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ヒラリーの影こそが

アメリカの民主党全国大会が終わり、今週末からは今度は共和党の大会に話が移ります。

結論から言うと、民主党大会の主役はオバマではなくヒラリーでした。
いや、オバマなんですよ、もちろん。でも、違うんだな。大会最後を〆る84000人を前にしたオバマの受諾演説を聴いていても、ふむ、それはひょっとすると単に私がいまもまだヒラリーに固執しているせいかもしれないとは思うけれど、どうも、「まさに主役はオバマです」ってすっと腑に落ちる、というようなもんではなかった。

それは大きく、2つありました。いや、3つかな。

まずはあのペプシセンターで27日に行われた各州ごとの点呼投票(Roll Call)で、これはアルファベット順にアラバマから、はい、あなたの州は誰に何票ですかって聞いていって、ヒラリー3票、オバマ21票、とかって答えてゆくんですが、そのときにCのカリフォルニアになったときに、カリフォルニア州、「わが州はパスします」って言ったんですね。へ? え、カリフォルニアはヒラリーが取った州です。代議員数441人。これが投票を棄権? テレビで見ている素人の私は、「あらら、これって造反票?」って思うじゃないですか。

オバマの有利は変わらない。でもカリフォルニアの代議員441人は、アメリカ民主党の象徴的存在です。これがパス。

そうしてまた投票点呼は進んでいきます。否応なくオバマ票よりも、それと彼女自身がオバマへって呼びかけたのにも関わらず依然続くヒラリー票に注目が集まりますよね。獲得代議員数よりはもちろん少ないのだけど、でも、各州、ヒラリー残党はいるわけですよ。ああ、民主党の亀裂はけっこうのこってるかもな、ってその線で原稿書きの方向性が決まるかなって思いますわね。そうしたら、こんどはHIKJの「I」で、イリノイが「わが種はパス」ってやったんです。

は?

イリノイって、今度は逆にオバマの出身州です。シカゴですからね。もちろんこの州はオバマが取った。なのに、なぜ?

ここで、いままではこれほど大統領選挙の過程を注視していなかった私は混乱しました。
こういう流れを知らなかったんですね。はい。あはは。

そんで、Nまで来て、ニューヨークになったときにわかったんです。
NYも代議員数では281人、これもヒラリーの州です。さて、どんな票が出るか、と思ったら、代議員団を差し置いてヒラリーがマイクに向かって「動議」とやったわけ。「もう、満場一致 acclamation でオバマを指名することを動議とします」って。それでニューヨークの票の何たるかも言わずに、議長がその動議を認めて、会場の拍手でオバマ指名を決めたわけです。

つまりね、その前までの段階でオバマは過半数の2118人に届いていなかったんですが、カリフォルニアとイリノイを足していればとっくに過半数に届いてしまっていたわけです。そうすると、ヒラリーがこの動議を出す必要はなくなるのね。この動議を出して党の満場一致でオバマと決めるためには、カリフォルニアとイリノイが投票してはいけなかったわけですよ。すごい操作でしょ。それも、ヒラリーのカリフォルニアと、オバマのイリノイを双方ともパスさせて、それでどうにも注目を浴びるニューヨークのロールコールの時点でヒラリーの動議で決める。3つのバランス。

ふむ、なるほど、そういうことね、というわけです。これ以上の演出はない。
これもそれも、ヒラリーがオバマを候補に押し上げた、ということのプレゼンテーションなのですね。

つぎに、まあ、オバマの演説です。27日のジョー・バイデンの演説のあとで登場してきた時も、そして28日の受諾演説も、演説はヒラリー・クリントン、ビル・クリントンの話から始まりました。その両クリントンとも、じつにみごとなオバマ支援演説をやってのけて、さすがにクリントンだなと思わせたものです。それをきちんと受けて、1800万というヒラリー票を味方に付けようというのは当然のことでしょう。なにせ、ブッシュの選挙では400万票の草の根保守キリスト教者たちが鍵を握った。1800万票は何をか言わんや、の数です。

ところで、この数日間の演説で最も感動的だったのはじつは私にとってはジョー・バイデンの息子のボー・バイデンの話でした。デラウェアの法務長官をやっている若い彼は、といってももう40代ですが、彼の一家を襲った交通事故の話をとても誠実に引用しながら彼の父親の人となりを紹介していました。連邦議員に当選しながらも入院している彼と次男に付き添うために議員辞職を考えていたということ、誰がなんと言っても彼のベッドの脇にいようとしていてくれたこと、その語り口もあって、私にはジョー・バイデンその人の演説よりも感動的でした。

ただ、ボー・バイデン演説以外の焦点は、やはりヒラリーだった。

これは29日の共和党の副大統領候補発表のときにはしなくもまた明らかになりました。

指名されたのはアラスカ知事のサラ・ペイリンです。44歳の彼女はだれにとってもサプライズでした。
しかし、最たるサプライズは彼女の演説でした。

彼女は妊娠中絶も反対、同性婚にも反対のバリバリの右派です。おまけにライフル銃は持っている、狩猟はスポーツとして大好き、という全米ライフル協会会員。このNRA400万人の票も大きい。経済政策も保守派です。アラスカの油田開発もオッケーです。この4月に生まれたばかりの男の子はダウン症で、彼女は彼を「神の恵み」と呼んで、中絶反対派の面目躍如といったところです。まあ、わたしもそれには異存はないんだけど。

で、彼女がオハイオの演壇で何と言ったかというと、自分がここに立っているさまざまな感謝の対象として「ヒラリー・クリントン上院議員」の名前を口にしたのですね。「クリントン・上院議員は女性にとってのガラスの天井に1800万のヒビが入ったと言った。それを今度は私たちが打ち破る番だ」とやったんです。

さすがにこれは、共和党の支持者の集まりの会場にヒラリーの話なんぞ聞きたいやつなどいなかったでしょうし、とても場違いな感じだったんですが、図らずもマケインの意図が見え透いたわけで、その意味でとても面白かった。つまり誰もが知っているように、マケインもヒラリー票が欲しいんですね。彼女が自分でこの演説を書いたとは思えません。もちろんそういう趣旨の発言をするのに、マケイン自身の許可があったことはたしかでしょう。

ペイリンはほとんど無名で、その意味では共和党支持者には落胆する人も多かったでしょうが、マケインとしてはオバマの47歳に対しての44歳、ヒラリーに対しての女性、そうして共和党の勝利の鍵を握る保守派への媚としての彼女を選んだのです。マケインはもともと共和党では一匹狼の中道だった人なのに、大統領候補になってからどんどん保守化していきました。まるで一匹狼の看板を下ろすように、同性婚に関しても急に口をつぐむようになりました。それは共和党候補としての宿命なんでしょうが、右傾化して票を獲得するならば大方の副大統領の予想はモルモン教のミット・ロムニー、あるいは南部バプティストのハッカビーかとも思われていました。でもそれでは新鮮味に欠けるし、ヒラリー票を奪えない。そういうところからのペイリンの選択だったのでしょう。

つまりここでもヒラリーなのです。

さて、そのヒラリーの扱いとして、オバマ民主党はとてもうまくやったと思います。一時の激情からマケインに投票すると言っていた人たちも、あと2カ月の間にはかならずオバマというか民主党支持に戻ってくると思います。ヒラリーの支持者が、ペイリンごときの撒き餌で最後までマケインについていくとはぜんぜん思えません。ペイリンって、ヒラリーの支持者がじつは最も嫌うようなタイプの女性なんじゃないかなあ。だいたい美人コンテストに出るってこと自体、ダメでしょう。

さてそのヒラリー、どう出るんでしょうね。オバマが盛んに持ち上げたマイル・ハイ・スタジアムでの受諾演説ではヒラリーもビルもその場にいませんでした。

彼女は、次の大統領選を視野に入れている。そう言う人は少なくありません。
マケインが当選しても2期目はないでしょうから、つまりはオバマが敗退して、ってことですが、そのときつまり2012年の大統領選挙では、ヒラリーが出てくるはずだというのですね。マケインがペイリンに禅譲する、というシナリオも考えられますが、昨日見ていたかぎりでは、ペイリンはそんなタマじゃないってことでしたし。まあ、彼女は、あまり頭よくないわね。あれはヒラリー支持者だけじゃなく、本来の共和党支持者からも反発を受けそうって気がします。これから2カ月のあいだに、副大統領候補感のディベイトなどで、きっとぼろが出てくると思います。

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Comments

ご指摘のペイリンの頭の悪さが副大統領候補同士の公開討論会で露呈しましたね。失地挽回できるか・・・。個人的にはヒラリーも彼女も嫌いではありませんが。

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