Main

January 02, 2008

やくみや(移転・再訪)

2007-12-13
小料理・飲み屋
やくみや

東京都新宿区荒木町1-2
なかばやしビル2階
03-6318-3421

新宿ゴールデン街にあった「やくみや」が2007年11月末に四谷・荒木町に移転し、それでさっそく出向いてみました。地下鉄の四谷3丁目の駅から歩いてすぐです。新宿通から杉大門通りを入って100mほどの右手のビル2階。杉大門通りの入り口あたりからでも水色の四角い看板がひときわ目立つのですぐわかるでしょう。

ゴールデン街のあの雰囲気も良かったが、ここらへんもむかしの花街。路地に飲み屋が並んでていいところですね。今回の移転先はなんといってもゆったりした広さでくつろげます。いっぱいで、行っても入れないんじゃないかという行く前の心配も薄らぎました。そんでもって厨房設備の格段にアップしたこと。シェフの佐和さんもこれなら十分に実力を発揮できるでしょう。ソムリエの朝子さんは相変わらずなかなか妙味のある酒類の選択で、日本酒で「清吟」という、とても清潔でエグミのまったくないいい酒を教えてくれました。

100_3409.JPG

さて、小料理屋というか割烹というか、こういうところの料理はじつはいくらでも手抜きをしようとすればできてしまうところがある。ちまたにはそういう店があふれています。いわゆるネイバーフッドパブというのはご近所のよしみや手軽さ手頃さもあってそういう手抜き料理でも赦されてしまうんですね。まあ、家で飲むよりもつまみの数はそろっているし、酒の肴の得意な奥さんばかりでもないですからね。それに、家庭料理にちょっと毛の生えた程度の素人料理が出てくる気の置けなさってのも嫌いじゃないし。

でもね、このやくみやの料理を食べると、いつも、正しい料理だなあ、って感心するのです。ほんと、背筋がきちんと一本通っている料理。それにプラスして、調理技術の下地ということだけではなく、いつも、勉強してるんだなあ、考えてるなあ、と感じるのね。そうやって頭使ってるから、ちょいとひねってもひねりすぎることがない。ひょいひょいと宙返りはしても着地はきちんと定点で決まる、みたいな。だからね、おや、面白いなあと思っても安心していられるんですね。やっぱり料理も思索なのよ。

あいかわらず素晴らしい店でした。ということで、今回の帰国では2週間ばかりの東京滞在で計4回も出向いてしまいました(うち1回は定休日なのを知らずに訪れたんですけど)。

100_3407.JPG
塩水とともに煎った銀杏。きれいだね。

100_3410.JPG
正しい〆鯖。

100_3413.JPG
海老しんじょの春巻き。

100_3419.JPG
焼き野菜。シンプルだけどね、次に紹介の「ブノワ」の地野菜よりはるかに野菜の味がいい。そうね、この焼いた野菜をスープというかだしというか、そういうのに浸して食べさせても面白いかも。

100_3423.JPG
ブリ大根。色はしっかり、でも味はすんなりとやわらかです。

June 16, 2007

Peter Luger

2007-06-15
Steak House
Peter Luger

178 Broadway, Brooklyn, N.Y.
(地下鉄J/M/ZでブルックリンのMarcy Avenue下車)
(718) 387-7400

June 11, 2007

礼華(らいか)

2007-06-10
中華
礼華(らいか)

東京・新宿区新宿1-3-12 壱丁目参番館1F
03-5367-8355

May 31, 2007

こなから

2007-05-29
居酒屋
こなから

東京・豊島区北大塚1-14-7
03-5394-2340

東京に住む旧知のアメリカ人大学教授に誘われて大塚にあるこの店まで連れてきてもらいました。駅北口からちょっと歩くだけ。大塚なんて、学生時代に「山手線一周歩け歩け深夜強行」をやったときに通り過ぎたことがあるくらいで、ふつうは来ないよなあ。

でも、ミシュラン風にいえばこの店は「この店だけのために大塚に行ってもよい」というような店でした。料理の一つ一つが小気味良い。まあ、酒菜ですけれど、こういう小品であればあるほど、奇を衒えない分だけ屋台骨がしっかりと見えてしまう。ここの屋台骨は白木の檜の柱。技自体が自然と溶け込む、みたいな(大袈裟;;)。

んで、びっくりしたのが(まあ、お店とは関係ないけど)近頃の焼酎の旨さでした。
ここも例によって焼酎の品揃えが豊富なんですが、560円だったかな、「まんこい」っていう焼酎は、飲んでいてまるで上質な年代物のカルヴァドスみたいな味がしましたし、名前忘れちゃったけどもうひとつのはアルマニャックだった。それをグラス一杯、ほとんど5分の1の値段で飲める。焼酎恐るべしです。

まずはポテトサラダから。というのは、生ビールを頼んだら、これがまた名人芸のぽっくりの泡立てで、なんだか、生ビールにはポテサラじゃありませんか? はは。ビールって、泡を飲むわけじゃないが、この泡と唇との接触でずいぶんとそのあとの味の印象が変わる。英語で、good kisser(キス名人)という言葉があるんだけど、ビールって、このキスの上手い下手と似てません?
100_1831.JPG

とってもまろやかなのは卵が入ってるから。それとタマネギのスライスの混ざり具合もよかった。日本のポテサラは心を落ち着かせる作用がありますわん。

お刺身も皮目の焼き霜、昆布〆ときちんと仕事をしてあります。焼き霜のは鰆。昆布〆は平目。
100_1834.JPG

アスパラのおひたしの上にはとろろ昆布です。きれいでしょ。見た目どおり、奇麗な味です。
100_1837.JPG

赤絵の皿に、新生姜と平いんげん。胡麻と豆腐のソースのこの上ないクリーミーさは裏漉しの手間でしょう。
100_1838.JPG

野菜づいてる、というのも、初夏の風情もあってたのむはしから美味しいから。
これは白菜としめじの煮浸し。
100_1840.JPG

それとこれは根曲がり竹の焼いたの。
100_1842.JPG

あとでネットで調べたらこのお店、やっぱりあちこちで絶賛されてました。人気メニューというのもあるらしいけどそれは今回はミスしてたみたい。ってか、お肉はたのまなかったし。

なんだかとても清々しい気分でお店を後にしました。
ちなみに「こなから」というのは「小半ら」と書くらしいですね。「半ら」はお酒の半升のこと。そのさらに半分を「小」を付けて呼んだんですね。つまり2.5合。お酒はこのくらい飲むのがちょうどよいっていわれてるそうです。はい、いつもオーバーしております。ぐぷぷ。

May 29, 2007

ピノ・サリーチェ

2007-05-28
イタリアン
ピノ・サリーチェ(circolo ITALIA Pino Salice)

東京都渋谷区鶯谷町15-10 ロイヤルパレス102
03-3496-3555

May 08, 2007

Degustation

2007-05-04
フレンチ・タパス(スペインの小皿料理)?
Degustation(デギュスタシオン)

239 E. 5th St. (bet. 2nd & 3rd Aves.)
NY., NY., 10003
TEL 212-979-1012

去年の10月以来の再訪です。やっぱりここは面白いし美味しいし、はてさて、☆ではありながら、この直前のエントリーである☆☆のジャン・ジョルジュよりも褒めた書き方になるのはどうしてでしょうかね。まあ、判官贔屓かしら?

だって、見てください、このキャパですよ。厨房もなにも、オープンキッチンはコの字型のカウンター19席に囲まれたこのスペースだけ。逃げも隠れも出来ません。そこで仕込みをして調理してアセンブリしてプレゼンテーションもなかなか考えてあって、はいどーぞとなれば、そりゃあなた、感激します。
inside.jpg

前回はおとなりのジュエルバコのテーブルに座ってこちらから皿を持ってきてもらったのでよくわからなかったのですが、今回は目の前で展開する調理の仕組みがわかりました。やっぱり限度はあります。メニューは前菜っぽい小皿が5ドルとか6ドル、そして10ドル前後のラインがあって、メインとしても食べられるヴォリュームのある肉や魚介ものが20ドル前後です。値付けはものすごく良心的。ワインも35ドルくらいからと、とても安心して飲み食いできます。ここはなんといってもイーストヴィレッジ。その雰囲気を忘れないぞという気概さえ感じます。ただ、メニューの数は20種類くらいと限られる。おまけにいつも忙しそうで、カウンターながらいわゆる日本の割烹のようなインプロヴィゼーション、アドリブ、即興の妙みたいなものは難しいかもしれません。いや、どうかしら、もうすこし通って常連になったら試してみられるかもしれないけれど。

で、この日はアップステアーズの常連ですっかり仲好しになったマリアさんのお友達、テキサス・オースチンのスーザンさんが60歳の誕生日ウイークだということでNYに遊びにやってきて、それで3人でここでの会食となったわけです。この日は5コース50ドルというシェフズ・メニューを頼みました。で、そのほかにメニューの中から気になるものをピックアップして、追加注文という形。

一品目はその追加注文のトルティーヤラップです。なかにはお豆かしら? ウズラの卵も入っていて、上に載ってるのはハラピーニョの輪切りですね。一口料理です。いい感じです。
tortilla.jpg

それからコースに入りました。
最初はグリーンアスパラのグリル。周りにはアラレが付いています。カリカリパリパリ弾けます。で、下にたまっているのがチーズの泡ソースと、その中にポトンとポーチドエッグが落としてあります。で、スペインの生ハムであるセラノが切って添えてあります。それをグチャグチャと混ぜ合わせてアスパラをディップして食す。うまいっす。食感もいい。この卵とセラノの組み合わせは、ブーレイのコースでも出てきたことのある定番。こちらはアスパラ・ベーコンからの連想でもあるでしょう。
aspara.jpg

こないだのジャンジョルジュ、さらにはじつはこの2日前の5月2日にはアップステアーズでもフレンチのほうから白アスパラガスのグリルを食べまして、アスパラ3連チャン。で、どこがいちばん美味かったかというと、写真撮ってませんが(ここにリポートもしてませんけど)アップステアーズの白アスパラが一等うまかったです。キャラメライズして、チーズがかかっていて、しかもソースが甘酸っぱくて、これはさすが素晴らしい料理でした。次がこのデギュスタシオンです。これは食感とソースのアイディアが上等です。この2つに比してジャンジョルジュはモレールマッシュルームを使っていて値段的にはいちばん高いでしょうけど、ちょっと凡庸な味だったですね。

次はコースから外れてコロッケ、クロケットですね、を食べました。中は戻した干しダラだったかなあ。下の緑はパセリのピュレーだそうです。まあまあかな、これは。
croquet.jpg

次のこれは、思わず踊りだしてしまうほど美味かったわ。
shrimps.jpg

大中小と3種の海老のグリルですわね。どれがいちばん美味いかというと、じつはちっこいのです。もう海老の味がぎゅっと凝縮されていて、頭の部分なんか、丸ごと食したら涙が出てくるほどうまい。真ん中の大海老はモロッコ海老だったか名前を忘れましたが、肉がしっかりしていて味は穏やかで、これも違いがわかってうれしいものです。大きなのは手長海老ですね、スキャンピというやつ。これは身がほろほろです。ミソも甘い。しゃぶりつきました。ただグリルしてオイルと塩を振っただけなんですけど、参りました。料理って何なんだろうと、こういうのを食うと考え込んでしまいます。ってか、それは後の話で、食った時は昇天ですけどね。

んでもって次にでてきたのはホタテ貝。
scallops.jpg

なんだっけ、この緑の野菜。なんかのササゲの一種みたいな食感でしたが、こんな海藻ってあったっけ? あ、思い出した、これ、samphire サンファイアというセリ科の多肉草。うーん、英語でなんとかグリーンとかいったんだけど、それを思い出せない。それにグレープトマトに火を通したのとブドウの輪切りとを加えた淡く甘いソースです。つまりトマトウォーターベースなのかな? これはちょっと甘さが一面的でまあまあだったかな。こう考えると、ホタテってかなり料理が難しいかも。東京の「カンテサンス」でもホタテは首を傾げたし。ホタテ自体が甘いから、ソースはそれと別の方角から切り込まねばならない。青みとか酸みとか。そういう意味ではこれまたブーレイのパセリのオーシャンブロスは凄いんだなあ。

そんでお肉に入ります。別注文のウズラが次に来ました。
quale.jpg

マリネされていてウズラの臭みが消えていて、これもなかなかよいものです。醤油とバルサミコに漬けたみたいな味です。よく見ると胡麻もくっついてるね。フェンネルのサラダも合っています。

そして料理のコースの最後4品目はロースト・リブアイの薄切りをブリオーシュのトーストの上に載せ、ホワイトチーズのソースを垂らしたもの。リブアイというのはリブロース、肩に近いロースの芯の部分。「目 eye」に似てまん丸だからこう呼びます。リブロースはいちばん肉の旨味を感じられる部位ですね。わたしはこのリブロースの芯の下の部分、ちょうどホタテの貝柱と足の関係でいうと、貝柱をアイとして、足の部分に相当する部分、なんていうんだっけ? あそこが大好き。脂が指して肉質はホロホロで。でもアイの部分もこうして食べるとじっさいジューシーで美味いっすよ、これ。うふふ。
ribeye.jpg

おまけはラム。これもうまい具合に焼けてるでしょ? キャラメリゼでっせ、この色が、はい。左のはハッシュドポテト(ジャガイモの千切りのパンケーキ焼きみたいなもん)。上にはサワークリームですね。下のソースは刷毛で塗った赤ワインのリダクションのソースです。もう腹一杯です。
lamb.jpg

そして最後にデザート。この日はベリーのミルフィーユ仕立て。
desert.jpg

そんでもって、シェフがこんなにadorableなら、もう言うことはないじゃないですか。
名前はウェスリー・ジェノヴァート。じゃっかん28歳です。
cheff.jpg

週末はいつも満杯です。平日の夜が予約を取りやすいでしょう。
さて、ウェスリー君、このカウンター席という形式がおのずから要求するであろうアドリブが可能なのかどうか、それが次の注目点ですね。

**
追記)翌週に再訪問しました。ウェスリー君、先週来たと知っているのに、シェフズ・メニューは同じ内容で出してきました。ちょっとがっかり。つまりメニュー以外にアレンジするというシステムはアメリカにはあまりないのかもしれません。これでは何度も来るわけにいきません。間口はあれど、奥がない、ということです。残念。

March 02, 2007

カンテサンス

07-02-26
フレンチ(キュイジーヌ・コンテンポレーヌというらしい)
Quintessence

東京都港区白金台5-4-7
03-5791-3715

Danchu の小山薫堂さんというひとや日本のいあゆるグルメライターたちが絶賛しているので、そういうひとたちの「!」という表記がどういうものなのかを知りたくてお料理上手な鉄人主婦のみっちゃんとデートを兼ねて伺ってきました。白金台のプラチナ通りからちょっと斜めに入ったビルの1階にあります。スタッフは笑顔でとても感じがよく、店もゆったりと35席ほどしかないんでしょうか、ずいぶんと贅沢な気分にさせてくれます。

さて料理はお任せで15750円のコース(といってもメニューは白紙で、何が出てくるのかわからないという演出を施されています)。ワインペアリングで12000円。サービス料やコーヒー、水代を入れて2人で63000円もかかってしまいました。で、結論を先に言うと、33歳の岸田周三シェフは才気にあふれていて、さまざまな素材をさまざまに工夫して出してくれます。ただし、それらはどうもまだ「料理」になっていない。一皿一皿が「料理」のコンポーネント、エレメント、要素、部品、という感じで供されて、一皿としての全体像というか統合感とかいうところにまで行っていないのですね。

うーん、難しいな。どういえばわかってもらえるか。例えば、これはわたしも美味しいなあと思った「山羊のミルクのババロワに削ったアーモンドと百合根を載せ、フルール・ド・セルをぱらぱらして、そこにものすごくグリーニーなEVOOを垂らす」、という一品があって、これはまあそのオリーブオイルを味合わせるには最高なんだろうけど、でも料理かというとなんか違うような気がする。これはお料理の途中で「ほら、これ!」といわれてひょいとスプーンで味見をする、そんな途中経過みたいな、楽屋話みたいな、そんな感じが否めないのです。

いつもブーレイとの比較で申し訳ないけど、この山羊ミルクのババロワは、ブーレイではきっとアミューズのグラスになんかいろいろ組み合わせたもののうえにほわっと載っているもの、でしかない。そこから始まってスプーンで下に行くとまた別の何かが控えている、そういう料理になるんだ。

つまり、一皿に8手も9手もかかっていてそれの全体が統合された宇宙を提示する。複雑でいて、かつ素材のシンプルネスがバッティングすることなく共存している。したがって、客である私は食べ終わるまでその全体像を把握できない。
でも、ここカンテサンスではこれは3手で終わりなんです。わかっちゃうんだ。で、コストパフォーマンスとして、この日はデザート4皿を含めて13皿が出たんですけど、なんだか実際にはあれとこれを一つに盛り合わせれば料理3皿とデザート1皿、って感じなんですね。印象として。いや、量が少ないとかという話じゃないんです。なんちゅうか、皿の上に宇宙がない。皿の上に物語がない。皿の上に、ただ若くて痩せたメッッセージだけが載っている。

それが、素材をシンプルに、という哲学ならば、それはその好き嫌いの話になります。

では一品一品を取り上げましょうか。

マッシュルームビスケット.JPG

最初のアミューズとして茸のビスケットなるものが出てきます。薄切りした椎茸でしょうか、それをフリーズドドライめいた食感に乾燥させ、ポルチーニパウダーでまぶしてあるのかな。下にはほかの茸をクリーム状にしてビスキュイと挟んでいる。指でつまんで口に入れるとポルチーニの香りが広がって、アミューズとしてなかなかよい出だしです。もっとも、どうして2月後半に茸なのか、という疑問は残りますけどね。

次は人参の冷たいスープです
人参スープ.JPG

これも人参の風味がとてもよく、さわやかです。この倍の分量があってもうれしいな、といううまさです。

山羊ババロワ.JPG

ここで山羊乳のババロワが出てきます。すばらしいEVOOです。訊けば岸田さんが修業していたパリの「アストランス」で使っていたオイルだそうです。これをいかに味わわせるか、その結論がババロワだったんでしょうね。わたしも自宅では、リコッタチーズに美味しいオリーブオイルをぶっかけてフルール・ド・セルとクラックした黒胡椒を散らして夜食にしたりしている。ま、同じ発想です。日本じゃリコッタが高いから、カッテージチーズに上等なオリーブオイルをかけても同じ感じになります。ただ、これはEVOOを味わうためのものだけど、じつは上に載っていた百合根がうまかった!(これは「!」が付きます) 百合根って、そうね、卵とかにも合うんだから、クリームにも合うはずだわ。

次はフォワグラと赤ビーツのミルフィーユ?
フォワグラビーツ.JPG

添えはフェンネルの薄切りです。長ひょろいのはリンゴ。まだ冷たい前菜です。これはそんなにうまくなかった。フォワグラのパテがちょっと生臭い。もっとビーツを増やすかフェンネルを柑橘系で酸っぱくして添えたほうがよいでしょう。

温かい皿の1つ目がホタテと蕎麦の実の料理。
ホタテそば.JPG

これね、もっとうまくなるはずです。左のがホタテの貝柱に砕いた蕎麦の実をくっつけて焼いたもの。そばがカリカリに香ばしく、ホタテは限りなく甘い。でも、その甘さをカットするものがないから、一口目で食い飽きる。だらっとした甘さだけが残る料理になってしまう。酸味、あるいは辛味、なにか、もう1次元ほしい。甘さには普通は酸味ですけどね。
となりのは蕎麦の実のリゾットなんだけど、これもだらっとしている。ごっそり黒こしょうを入れてカルボナーラ風にするとか、青ネギを刻んで混ぜ込むとかしないと、うまさが立ち上がりません。

次はアンディーブのグリエかブレゼか、それに唐墨を削ったんですね。
うーむ、これ、付け合わせでしかないような気がします。唐墨の意味が判りません。アンディーブの苦さに、唐墨のほのかな苦さを重ねてみたのかなあ? これをするなら、アンディーブじゃなくて大根にしたらどうだろう。唐墨大根ってのが日本にあるんだから、その生の大根を焼いてみる、とか。
唐墨アンディーヴ.JPG

次は的鯛(マトウダイ)。
的鯛.JPG

向こう側は法蓮草のピュレ。
手前はインゲン(フレンチビーンズ)の上に春菊の泡のソース。
世のグルメ評論家はここの魚の焼き方を「断面に目が釘づけになりました! なんと! 虹色に光輝いているのです! 火を入れていると、ほんの一瞬だけ虹色に光を放つ瞬間があるらしいのですが、それを当たり前の如くやってのけるシェフの腕には感心させられますね。」と書いてるひともいます。でも、どうなんでしょう。もっと低温で柔らかく焼けるはずです。日本では刺身を食べるくせに、焼き魚はかなり火を通してしまう傾向があります。もっとも、これはソースではなく塩(フルール・ド・セル)で食べさせるので、どうしても日本の焼き魚に近くなってしまうのかもしれない。惜しいです。

次は鴨。
鴨ロースト.JPG

一羽丸まんまをローストして切り分けていて、中まで均一にきちんと焼けています、とメートルディが説明してくれました。向こう側はポロネギ。ソースは赤ワインとチョコレート。うーん、ゴードン・ラムジーのチョコレートソースが秀逸だっただけに、なんだか中途半端なソースでした。一般的に、ソース、弱いかもなあ、ここ。

で、料理の最後はデザートへのつなぎとしてモレーユ・マッシュルームのソテーにヴァン・ジョーヌ(黄色いワインという意味の強精ワイン)風味のチーズのコンテ。写真撮るの忘れて食べた途中のものです。ま、ふつうですね、これ。
モレーユ.JPG

デザートはマールのソルベにイチゴのタルトのデコンストラクシオン、そしてキャラメルのマシュマロでした。イチゴのタルトの茶色いのが、生地部分を液体状にしたもの。青い葉っぱはマージョラムでした。キャラメルのマシュマロにはバラの花びらの味のシロップが添えてあった。
マールのソルベ.JPG
イチゴのタルト.JPG
キャラメルのマシュマロ.JPG

で、最後に出てきたのがメレンゲのソルベです。これ、うまかったなあ。メレンゲを作ってそれを砕いてソルベにした。ピンクのはルバーブです。アメリカではよくパイにする酸っぱい茎野菜。
メレンゲのソルベ.jpg

というわけで、☆は一つです。
今後は、ここから物語を組み立てていくことを期待します。
ウェイティングはにこやかで好感でした。客リストをつくっていて、同じ客に同じものを出さないようにしているそうです。

February 20, 2007

銀座 久兵衛

07-02-16

銀座 久兵衛
☆(穴子への評価っす)
東京都中央区銀座8-7-6
03-3571-6523

銀座久兵衛は「北大路魯山人や志賀直哉などの著名人も愛した創業70年の寿司の名店。ウニやイクラを初めて寿司ダネにした店としても知られ、新鮮なネタに、砂糖を使わないシャリのうまさが絶妙」と某サイトに紹介されています。

銀座八丁目という立地もあってなんだかずいぶんと敷居の高い店のようですが、実際に行ってみるとそんなことはまったくありません。なにせ1階から5階まであって、4階が待合室?、店の主人はどうも5階で上客相手に握っているという話です。で、けっこうノリは大衆鮨屋です。客層もバラバラ。観光客みたいな人とか遠出の女性層とか、なかに会社の重役タイプの人も。私たちは3人で行ってその階の一番手に握ってもらっていたのですが、後半にそんな感じの重役おじさん2人が入ってきて「すいません」と声をかけられて、「(握り手を)先輩と代わっていいですか?」といわれました。で、「先輩」というのが先輩なんかじゃなく若手なわけです。こういう「松竹梅」を逆に呼ぶみたいなのって、なんだか下品だなあ、と思ってしまいました。ま、どうでもいいけどね。

で、予約は8時半だったんですが7時以降はどうも「予約」といっても予約ではないらしく、だいたいその時間に行けば順番に入れてくれるという感じ。で4階で待ちました。4階に、その魯山人の作となる書と陶器が飾ってあります。

わたし、魯山人って、言ってること書いてることは素晴らしいと思うんですが、つくってる焼き物とかはすごくいやなの。下手クソ。書だって、ひどい字です。勢いがあるとかいうそういうレベルですらない。下手クソ。バランスだって悪いし、捨ててあったらだれも拾わないだろうって、そんな字や陶器。それをみなさん、どうしてああも国宝級のように扱うのか、よくわからんです。で、それらがガラスケースで囲って飾っている。ま、どうでもいいですけどね。

お時間30分遅れで席が空きました。で、2階に通されました。メニューは、おまかせ12貫プラス巻物で10500円です。ふーむ、この根付け、微妙です。だって、アップステアーズに行けば料理食って鮨食べて75ドルですからね。しかしここは老舗の鮨屋。銀座に久兵衛ありといわれた店です。いっちょう、食してみようじゃありませんか。

で、中トロから出されました。ふうん。そうなのか。
中トロ.JPG

で、平目、縞鯵と続きます。
平目.JPG縞鯵.JPG

で、イカ。え、紋甲烏賊ですかあ? ふうん、いくら塩でっていってもねえ。
甲イカ.JPG

で、赤貝。これはふつうにうまかったね。
赤貝.JPG

次の車海老は生きてます。生で握るか軽く茹でるか、と訊かれます。これはぜったいに茹でたほうが美味しいのです。生きた車エビは硬すぎてね、甘みがなかなか出てこない。ところが軽く茹でる。これだと身もとろけるように美味しくなります。で、そのとおり、たいへんうまくできました。でも、かあさん、わたしのあの海老の頭はどこへ行ったんでしょう? 焼いて出してくれればいいのに、そんな素振りはありません。がっかり。
車エビ.JPG

続いて、ここが最初に鮨種として使ったという雲丹です。はい。ま、こんなもんでしょう。
雲丹.JPG

次は大トロ。うーん、わたしのはちょっと筋が入ってたわ。
大トロ.JPG

次が小肌。ふーん。こんなもんかな。
小肌.JPG

で、次が穴子。あらら、これはたいへん素晴らしかった。きょうはこの穴子を食べるために来た、と思うくらい美味しかった。で、どううまいのかというと、この穴子って煮穴子なんですよね。で、煮穴子っていうとふつうはぺったりふんわりと煮て、それでそれを焼いてほわっとさせたのを出す。ところがここの穴子はやや乾いてる。ぺったりとろりの穴子もうまいが、ここは煮てから一晩冷蔵庫で置いて適度に乾燥させるらしい。それでそれから焼く。なもんで、煮穴子というよりも焼き穴子の風情があるんですね。適度に歯ごたえがあって、それが口の中でうまみを引き出す時間をくれる。大きめの1つを半分に切り分けて、最初は塩で、後半はたれで食べました。どちらともよかった。なるほど。
穴子塩.JPG穴子たれ.JPG

そこから大根とごまの口直しに行き、巻物へと入る。鉄火、納豆、干瓢です。
で、べったら漬けが出て、〆はお決まりの卵。これもよかったですね。芝海老がゴッサリ入ってる感じの味の深さとい、食感もよろしい。甘さも素敵。
巻物.JPG卵.JPG


というわけで12貫(ほんとうは、貫というのは50gくらいのすし飯の量をいうので、そんなにデカイ鮨はいまはないんで1貫って正確には2個のことを指す習わしなのですが、それじゃあこれは24個の鮨になってしまいます。ま、ここは12個のことですけどね)、かなり腹いっぱいになりました。ただし、お吸い物はまったくいただけません。永谷園のお吸い物みたいです。しょっぱいし、だしも薄っぺらだし。これは一気に興ざめ。
吸い物.JPG

さて、どう評価すべきか。
鮨メシは砂糖を使っていないせいでしょうか、かなりきれいな味がします。ご飯自体もおいしい。

ただ、この店は、ふつうにおいしい、というだけのような気もします。もう1つ気づいたのが、鮨種があらかじめ切ってあったということ。いわゆる鮨ケースというのはないんだけど、奥から人数分の鮨種が切って盛られてやってくる。それを目の前で握ってくれる。これって、どーなの? って、高級店なら思っちゃうんじゃないかなあ。でも10500円というのは高級店ですよね。

ああ、それでいま気づいた。鮨のタネがね、最初に口に含んだとき、なんだか、変な匂いがするんだ。なんだろうなあって、いままでわかんなかった。ヘンというのは、ただしべつに悪くなった味ではない。いま書いててわかった。これ、この奥で切り分けて出してくるときに使っている木のお盆のせいじゃないのか? いや、記憶が曖昧だけど、木のお盆じゃなかったっけかなあ? 違ってたらごめん。でも、舌につながる記憶の果てから思い出されるのはなんだかきっと杉の香りっていうか、生木の味なのでした。

というわけで、あの穴子がなかったら、☆は付かないでしょう。これが高級大衆店なみの5000円(税込み5250円か)だったら文句なく☆1つあげるにやぶさかではないのだけれど。ま、場所代かなあ。

おまけ。
これはお土産の穴子の棒鮨。こちらの酢飯は砂糖を入れて穴子の甘さと調和させているんですって。で、干瓢とか干し椎茸とかが煮て細かく入ってもいる。持ち帰ったわたしの新聞社時代の大先輩は「とてもおしいかった」とおっしゃってました(じつはこの日の代金も多くを払っていただいたので☆がいくつだのと偉そうなこと言うの恥ずかしいんですけどね、あは)。わたしもこういうグッと押した鮨は好きです。今度機会があったら食べてみたいですけどね。
穴子棒鮨.JPG

February 17, 2007

やくみや

2007-02-14
小料理・飲み屋
やくみや

東京・新宿歌舞伎町1-1-7-2F(ってか、ゴールデン街の並びの花園五番街の花園神社寄りです)
090-6702-4879

久しぶりにゴールデン街に入り込みました。するとあなた、いまゴールデン街、再開発っぽいってか新しいお店がたくさんできて、すごい様変わりです。話には聞いていましたが、いやはや、とてもトレンディー。みなさん相変わらずのちっちゃな店構えですが。

で、ここはあの乾きものしか出なかった時代のゴールデン街からは考えられない料理屋さんなのです。とはいえ店は2階にあって5〜6席だけのカウンター。3階にも6〜7人は入れるちょいの間があるそうですが。
そこに火器を持ち込んで、なんとちょっとした天ぷらなんかまで揚げてくれます。

カウンターの向こうで、林佐和さんという清楚な美人が、美少年のようにハンサムな動きで小アジの南蛮漬けを盛りつけたりカワハギを肝と刺身にしてくれたり鶏を柚子胡椒でグリルしてくれたりイワシの梅干し煮を小鉢盛りしたり、コゴミと蕗の薹と山ウドを天ぷらにしてくれたりセロリのおひたしを出してくれたりしてくれます。そしてそのそれぞれがきちんと日本料理の基本に忠実で(きちんとだしをとってるしね)、そこにさらに佐和さんの主張がさりげなく乗っている。

いちいちうなづいて食べたその中のイワシの梅干し煮は、ほんとに梅干しの味がすっと表に出てきていて、ふつう梅干し煮とはいっても隠し味程度にしか梅干しを使っていない遠慮したような臆病で凡庸な梅干し煮に出逢うことが多いのですが、佐和さんのはちゃんと梅干しなのです。それも押し付けがましくない程度にすっと立ち現れる梅干しの味。梅干し自体がおいしいんだね。そういったら、友達のおかあさん?だかがつくってくれた梅干しだそう。その他、その日その日で冷蔵庫から見繕ってきれいに料理を目の前で作ってくれる。聞けばやはり何軒かの料理屋さんできちんと働いてきた人なんですね。たんなる自分流ではない背筋の通り方。

お酒もおいしいのがおいてありますよ。はやりの焼酎も選んで各バラエティがそろえてある。日本酒もいい。ビールはハートランドの生をクリームのような泡で蓋して注ぎ入れてくれます。おまけにワインまで美味しかった。カリフォルニアのシラー「Heart of Claudia」、ボトルで3500円だって。よく見つけてきたねー、こういう値段で出せる美味しいワインを。それだけ取っても誠実な店だということがわかります。

こういう店は誠実な人しか行ってはいけません。大切にしなくてはならない店です。佐和さんとそのパートナーの女性の2人が切り盛りするこの店に、あるいはその2人に、意地悪をするやつはオレがゆるさない、ってそんな気分になる店です。ええ、わたし、完全に惚れてしまいました。はは。

January 24, 2007

いちむら Ichimura

2007-01-22

いちむら Ichimura

1026 2nd Ave.(Bet 54th & 55th)
New York, NY.
212-355-3557

とてもたたずまいの正しい店です。お鮨屋さんはオープンキッチンですので、しかもここは例の鮨の冷蔵ケースが目線を遮っていないのでまな板がカウンターと同じ高さで見えています。店主の市村さんの一挙手一投足(脚先までは見えないが)が丸見え。市村さんの動きは優雅です。まな板に置く包丁の位置がきれいです。それだけでちゃんとしたところに来たね、とわかります。

聞くとご出身は茨城県下妻市。80年に拉致されてNYに来た、ととても冗談を言うとは思われない穏やかな口調でおっしゃいます。れいの有名店「竹寿司」で働いてきたそう。ここは「ニューヨーク竹寿司物語」という本になっている店です。NYで最初の鮨屋さん。いろいろな苦労とお鮨大好きなアメリカ人の反応が記されています。

さてその市村さんがここに店を出したのが2003年。前は「瀧乃」という天ぷら屋さんがあったところ。
店はカウンター、テーブル席とも15席ずつほどのこぢんまりした構えです。

つまみは頼まず、即、鮨を握ってもらうことに。お任せでいただきました。
ヒラメ、金目鯛、真鯛、甘エビ、コハダ、〆鯖、中トロの漬け、炙りトロ、イクラ醤油漬けと雲丹の軍艦、ネギトロ巻き、かんぴょう巻き、穴子白焼き、煮蛤、卵、鯵、さっきより深い中トロの漬け、真鯛の昆布〆

あら、思い出すまま書き出してみると、けっこう食ったなあ。書き忘れもあるかも。ははは。

金目が甘くておいしかったです。
コハダの塩加減がよかった。
で、鯖の〆方が最高。

〆鯖は、いつごろからでしょうか生っぽく浅く〆るのが流行ってきて、それはそれでよいのですが、この「いちむら」の鯖はきちんとしっとりと〆てあって、やわらかくて口の中でとろけます。やっぱり〆鯖ってこういうもんだよなあ、って思い出しました。薄めの二枚が酢飯を包むように握られています。その薄目の二枚というのもこのしっとり感のカギなんでしょう。美味いです。

あとはイクラの醤油漬けの軍艦のその海苔がおいしかった。雲丹と海苔は互いの甘みが入り込んじゃってよくわからないんだけど、醤油漬けのイクラって、海苔と合うんだよね。その海苔がこうも香り高かったら何をかいはんや。

かんぴょう巻きのかんぴょうもしっかりとキャラメル色で、山葵はNYの鮨屋のあの青々した山葵だけど、その山葵の味と絡まって美味しかったわ。

酢飯の酢の具合がちょっとゆるめです。でもそれは好みだからなあ。私はもうちょっと酢が感じられるのが好き。ネタにも拠るけど。でもご飯の炊き具合が硬くなくやわらか過ぎもせずちょうどいい。これも好み。

いっしょに行ったコータさんがワインがいいと言うのでシャブリ(45ドル)を飲みました。このシャブリも悪くなかったです。鮨とも合わなくもないワインがあることはある。まあ、「合う!」ってほどではないんだけどね。NYじゃやっぱ、ワインのほうが安いし。

というわけで、最後に「金目鯛や鯖がおいしかった」と口にしたら、市村さん、「あ、今日の味は今日で忘れてください。今度いらしたときにまたおいしいと思えるものをお出ししますから」と。なるほどね、一期一会ですか。とてもいい気持ちで店をあとにしました。

お勘定は2人で税金やチップを入れて計320ドルでした。じつに納得できる値付けです。ごっそさんでした。

WD~50

2007-01-21
ニューアメリカン
WD~50
料理 ☆
デザート ☆☆☆
50 Clinton St.
New York, New York
212-477-2900

いまやニューヨークで最もヒップなレストラン街となっているクリントン・ストリートにこのレストランはあります。ロウワーイーストサイド、ハウストンの東端に近い位置から南に伸びる一角です。この一角の再開発のきっかけは1999年の71 Clinton Fresh Food というレストランでした。そこを父親とともに開いたのが今回、wd~50でシェフを務めるWylie Dufresne(ワイリー・デュフレスヌ)です。wd~50はもちろんそのシェフの頭文字と住所ナンバーから来ています。2003年4月の開店だそう。デュフレスヌはいま36歳、ジャン・ジョルジュでスーシェフを務めていたといいます。うーん、わたし、ジャン・ジョルジュ、あまり(というか、正直言うとまったく)感心したことがないの。

アップステアーズの真ちゃんと2人で行ってきました。NYは寒い日が続いています。6時半の予約。店構えはなんとなくちゃち。大学祭の模擬店みたいな感じは店に入ってすぐの白木のバーやクロークがベニヤみたいに見えるからでしょうね。でもメニューはずいぶんと強気です。アペタイザーが15ドル平均、メインは30ドル。ちょっとしたグランメゾンみたい。で、やっぱりここでも105ドルのテイスティングメニューを頼みました。それに65ドルのワイン・ペアリングです。

で、結果は、というか経過は、料理はほとんどディフォーメイション(変形)とディコンストラクション(脱構築)の「エル・ブリ」スタイルです。やっぱりフェランの革命は大きいんでしょう。でも、こういうスタイルを一度知ってしまった人たちに、果たして最初の「ええ? 何、これ? どうしてこうなるの? うわぁ、すごい、面白い!」っていう感動は、どうなんでしょう、再現されるのでしょうか。どっちかっていうと、ああ、頑張ってるなあ、ってなってしまうんですよね、私の場合。で、最終的には、それで美味いのかどうか、ということなんですよね、やっぱり。それに、たとえフェランがやっていないこと、やったことないこと、知りもしないことでも、こういうのって、あ、エル・ブリだなあって思われちゃうでしょ。それ、かわいそうですよね。たとえば英国バークシャーにあるヘストン・ブルメンタールの「ファット・ダック」。ゴーミヨーで19点、ミシュランで3☆というすごいレストランだけど、フェランがいなかったら、もっとすごいと思われてたろうなあと。

ま、御託を並べてないでとっとと食い始めましょうか。まあ、すごいってほどじゃないけど、まあまあ美味いですよ。まずくはない。でもね、あとで書きますが、ここはデザート。ペイストリー・シェフのアレックス・スッテューパック(Alex Stupak)ってのが、これは私、参りました。素晴らしい。26歳です。うーむ。

ということで、最初はどかんと「フラットブレッド」が配置されます。これ、どっちかというとインドのぱりぱりパンに似てるものすごく薄いクラッカーですね。
100_0585.JPG

で、ファーストコースは烏賊ヌードルですって。その上の褐色のヌードルはオリーブのジュースを固めた麺ですね。そこにパラパラとオレンジ・ソイル(乾燥オレンジの粉末です)がかかっていて、向こう側の緑のはアルグラ(ルッコラ)のペーストと呼んでます。烏賊はスクイッド、ちっちゃなヤリイカですね、それを湯がいて千切りにした。うーん、ヌードルには日本人は驚かないなあ。これではアルグラのペーストの味が際立って緑っぽくておいしかった。アルグラとオレンジって合いますからね。でもそれだけかなあ。

100_0587.JPG

2品目は、これ、目玉焼き(サニーサイド・アップ)。

100_0590.JPG

笑っちゃうけど、おいしいです。何かというと黄身は人参ジュースになんかの凝固剤を入れて丸く凍らせる。で、室温に戻すと表面だけが固まっていて形をホールドする。下の白身はココナッツジュース。それに上手い具合に寒天みたいなのを混ぜて、これ、ほんと白身の食感にそっくり。上にはカルダモン塩とオリーブオイルが掛かっています。人参ジュースがおいしいの。でココナッツの味と合わさって、いいコンビネーションです。これは買いですね。

3品目は、これ、わからんでしょ?

100_0592.JPG

料理名は「フォワグラ・イン・ザ・ラウンド」、つまり球形のフォワグラ。この薄い肌色の球体がフォワグラのペーストをメソセルロースで固めたやつね。黒っぽいボールはちっちゃな麦チョコ。緑はクレソンのピュレ。オレンジ色のちっちゃな粒は、あられです。食感および塩味の加味用ですかね。で、底にはバルサミコをフリーズドライして粉にして丸くしたのがちょっと入ってる。つまりフォワグラのチョコ風味バルサミック和え、って感じね。でも、よくわからん。フォワグラの味も薄くて、最初にちょっと感じるだけで、よくわからん。なんだか、何を言いたいんだか、わからん。まずくはないが、うまくもない。ふうん、って感じ。

次。

100_0595.JPG

向こう側は冷たいカニ肉のサラダロール、それにミントの千切りが載ってる。手前はあれよ、寿司屋のガリを天ぷらにしたやつ、下に刷毛で塗ってるのは発酵ブラックビーンのペーストね。豆鼓かね。もちょっとまろやかな味をしてたからブラジルの黒豆かしら。で、どんな味かって、想像するとおりの味ですよ。黒豆ペースト、ちょっと醤油っぽくていい感じ。でもそれだけ。

あ、真ちゃんはカニとエビ類がだめなんで、なんだっけ、スモークした鰻にブラッドオレンジのゼストが載って白い千切りは黒蕪(皮だけ黒いので切ったら白、何の意味があるのか?)。で、おかしいのが黄土色のゴミみたいなの、これ、鶏皮のペーストなんだってさ。味、けっこう強くてしょっぱかったです。

100_0598.JPG

次は5品目で、これ、ちゃんとした一品料理のたたずまいでした。
100_0599.JPG

スモークタンみたいな、ピクルドタンと言ってますがね、タンのハムみたいな感じのスライス。やわらかくて優しい味です。で、キューブはマヨネーズを揚げたんだって。これも凍らせて成形してパン粉つけて揚げたんだろうね。黒っぽい刷毛目はトマトのピュレにモラーシス(糖蜜)を混ぜたもん。モラーシスの味強すぎ。これはチョコレートとメキシコの乾燥ポブラノの「アンチョ」チリなんかを混ぜたほうが合うような気がしますね。左の端にはね、手前がロメインレタスの細かい賽の目切り。向うがレッドオニオンの乾燥粉末ね。

次はミソスープ、セサミヌードル、って言ってますが、味噌ではなくてお澄ましの濃いのですね。
100_0605.JPG

ジャパニーズスープをみんなミソスープと呼んでしまっているという、初歩的な誤解です。かわいいもんですが。で、胡麻ヌードルってのはこれ、プラスチック容器に入っていて、ちゅーっと押すとにゅるにゅると出てきて、スープの高温で固まるという仕組み。スープ、コンソメみたいに濃厚で悪くなかったです。だ〜か〜ら〜、ヌードルにはわれわれ、驚かないんだってば。

100_0606.JPG

次のはラングスティーン、つまり手長エビね。隠れてて分らんだろうけど、このエビ、おそらく50度くらいで加熱処理してて食感が生っぽくて甘くて透き通ってて、おいしい。べつに真っ赤なハイビスカスペーパーなるものは甘酸っぱくアクセントをつけるもんだろうけど、なんかもっと違うもののほうがいいなあ。エンダイブも三角に切って湯通しして冷やしてエビの色と食感に合わせてます。でね、下に敷いてあるソースみたいなのはソースじゃなくて、ポップコーンのピュレ。よくまあ考えるわね。ホント、ポップコーンの味がする。

真ちゃんはエビがだめだから、タルボットです。量がほんのちょっぴり。焼いてあって三角に切って、写真では右奥に重ねてあるのがそう。
100_0609.JPG

真ん中のオレンジはコーヒーとサフランのドレッシング、緑のはネギ風味のブルグァ(Bulger=小麦を半ゆでにし砕いて乾燥させたもの)。白い棒状のはサルシフィ(西洋牛蒡ですね)。ここね、さっきから言ってますが、野菜の料理の仕方が上手い。ちゃんと野菜の味がするのさ。それは買い。

100_0613.JPG

で、料理の最後はスクワブ(雛鳩)の胸肉のビーツまぶしロースト=右端。白いのはココナッツ・ペブル(小石)と。それに混じってる赤い塊はカタバミだっていってた。うーん、微妙な味でした。

というわけで、面白いっちゃ面白い。がんばってるっちゃがんばってる。だから☆あげるのにやぶさかではない。でも、ここはテイスティングより、アラカルトでちゃんと食べた方がいいのかもなあ、って思いました。でもふとこのロケーションに思い及ぶと、ここクリントン・ストリートは圧倒的に若者たち(20〜30歳代?)が多いんだ。するってえと、やっぱりこういうの、そういう人たちにはすごく面白いし刺激的なんだろうなあと思うのでもあります。店もそういう作りだしね。

とはいえ、しかし!
しかし!

次に出てきたデザートで私はぶっ飛びました。
100_0621.JPG

これ、真ん中の棒状のは柚子のカード(チーズみたいに牛乳を凝固させたもの)で、緑色の粉末やクリームはピスタチオなんだけど、驚いたのはこの白い泡です。何の味がしたと思います?
口に含んだとたん、え、これ、あれだよ、あれ、クリスマスのときのクリスマスツリーの匂いだよ。あの、樹脂の匂い。そんなの、食べるの? 聞いたら、spruce(トウヒ)風味のヨーグルトだって。ひー。
いや、驚いたのは「そんなもの」という意味だけではなく、柚子のカードとピスタチオと、そうしてそこにやや苦みのある木の香りを混ぜ込んで、出来上がった全体の味の、なんともいえぬほど刺激的かつ控えめな雄弁さ。これはすごい。甘さも絶妙。揮発性の樹脂のもたらす効果の、いやはや、参りましたね。寡聞にして、私は木を使った食べ物をこれまで知りませんでした。あ、シナモンは木といや木だけど……。あと、木の実もそうか。でも、いわんとすること、わかるでしょ?

続くコーヒーケーキ、リコッタの泡、マラスキーノチェリーのピュレ、チコリのアイスクリームの盛り合わせも、あーた、いいじゃありませんか。
100_0623.JPG

最後は生チョコの捻れたのにアヴォカドのピュレ、ライムのソルベ、そこにすっと一直線でリコリスのシロップが流れています。
100_0625.JPG

組み合わせの妙。おいしい。素晴らしい!
このアレックス・ステューパック、メニューを見たら他に「松の木」や「サッサフラス(米国のクスノキ)」のエキスを使ったり、梅干しも使ってるなあ。で、デザートの3コースメニューが25ドル、5コースが35ドルって! それだけを食いにここに来る価値あり。私はそのアレックスのデザートのために再訪いたします!(あらら、ウェブサイトの写真見たらかわいいじゃないすか。この日は日曜でいなかったのだ)。こいつは天才です。
headshot_alex.jpg

あ、ワインを書くの忘れた。ペアリング、あまり合ってないのもありましたが、おいしかったのはホワイトバーガンディーです。Pouilly-Fuisse のVV "La Croix" Robert-Denogent 2004。キャラメル、バター、スモークの風味が程よかった。あと、スクワブと一緒に出されたオーストリアのZweigelt Heinrich 2003もよかったです。私ら結構飲んだんで、65ドルの元は充分取りましたね。はは。

October 23, 2006

202 Cafe

2006-10-21
ブランチ・カフェ・バー
202 Cafe

Chelsea Market内
75 Ninth Ave. (bet. 15th & 16th Sts.)
Manhattan, NY 10011
TEL ; 646-638-1173

ここを訪れたのはひとえにこのカウンターでバーテンダーをやっているステファン(シュテファン)・トゥルマーのおかげです。彼はオーストリア人。お兄さんのアルバート(アルベルト)がブーレイ/ダヌーブで働いていた縁でニューヨークに来て、あの「座って300、食べて600、飲んで900ドル」で有名なタイムワーナーの寿司マサのバー・マサでバーテンダーをやってNYタイムズなどに注目され、その後、ブーレイ・アップステアーズのオープニングの半年間をあの混沌の中でマネジングを兼ねて任されていた人です。

このステファンのカクテルを求めてやってきたこの店、不思議な雰囲気なのは何というんでしょう、ブティークというかセレクトショップというか、店内には服やインテリア用品やキッチンウエアなどが売っていて、売り場面積としてはそっちのほうが大きいかしら。その空いた部分でレストランをやっている。ここはオリジナルの本店はロンドンにあるそうで、「202」という店名もじつはそのロンドンの住所からだそうです。

それで、ステファンはわたしがカウンターに座るといつもわれわれ日本人から知った「オマカセ」というシステムでカクテルのコースを振る舞ってくれます。これがいつもインプロヴィゼーションで、季節に合わせて果物を変え、酒を変え、それがいろいろと5杯も6杯も手を替え品を替え出されるものだから、お勘定のときにはすっかり出来上がっているという次第。みんな蒸留酒、リキュール系ですんでけっこう強いんですよ、飲み口はフルーツなんかですっごく飲みやすいんですけど(笑)。

ステファンはニューヨークでも5本の指に入るバーテンダーです。
店には日、月の休みを除いて4時から入るようです。
カクテルのお任せコースなんて、いいアイディアでしょ? メニューにはないけれど、酔っぱらう覚悟ができているならカウンターに座って「オマカセ、プリーズ」って言ってみたらいかが? おいしいんだから、これが。

この日はなんと、ハロウィーンが近いのでカボチャのカクテルを作ってくれました。これがあなた、いやはや、カクテルとして完成品です。うまい。シナモンとカボチャのピュレと、あと、わかりません。でも、それらをシェイクしてライムの酸味で締めるんですね。いやいや、おみごと。これからは寒くなるから温かいカクテルを作ってくれるんじゃないかな。オーストリアとかドイツとかにもあるでしょ、そういうの。ワインをあっためたやつとかね。

ちなみに、ここはNYのベスト・ブランチを提供するレストランとしてタイムアウト誌がお墨付きを与えています。でね、ほんと、定番のブランチもいいけど、夜もバー・スナックがすっごくきちんとしているんですよ。おいしいの。フィッシュ&チップスとかクロックムッシューとか、それにカレーライス!

シェフは女性だそうです。バースナックだけではなく、ちゃんとしたポーションでのディナーもあります。日替わり(?)週替わり(?)の魚料理も、こういっちゃなんだが、すごく考えられていて驚くくらいうまいんですわ。カリッと皮目を焼いた中がほっくりのシーバスなんかがブロスなんかに浮かんでいるとかね。これはカフェの片手間の料理じゃありません。隣のブッダカンなんかに行くより、わたしはこちらをこそ料理と呼びたいです。おしゃれなチェルシーのはずれの、おしゃれな空間。ふと立ち寄るリストに入れておいてよい店でしょう。
☆の価値はあります。

October 22, 2006

大賀 Oga

2006-10-21
ジャパニーズ・タパス
大賀 Oga
☆(暫定)
143 E. 47th St.
(bet. Lexington & 3rd Aves.)
Manhattan, NY 10017
TEL;212-308-5688
http://www.oganyc.com/

先日、エル・ブリのフェランご一行がNYにいたときに、どこかジャパニーズでお薦めのところはないかと訊かれて、いくつか挙げたうちの1つのここにアルザックの親爺さんともども訪れたらしく、まあ、ジャパニーズ・タパスという位置づけに興味を惹かれたのだと思われ。で、そのあとにここのシェフからわたしにまでお礼の電話が来て(どうもフェランがわたしから聞いたと言いおいたらしい)「フェランが興味を示していた糸唐辛子と針海苔をぜひお渡し願えないか」と請われ、わかりました、では、ということで行って参りました。

今年の初めのオープンらしく内装も新しくきれいでしゃれており、常駐のシェフは大賀さん本人ではなく(ボストンの本店と行ったり来たりの日々らしい)杉浦さんという若い方でした(って後から聞いたらもう四十代ですって)。でメニューを見ると、寿司(巻き物中心)と、温かいタパス、冷たいタパスというふうに並んでおるのですが、一見まあ居酒屋料理なのですね。そうした小鉢、小盛り料理をアメリカ人にもわかりやすく「タパス」と称したのでしょう。さてそれらを頼んでみようかと思っていましたらシェフが中でなにか特別にあしらえているそうで、それらを待つことにいたしました。ちなみにこの日は午後にチェルシーで「ジャパニーズ・レストラン・ショー」という見本市みたいなのが催されていて、プライベートパーティーで急遽お休みとなったアップステアーズのシェフ三上さんに誘われてそこに出向いた後、そのまま2人で(一軒を挟み)流れた次第。そこに同じくアップステアーズのシンちゃんも合流して、さらにはエル・ブリつながりであそこのスーシェフをやっていたマウロという若いイタリア人シェフも呼んじゃって、4人でわいわい、となりました。

で、杉浦さんの厨房から出てきたのは

自家製豆腐にマリネしたキノコをちょこんと飾って柚子ポン酢で食すもの
和牛のタルタルを紫のアンディーブにちょこんと載せて、梨のソースとアンチョビのソース(コンディメント)でそれぞれ食すもの
カブとサツマイモの揚げ出し
アーティチョークのすり流し風松茸のスープ

そのほかにメニューから頼んだもの

スパイシー・ツナ・トスタード(トスタード=揚げたトルティーヤ=の代わりにすし飯を海苔で挟んで天ぷらに揚げて、その上にタイの辛味調理料のスリラチャで和えたスパイシーツナをのっけたもの)
イカとイクラの巻き物のウニ載せ
アヴォカドとイカ・エビのコロッケ
ジンジャー・ラム(ラムのロースを黒ごまでまぶしてパン・ソテーし、生姜と醤油のソースで食すもの)
なす田楽(三種のソースで=黒、黄色、緑、ってことはホイシン系の甘味噌、西京+卵かな、それから緑は忘れた)
茶碗蒸し(とはいえ、豆乳の浅いカスタードで、おまけにモッツァレラがかかっていて、そこにイカやエビの表面に突き出しているところをトーチで軽く焼き付け、その上に鰹の出汁あんを掛けたもの)

そりゃね、特別料理含みですからおいしかったです。
とくによかったのはアーティチョークのすり流し風松茸スープ。これは絶品。
もうひとつは、上記の茶碗蒸しですね。これは面白い。焦げ味とモッツァレラが上質なあんの出汁と絡んで素敵。いいねえ。
あとひとつは、カブとサツマイモの揚げ出し。なんちゃないけど、野菜がほっとします。こういうの、けっこう発想自体が難しいのですよ。
この三品は素晴らしかったです。どこに出しても恥ずかしくない。

いずれも杉浦さんの味付けは押し付けがましくなく、塩加減もちょうどいい軽さ。ただ、お寿司(巻き物)はちょっとまだかな、という感じがします。アメリカ式のいわゆる変わり巻き物(変形)なんですが、何が言いたいのか、よくわからない。2種類しか食べてないですけどね。ウニ、イカ、いくらの巻き物は、みんなグチョッとした食感ですんで、キュウリとか沢庵とかなんか、カリッシャリッってのが入ってないとフォーカスが定まりません。トスタードのほうは、うーん、すし飯の天ぷらっての、成功してないんじゃないかしら。
でもまあ、本日は、☆1つ、という、とてもいい感じでしたが、“特別料理”込みということで、☆の評価は暫定とします。で、何気なくまたふらっと来てメニューからほかの面白いものを頼んでみます。

というところで、店の話は終わりですが、本日はそのほかにとても「なんだかなあ」という経験をしました。

お店に「ジャピオン」と「フロントライン」というNYの日本語フリーペーパーのライターと称する女性が2人取材(かそのまえの取材下調べ?)に来ていたらしく、杉浦さんが「エル・ブリのシェフが来ている」とマウロのことを伝えたのでしょう。そうしたら「エル・ブリのファンですってことで、ごあいさつをしたがっているんですけど紹介してよろしいでしょうか?」って杉浦さんから申し出が。「はいはい、いいですよ」と応えたんですが、その後にやってきたこの女性2人組、私たち他の3人は完全に目に入らないらしく、会釈もなにもせずにそのままマウロだけに名刺を上げたり話したり。その間3分ほどでしたが、私たちの席はその間じゅう、宙ぶらりんになるのです。

舞い上がっているせいでしょうけど、これは日本人によくあるいちばん悪い癖です。いっしょにいる人たちを無視する。眼中にない。あいさつもしない。ジャーナリスト失格以前に、いっちょまえのオトナとしてどうなの、それはすごく失礼なことではないのでしょうか、ジャピオンさん、フロントラインさん。

取材者というのは、周囲の空気を読めなければダメなのです。
ほんと、ニューヨークの日本人社会にはこうした自称ライター、自称ジャーナリスト、自称カメラマンというのがうじょうじょしていて、同じ肩書きで働く者としてときにとても迷惑ですらあります。もうちょっと修行してよね。そうやってあちこちでジャーナリズムの評判を落とすわけだからして、ことの失礼はキミだちだけの問題ではないのです。

October 06, 2006

つる屋(松坂牛肉焼き)

2006-9-20

松坂牛肉焼 つる屋

〒150-0002
東京・渋谷2-8-1 森ビル1階
TEL 03-5467-2989
http://2989.cc

つる屋.jpg

いやはや、ここはなんともレーティングしにくいなあ。とんでもない店です。とにかく産地直送の松坂牛。ホンモノっすよ。特選松坂牛コースってのが5250円。これ、普通ならステーキ1枚も無理。なのにおそらく肉の等級付けで上から3番目とか4番目(っていってもすごいんだよ)の極上のサーロインからリブロースからヒレから真玉から鞍下からカルビから内蔵から何から何までどんどん来るわ(薄くなんかないのよ!)、おまけにキムチやナムルも付く(けど韓国焼肉屋ではない)。いったいどうしてこの値付けでやっていけるのか、私にはどうしても理解できない。店長さんは(これがまたあーた、岩城滉一から嫌味を除去したようなイケメンでさあ!)、産地でお肉屋さんをやってるっていうんだけどね、どうしたって無理だと思うような充実ぶり。いやいや、この日は男女7人で行ったんだけど、そのせいもあるのかなあ、きっとおまけ付きだよなあ。そうじゃなきゃ信じられない。しかし楽しかった。ワインだってガバガバ空けて。ワインも5000円くらいからあります。

でこれらの松坂牛を備長炭で焼いて食す。
まずいわけがないですわ。

つまりね、どういうか、ここは北海道の素晴らしいお寿司屋さんみたいなんだなあ、って思いました。
とにかくネタ勝負。
もちろんネタを選ぶ眼力・技術は必要。しかしそのまま出す。その点では、この店は料理屋ではなく食べ物屋なんです。超一級の。それがコンセプト。だから畢竟、わたしのこのサイトでは☆はたくさんは付かない。
しかし、今回のこの1個の☆は、肉が食べたい、それも刺しのたっぷり入ったとろとろ牛を、ってひとには4つ☆みたいなもんです。最高ですわ。

ただし、こういっちゃバチが当たるが、ここを堪能するには体力というか、胃力というか、気力というか、出てくる松坂牛の意気に負けない根性が必要ですね。心構えなしに食べると負けます。

まあ、ほんと、すごい店があるもんだ。
お楽しみあれ。

January 18, 2006

海味(うみ)

2006-01-18
海味(うみ)

東京都港区南青山3-2-8
TEL 03-3401-3368


05年5月に改装して、というか、それ以前からモナミのとーちんがぼくを連れてきたいっていっしょけんめい予約を取ろうとして取れなかった店に、本日やっと行って参りました。評判に違わず、とても気持ちの良い店でした。最初に気づいたのが、カズミさんという女性フロアスタッフ(寿司屋ではなんと呼ぶのが正しいのだろう)? まあ、カウンターが10席、ボックスが4人掛け2つというこぢんまりした(大将が難なく目を届かせるできる範囲の)店で客をあしらう女性の方が肌身離さず抱えている、あれは朱塗りの漆の盆なんでしょうか、まあ、プラスチックのお盆であってもいっこうにかまわないのですが、それがね、朱がこすれて削れて中の黒地が出て、しかも縁が欠けてすらいるそのお盆がね、まるでアフリカはヌーバの歴戦の勇者の盾のように見えたことです。

訊けば大将は13年、ここで働いているとか。最初の7年はまえの女将さんの店だったとかで、それ以前を含めればこの「海味」、けっこうな歴史を持っているんでしょうね、きっとあの御盆は、そういう時を経ていまここにあるものなのだと推測できます。いいねえ。お守りのようだ。

大将、その脇とも、いまの東京のトレンドなんでしょう、坊主頭。
そうして最初に先付けとも前菜とも当てともつかずに差し出されたのが、本日は出汁で煮た牛蒡に白胡麻を擂ったのをまぶしたのと、虎杖浜のたらこ。このたらこ、腹身のままぽとんと出汁に落とすんだって。それですぐ火を止めて、なんちゅうの? 表面の2mmだけうすっらと白くなる。で、結果、口に含むとさ、カラスミみたいな濃厚な風味がふと舌先をかすめるのよ。でもたらこ。しょっぱさの微塵もないたらこ。いいんでないかい?

次はタコですね。これを柔らかく煮て、エゴマと塩で食べさせる。さて、このエゴマ、そう効果的かというとそうでもない。食感だけで風味がそんなにタコと重ならないんだ。タコってね、塩と黒胡椒が合うんだけど、でもそれって和食じゃないか。

さて、「本日、食べていただきたい魚がたくさんございます」という、おそらくは大将長野充靖さんの決め文句なんだろう、そこからお任せが始まります。

お寿司屋さんて、2系統あると思うんですよね。
1つはね、北海道です。じつは今回も札幌の知り合いの(NYの寿司田で働いていた2人の職人さんが出した店)「すし空海」という店に行ってしこたま食ってきました。ここはね、とにかく素材なんです。北海道って、素材がいいから、そのまま出してそのままを食わせてそのままをうまいと思わせる。空海もそういう店でした.いやいや、空海のタチ(タラの白子)のうまさと言ったらあなた、ふぐの白子はわたしゃこれから一生必要ありません。

もう1つはね、江戸前です。素材が悪いから(って昔の話ですけどね、江戸時代とか)火を通す酢に漬ける醤油に浸すツメを垂らす、そういうふうにして加工食品ですわ、もう。その加工を「腕」と言った。

でね、わたし、生まれも育ちも北海道なもんですから、前者に関しては、よほどのことでもない限りは非日常的な感動というものは難しいんです。だって、けっこう食ってきてるからねー、それもいろんな感動のシチュエーションを伴いながらさー。

でね、後者のね、感動は、じつはわたし、あの神宮前の「おけいすし」が好きなんです。
おやじさんは一回、えっと、その二番手のなんたっけ、あの人、名前? あの人が3回かな。そんで、昨年初めに、その下の新しい人で、ユウマくんっていったかなあ、けっこう若者系イケメン(またその話だ)。いつもおけいすしには唸らされる。値段も結構リーズナブルだしさ。

で、さて、こんかいの「海味」、長野さん、苫小牧なんだって。出身。で、いま40歳くらいかなあ、ノリノリの仕事人ですわ。そんで、ここは北海道型の寿司のトップクラスだって感じました。いや素材はあちこちから手にしているんですが、その素材をね、ネタだ、それをほんのちょっと後押しするだけの、とても謙譲の寿司なんです。一言で言うと、軽くて素敵。コハダとサバなんか、あーた、いまが冬ってこともあるけど、もうほとんど〆てないようなもん。で、ほわっと軽くて甘いの。コハダなんか二重になってるんだよ、すし飯の上で。でも大丈夫なの。

それはバラ筋子にもいえた。ほとんど味がついていない。生筋子(つまりイクラね)本来の味を教えようという試みなんだろうね。小鯛もそう。〆てるはずなのにすっと舌の奥を通り過ぎる。煮蛤も、ツメが澄んでいて昔風の甘さが広がる仕組み。

でね、いいんだ、おいしいの。でも、最後にさ、食べ終わって、タクシーに乗って、ふと思うんだ。えっとー、何が一番印象に残ったかなあって。

綺麗、丁寧、正直、気っ風。いずれも満点のこの店。
惜しむべくは、いや、そうじゃないな、私にとっての好みってことだね、それで言えば、もっと塩を、醤油を、酢を、ぐいっとねじ込むところがあってもいいんじゃないかってことなんだ。メリハリっていうか、ポイントというか、がつんと1つ、どーっすか、という手入れしたのを出してほしいっていうかね。そんなに優しくなくてもいいんだよ、って感じ。

印象に残ったもの。
唐津のウニ、赤穂の牡蠣。
この2つも、たしかにほとんど手が入っていない。素材のうまさだったような気がします。ほら、北海道なんだ、これって(産地は違えど)。
で、それは、なんか、おれ、知ってるの。

でも、本日の収穫かつお勉強。

ここの押し寿司は、それでした。がっちり手が入ってます。
押し寿司の押し寿司たる所以を教えられました。ぐっちゃぐっちゃと酢飯を団子に固め、さらにそれを型に入れてベッチリと押しつぶす。そうね、これが第3の寿司の系統(の派生の果て)なんかもしんないって思ったです。米は原形をとどめず、これでもかとネタと合体する。これはこれでわたしは面白いと思いました。頼むべし。モナミとーちんは「これ、あんまり、嫌い〜」って言ってたけど(笑)。

もいっこ、ここ、みそ汁椀がなかなかのすごいもんです。みそ汁椀とは言えど、ふつうの味噌汁とはコンセプトが違います。これは一品料理です。お頼みあれかし。

2人で飲んで食って、どうとでも出して、という感じで、本日は計44000円でした。
ちとお高いかしらん。

January 16, 2006

モレスク

2006-01-16
グリルも充実で、フレンチなのかイタリアンなのか
いわゆる看板のない業界人御用達のその筋で超有名なレストラン
モレスク

東京・港区白金台5-3-3
TEL 03-3445-2880

前菜
 ポロネギのマスタードヴィネグレット
 プンタレッラのアンチョビドレッシング

豚バラ肉の黒酢ソース煮込み
サバのスモークにキャベツとアンチョビのソテー
ジャガイモのトリュフ掛けバターヴェネグレットの温菜
豚肉のコンフィとセップ茸のソテー
ホワイトアスパラガスの半熟卵載せ
わさびのリゾット

2人で
生ビールとシャンペン1杯ずつ
グラスワイン(銘柄忘れた)
 サンセール3杯
 ムルソーのシャルドネ1杯
 ブルゴーニュの赤 2杯
食後酒(マール、グラッパ=オルネライヤ、自家製レモンチェッロ)
デザート(クレームなんとか=マスカルポーネかな? チーズ風味のほわほわクリームのカシスソース掛け)

また満腹っす。
ここはね、この日が3度目なんだけど、今日が一番美味しかった。
ドワを開けると山田くんと前田くんという、相似形の2人のウェイターがシンクロダンスのように振り返っていらっしゃいませといってくれるの。相似形と言っても山田くんはポッチャリ体型、前田くんはスリムなんだけど、雰囲気が絶妙によろしい。前田くん、27歳なんだって。そんで清潔感あふれるさわやかな若者、んで、なんかとってもかわいいの、って、料理ではなくスタッフを書いてどーする。料理は、これまたシェフが目元涼しげなイケメンで……。

えっと、ここの料理はわりと簡単です。素材さえ見つかればホームパーティーにすぐ応用できるような、そんな気の利いたヒントにあふれてます。奇を衒わないというか、とても素直な、肩の凝らない高級感というか、いや、やっぱり清潔感なんだろうな、ここは。

サバのスモークが美味しかったあ。
それとプンタレッラもよろし。プンタレッラって、イタリアのチコリの一種なんだろうね。苦みと根菜のようなコリコリした茎の食感が珍しい。こういう野菜、日本でも作ってるんだなあ。楽しいね。
セップ茸というのはイタリアではポルチーニね。それを豚のオイル煮込みというか、コンフィでちょっとカリカリ気味の切り身といっしょにさっとソテーするわけ。豚コンフィの塩加減と食感と、それがセップのむっちり感と相まって、いいねえ、大将。
それとわさびのリゾット。お米だけじゃなくて押し麦も入れていて、米のアルデンテと、押し麦のプクプクプリンとした食感の違いがこれまたいいんだ。上にのせた山盛りの大葉の千切りがまず口に広がるでしょ、そんでその奥からわさびの香りが立ち上ってくる。バックグラウンドにはふんだんなパルミジャーノのナッティーな甘さとしょっぱさ。絶品。でも、ほら、こうしてわかっちゃったらなんだか自分でも作れそうな感じがするでしょ。でもそれでもいいのです。美味しくて、しかもそういうちょっと啓蒙的っていうか、日常レヴェルでのほほうというお気づかせってのがうれしいじゃありませんか。

この日は締めて2人で34000円でした。
アラカルトはだいたい2000円前後、肉のグリルなどは2600円から3000円台ですね。2人で分けてちょうどよい分量で、いろいろと注文するのがよろし。

というわけで、今週土曜日のホームパーティーにはポロネギと豚肉の黒酢煮込みとこのわさびリゾットの3品を変形させてメニューに取り入れてみようと思いましゅ。

November 29, 2005

My Room 雲母(きらら)

2005-11-39
炭火焼きと冬だけ鍋
My Room 雲母(きらら)

港区広尾5-1-20-2F
03-5789-9345

野菜焼き(ピーマン、しいたけ、ブラウンえのき、タマネギ、アスパラ、サツマイモ、カボチャ)
牛リブアイ焼き
金目鯛のつみれ鍋
焼酎は「れんと」という銘柄(あたしゃ日本の焼酎ブーム知らんのよ)

たたずまいの正しいお店ですな、こりゃ。
店主の小林さんという方は昨年11月にお亡くなりになったそうで、現在はお嬢さんの朝日里(あかり)さんがやってらっしゃる。このお嬢さんもまたたたずまいの正しい方で、美しい。野菜、美味いですねえ、といったら、別に有名などこどこの契約農家さんの、というんではないんですけど、とのぶっちゃけ話。鍋もこの日は金目鯛のつみれ鍋だったんだけど、このつみれも「じつはうちで作ってるんじゃないんです」と、あはは、なお答え。いいねえ、このナチュラルさ。

いや、その野菜、ほんと、うまいんだ。
焼き方もね、炭火の方にまずは野菜の、たとえばピーマンなら皮めの方ではなく、実の内側から焼いて下さい、といわれるわけ。ふむ、そりゃそうだ。皮めの方が野菜の水分の蒸発を妨げてくれて、それからひっくり返して皮めを焼くと、丸まった内側につゆが沁み出てくる仕組みさ。これが道理ですわな。

そのピーマン、それにタマネギがこれまたうまいね。サツマイモは、キャラメルみたいな大きさでキャラメルみたいなやり方でアルミフォイルにくるんで焼き上げるんだけど、このサイズがうまさの余韻というか、もっと喰いてえ、このやろ、って感じでいいんだね。この三つがグッド。

牛肉も霜降りがそうキツくなくて肉の味がちゃんと分かる、いい具合。値段と質のバランスでこの肉の選択なんだろうね。肉を喰らうとはこういうことなのである。

みなさんブログで絶賛しているバナナの丸焼きだけど、これは真っ黒な焼き方はアイキャッチングですが味の方はまあまあという感じで感動とは違うでしょ、って感じ。
バナナって、焼くと味が濃くなると同時に酸っぱさと苦さ、えぐさが立ち上がってくるの。それを中和するためにラム酒とかでフランベしたりブラウンシュガーを加えたりするわけさ。で、ここではバニラアイスにその役を担わせておりますが、ちょっと重荷ですな。

金目鯛のつみれ鍋は出汁にごぼうのスライスをたくさん入れて、金目のつみれだけでなく鶏のすり身と白菜や茸や豆腐やらで食します。上品さとほどよいカジュアルさとがあいまって、これはすっごく美味しかった。最後の雑炊も、もちろん美味ならぬ理由はみじんもなし。いまの時期は鍋だねえ。

酒は焼酎を、ボトルごと出してくるんだけど、飲んだ分だけチャージするという仕組み。よろしうございますなあ。

男4人で参りました。雰囲気よし、味よし、接客よし。ビールも飲み、焼酎も2本あけて、ひとり満腹11000円でした。この場所柄、納得の値段です。というか、おれら食べ過ぎ、飲み過ぎ。あはは。