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May 14, 2007

Upstairs

2007-05-12
懐石・鮨・フレンチ
Upstairs at Bouley(ブーレイ・アップステアーズ)
☆☆☆
130 West Broadway
(corner of Duanes St.)
NY., NY.
212-219-1011

しかし、名だたる菊乃井やおけいすしやゴードン・ラムジーやらに同じ3つ☆を付けてるんだけど、どう考えてもここはまったく「格」ははるか下です。だって割烹においてはカウンター席というのは上席なんですが、ここはアメリカ。カウンター席はファストフード用と受け取られている席扱い。しかもその席はL字型で6席しかなくて、その向こうの調理スペースは1畳分もないようなところに2人の板前さんが入っているのです。

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(こうです。向うが三上さん、右側が山田さん)

おまけにここのウエイターたるやサービスは最低、さらにひどいことにじつにひんぱんに勘定書を間違える。百歩譲ってアメリカ人だから日本料理のことが分からないというのはしょうがないかもしれないが、頼んでもないものがついていたり、2人なのに3人の計算になっていたりは日常茶飯事。ですんで、ここで飲み食いする時は、最後に必ずきちんとビルを見てチェックアウトしなければ後から何でかなあといやな思い出し方をすることになります。ですんで必ずチェックアウトです。まるで満員電車から降りるたびにスリに遭わなかったかとポケットを確かめる癖がついてしまうようなもんです。

なのになんで☆3つを付けるのかは、ひとえにただただ、うまいからです。確かにここは美味しい。
そうじゃなきゃとうに来るのを辞めている。いやな思いをしても食べたくなる。困ったもんです。
前にも書いたが、☆の数はかなり客観的に料理の質です。もっといえば味だけの点数です。

さてこの日のアップステアーズは初夏のメニューに変わったということでのレビューです。

日本の食堂には大きく分けて割烹と料亭があります。もっとも、東京では料亭というのは政治家や経済界の重鎮たちが密談を兼ねて会食をするところ、みたいなイメージがありますんで、30代半ばで東京を離れた私なんぞには、しかも新聞社では社会部だったこともあって、世に言うバブル期ではあったもののそんな大層なところに行く機会なんぞそうそうあるはずもありませんでした。でも、京都の料亭というのは違うようですね。嵐山の吉兆はお昼でも3万円以上しますが、座敷に上がって上げ膳据え膳ですからその値付けもむべなるかな。でも菊乃井なんかはもっと安い。これに瓢亭を加えて3大料亭でしょうか。これはいわばフレンチでいえばグランメゾンです。客の要望に従ってきちっと台本を組み、多少の遊びはあろうものの寸分の隙もなく大団円までを演じ切る。交響曲を最終楽章まで奏でるようなもんです。

一方の割烹は即興が命のジャズライヴみたいなもん。レパートリーは用意してあるがその日そのときの客の反応で思いつくまま自分の抽き出しを開けて変奏してみる。このアップステアーズは、形式はファストフード・カウンターの扱いですが、心意気は割烹です。当意即妙、臨機応変。メニューどおりには事は運ばない。まあ、でもこの狭さでメニューにある料理も、つまりは店内のテーブル席から来る鮨の注文や一品料理の注文もさばかねばならないので大変でしょうがね。

先日来、デギュスタシオン、そして饗屋と出かけましたが、この2店、じつによいながらもメニューのバラエティがそう豊富というわけではないので、さてその辺のメニュー以外の守備範囲がどこまで広いのか、次の来店あたりから確かめてみたい気もします。

この日の一品目はシェフ三上さんの漬けた海鞘(ほや)に生雲丹を載せてアラレを散らしたもの。
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漬けたばかりの海鞘のその漬かりが浅くて、まだ生の海鞘の磯の香りが立ちのぼります。それをいいあんばいの塩が表層部分でくいっと押さえ込む。まさに海のミネラルの甘みと塩み。そこに雲丹の脂分の甘みが覆いかぶさる。絶妙です。海鞘はこのくらい漬かりが浅いうちのほうがいいかもしれません。いや、わからん。漬かり込んだら漬かり込んだでまた美味くなるかもしれない。そのほんの微妙な違いを知りたくなる、そんなミニマリズムの結晶です。

2品目は山田さんの作り立てのごま豆腐です。
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これは見事です。じつにクリーミーでごまの風味がぱあっと口の中に行き渡るのに、どこにも味の力みがない、じつに穏やかな、悟ったようなごま豆腐です。しかもこの日は出汁つゆでまっすぐ勝負です。かつ節がすごく利いているのに、そのうまみをすべて抱き込んでしまうような、やさしく、たおやかなごま豆腐。色気すら感じるわ。
すごいねえ、と言ったら、これ、山田さんが吉兆時代に学んだ作り方なんですって。そんで、吉兆はあの、精進料理の神さま、じゃねえか、仏さまか、といわれる尼さんで有名な大津の月心寺のごま豆腐の作り方を伝授してもらっているんですって。なるほどねえ。すごいもんだなあ。

そうしたらこんどは三上さんから、卵豆腐です。
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卵豆腐とはいえ、ひとくち口に含んで、やられました。フォワグラの脂を使ってる。三上さん、「これは月心寺ではなくて、うちの近所の◎×寺に伝わるもんです」なんて軽口を叩いていましたが、じつはこの日来る前に電話で冷たい茶碗蒸しとか食べたくなるんですよねと言ったら、これを作っていてくれてたというわけ。なかにはロブスターの身と海老の身とハートオブパームとそして百合の根が入ってました。うめえったらありゃしません。

次は焼き物です。
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これもすごかった。右側が鱧(はも)。どういう発想か、ヤングコーンを巻き込んで蒸して焼いてある。このヤングコーンが食感といい、不思議にアクセントとなって鱧のうまさを引き立てています。わさびもいい。
左側は太刀魚。これ、なんかの漬け焼きだなあ。ちょいと干してもあるんだろうか、素晴らしい旨味。おまけにアワビの出汁の入った鼈甲餡がかかっているのです。
ピンクのはギョウジャニンニクの茎の部分の甘酢漬けです。

ほんでもってお次はお肉と来ました。
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ラムです。うみゃー。
ちゃんと日本食になってるの。このラム、ブーレイの食材をかっぱらってきたっていってましたが、まあ、確かにものすごく質のいい、臭みのまったくないおいしい肉であるのでしょう。三上さんはそこにポケットを作って里芋のつぶしたのを忍び込ませ、そんで、どうやって味付けしたのかなあ、ひょっとしたら醤油と味醂と酒だけかもしれない、クセのある羊肉をとても素直な、おとなしいよい日本の子にしてくれました。添えの野菜の相性の良さはいうまでもありません。ラムの餡ときちんと通底しているのは野菜のすべてが出汁に浸されていたからです。

んで、次のこの穴子の煮こごりで私はぶっ飛びました。
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口に入れるや否や、イノシン酸もグルタミン酸もグアニル酸も、炸裂です。なんじゃ、これは、という感じ。
参りました。おまけに雲丹も入ってるし。
で、この煮こごり、その「こごり」方がふるふるなの。もう、固まるか固まらないかのそのちょうど境界線上で綱渡りしているような危うさ、淡さ。パン、と手を叩けばそれだけでタラタラと液体になってしまうような、そんな感じ。あの栗原はるみの危ういゼラチン菓子よりもさらに儚い陽炎のような。あはは。でね、じつはこの煮こごり、かなり黒七味が利いてるのです。それがでも逆に味の深みを教えてくれるのさ。ちょうど、海底に射し込む一条の夏の陽光が遠い海面までの距離を教えてくれるように。
ほんと、これ食ってて、途中、涙出るかと思ったくらい。
旨かった。

なんだか元気になって、まだ食える、って言ったら出てきたのがこれ。
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コウベビーフの切れ端(笑)をマグロに見立てて、ヅケにして焼いたものの上にとろろならぬ、長芋素麺を短く叩いたものを載せたもの。マグロの山かけの変形ですわね。でも、マグロとは違う牛肉のグレイン(筋め)の質感には、すりおろした芋ではなくてこうしてみじん切りのようにした長芋のほうがちょうど同じような食感、質感になって、それらが呼応し合って面白い効果を出しているのでした。こういうのを瞬間的に判断するというのか、それともそこまで理として考えているのではなく直観的にわかってしまうのか、その辺が三上さんのすごいところです。

いやいや、堪能しました。
このあとは鮨に移り、カニのミソ和え、鯛と千枚漬け、〆鯖、白ミル貝、大トロ、マグロ赤身漬け、ホタテ、いか、鯵叩き、と握りでいただきました。
腹いっぱい。大満足。
しっかし、この2人にちゃんとした場所とちゃんとした器を与えて、ちゃんとしたウェイティングスタッフで仕事をさせてあげたいものです。いや、言い方が違った。仕事をしていただいたら、客としてそんな幸福はありません。

で、しっかり、メートルディの持ってきたお勘定はこの日も2人で100ドル余計についておりました(笑)。
って、笑いごとじゃないわな。
いったい、どうしてこんな間違いをするんでしょうかね。困ったもんです。

February 20, 2007

おけいすし

07-02-20

おけいすし
☆☆☆
東京都渋谷区神宮前2-3-26
03−3405−4610

たしか7年ほど前でしょうか、さいしょにここを訪れたのは。で、以来、日本に帰ってきて余裕のあるときはここでじっくりと飲み食いしています。でも、これまで都合6回ほどしか来ていないですけど。はは。

ここはね、「鮨屋さん」という枠ではないのかもしれません。酢飯と鮨種とで構成される総合的なコースメニューを供するレストラン。コンセプトとしてはフレンチなんでしょうね。わたしは基本的にそういうのが好きなんだわ。

こんにちは、といって予約の名前を告げて席に着くでしょ、すると2掬いほどの「酢飯のおじや」が大きな器にちょこっと出されます。そして「蛤の冷たいスープ」もおちょこで出てくる。これはね、お酒を飲むひとにまずは少し胃になにか入れてから、というサジェスチョンなのね。やさしいでしょ? で、ビールを頼むとあっさりした「湯通しキャベツと玉葱のサラダ仕立て」みたいな酢の物が小皿で出てきます。あ、「蛤汁」「キャベツのおひたし」って言葉を使えばよくある和食だなあ。でも、そういう「よくある感」じゃないのだわ。

ビールを注ぐと「ほうじ茶で煮たものすごくやわらかい蛸の足」が3cmほどのブツ切りで2切れ供されます。美味しいです。同じく「水蛸の頭と吸盤の刺身」が、長方形の皿に盛られます。身の下に練り梅が忍ばせてあります。美味しいです。

つぎにさりげなく緑の葉包みの握りが1つそっと置かれます。口に含んで、あ、これ、「桜の葉」の握りだ、と頭の中に春風が通り過ぎます。あれですね、桜餅の塩漬けの桜の葉。餅を包めるんだもの、酢飯を包めないはずがない。でもその発想はなかなか気づかないうれしいものじゃないですか。四六時中鮨のことを考えているプロに、代わっていろいろなものを発見してもらって、わたしたちはその上澄みだけを頂く。そしてそれにお金を払うわけです。代金というのはそういうことですわ。身代わり料。

お酒は冷酒で頼むと、たしかここは菊正が出てきます。ふつうの菊正です。純米ではあるかもしれないけど、酒が主役じゃないから、あまり個性が強い吟醸とか大吟醸ではない。で、刺身から出てきます。ってか、メニューがないのだと思う。いつも座ると自動的にいろんなものが出てくるから。お腹が減ってると言えば早めに鮨にスイッチする感じ。今日は鮨で行って、ともいえそうです。でも昨晩はなあんとなく飲みモードだったので、瀬谷正二さんもそれを察知したのでしょう。そんな感じで料理が出てきます。

まずは「大トロの1辺焦し」です。カウンターから正面に常に火を入れてあるコンロがあってそこに鬼おろしみたいな魚焼き器が渡してあります。なんか、金属は宇宙ロケットの素材らしいですよ。熱を受けても変形しないんだって。で、そこに大トロのブロックの一辺をのみ、じゅっと押し付けます。すると脂が焼けて煙がブワッと立つ。その煙を浴びてトロの表面が燻される。で、それを切って刺身とする。うんめえ。そこに、またぜんぜんテクスチャーの違う「鮪の血合いの佃煮ふう」もそっと小皿で差し出されます。とてもあっさりした、甘くない味付け。長時間煮込んだ牛スジにも似た食感です。酒が進みます。さらに「鮪中落ちと山葵の握り」が続きます。1つを真ん中ですとんと包丁で分けて、わたしと連れに半分ずつ。マグロの脂に負けない山葵の味だということは、かなりの量のわさびを入れて調和させている。その塩梅、これは必然だったのだと頷かされます。

続いて昆布〆平目の刺身、そして昆布〆平目の縁側の握り。この昆布〆はぐいっとしっかり。平目は拠って飴色に近く、その食感はモッチリねっとり。醤油につける必要もなく滋味に満ちています。

イカはもちろん先日のどこかのように甲イカではありません。墨烏賊の身と耳の刺身が細切りにしてその透明な身をさらしてきます。そこに烏賊墨と海老の頭のお吸い物が、そうね50ccほど、ちょこっと。うめえ。塩加減も絶妙。さらに「薄く切った塩鯨の脂身と皮」は、これは脂の質がやはり魚と違って、癖はあるけど好きなひとは好きだろうなあ。「氷頭なます」と「焼き北寄貝」は、今回、北海道で食べなかったんでうれしかったです。

「〆鯖の刺身」「〆鯖の塩焼き腹身」と続きます。さらに酒が進んで、「うちでいちばんうまいもの」と「生ウコンの輪切り」が5、6枚、出されました。石垣島だそうです。ふうん、日本ではウコンが流行ってるんだ。そういえば泊まっているとーちゃんちでも冷蔵庫に「ウコンの力」なんてドリンクが入ってますしね。

「口直しの味の濃いトマト」は、すごい味です。やっぱり日本はトマトがすごい。ここからそろそろ腹いっぱいで、握ってもらうことにしました。

最初は「昆布〆鱚の握り」。鱚は身が弱いので、昆布で〆たわけか。あまくてたいへんよろしい。
続いて「鮪赤身の漬け」。これは近年食った赤身で最高です。この部位なんだよね、いつも、求めてるのは。どこなんでしょう。身がほろほろと崩れるようなの、口ん中で。これ、部位に関係するんだよね、たしか。でも、うますぎてそのことを訊き忘れた。とほほ。

次も絶品。表面だけさっと蒸し器で煽った「雲丹の握り」。蒸し雲丹というのはうまいのに出逢ったことがない。ですからこれは蒸し雲丹ではないのです。雲丹を箱ごと蒸し器に入れてさっと熱にくぐらしてやる、って感じの手当てを施す。すると身が締まるのねえ。それで味もうまい具合に凝縮される。ひえーって感じなのだ、うまくて。

そうそう、次の「干瓢の巻物」を食べて、わたし、干瓢はかくあるべしというのを、ここで知ったのだなあと思い出しました。ぐいっと濃いめに甘辛く煮込んで、ぐいっと山葵を利かせる。江戸っ子だねえ、って感じの気っ風の良さ(干瓢巻きが江戸っ子文化なのかは知らねども)。

そういえばここの酢飯もわたし好みなの。ってか、ひょっとしたらインプリントなのかもね、ここで最初に鮨のすごさを知ったわけだから。
酢飯は、ほら、いつもいってるように、酢がきちんと利いているわけです。塩は入らない。砂糖も酢を立たせるためだけに最小限。で、しっかり「お酢し」。基本的に酢が好きだという母親譲りの好みの問題とはいえ、鮨は酢の飯であるというそのコンセプトどおりの味なのです。好きだなあ。

最後は「焼き穴子の握り」をどろりと詰めたたれのひと垂らしで。もう、100年もののバルサミコみたいなドロりさです。いいっすねえ。
デザートは「黒砂糖の卵焼き」。もうカステラ状態。それに包丁は入れず、握り職人のしっとりした手でむぎゅっともぐ。5cmX4cmくらいの角になりますかね。そうして「大蜆のみそ汁」で終ります。

写真、撮れませんでした。こういう店ではなんとなく、写真を撮るなんて作業がはなから浅ましいものに思えてしまい……。

おけいすしは鈴木正志さんという大将が始めた店で、じつは大将は、なんかわたしなんぞにはおっかなくて、この瀬谷さんとかその下の埼玉繭夢さん(本名だよん)に握ってもらったりするくらいがいちばん楽でくつろげます(大将は隣というか続きの間である「鈴政の部屋」で握っています)。お二人ともほとんど無駄口をたたきませんが、瀬谷さんは、シャレを言うときでも真面目な顔でちらっと口の端から漏らすように言う。それが下品に落ちないカギなんでしょうね。目が、これも仕事、という感じで茶目になってから軽口を発する。素晴らしいプロです。

上記のごとく食べて、なんどもお代わりの酒をもらって、2人で今宵は39800円。食べ物が1人15000円。銀座久兵衛と比べてなんとお得感のある店。残りはお酒と税金です。じつに納得の値付けではありませんか。

銀座 久兵衛

07-02-16

銀座 久兵衛
☆(穴子への評価っす)
東京都中央区銀座8-7-6
03-3571-6523

銀座久兵衛は「北大路魯山人や志賀直哉などの著名人も愛した創業70年の寿司の名店。ウニやイクラを初めて寿司ダネにした店としても知られ、新鮮なネタに、砂糖を使わないシャリのうまさが絶妙」と某サイトに紹介されています。

銀座八丁目という立地もあってなんだかずいぶんと敷居の高い店のようですが、実際に行ってみるとそんなことはまったくありません。なにせ1階から5階まであって、4階が待合室?、店の主人はどうも5階で上客相手に握っているという話です。で、けっこうノリは大衆鮨屋です。客層もバラバラ。観光客みたいな人とか遠出の女性層とか、なかに会社の重役タイプの人も。私たちは3人で行ってその階の一番手に握ってもらっていたのですが、後半にそんな感じの重役おじさん2人が入ってきて「すいません」と声をかけられて、「(握り手を)先輩と代わっていいですか?」といわれました。で、「先輩」というのが先輩なんかじゃなく若手なわけです。こういう「松竹梅」を逆に呼ぶみたいなのって、なんだか下品だなあ、と思ってしまいました。ま、どうでもいいけどね。

で、予約は8時半だったんですが7時以降はどうも「予約」といっても予約ではないらしく、だいたいその時間に行けば順番に入れてくれるという感じ。で4階で待ちました。4階に、その魯山人の作となる書と陶器が飾ってあります。

わたし、魯山人って、言ってること書いてることは素晴らしいと思うんですが、つくってる焼き物とかはすごくいやなの。下手クソ。書だって、ひどい字です。勢いがあるとかいうそういうレベルですらない。下手クソ。バランスだって悪いし、捨ててあったらだれも拾わないだろうって、そんな字や陶器。それをみなさん、どうしてああも国宝級のように扱うのか、よくわからんです。で、それらがガラスケースで囲って飾っている。ま、どうでもいいですけどね。

お時間30分遅れで席が空きました。で、2階に通されました。メニューは、おまかせ12貫プラス巻物で10500円です。ふーむ、この根付け、微妙です。だって、アップステアーズに行けば料理食って鮨食べて75ドルですからね。しかしここは老舗の鮨屋。銀座に久兵衛ありといわれた店です。いっちょう、食してみようじゃありませんか。

で、中トロから出されました。ふうん。そうなのか。
中トロ.JPG

で、平目、縞鯵と続きます。
平目.JPG縞鯵.JPG

で、イカ。え、紋甲烏賊ですかあ? ふうん、いくら塩でっていってもねえ。
甲イカ.JPG

で、赤貝。これはふつうにうまかったね。
赤貝.JPG

次の車海老は生きてます。生で握るか軽く茹でるか、と訊かれます。これはぜったいに茹でたほうが美味しいのです。生きた車エビは硬すぎてね、甘みがなかなか出てこない。ところが軽く茹でる。これだと身もとろけるように美味しくなります。で、そのとおり、たいへんうまくできました。でも、かあさん、わたしのあの海老の頭はどこへ行ったんでしょう? 焼いて出してくれればいいのに、そんな素振りはありません。がっかり。
車エビ.JPG

続いて、ここが最初に鮨種として使ったという雲丹です。はい。ま、こんなもんでしょう。
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次は大トロ。うーん、わたしのはちょっと筋が入ってたわ。
大トロ.JPG

次が小肌。ふーん。こんなもんかな。
小肌.JPG

で、次が穴子。あらら、これはたいへん素晴らしかった。きょうはこの穴子を食べるために来た、と思うくらい美味しかった。で、どううまいのかというと、この穴子って煮穴子なんですよね。で、煮穴子っていうとふつうはぺったりふんわりと煮て、それでそれを焼いてほわっとさせたのを出す。ところがここの穴子はやや乾いてる。ぺったりとろりの穴子もうまいが、ここは煮てから一晩冷蔵庫で置いて適度に乾燥させるらしい。それでそれから焼く。なもんで、煮穴子というよりも焼き穴子の風情があるんですね。適度に歯ごたえがあって、それが口の中でうまみを引き出す時間をくれる。大きめの1つを半分に切り分けて、最初は塩で、後半はたれで食べました。どちらともよかった。なるほど。
穴子塩.JPG穴子たれ.JPG

そこから大根とごまの口直しに行き、巻物へと入る。鉄火、納豆、干瓢です。
で、べったら漬けが出て、〆はお決まりの卵。これもよかったですね。芝海老がゴッサリ入ってる感じの味の深さとい、食感もよろしい。甘さも素敵。
巻物.JPG卵.JPG


というわけで12貫(ほんとうは、貫というのは50gくらいのすし飯の量をいうので、そんなにデカイ鮨はいまはないんで1貫って正確には2個のことを指す習わしなのですが、それじゃあこれは24個の鮨になってしまいます。ま、ここは12個のことですけどね)、かなり腹いっぱいになりました。ただし、お吸い物はまったくいただけません。永谷園のお吸い物みたいです。しょっぱいし、だしも薄っぺらだし。これは一気に興ざめ。
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さて、どう評価すべきか。
鮨メシは砂糖を使っていないせいでしょうか、かなりきれいな味がします。ご飯自体もおいしい。

ただ、この店は、ふつうにおいしい、というだけのような気もします。もう1つ気づいたのが、鮨種があらかじめ切ってあったということ。いわゆる鮨ケースというのはないんだけど、奥から人数分の鮨種が切って盛られてやってくる。それを目の前で握ってくれる。これって、どーなの? って、高級店なら思っちゃうんじゃないかなあ。でも10500円というのは高級店ですよね。

ああ、それでいま気づいた。鮨のタネがね、最初に口に含んだとき、なんだか、変な匂いがするんだ。なんだろうなあって、いままでわかんなかった。ヘンというのは、ただしべつに悪くなった味ではない。いま書いててわかった。これ、この奥で切り分けて出してくるときに使っている木のお盆のせいじゃないのか? いや、記憶が曖昧だけど、木のお盆じゃなかったっけかなあ? 違ってたらごめん。でも、舌につながる記憶の果てから思い出されるのはなんだかきっと杉の香りっていうか、生木の味なのでした。

というわけで、あの穴子がなかったら、☆は付かないでしょう。これが高級大衆店なみの5000円(税込み5250円か)だったら文句なく☆1つあげるにやぶさかではないのだけれど。ま、場所代かなあ。

おまけ。
これはお土産の穴子の棒鮨。こちらの酢飯は砂糖を入れて穴子の甘さと調和させているんですって。で、干瓢とか干し椎茸とかが煮て細かく入ってもいる。持ち帰ったわたしの新聞社時代の大先輩は「とてもおしいかった」とおっしゃってました(じつはこの日の代金も多くを払っていただいたので☆がいくつだのと偉そうなこと言うの恥ずかしいんですけどね、あは)。わたしもこういうグッと押した鮨は好きです。今度機会があったら食べてみたいですけどね。
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January 24, 2007

いちむら Ichimura

2007-01-22

いちむら Ichimura

1026 2nd Ave.(Bet 54th & 55th)
New York, NY.
212-355-3557

とてもたたずまいの正しい店です。お鮨屋さんはオープンキッチンですので、しかもここは例の鮨の冷蔵ケースが目線を遮っていないのでまな板がカウンターと同じ高さで見えています。店主の市村さんの一挙手一投足(脚先までは見えないが)が丸見え。市村さんの動きは優雅です。まな板に置く包丁の位置がきれいです。それだけでちゃんとしたところに来たね、とわかります。

聞くとご出身は茨城県下妻市。80年に拉致されてNYに来た、ととても冗談を言うとは思われない穏やかな口調でおっしゃいます。れいの有名店「竹寿司」で働いてきたそう。ここは「ニューヨーク竹寿司物語」という本になっている店です。NYで最初の鮨屋さん。いろいろな苦労とお鮨大好きなアメリカ人の反応が記されています。

さてその市村さんがここに店を出したのが2003年。前は「瀧乃」という天ぷら屋さんがあったところ。
店はカウンター、テーブル席とも15席ずつほどのこぢんまりした構えです。

つまみは頼まず、即、鮨を握ってもらうことに。お任せでいただきました。
ヒラメ、金目鯛、真鯛、甘エビ、コハダ、〆鯖、中トロの漬け、炙りトロ、イクラ醤油漬けと雲丹の軍艦、ネギトロ巻き、かんぴょう巻き、穴子白焼き、煮蛤、卵、鯵、さっきより深い中トロの漬け、真鯛の昆布〆

あら、思い出すまま書き出してみると、けっこう食ったなあ。書き忘れもあるかも。ははは。

金目が甘くておいしかったです。
コハダの塩加減がよかった。
で、鯖の〆方が最高。

〆鯖は、いつごろからでしょうか生っぽく浅く〆るのが流行ってきて、それはそれでよいのですが、この「いちむら」の鯖はきちんとしっとりと〆てあって、やわらかくて口の中でとろけます。やっぱり〆鯖ってこういうもんだよなあ、って思い出しました。薄めの二枚が酢飯を包むように握られています。その薄目の二枚というのもこのしっとり感のカギなんでしょう。美味いです。

あとはイクラの醤油漬けの軍艦のその海苔がおいしかった。雲丹と海苔は互いの甘みが入り込んじゃってよくわからないんだけど、醤油漬けのイクラって、海苔と合うんだよね。その海苔がこうも香り高かったら何をかいはんや。

かんぴょう巻きのかんぴょうもしっかりとキャラメル色で、山葵はNYの鮨屋のあの青々した山葵だけど、その山葵の味と絡まって美味しかったわ。

酢飯の酢の具合がちょっとゆるめです。でもそれは好みだからなあ。私はもうちょっと酢が感じられるのが好き。ネタにも拠るけど。でもご飯の炊き具合が硬くなくやわらか過ぎもせずちょうどいい。これも好み。

いっしょに行ったコータさんがワインがいいと言うのでシャブリ(45ドル)を飲みました。このシャブリも悪くなかったです。鮨とも合わなくもないワインがあることはある。まあ、「合う!」ってほどではないんだけどね。NYじゃやっぱ、ワインのほうが安いし。

というわけで、最後に「金目鯛や鯖がおいしかった」と口にしたら、市村さん、「あ、今日の味は今日で忘れてください。今度いらしたときにまたおいしいと思えるものをお出ししますから」と。なるほどね、一期一会ですか。とてもいい気持ちで店をあとにしました。

お勘定は2人で税金やチップを入れて計320ドルでした。じつに納得できる値付けです。ごっそさんでした。

January 18, 2006

海味(うみ)

2006-01-18
海味(うみ)

東京都港区南青山3-2-8
TEL 03-3401-3368


05年5月に改装して、というか、それ以前からモナミのとーちんがぼくを連れてきたいっていっしょけんめい予約を取ろうとして取れなかった店に、本日やっと行って参りました。評判に違わず、とても気持ちの良い店でした。最初に気づいたのが、カズミさんという女性フロアスタッフ(寿司屋ではなんと呼ぶのが正しいのだろう)? まあ、カウンターが10席、ボックスが4人掛け2つというこぢんまりした(大将が難なく目を届かせるできる範囲の)店で客をあしらう女性の方が肌身離さず抱えている、あれは朱塗りの漆の盆なんでしょうか、まあ、プラスチックのお盆であってもいっこうにかまわないのですが、それがね、朱がこすれて削れて中の黒地が出て、しかも縁が欠けてすらいるそのお盆がね、まるでアフリカはヌーバの歴戦の勇者の盾のように見えたことです。

訊けば大将は13年、ここで働いているとか。最初の7年はまえの女将さんの店だったとかで、それ以前を含めればこの「海味」、けっこうな歴史を持っているんでしょうね、きっとあの御盆は、そういう時を経ていまここにあるものなのだと推測できます。いいねえ。お守りのようだ。

大将、その脇とも、いまの東京のトレンドなんでしょう、坊主頭。
そうして最初に先付けとも前菜とも当てともつかずに差し出されたのが、本日は出汁で煮た牛蒡に白胡麻を擂ったのをまぶしたのと、虎杖浜のたらこ。このたらこ、腹身のままぽとんと出汁に落とすんだって。それですぐ火を止めて、なんちゅうの? 表面の2mmだけうすっらと白くなる。で、結果、口に含むとさ、カラスミみたいな濃厚な風味がふと舌先をかすめるのよ。でもたらこ。しょっぱさの微塵もないたらこ。いいんでないかい?

次はタコですね。これを柔らかく煮て、エゴマと塩で食べさせる。さて、このエゴマ、そう効果的かというとそうでもない。食感だけで風味がそんなにタコと重ならないんだ。タコってね、塩と黒胡椒が合うんだけど、でもそれって和食じゃないか。

さて、「本日、食べていただきたい魚がたくさんございます」という、おそらくは大将長野充靖さんの決め文句なんだろう、そこからお任せが始まります。

お寿司屋さんて、2系統あると思うんですよね。
1つはね、北海道です。じつは今回も札幌の知り合いの(NYの寿司田で働いていた2人の職人さんが出した店)「すし空海」という店に行ってしこたま食ってきました。ここはね、とにかく素材なんです。北海道って、素材がいいから、そのまま出してそのままを食わせてそのままをうまいと思わせる。空海もそういう店でした.いやいや、空海のタチ(タラの白子)のうまさと言ったらあなた、ふぐの白子はわたしゃこれから一生必要ありません。

もう1つはね、江戸前です。素材が悪いから(って昔の話ですけどね、江戸時代とか)火を通す酢に漬ける醤油に浸すツメを垂らす、そういうふうにして加工食品ですわ、もう。その加工を「腕」と言った。

でね、わたし、生まれも育ちも北海道なもんですから、前者に関しては、よほどのことでもない限りは非日常的な感動というものは難しいんです。だって、けっこう食ってきてるからねー、それもいろんな感動のシチュエーションを伴いながらさー。

でね、後者のね、感動は、じつはわたし、あの神宮前の「おけいすし」が好きなんです。
おやじさんは一回、えっと、その二番手のなんたっけ、あの人、名前? あの人が3回かな。そんで、昨年初めに、その下の新しい人で、ユウマくんっていったかなあ、けっこう若者系イケメン(またその話だ)。いつもおけいすしには唸らされる。値段も結構リーズナブルだしさ。

で、さて、こんかいの「海味」、長野さん、苫小牧なんだって。出身。で、いま40歳くらいかなあ、ノリノリの仕事人ですわ。そんで、ここは北海道型の寿司のトップクラスだって感じました。いや素材はあちこちから手にしているんですが、その素材をね、ネタだ、それをほんのちょっと後押しするだけの、とても謙譲の寿司なんです。一言で言うと、軽くて素敵。コハダとサバなんか、あーた、いまが冬ってこともあるけど、もうほとんど〆てないようなもん。で、ほわっと軽くて甘いの。コハダなんか二重になってるんだよ、すし飯の上で。でも大丈夫なの。

それはバラ筋子にもいえた。ほとんど味がついていない。生筋子(つまりイクラね)本来の味を教えようという試みなんだろうね。小鯛もそう。〆てるはずなのにすっと舌の奥を通り過ぎる。煮蛤も、ツメが澄んでいて昔風の甘さが広がる仕組み。

でね、いいんだ、おいしいの。でも、最後にさ、食べ終わって、タクシーに乗って、ふと思うんだ。えっとー、何が一番印象に残ったかなあって。

綺麗、丁寧、正直、気っ風。いずれも満点のこの店。
惜しむべくは、いや、そうじゃないな、私にとっての好みってことだね、それで言えば、もっと塩を、醤油を、酢を、ぐいっとねじ込むところがあってもいいんじゃないかってことなんだ。メリハリっていうか、ポイントというか、がつんと1つ、どーっすか、という手入れしたのを出してほしいっていうかね。そんなに優しくなくてもいいんだよ、って感じ。

印象に残ったもの。
唐津のウニ、赤穂の牡蠣。
この2つも、たしかにほとんど手が入っていない。素材のうまさだったような気がします。ほら、北海道なんだ、これって(産地は違えど)。
で、それは、なんか、おれ、知ってるの。

でも、本日の収穫かつお勉強。

ここの押し寿司は、それでした。がっちり手が入ってます。
押し寿司の押し寿司たる所以を教えられました。ぐっちゃぐっちゃと酢飯を団子に固め、さらにそれを型に入れてベッチリと押しつぶす。そうね、これが第3の寿司の系統(の派生の果て)なんかもしんないって思ったです。米は原形をとどめず、これでもかとネタと合体する。これはこれでわたしは面白いと思いました。頼むべし。モナミとーちんは「これ、あんまり、嫌い〜」って言ってたけど(笑)。

もいっこ、ここ、みそ汁椀がなかなかのすごいもんです。みそ汁椀とは言えど、ふつうの味噌汁とはコンセプトが違います。これは一品料理です。お頼みあれかし。

2人で飲んで食って、どうとでも出して、という感じで、本日は計44000円でした。
ちとお高いかしらん。