザンさんが60歳の誕生日ウイークだということでNYに遊びにやってきて、それで3人でここでの会食となったわけです。この日は5コース50ドルというシェフズ・メニューを頼みました。で、そのほかにメニューの中から気になるものをピックアップして、追加注文という形。

一品目はその追加注文のトルティーヤラップです。なかにはお豆かしら? ウズラの卵も入っていて、上に載ってるのはハラピーニョの輪切りですね。一口料理です。いい感じです。
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それからコースに入りました。
最初はグリーンアスパラのグリル。周りにはアラレが付いています。カリカリパリパリ弾けます。で、下にたまっているのがチーズの泡ソースと、その中にポトンとポーチドエッグが落としてあります。で、スペインの生ハムであるセラノが切って添えてあります。それをグチャグチャと混ぜ合わせてアスパラをディップして食す。うまいっす。食感もいい。この卵とセラノの組み合わせは、ブーレイのコースでも出てきたことのある定番。こちらはアスパラ・ベーコンからの連想でもあるでしょう。
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こないだのジャンジョルジュ、さらにはじつはこの2日前の5月2日にはアップステアーズでもフレンチのほうから白アスパラガスのグリルを食べまして、アスパラ3連チャン。で、どこがいちばん美味かったかというと、写真撮ってませんが(ここにリポートもしてませんけど)アップステアーズの白アスパラが一等うまかったです。キャラメライズして、チーズがかかっていて、しかもソースが甘酸っぱくて、これはさすが素晴らしい料理でした。次がこのデギュスタシオンです。これは食感とソースのアイディアが上等です。この2つに比してジャンジョルジュはモレールマッシュルームを使っていて値段的にはいちばん高いでしょうけど、ちょっと凡庸な味だったですね。

次はコースから外れてコロッケ、クロケットですね、を食べました。中は戻した干しダラだったかなあ。下の緑はパセリのピュレーだそうです。まあまあかな、これは。
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次のこれは、思わず踊りだしてしまうほど美味かったわ。
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大中小と3種の海老のグリルですわね。どれがいちばん美味いかというと、じつはちっこいのです。もう海老の味がぎゅっと凝縮されていて、頭の部分なんか、丸ごと食したら涙が出てくるほどうまい。真ん中の大海老はモロッコ海老だったか名前を忘れましたが、肉がしっかりしていて味は穏やかで、これも違いがわかってうれしいものです。大きなのは手長海老ですね、スキャンピというやつ。これは身がほろほろです。ミソも甘い。しゃぶりつきました。ただグリルしてオイルと塩を振っただけなんですけど、参りました。料理って何なんだろうと、こういうのを食うと考え込んでしまいます。ってか、それは後の話で、食った時は昇天ですけどね。

んでもって次にでてきたのはホタテ貝。
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なんだっけ、この緑の野菜。なんかのササゲの一種みたいな食感でしたが、こんな海藻ってあったっけ? あ、思い出した、これ、samphire サンファイアというセリ科の多肉草。うーん、英語でなんとかグリーンとかいったんだけど、それを思い出せない。それにグレープトマトに火を通したのとブドウの輪切りとを加えた淡く甘いソースです。つまりトマトウォーターベースなのかな? これはちょっと甘さが一面的でまあまあだったかな。こう考えると、ホタテってかなり料理が難しいかも。東京の「カンテサンス」でもホタテは首を傾げたし。ホタテ自体が甘いから、ソースはそれと別の方角から切り込まねばならない。青みとか酸みとか。そういう意味ではこれまたブーレイのパセリのオーシャンブロスは凄いんだなあ。

そんでお肉に入ります。別注文のウズラが次に来ました。
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マリネされていてウズラの臭みが消えていて、これもなかなかよいものです。醤油とバルサミコに漬けたみたいな味です。よく見ると胡麻もくっついてるね。フェンネルのサラダも合っています。

そして料理のコースの最後4品目はロースト・リブアイの薄切りをブリオーシュのトーストの上に載せ、ホワイトチーズのソースを垂らしたもの。リブアイというのはリブロース、肩に近いロースの芯の部分。「目 eye」に似てまん丸だからこう呼びます。リブロースはいちばん肉の旨味を感じられる部位ですね。わたしはこのリブロースの芯の下の部分、ちょうどホタテの貝柱と足の関係でいうと、貝柱をアイとして、足の部分に相当する部分、なんていうんだっけ? あそこが大好き。脂が指して肉質はホロホロで。でもアイの部分もこうして食べるとじっさいジューシーで美味いっすよ、これ。うふふ。
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おまけはラム。これもうまい具合に焼けてるでしょ? キャラメリゼでっせ、この色が、はい。左のはハッシュドポテト(ジャガイモの千切りのパンケーキ焼きみたいなもん)。上にはサワークリームですね。下のソースは刷毛で塗った赤ワインのリダクションのソースです。もう腹一杯です。
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そして最後にデザート。この日はベリーのミルフィーユ仕立て。
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そんでもって、シェフがこんなにadorableなら、もう言うことはないじゃないですか。
名前はウェスリー・ジェノヴァート。じゃっかん28歳です。
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週末はいつも満杯です。平日の夜が予約を取りやすいでしょう。
さて、ウェスリー君、このカウンター席という形式がおのずから要求するであろうアドリブが可能なのかどうか、それが次の注目点ですね。

**
追記)翌週に再訪問しました。ウェスリー君、先週来たと知っているのに、シェフズ・メニューは同じ内容で出してきました。ちょっとがっかり。つまりメニュー以外にアレンジするというシステムはアメリカにはあまりないのかもしれません。これでは何度も来るわけにいきません。間口はあれど、奥がない、ということです。残念。

May 04, 2007

Jean Georges

07-05-03
フレンチ
ジャン・ジョルジュ(Jean Georges)
☆☆
1 Central Park W.
(bet. 60th & 61st Sts.)
Manhattan, NY
212-299-3900

ずいぶん久しぶりのジャン・ジョルジュです。何年ぶりかなあ。5、6年かなあ。
そんなにご無沙汰だったのにはもちろんわけがあります。
おいしいと思ったことがないから。はは。ミシュラン3つ星に向かって何というだいそれたことを!
でも、ここがニューヨークで4つある「三ツ星レストラン」の1つだと知って、ミシュランというのは、あ、そういうものなんだあ、とすこし得心したところもありました。

で、3つ星獲得後初めての再訪です。
この日は、ブーレイで働いていたタマちゃんがもう6年になるんでそろそろ他のところも知りたいと言ってブーレイを辞めて、次はマリオ・バターリのデル・ポストに移るというのが決まったので、そのお祝いも兼ねてランチに行ったわけです。ものすごく清々しい春の日で、2時の予約の30分前にコロンバスサークルで待ち合わせしてセントラルパークをちょっと散歩しました。ニューヨークはこの季節がいちばんいいね。

さて2時に入ったらまだ満席です。バーカウンターのあるカジュアルダイニングの席もいっぱい。で、キッチンを見たらジャン・ジョルジュがいたんで軽く会釈したら出てきて挨拶してくれました。こないだ、アップステアーズで彼がデイヴィッド・ブーレイといっしょにいるときに私が現れたら紹介されたんで向うもなんとなく憶えててくれたんでしょう。で、テーブルが空いたらウェイターが来て「シェフがお造りしますがお任せメニューでよろしいですか」となりました。こういうの、楽でいいわあ。日本人だなあ。


(クリックすると大きくなります)

ジャン・ジョルジュがおいしいと思ったことがない、のは、どうもそのスパイスの使い方にもあります。ここが最初にオープンしたのは10年ほど前。そのまえに彼はマンハッタンでビストロ形式とタイ風フレンチのレストランを持っていました。かなりアジアのスパイスを多用する、エキゾティックな味わいを自分のオリジナリティにするべく意識していたんですね、きっと。

でも、それが私のような日本人には付け刃というか、とがり過ぎというか、はっきりいって素材と味付けをどうしてこんな組み合わせをするのかわけわかんない状態だったわけです。味がバラバラ、あっちに飛び、こっちに外れ、そっちにズドン、ってな感じ。んー、もっとわかりやすくいうと、うどんの汁にバニラとシナモンを混ぜてブルーチーズ塗った刺身を食べさせる、みたいな(うへー、わかりやすい)。

さて、突き出しに出てきたのはこの店の有名なエッグカスタードにクレームフレーシュのホイップを載せてキャビアを食べさせるもの。
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これはまあ、そのままの味です。塩加減がちょうどよろしい。でも、カスタードがちょっと熱を通し過ぎでややダマになってます。もうすこし口溶けのよい、滑らかなものに仕上げなければいけません。

続いて出てきた前菜がこれ。
何だと思います?
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ハマチの刺身と日本のキュウリの漬け物ですわ。それで目の前でこのポン酢を注ぎ入れてくれるところがフレンチなんでしょうね。はは。で、上には七味みたいなスパイスが軽く振ってあって、ポン酢もこれ、カボスかな? これはわれわれが日本人だからという配慮かしら? ハマチもこうやってキュウリと同じく筒状に切るおフレンチな発想。面白いね。で、味は、まあ、おいしいけど、なんか、微笑ましい、という言葉が思いついてしまうという印象。お家で作れますよ。キュウリの漬け物、ほんとにキュウリの漬け物だから。浅漬けの素つかったみたいな。

次のアスパラガスはおいしかったです。アスパラがおいしい。
それにモレル(網傘茸)のシャロンソースなるものがやはりこれも目の前で載せられます。
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シャロン・ソースって何?って訊いたら、シャトー・シャロンとかいうフランスのワイナリーのことを説明してたから白ワインのブール・ブランみたいなもんでしょね。モレルもちょうどいい火の通り。白ワインと言いましたが、ソースはなぜかアルコールがまだかなり残っているふうで、ブランデーの味がしました。それが狙い目なのかどうかは訊きませんでしたが、春のアスパラはとくに茎の太い部分がやさしく甘くすべてを赦すような幸せな味がしました。

次がジャン・ジョルジュらしいエビと冬茹(どんこ)シイタケの柚子フォーム仕立て
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ドンコとはいっても、なんとなく普通のシイタケでしたが、エビと一緒にグリルしてあって、この柚子の泡のソースの下に眠っています。けっこう柚子、ぐいっと迫ってきます。逆にエビは叩いてあるのか、とてもほんのりほわほわ風味でした。で、その下にさらにマヨネーズが敷いてあって、そのマヨネーズがぴりりと辛いのは青唐辛子でしょう。ってことは柚子胡椒を混ぜ入れたのかもしれないね。ジャン・ジョルジュらしいというのは、この感じ。この組み合わせ、けっこう力技。面白かったです。

そして魚になります。
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シーバス(すずき)がきれいなプチトマトのマッシュルームブロスの上に載っています。きれいな一皿です。
で、このマッシュルームブロス、甘酸っぱくておいしい。それだけでなく焦がしバターを混ぜ込んでいます。つまりブール・ノワール(黒)、もしくはノワゼット(焦げ茶)ていどにしたバターの風味がトップノートなのね。で、酸味はトマトウォーターか、あるいはそれにもちろんレモンか。甘みは砂糖でしょうかね。そんでもってふとカレーっぽい香りがかすめるのはきっとコリアンダーシードあるいはカルダモンが入ってるんだと思う。すずきが皮目に纏っているのはおそらくマッシュルームパウダーだと思われます。
おいしかったです。
でも、これ、自分でも作れそうです。今度のパーティーで作ってみましょ。

最後のお肉は、これは自分では作れません。素晴らしいスクワブ(雛鳩)でした。
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スクワブはスモークされていました。これでスクワブのあの血臭さというかレバー風味というか、そういう野趣が野趣のままぐいっと私たちの手元に入ってきてくれます。スモークというのは偉大な調理法です。焼き加減はいうまでもなく、おそらくいままで食ったスクワブの中でトップクラスに入る料理でした。ソースはスクワブのジュにマーマレードっぽく詰めたオレンジ。そこにミントがかぶさっています。ショウガもほんの少し? 白いのはアジアン・ペアつまり丸い形をした日本の梨です。これはただ甘いだけで不要でした。シャリシャリ感はいいのですが、甘くてスクワブの味をぼやけさせるだけです。レモンかオレンジのジュースに漬けてから添えるとかしたらワザありだったと思います。スクワブの上には細かく3切れほどキャンディー(砂糖漬けコート)したドライフルーツが載ってました。梨だったのかなあ?

そこでデザートとプチフールになりました。
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ランチというせいか、あるいは三ツ星を取ったせいか、あるいは春のせいか、今回のジャン・ジョルジュは味の整え方がすこし落ち着いた感じがしました。で、おいしくなったか、というと、うーん、スクワブは見事だったけど、ほかのは私の中ではやはり☆☆かなあ。なんでだろう? 何が違うんだろう? いや、けっしてまずくはないんですよ。

同じ☆2つでも、ここのレヴューに書いてあるレストランで、書き方が違って絶賛しているところもありますが、それは期待値に対してのその期待のプラス方向での裏切られ方、あるいは頑張り方、が私を感動させるのです。ただ、こうやって振り返って見ると、☆の付け方はけっこう絶対値です。☆☆のレストランはいまいくつあるんだろう、でも、振り返って思い出してみても、この☆☆のレストランたちは私にとってはジャンルは違えど、みな同じレヴェルの味がするのです。それは「とてもおいしい」ということなんだけどね。でも、じゃあどうしてジャン・ジョルジュには「とてもおいしい」と、そういうふうな書き方にならないのか?

わっかりませ〜ん。

つまり、☆の数はかなり客観的な満足度の評価、書き方は、ずいぶんと主観的なあれやこれやの思い、ということですわ、いずれにしても。
だもんでそのつもりで読んで下されまし。わたしも自分が主役な人間なのですわ。はは。

ちなみに、この日のランチは、予約時間どおりにテーブルが空かなかったせいか、バーカウンターで頼んだカクテル計2杯(計30ドル相当)とかデザートに付けた紅茶とか、ぜんぜんビルに付いてませんでした。ジャン・ジョルジュお知り合い値段ってことか。したがってお値段は2人で料理各55ドル、白ワイン(nigl=ニーグルと読むオーストリアのワイン。安くてうまいの)55ドル、それに発泡水代と税金とチップ合わせて213ドル払いました。ランチはお得っていうけど、料理の55ドルだってキャビア出してこれはないわね。ぜったい1皿分くらいおまけしてくれてるね。

というわけで、かなり満腹・満足で出てきてもまだ空は4時45分の春の明るさでした。