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November 14, 2012

自由か平等か

今回の大統領選挙で驚いたのは各種世論調査の正確さでした。NYタイムズのネイト・シルバーの「全州正解」には唖然としましたが、それも各社世論調査に数多くの要素を加味した数理モデルが基でした。ただ、それが可能だったのもオバマ民主党とロムニー共和党の主張の差が歴然としていたからでしょう。

大きな政府vs小さな政府、中間層vs富裕層、コミュニティvs企業、リベラルvs宗教保守、共生vs自律と種々の対立軸がありましたが、日本人に欠けがちな視点はこれが平等vs自由の戦いでもあったということです。

「自由と平等」は日本では今ひとつ意味が曖昧なままなんとなく心地よりスローガンとして口にされますが、アメリカではこの2つは往々にしてとても明確な対立項目です。この場合の自由は「政府という大きな権力からの自由」であり、平等は「権力の調整力を通しての平等」です。つまり概ね、前者が現在の共和党、そして後者が民主党の標榜するものです。

宗教の自由も経済の自由も小さな政府もすべてこの「自由」に収斂されます。アメリカでは自由はリベラルではなく保守思想なのです。何度も書いてきていますが、なぜならこの国は単純化すれば英国政府や英国教会の権力を逃れてきた人々が作った国であり、そこでは連邦政府よりも先にまずは開拓者としての自分たちの自助努力があり、協力のための教会があり、町があり、そして州があった。州というのは自分たちの認める最小の「邦 state」でした。それ以上に大きな連邦政府は、後から調整役として渋々作ったものでした。

アメリカが選挙のたびに真っ二つになるのもこの「古き良きアメリカ」を求める者たちと、そうじゃない新たなアメリカを求める者たちの対立が明らかになるからです。その意味でオバマの再選は、旧来の企業家たちにIT関連の若く新しい世代が多く混入してきたこと、それによりアメリカの資本構造が資本思想、経営思想とともに変わってきたこと、それによって成立する経済・産業構造とその構成員が多様化していること、などを反映した、逆戻りしないアメリカの変身を感じるものでした。オバマへの投票は言わば、元々の自由競争と自助努力の社会に、それだけではない何かを付加しないと社会はダメになるという決意だったように思えるのです。

翻って日本はどうでしょう? 新自由主義のむやみな適用で傷ついた日本社会に、民主党はこの「オバマ型」の平等社会を標榜したマニフェストを打ち立てて政権を奪取しました。けれどその際に「官僚から政治を取り戻す」とした小沢一郎はほとんど「いちゃもんレベル」の嫌疑で被告人とされ、前原ら党内からもマスメディアからもほとんど個人的怨恨のごとき執拗さで袋叩きに遭って政権中央から追われました。いまの野田政権は結局はマニフェスト路線とことごとくほとんど逆のことをやって民主党消滅の道を邁進しています。

野田は結局、民主党つぶしの遠謀深慮のために官僚機構が送り込んでいた「草」だったようにしか思えません。マニフェスト路線にあることは何一つやらず、ことごとくが「かつての民主党」雲散霧消のための道筋を突き進んだだけという、あまりにもあからさまな最後の刺客。日本に帰ってきたとたん年内解散、総選挙と言われても、これでは「平等」路線は選択肢上から消えてしまい、対する「自由」路線も日本型ではどういう意味かさえ曖昧で、そんな中で選挙をして、どこに、誰に投票するか、いったいどのように決められるのでしょう? そうして再び自然回帰だけを頼りにして自由民主党ですか?

指摘しておきますが、自民党はかつては「総合感冒薬」みたいに頭痛鼻水くしゃみ悪寒どんな症状にも対処する各種成分(派閥)が多々入っていましたが、いまはそうではありません。たとえば宏池会というのがありました。ここはかつて“優秀”だったとされる時代の官僚出身者たちを中心に穏健保守の平和主義者たちが集まる派閥で、経済にもめっぽう強かった、それがいまや二派に分裂して下野以降に外れクジをあてがわれた谷垣前総裁の派閥に成り果てる体たらく。時代は多様性なのにそれと逆行して、自民党はどんどんわかりやすく叫びやすい右翼路線に流れました。総合感冒薬から、いまは中国との戦争や核武装まで軽々に口にする安倍晋三が総裁の、威勢の良いだけのエネルギードリンクみたいなものです。何に効くのかもよくわからないまま昔のラベルで売り出してはいるのですが、中身が違っていて経済をどうするかの選択肢すら書いていないのです。

そこにメディアが煽る「第三極」です。それが男性至上主義ファシズムの石原慎太郎や橋下徹が中心だと聞くと、対立軸もヘッタクレもありゃあしません。ひょっとしたら野田も前原も民主党解党後にそそくさとこちらに鞍替えして何食わぬ顔をして連合政権にしがみつこうとしているのでしょうか。日本のメディアは、マニフェストを作った本来の民主党として本来の対立軸の「平等」路線を示し得た小沢一郎の「国民の生活が第一」を徹底して無視して、いったいこの国の何をどうしたいのでしょうか? それは言論機関としても支離滅裂にしか映らないのです。

November 07, 2012

オバマ大勝利の影の大接戦

大接戦と言われていた割には選挙人獲得数で大差がついた「オバマ大勝利」に見えますが、得票数ではともに5000万票台でその差はたった数百万票でした。勝利演説でオバマは「私たちは赤い州、青い州の集合体ではなく、ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカなのだ」といういつもの決め台詞を入れて、彼の中でも3本の指に入る名演説をぶちましたが、アメリカが二分化しているのは確かなのです。

それでもオバマが当選したのは、1つはロムニーという候補の今ひとつ他人を魅了しない人格に助けられた点は否めません。例の「愛犬天井括り付け長時間ドライブ」「高校時代のゲイ同級生いじめ」「47%切り捨て発言」。もちろん彼がモルモン教徒であることも影響したでしょう。

「ロムニー追い上げ」「接戦」と言われてきても、それはいつも一時的な盛り上がりで終わって最終的にはハリケーン・サンディでのオバマの「大統領ぶり」でロムニー熱もまた下がったところでの投票となった。その帰結がこのオバマ再選だったのでした。

しかしこれがもしもっと人好きのする候補だったなら、そしてサンディ被災のニュージャージー州の共和党知事クリスティのオバマ賛辞がなかったなら、オバマの再選はもっと難しかっただろうと思います。ロムニーの5千数百万票は、オバマのアメリカを社会主義、反聖書主義として忌み嫌う層が確実に存在しているということを改めて思い知らせます。そして、これは言わない約束ですが、黒人が大統領をやっているということがどうにも我慢ならない層もかなりいるということも。

Foxニュースの右派コメンテイターのビル・オライリーは「もう白人のアメリカは終わった」「物を欲しがる人間が多くなった(からバラマキ社会主義のオバマが当選した)」と本音を漏らしていました。

ただし、そんなせめぎ合いの中で米国社会はオバマの掛け声であった「Forward(前へ)」へ確実に進んだのも確かです。「正当なレイプなら妊娠しない」とか「レイプで授かった子も神の思し召し」と発言した共和党の上院議員候補は2人とも落選しました。代わりに史上初のレズビアン上院議員やアジア系(日系)上院議員、身障者の下院議員が誕生しました。さらに米国史上初めて住民投票によって、メイン州やメリーランド州などの同性婚が合法化される運びになりました。これまで33回も住民投票で否決されてきた同性婚提案なのです。

「多様性を認める社会、それがアメリカの強さなのだ」とオバマが訴えたとおり、時代は確実に前へ進んでいます。次の4年で現在3人いる75歳以上の連邦最高裁判事も、オバマの選ぶリベラル派の判事に交代するでしょう。これも大きな変化になります。

もっとも、不安材料も多々あります。まずは「財政の壁」が12月末に訪れることです。下院が共和党、上院は民主党とねじれ現象が続くことになり、議会との付き合い方も難しいままです。

ただ、ブッシュ政権の後片付けに追われた1期目と異なり、次にはもう選挙の心配のないオバマは、2期目は強気の政権運営をしてでしょう。とりあえず景気浮揚、雇用回復が急務です。勝利宣言のオバマの笑顔は、困難を知る人の節度ある笑顔でした。

November 05, 2012

スーパーストーム・サンディ

スーパーストームと呼ばれたサンディの被害でマンハッタンは大混乱だと日本のニュースでも大きく報じられていましたが、本当にひどい被災はじつはあまり日本では報道されていないスタッテン島やブルックリンを含むロングアイランドの海岸部、さらにはサンディが上陸で直撃したお隣ニュージャージーの沿岸部でした。こちらのニュースでも報道の中心はまずはマンハッタンだったのですが、いまはほとんどがニュージャージーやスタッテン島の被災に重点が移っています。

スタッテン島をスタート地点とするニューヨーク・マラソンが中止になったのも宜なるかな。日本人の私たちには尋常ではないところにある車やボート、ゴッソリとえぐられたり流されたりしている家並みは3・11を彷彿させて身につまされるものがあります。

あの時の東北もそうでしたが、最も大切なのはまずは必要物資や救援活動の情報でした。なのに停電のためにそれを必要とする人たちにこそ肝心の情報が伝わらない。

でも少なくともマンハッタンではiPhoneなどのスマートフォンを利用して、停電地区でもネット経由で復旧情報をいち早く知ることができていたようです。あちこちで善意の無料充電スポットが出来ていたのは新しい光景でした。日本人同士でも懸命に日本語で地下鉄やバスの運行状況やトンネルや橋の通行止め情報、電気の復旧の見通しなどをツイッターで共有していました。

そんな中、遅ればせながらミッドタウンの日本領事館も29日夜になってツイッターを始め、サンディ関連の「緊急情報」を流すというので大いに期待したのです。

ところがどうでしょう。とんと何もつぶやかない。最初の「緊急情報」は「緊急対策本部を立ち上げ」たという前日の領事館の対応の紹介。その後も具体的情報にはほとんど何も触れずに一次情報の英語のリンク先を紹介するだけ。橋や地下鉄の開通状況や電力復旧状況を流すのも遅いったらありゃしない。

そのツイッターは結局2日時点で終了していて「つぶやき」の数は5日間でたったの計17回。900人以上の人がフォローしているのに、きっとほとんど何の役にも立たなかったと思います。まさかいちいち稟議書を上げて何をつぶやいていいかダメかの上司決済を取っていたんじゃないでしょうね。こういう「お役所仕事」は、責任のある人が自分の責任ですぐに情報発信できるような仕組みにしないと何の役にも立たない。減点主義ではなく、得点主義で運営すべきなのです。それがなかなか出来ないのが日本型組織の、ひいては日本社会の弱点なんでしょうね。

ちなみに日本領事館のツイッターのアカウント名は「JapanCons_NY」。まるで商品評価の「Pros & Cons」の「Cons=ダメなところ」みたいな名前。おまけに「Cons」というのは「ペテン師たち con artists」とか「犯罪者たち convicts」とかいう意味でもあって、さらに動詞だと解釈すれば「日本がニューヨークをペテンに掛ける(con の三人称単数形)」ってな意味にもなってしまって……まったく、これは偽アカウントかと思ってしまうほどのセンスの無さでした。

さてそれでもやっと電気も地下鉄も復旧してきて、マンハッタンはこれで一安心と思っていたらいまさっき友人から電話があって「何言ってんのよ、うちのアパートは大変な孤立状態なのよ!」って……ああ、そういえばあのぶらぶらクレーンがまだ解決していないのでした。

彼女の住む高層アパートは56丁目。まさにあのクレーン宙づりのビル(57丁目)から短い方の1ブロックで、倒れたらビルを直撃するのでビル北側の住民全員が強制避難。撤去作業に4〜6週間かかるといわれるのですが工程の精査で作業は始まってさえいないそうです。おまけに今週半ばにはまた別の嵐がニューヨークを襲うともいわれているではありませんか。

カーネギーホールを含め周辺丸ごと封鎖状態の現場は、下を走る地下鉄も落下直撃の恐れで不通のまま。しかも落下したら地下に埋設のガスとか電気とかのインフラが直撃され、それがすべて基幹の本管であるためにマンハッタン中がブラックアウトする恐れもあるのだそう。「あたしのこと忘れないでよ!」と彼女に怒られたのも、じつにもっともなことです。