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決戦の火曜日?

スーパーチューズデイが示したことは、共和党のロムニー候補はアメリカの保守派の心をつかんでいないという事実でした。「ロムニー、優位保つ」という見出しも散見されましたが、ニュースは「ロムニー、決め手を欠く」という点でした。共和党の牙城である保守的な南部・中西部では相変わらず勝てないままなのですから。

保守というと日本ではどこかの知事のように国家とか権威とか全体主義に結びつきますが、アメリカの保守は逆です。この国は英国や英国国教会とかの当時の“堕落”した権力から逃れて清潔なキリスト教(ピューリタン)の下に1人ひとりが開拓精神を持って建国した国です。保守というのはそこに回帰します。つまり国家主義には向かわず、むしろ個人の自由意志、自助精神に辿り着くのです。

共和党の支持者層とされる保守派とはそんな人たちです。で、敬虔なキリスト教保守派は(この人たちは往々にして金銭的に貧しい田舎の人たちでもあります)サントラムに結集しています。政府権力は余計なことをするな、と言う人たちはロン・ポールの徹底したリバタリアンぶりに惹かれています。もう1つの支持層は西部開拓魂やジョン・ウェインみたいなのにアイデンティファイした男性至上主義者です(これはどちらかというとインテリぶった民主党が嫌いで共和党に向かっているのでしょう)が、これらはギングリッチに流れています。

ではロムニーの支持者は何かというと、これは共和党のもう1つの支持者層である財界・富裕層で、政府の企業活動への規制や法人税は経済を圧迫するから撤廃・低減せよ、という人たちです。ロン・ポールとは別の方向からの、経済活動上の「小さな政府」主義者で、高度に金融資本化したアメリカの現在では伝統的な保守リバタリアンとはややニュアンスも違ってきました。

そして最後に、他の候補はあまりに極端なのでロムニーしかいないだろうという妥協的な中間層、浮動層もいます。基本的に彼らはそんなに保守ではありません。いわゆる穏健・中道派、という人たちで、そんなにロムニーに執着はしていない。いわば背理法での選択なのです。

加えて、サントラムは現在53歳。たとえロムニーがこのままだらだら獲得代議員数を増やして結局は共和党候補になるのだとしても、サントラムは今後も「次」があるので絶対に途中撤退はしません。ギングリッチも地元ジョージアで勝ったせいでいまは退くに退けず、選挙資金が続くまで指名争いを続けます。ポールはもともと選挙運動にカネをかけていないし、息子の上院議員ランド・ポールに政治主張を引き継がせるためにも好きなだけこの選挙戦を利用するでしょう。

かくして共和党は分裂しながら6月の予備選終了まで進んでいきます。中傷合戦もひどいこんな指名争いの状況をバーバラ・ブッシュ(ブッシュ母)は「知ってる中で最低のレース」と斬って捨てています。最近になってロムニー支持を表明していますが、「妥協というのは汚い言葉ではないわよ」と言っているのがなんとも象徴的です。

この状況でいまオバマは漁父の利を得ています。スーパーチューズデイに向けてイスラエル首相との会談や昨秋以来の記者会見をぶつけたのも選挙を睨んでの戦略。当日のその会見で記者に「ロムニーはあなたを無策の大統領と呼んでいますが、彼に言うことは?」と問われ、「うーん、グッド・ラック、トゥナイト(今夜、勝つといいね)!」と答えたのも余裕の表れでした。

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