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真夏の錯乱

日本に来ています。いま安保法制に関する反対が各界各層から溢れ出ています。大学生らの抗議グループSEALDs(シールズ)に影響されてか、お年寄りたちの多い巣鴨ではOLDS(オールズ)という年配者たちのデモも行われました。先日は高校生たちが呼びかけたデモが気温35度という猛暑の渋谷で5000人を集めて行われ、「だれの子どもも殺させない」という切実なシュプレヒコールの続くママさんたちのベビーカー・デモもありました。

こんな現象は戦後70年で初めて見るものです。とにかく戦争はダメだという平和憲法の精神がいま危機感として噴出しています。

対して集団的自衛権の確立を訪米で公約してしまった安倍さん側はシンパたちが援護射撃に躍起です。

驚いたのはSEALDsについて、自民党の36歳という武藤貴也衆院議員が「彼ら彼女らの主張は『だって戦争に行きたくないじゃん』という自分中心、極端な利己的考えに基づく。利己的個人主義がここまで蔓延したのは戦後教育のせい」とツイートしたことです。この人は「基本的人権の尊重」を「これが日本精神を破壊した主犯だと考えている」と公式ブログで表明している人です。「この基本的人権の尊重という思想によって滅私奉公の概念は破壊されてしまった」とまで言いのける錯乱は、いったいどういう倒錯から生まれたのでしょう。

彼だけではありません。田村重信・自民党政務調査会調査役はSEALDsを「民青、過激派、在日、チンピラの連合軍」と呼びました。これがデマの吹聴であることに加え、問題はもう一つ、彼が明らかに「在日」を侮蔑語で使っていることです。自民党では50万人以上いる「在日韓国・朝鮮人」をそういうカテゴリーで見ているのでしょうか? ヤバいでしょう、それは。

援護射撃どころか自爆テロみたいになってしまっているのはこの安保法制を中枢で推進してきた礒崎首相補佐官の「法的安定性は関係ない」発言も同じです。これは法の支配そのものの否定だけではなく、「安保法制は違憲だけどそんなこと言ってられん」と具体的に白状したということですから、自民党にとっても本来は懲罰もんのはずです。しかしいま私たちが目撃してるのは、その暴走をまたネグろうとしてる権力の錯乱です。

日本はとてもおかしなことになっています。原爆の日の近い長崎では先月、老齢の被爆者を招いてのある公立中学での講話会で、話者が被爆体験の後にアジア侵略の写真などを示しながら日本の戦争責任や原爆と同じ放射線を出す原発の問題に触れたところ、校長が「やめてください!」と大声で遮ったそうです。まるで戦前の官憲による「弁士中止!」です。NHKニュースによると、その後に校長はこの老人を校長室に呼び「写真はでっちあげだ」とか「自虐史観だ」などと話したといいます。

この話にしてもSEALDsや高校生デモに関する誹謗中傷にしても、なぜ日本の権力は政治的な意見表明を抑制しよう、黙らせようと動くのでしょうか。

校長は「政治的中立性が守られない」と弁解したようですが、中立性を守るための対策は、それらの言論を封じる事なかれ主義ではなく、賛否両論の表明の保証、談論風発の奨励のはずです。

ちなみに最近の仰天ニュースは、日テレの「安倍首相批判の落書きが駅トイレで見つかった。警視庁が器物損壊容疑で捜査している」というものでした。ここは北朝鮮か旧ソ連かと、今度は私が軽い錯乱を覚えたほどです。

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