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March 26, 2012

メディア化する会社

こちらで「LAW&ORDER」や「CSI」などのテレビドラマを見ていると本当にのめり込んでしまって仕事がはかどりません。日本でなぜこういう優れた番組が作れないのか役者の友人に聞いたら、日本では資金を管理するプロデューサーがほとんどそのテレビ局の人で、ドラマの制作現場におカネがあまり落ちてこないからじゃないかと言っていました。

おカネがないから優秀な才能が集まらない。だから出来上がったものがつまらない。それはテレビに限らずどこの業界でも同じ理屈に思えます。もちろんおカネがなくとも頭角を現す才能はいつの時代にも存在します。しかしどうしておカネがないのか?

「みんなテレビ局の社員の給料になっちゃってるからじゃないの?」と友人が続けます。「いまでこそ社内監査が厳しいけど、それでもプロデューサーって給料の他に接待だ何だってぼくらから見たら夢みたいなおカネを使えてる。ぼくらもそれにお相伴させてもらってるんだけどね」

日本の中央の、いわゆる大手マスコミ社員というのはかなりの給料をもらいます。テレビ局に限らず大手の出版社、広告会社の社員も30代で年収1千万円以上も珍しくありません。

対して米国のメディアでそんな給料をもらえている人はあまりいません。もちろん名前を出して仕事をするワン&オンリーの人たちは日本とは比べ物にならない報酬を得ていますが、テレビ局や出版社の社員はあくまでメディア=仲介役に徹して薄給で働いています。「オレはマスコミだ」と肩で風など切れません。

それでたとえば作家は本の売上の25%とか30%の印税をもらえます。アマゾンで電子書籍を売れば65%前後が手許に入ってきます。でも日本は単行本で10%。文庫本だと5%前後しか払ってもらえません。日本の電子書籍はフォーマットとおカネの取り分で揉めていてまださっぱり形になっていません。かくして出版社の社員の方が作家先生たちよりもずっとお金持ちという倒錯した現象が起きている。

テレビや演劇や音楽の世界も同じでしょう。アメリカではコンテンツとその提供者は別物です。発送電分離じゃないけれど、プロデューサーは独立していて、集めてきたおカネはメディアの社員の給料を支払うためには使われない。自ずからプロダクション内の、作家や作曲家、役者やスタッフなど作り手の現場に落ちるようになっています。もちろん下働きもものすごく多いですが、作り手は作り手として独立して産業を形作っている。メディアとは一線を画しているわけです。

ことはメディア業界だけじゃありません。世界経済の金融資本化と同じく、銀行だけでなく多くの企業もメディア化して現業やモノ作りの現場から離れていき、現場を支配しています。実際にモノを作っている外部の人々の労働を安く買い叩き、その分で浮いた利益を会社内部の人間だけの互助会・互恵会的な運営に回す仕組みを作っているのです。

会社に入った方が(楽じゃないにしても)カネになるのなら、バカらしくてモノ作りなどやってられません。「そのために苦労して大企業に入ったんです。そういう社員たちだけの特権的な互恵組織の機能を持っていても、べつにそう悪いことではないでしょう」と言う人もいるでしょう。でも組織というものは「互助機能を持つ」とよほど律していないとその互助機能こそを自己目的化してしまうものなのです。そうして閉鎖サーキットの中で自らを喰い潰すことになる。会社はそうやってダメになっていきます。会社だけじゃなくやがてはその社会も、その国も。

日本経済の停滞、日本企業の低迷、官僚組織の怠慢と政界の混迷、それらはすべて中間メディアが肥大するだけの、そんなおカネの回り具合のまずさで起きているような気がします。しかもそのおカネを、メディアのいずれもが既得権として絶対に手放そうとしない。

かくして日本のテレビでは下手な脚本のドラマと芸人が浮かれるだけの低予算番組が隆盛なのでしょう。なんともチャンネルを変えたくなるような話です。

March 10, 2012

決戦の火曜日?

スーパーチューズデイが示したことは、共和党のロムニー候補はアメリカの保守派の心をつかんでいないという事実でした。「ロムニー、優位保つ」という見出しも散見されましたが、ニュースは「ロムニー、決め手を欠く」という点でした。共和党の牙城である保守的な南部・中西部では相変わらず勝てないままなのですから。

保守というと日本ではどこかの知事のように国家とか権威とか全体主義に結びつきますが、アメリカの保守は逆です。この国は英国や英国国教会とかの当時の“堕落”した権力から逃れて清潔なキリスト教(ピューリタン)の下に1人ひとりが開拓精神を持って建国した国です。保守というのはそこに回帰します。つまり国家主義には向かわず、むしろ個人の自由意志、自助精神に辿り着くのです。

共和党の支持者層とされる保守派とはそんな人たちです。で、敬虔なキリスト教保守派は(この人たちは往々にして金銭的に貧しい田舎の人たちでもあります)サントラムに結集しています。政府権力は余計なことをするな、と言う人たちはロン・ポールの徹底したリバタリアンぶりに惹かれています。もう1つの支持層は西部開拓魂やジョン・ウェインみたいなのにアイデンティファイした男性至上主義者です(これはどちらかというとインテリぶった民主党が嫌いで共和党に向かっているのでしょう)が、これらはギングリッチに流れています。

ではロムニーの支持者は何かというと、これは共和党のもう1つの支持者層である財界・富裕層で、政府の企業活動への規制や法人税は経済を圧迫するから撤廃・低減せよ、という人たちです。ロン・ポールとは別の方向からの、経済活動上の「小さな政府」主義者で、高度に金融資本化したアメリカの現在では伝統的な保守リバタリアンとはややニュアンスも違ってきました。

そして最後に、他の候補はあまりに極端なのでロムニーしかいないだろうという妥協的な中間層、浮動層もいます。基本的に彼らはそんなに保守ではありません。いわゆる穏健・中道派、という人たちで、そんなにロムニーに執着はしていない。いわば背理法での選択なのです。

加えて、サントラムは現在53歳。たとえロムニーがこのままだらだら獲得代議員数を増やして結局は共和党候補になるのだとしても、サントラムは今後も「次」があるので絶対に途中撤退はしません。ギングリッチも地元ジョージアで勝ったせいでいまは退くに退けず、選挙資金が続くまで指名争いを続けます。ポールはもともと選挙運動にカネをかけていないし、息子の上院議員ランド・ポールに政治主張を引き継がせるためにも好きなだけこの選挙戦を利用するでしょう。

かくして共和党は分裂しながら6月の予備選終了まで進んでいきます。中傷合戦もひどいこんな指名争いの状況をバーバラ・ブッシュ(ブッシュ母)は「知ってる中で最低のレース」と斬って捨てています。最近になってロムニー支持を表明していますが、「妥協というのは汚い言葉ではないわよ」と言っているのがなんとも象徴的です。

この状況でいまオバマは漁父の利を得ています。スーパーチューズデイに向けてイスラエル首相との会談や昨秋以来の記者会見をぶつけたのも選挙を睨んでの戦略。当日のその会見で記者に「ロムニーはあなたを無策の大統領と呼んでいますが、彼に言うことは?」と問われ、「うーん、グッド・ラック、トゥナイト(今夜、勝つといいね)!」と答えたのも余裕の表れでした。