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January 14, 2008

Bar Blanc

2008-01-11
フレンチ-アメリカン
Bar Blanc(バー・ブラン)
☆☆☆
142 W 10th St(ウエストヴィレッジ)
New York, NY
212-255-2330

ブノワで食わされたあのロースト・ポークのどうでもよさを、さらに際立たせてくれると書けばよいのかそれともそれを覆い尽くして癒してくれたと言えばよいのか、とても美味しいロースト・ポークに新年早々出遭いました。そうそう、これです、ロースト・ポークはこうでなければなりません。皮をわざと残してそこをカリカリカリッとさせ、そうして肉部分はやわらかなれど肉の食感を保ってしっとりと火が通っている。もう、こんなに穏やかに幸せな気分にさせてくれるお肉はありません。まあ、ご覧あれ。

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まず、皿に置いたお肉のたたずまいまでブノワのとは違います。これは重要。料理人が、いかに自分の作ったそれを大事に思っているか、それが表れるからです。客のためのプレゼンテーションというよりも先に、まず自分の作品にシェフ自身がどれほど傾注しているかということなのです。
ブノワのはこれです。比べてみて。

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その差は味のみならず歴然でしょ。

さて、2008年最初のレヴューはグリニッヂヴィレッジに1カ月前に開店したばかりの「バー・ブラン」です。「白いバー」という意味で、フロアを除いて内装は白で統一されています。1カ月前といっても、ここを作ったのは「Bouley」のシェフだったセザール・ラミレスと、メートルディのディディエ、セクレタリーだったピエール、そして業務法律顧問だったキウォン・スタンドンの4人です。レストランがどういうものであるかを知り尽くしている彼らのことですから、1カ月にしてすでにインスタント・トップレストランです。訪問した11日は金曜日で、いやいや、店内はじつにウエストヴィレッジらしい喧噪(私たちはバースペースのテーブル席でしたのでなおさら)に満たされ、じつにニューヨークでした。

私たちは5人でテイスティングメニューを頼みました。ですので、メニューにあるのとはポーションもアレンジメントも少し違うと思いますが、印象は掴めると思います。冒頭に紹介したのは5コースの中での最後の肉料理でしたのでそれは再度、最後に詳述するとして、まずはアミューズが2つ供されました。

ちっちゃなブリオーシュ。中にちょっとだけブリーが挟まってて、さらにトリュフオイルの香りです。こんなにちっこくて、でも口にしたとたん顔の筋肉がへなっとなります。
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これはちょっと甘酸っぱいビーツのジェリーとたおやかなクレームフレーシュのアイスクリーム。フルール・ド・セルがジェリーの上に掛かっています。なかなか洒落た陶のスプーンを見つけてきましたね。
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そうして最初の前菜が2種類のマグロの刺身と、フォワグラの蒸したのです。
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向こうっ側の2つがマグロ。手前がフォワグラ。マグロはメニューにあります。
右上のがポン酢と黒トリュフのドレッシング仕立て。これはみんなちょっと塩っぱいと言ってましたが、わたしは気にならず。
左上のは黒タマネギとイカ墨と味噌のソースに、上にゴボウのフライとマイクログリーンが載ってますね。
フォワグラは、これまた蒸してまるでアン肝のように軽く上品に仕上がっています。それを定番の果物のソース(リンゴ?)の上に置いて、さらにフルール・ド・セルでカリカリ食感を加えています。木の芽が裏返しなのはご愛嬌です。これは、ほんと、鮟肝もこうやってポン酢の代わりにべつの甘くて酸っぱい林檎やブドウで食べさせても面白いかもしれないですね。

ほんでもって、次のこれも美味しかったの。
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中央のはすごい軽い羊のリコッタチーズの上にローストしたウサギの肉をいろいろ成型してスライスしたのを敷いて、そんで上に載っているのはリ・ド・ヴォーです。茶色いソースはジュですね。右上にはウサギのレヴァーペースト(といってもものすごく滑らかでクリームたっぷりの絶品)。手前と奥のマイクログリーンに隠れているのはちっちゃなクリミニマッシュルームを甘酸っぱく漬けたもので、これがまたファッティな皿のアクセントとしてなかなか頭の良い配置です。
んで、うまいんだ、このコンビネーション。ウサギの肉のやさしさ。子牛の胸腺の火の加減。セザールって、こんなに肉料理が上手かったっけ? これはメニューでは前菜のところにSlow Roasted Rabbit and Sweetbread Saladとして表記されています。
いやいや、困ったなあ、こういう素敵なレストランがあちこちにできると、金がいくらあっても足りなくなります。

次は何? そうそう、これ。ホタテ。纏っているのはフィロ・ドー(薄いパイシートみたいなのです)、で、奥にエスカルゴが2つ隠れています。
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いやいや、こう振り返るとやっぱり美味かったんだなあ。どんどん味を思い出してしまってまた食べたくなってくる。メニューにもPan Seared Jumbo Scallopというのがありますが、これはエスカルゴも入ってるしソースも違うかもしれません。このスープっぽいソースの緑はたしかタラゴンです。エスカルゴにタラゴンが合うところからの即興かもしれません。ホタテのジュースがベースでしょうか、全体をなんとなくシトラスの風味とともにまとめあげています。

そんでもって、写真ではなんだかわからんが、低温調理のサーモンです。
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サーモンはとろとろほろほろです。その上にプレザーヴド・トマトを掛けて、そこにハーブのパスタのシートを載っけて、そこにさらに白ワインの泡のソースを覆いかぶせてるんですね。
これね、じつはわたし、いちばん面白いと思った。このジャム状にしたトマトが何とも味が濃くて、オレンジの味まで含んでいる。サーモンのオレンジソースは定番ですが、このトマトがめちゃくちゃ濃くて美味しいのです。でも、残念ながら塩っぱすぎたの。量で調節して、もっと少量にすればよかったのかもしれませんが、そのアンバランスによってトマトの濃さに占領されちゃった感。ウーム、残念。

そんで料理コースの最後は冒頭のポークです。
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メニューではMilk Fed Porceletとあります。乳飲み子の豚の仔っこ。うー、かわいそ。心して食させていただきましょう。というかほんと、こういうのを不味くするなら調理人は罪人です。
中央のがそのロースの部分ですね。脂身の部分まで付いているのが日本人の私にはうれしい。左側に、さらにその脂身を越えてカリカリの皮がちょっと剥がれているのが見えるでしょ? うひひ。
で、右奥のはバラ肉部分の角切り。その上から橋のように渡されているのはクラッカーの上にその豚の頬肉とかで作ったテリーヌをちょぼちょぼと並べているわけですね。
バラ肉部分は調理法が違うのか、もっとワイルドな味がしますが、とにかくこのロース部分が美味しい。しかも下に敷いているのが芽キャベツの賽の目切りの、なんというの? ちょっと甘酸っぱい感じのもので、これも豚肉にぴったりなんだ。ソースは2種類。肉汁にシナモンとスターアニス(八角)のと、オレンジのです。これがまた押し付けがましくなく、さりげなく肉の味を両脇から支えるのです。

というわけで、腹一杯になって、デザート。
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オヴンから出したての熱々のアーモンドケーキと、洋梨とマスカルポーネのソルベ。
そんなに甘くなくて美味しい。まあデザートメニューは驚くというのではなく、手堅くという構成です。
デザートを凝るのはやはりグランメゾンですから。ここはほんと、スペースといい造作といい、ご近所のしゃれたレストランという位置づけ。デザートで客を惹き付ける必要はないでしょう。

でも驚いたのが食事が終わって厨房に謝意を伝えに訪れた時です。(中央の笑顔の眼鏡がセザールです。あら、彼、腕にタトゥー、すごいな)
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10人以上が働いてるのです。この規模でこのクックの多さは贅沢なもんです。素晴らしい。

さて、初回の訪問はじつに満足の行くものでした。
Allen & Delancey のときにも書きましたが、ニューヨークはいま、第2次なんだか第3次なんだか、レストラン業界に新しい波が生まれています。一流どころで修行したシェフたちが続々と自分の店をオープンさせて、それがいずれもなかなかよい仕事を見せています。Allen & D はいま現在、もう予約の取れない人気店です。

そこでこのバー・ブランの参入です。
この日の料理はいずれも実に洗練されたもので、ブーレイの尾っぽをまだ引きずっているようにも感じました。というか、ブーレイがセザールの料理だったのですが。
私が今回、サーモンのトマトに惹かれたように、今後はもう少し尖る部分もあっていいのではないか。何せここはヴィレッジです。顧客層も若い。大人の味と同時に、食べると思わずニヤけてしまうような遊び心のある皿を見せても面白いと思います。

本日のテイスティング・メニュは1人90ドル。
ワインは50ドル前後でじゅうぶんに美味しいものがそろっています。
私たちはサンセール($48)から急に贅沢して2003 Chateau de Puligny Montrachet Puligny Montrachet Folatieres($148)、2002 gevrey chambertin sarl maurice chapuis($105)といただきました。

November 07, 2007

ALLEN & DELANCEY

2007-11-02
フレンチ・アメリカン・イングリッシュ?
Allen & Delancey
☆☆☆
115 Allen St.
Manhattan, NY
Lwer East Side (at Delancey St)
212-253-5400

いま確実に、NYにレストランの第2次ルネッサンスが訪れていると思います。
おそらく30歳前後の新しいシェフたちが、続々といま独立したりスポンサーを見つけて店を出したりいます。その中で頭角を現す者たちが、5人もいればすごいことです。

彼らはいわゆるXブーレイ、Xダニエル、Xグラマシー・タバーン、Xどこそこなのです(エックス〜〜と読みます。かつての〜〜という意味で、つまりむかしどこそこで働いていたやつ、ということ。ちなみにマイ・エックス・ボーイフレンド、は私の前の彼氏、という意味です)。

NYは90年代初めからいわゆるブーレイが牽引役となってダニエルが出てきてジャン・ジョルジュが現れ、ル・ベルナルダンのトップがエリック・ルペールに代わり、グラマシー・タヴァーンのトム・コリッキオが追いかけておそらくモダーン・キュイジーヌの第一次黄金期を形成した。そこにデュカスやナパのトーマス・ケラーがやってきて、一気にテーブル単価を高めた新型のレストランビジネスも持ち込みました。

で、そういう人たちはいま50歳前後なのですね、もう。

それで、そういうところを経験した若手たちが出てきているのです。それが20代30代の若手。これはじつはこの日のアレン&デランシーにやってきたから気づいたことではなくて、その前に10月29日にチェルシーのはずれのTrestleというちっちゃい普通の街角のレストランに入って、そこが伏線になって考えたことです。そこで食ったものがとてもエスプリに溢れておいしかった。え? なに? だれなの? と思ってウェイターに聞いたら、グラマシー・タヴァーンで料理していたロルフというシェフだと言う。ふーん、グラマシー・タヴァーンは最近行ってなかったけど、90年代の後半、ブーレイが閉まっていたときに唯一通ったレストランでした。トム・コリッキオの店です。最近、シェフが代わったみたいだけど。

いや、今日はALLEN & DELANCEYの話です。

ここのシェフは、じつはすでにここで書いたことがあります。
ニール・ファーガソン。
ゴードン・ラムジー@ザ・ロンドンNY。そこのオープニングシェフで、私が食べた後であそこをやめ、それでどっか郊外に行っていて、最近1か月ちょっと前に戻ってきてこの店を開いた。

ゴードン・ラムジーには☆☆☆を付けました。再訪していないので、ニールがシェフじゃなくなってからどうなっているのかは検証の必要があります。

さて、このニール、やはり素晴らしいのです。「ゴードン・ラムジーのレシピを再現する」という宿命を与えられたレストランでも、おいしかったのはやはり彼の差配のせいだと、この日改めてわかりました。
で、調べてみたら、彼、パリのラルページュ (L'Arpege)やブルゴーニュのレスペランス(L'Esperance)で働いてたのね。ふーん。アルページュは最近あんまり評判よくないけど、両方ともミシュランの3つ☆ですもんね。

さて、店名のとおり、ここはロウワーイーストサイド、アレン・ストリートとデランシー・ストリートの北西の角にあります。店内はほとんどロウソクのみの明かりで構成されています。まずバーカウンターがあって、奥に二つのダイニングルームがあります。べつにかしこまってません。カジュアル、アンド・エレガント、って感じです。またマリアさんと行ってきました。
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オープンしてまだ1か月ちょっとなのでテイスティングメニューもワインペアリングもありません。おまけにテーブル席もなくてバーカウンターでの食事です。でも、テイスティングメニューとワインペアリングをやってくれました。いずれは必要になるんだもんね、われわれを実験台にやってみればいいのです。

ということで、メニューからの小さなポーションでの組み合わせとなりました。
しかし、ゴードン・ラムジーのときにも言いましたが、ニール・ファーガソンはブラウンソース系がうまいのです。なんといいますか、かなり男っぽい。それも、さわやか系の男、って、言ってることわからんわね。はは。

じゃ、行きますか。

Shavings of Hamachi, Pink Grapefruit Beads, Pickled Fennel Bulb
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ハマチ、好きなんだよねえ、こっちの人って。わたしはほとんど食わないです。トロだって、よほどおいしいって言われなくちゃ食べないもの。赤身は食うけど。
で、ふつうは英語でイエローテイルっていってたんだけど、最近のスシブームで、みんなハマチって呼ぶようになった。そんでそのハマチです。シェイヴしてます。つまり削ぎ切りです。でね、そのリッチな脂っぽさを、グレープフルーツの酸味で中和します。ピンクのグレープフルーツなのは、味というよりも色合いの美しさでの選択です。そこにやはり甘酸っぱく漬けたフェンネルが散らしてあります。それとイエローベルペッパーのみじん切りも。
グレープフルーツは、ハマチに合います。はは。おいしいの。情けない、かんたんに宗旨替え。

Caramelized Bone Marrow, Caviar, Shallot Puree
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でね、これ、ヒットです。骨髄です。それをきっとオヴンで焼いてずるっと出したのをまたそのまま焼くのかな、ソテーするのかな、ソテーしたら溶けちゃいそうだな、どうするんだろ、とにかくキャラメライズします。そんでね、そこになんと、キャヴィアを載せちゃうのよ。キャヴィアみたいな高価なモノを、ってんで驚いてるんじゃないのよ。なんと、ってのは、どういう組み合わせですか?っていう驚きです。それが、合うのよ、あなた。このキャヴィア、でも、チョウザメのキャヴィアかなあ。なんか、もっとあっさりしてたような気がします。この濃厚な塩味が、骨髄の濃厚さに別の角度の濃厚さを加えて、うまいんだ。驚いたね。
下に敷いてあるのはエシャロットのピュレです。それと茶色いジュは子牛とかのジュですよね。中に何が混じっているのか、何となくナッツのような気もしたんですけど、ナッツは入れてないと言います。しかし、これは何ともじんわりとおいしかった。すばらしい。あ、そうよ、ニール・ファーガソンはこういう茶色いソースが上手なのよ、そうだったそうだった。
奥に写っているのはいっしょにどうぞっていう付け合わせのトーストしたブリオーシュです。

Sea Scallops, Celery Root Cream, Braised Cippolini Onions, Verjus
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ほら、ホタテもこういう茶色いソースです。というか、ヴェルジュという、未熟なグレープの果汁と熟したグレープの実と、梨かなあ、この四角いの。それと丸い茶色のは小タマネギのカラメライズしたやつですね。ピュレはセロリの根です。これもさりげなくおいしい。おほほほほ、って感じです。
そうねえ、味のメリハリなのかなあ。

Braised Fluke Fillet, Cauliflower Cream, Parsley Root, Trompettes
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でね、お魚もうめえのよ。これね、ヒラメ。それをブレイズってのは油でいためてそれからちょっとの汁を使って蒸し煮にするという感じなんだけど、もうこの塩焼きっぽい感じに、下に、なんだったっけなあこの野菜。白いのはカリフラワークリームだって。で、隠れてるけど、パセリの細い根っこがグリルされて敷いてあるの。パセリの根っこなんて、初めて食ったわ。そんでほんとにパセリの根っこの味がするのです。はは。
で、このお皿、全体としてとっても清楚なうれしい味がしました。うひー。

Slow Roasted Porkbelly, Pickled Pear, Parsnips, Fenugreek Syrup
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お肉はこれです。斜めになっててわかりづらいけど勘弁。豚バラ。これをゆっくりロースト。それで、手前はエリンギです。ちゃんと隠し包丁が入ってるよ。左のごろんとしたのはパースニップ。緑のはサヴォイキャベツ。手前の紫はワインに漬けたんだろう梨です。泡は忘れた。ぽつぽつ落ちているのがフェニュグリークのシロップなんだろうなあ。ワインペアリングやってたんで、この辺から記憶が雑になるわ。
でも、しっかりとおいしうござんした。

American Cheeses from Saxelby’s
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アメリカのチーズの取り合わせも出してくれました、梨とイチジクが添えられています。
そうね、梨がこんなに出てくるから、ホタテに付いてきた四角いのは梨じゃなかったかも。すんません。

で、デザートです。
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はーい、楽しうございました。

コースはぜんぶで75ドル。
ワインペアリングは45ドルでした。
普通にアラカルトで頼むとアペタイザーが15ドル前後、アントレが25ドル前後です。つまり40ドル+ワイン+デザートで食べられちゃう。
今回のこのコースとワインも、すんごいお得感いっぱい!

ところでわたし、いっつもめんどくさくてワインのメモはしないんだけど、ほんとはこういうブログではワインのこと知りたい人も多いんだろうなあ。こんどからメモすることにしましょうか。でも、そうすると料理が楽しめないんだよね、せわしなくて。ウーム、悩む。

で、帰り際、地下の厨房にシェフに表敬訪問。金曜の夜ということもあってすんごく込んでいました。
お忙しいところ、ありがとうね、ニールさん!
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満足して帰りました。
ごっつぁんっす!

July 23, 2007

Falai

2007-07-22
イタリアン
ファライ(Falai)
☆☆☆
68 Clinton St.
(bet. Rivington & Stanton Sts.)
Manhattan, NY
212-253-1960

久しぶりの三ツ星に出会いました。
こいつはすごい。素晴らしい。
シェフはマウロ・ブッフォ(28)。
例の泣く子も黙るエル・ブリでスーシェフをやって、それからニューヨークに来てブーレイのテストキッチンで働いて、それから去年、チェルシーのKleeというところでスーシェフをして(このクリー、オーナー・シェフよりこのマウロの方が格段に美味かったんで、このページでは☆付かず論評せずのままでした)、そんでもって5月からこのクリントン・ストリートのファライにやってきたのです。

レストラン自体は40席ほどしかない細長い小さな作りです。いまは夏なのでパティオに出てゆったり食べられます。で、ウェイター、ウェイトレスが美男美女揃い。うふふ。
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実はこの日、2か月遅れの私の誕生日会という名目でマリアさんがシャトー・フィジアックの95年(!)を持ち込んでくれました。白も持ち込みで、こちらは前夜の食事帰りの散歩で見つけたトライベッカのワイン屋で買ったホワイト・ボルドー。こっちも40ドルでたいへんおいしうございました。おまけにお店からは私たち4人に最初にロゼのスプマンテ(セルジオ)をいただきました。ラズベリーの香りのするきれいなお酒です。

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マウロがおまかせでコースを作ってくれました。

アミューズはハーブ入りのヨーグルトチーズに手づくりのマラスキーノ・チェリーの半身を載っけて、そこに目の前でキュウリのスープを注ぎ入れてくれます。目にも鮮やかな夏の演出。そうして胃にも優しいでしょ。チェリーというアクセントが色でも味でも気が利いています。

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次に出てきたのが前菜です。
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ホワイトポレンタの面を軽くグリルしてその上にチキンレバーのパテが載っています。この組み合わせが絶妙です。ポレンタはあくまでも軽く優しく、レバーが攻め込んでくるのをふんわりと包み込んでくれます。下にはイタリアのなんとかという、マッシュルームのジュをベースにしたチャーヴィルやチャイブの入った、これもまた軽い軽いクリームソースと上等なオリーブオイル。横に並ぶのは杏茸(ジロール)ですね。ちょいとバルサミコも見えます。で、レバーパテにはちょっとシーソルトが振られていて、これが口の中でカリカリといいアクセントになるのですよ。食感の強弱、味覚の重層、つまり、音楽なんですね、いい料理ってのは。

次が最初のパスタ料理ですね。
で、これ。パスタレス・ラビオリ。つまりパスタの皮のないラビオリ。「ヌーディ・ラビオリ」ですって。裸のラビオリね。皮のない餃子って、さて、面白いねえ。
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具はリコッタとスピナッチ。で、そこにセージバターのソース。そんでミルクの泡。揚げたセージがちょこんと載っていて、まあ、定番と言えば定番、クラシックと言えばクラシックであるセージとバターとほうれん草とリコッタのラビオリが、こんなに違ったものになる。こういう発想、ちょっとエル・ブリ掠め取り、なのかしら。でお味はというと、これもまた微笑んでしまうくらいに美味いのです。塩の加減がじつにたおやか。リコッタやバターという食材なのに、ぜんぜん軽い。上手だなあ。さっきのにも入ってましたが、このラベンダー色の花はトウモロコシの花だそう。corn flowers だって。きれいです。

それで2つ目のパスタの料理。
これがダイナマイトでした。さっきの微笑みに対して、こちらは思わず黙ってしまった。それからしばらくして「うめえな、こいつぁ」と。
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何だと思います?
麺はまず、スモークしたパッパルデッレです。ひゅいー。
下には水牛のモッツァレラがトロトロになって敷かれてあります。
そこにちらっと見えるのはカツオ出汁のジェリーです。
コーン・フラワーとチャイブの小口切りがちょこっと混ざってる。
で、載っけたキャビアの塩味で食わせる。
食わせます、これが。なんというか、ニッポンジン、参りました、です。
滋味というんでしょうか。もう口中から胃臓の底まで下がっていく静かな波動。

パッパルデッレは、伸して切ったらすぐスモークするそうです。それで茹でる。生パスタなので茹で時間は1、2分でしょう。なのでスモーキーなフレーバーは水に抜けていったりしないらしい。で、この薫香が、出汁のうまみとキャビアの塩味と一つになって、それをモッツァレラがイタリアンとしてまとめあげる、ってなとこでしょうかね。出汁って、こういう使い方できるんだなあ。すごいなあ。

と思ってたら、次にチーズのリゾットが出てきました。
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これがまた、あーた、素晴らしい。
ウサギのロインとフィレのローストが載っていて、さらに心臓と肝臓も。この肉がまたうまいんだわ。よくこんな上等なウサギを見つけてくるなあ。じつにやさしい味で、心臓なんか、もう、いままで食ったいろんな心臓の中で一番しっとりとうまい。ナンマイダブナンマイダブ。
チーズリゾットがぐいっと正面から正攻法で来ます。で、隣にある粉はカカオです。
ほらね、わかるでしょ、これは赤ワインのための味付けなんだなあ。チョコレートと肉汁、そしてナッティなパルメジャーノ、すべてメルローたるフィジアックの味と呼応して、食べる、飲む、食べる、飲むが別次元へと登り詰めていくわけですわ。極楽です。

でさ、ここで終わればいいものを、まだ出してきます。
そうね、まだパスタだったもんね。やっと主菜になるわけですわ。

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お腹いっぱいなんですけど……。
でも、ひとくち食ってみて、うまいから食べちゃうんだなあ。ちっちゃいし、いっか。
シーバス(鱸)をポテトの薄切りでくるんでソテーしました。
下には白と緑のアスパラガス。そんでフェンネルの茎をくったりと茹でたの。
ソースはハックルベリー。うひひ。左下の粉は、フェンネル・ソルト。茴香の種子と塩を混ぜたやつですね。
ほら、鱸は半生です。こういうの、日本では出てこないんだよねえ。焼き魚はみんなぎっちり火を通している。刺身の国なのに、魚に火を通す時はレアというのもミディアムというのも、コンセプトからしてないんだね。試してみりゃいいのになあ。

はい、もうお腹いっぱい。

なのに、マウロはまだ肉が出てないって、出たじゃないの、ウサギ〜。
もういいよー。
ひー。

はいどーぞ!
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あはは。ラムですね。プラムの焼いたのとアーティチョークのソテーが真ん中に置いてあり、紫イモのピュレが敷いてありんす。カリカリの塩がまた。
で、残したかと言えば、ぺろっと食べちゃいました。あははははあ〜苦しい。

プレデザート。インテルメッツォ。
うんめええ〜。
これ、たいへんよろしい。お腹が洗われるよう。
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思い出す限り列挙すると、トマトとスイカのジュースのグラニテ、スイカのキューブ、キュウリのキューブ、セロリ、ベージルとミントのシロップ、あとこのオレンジ色のなんだっけ、これがセロリ? それときっとレモン(当てずっぽう)、うーん、それからなんか他のスパイスも? コリアンダー?

すごいあっさり、ほんのり甘〜く、シャカシャカと口溶けも最高。
こういうの、プレデザートでも、ともするともうちょっと甘みを抑えたバージョンでアミューズで最初に出て来てもいいね。なんか、いろいろとハーブや香辛料を忍ばせた、野菜と果物のタルタルみたいなんです。

も、いいから、と思ったら、はい、ちゃんとデザート。
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ハミングバードのチョコレートですって。
チョコレートソルベの胴体に、鳩煎餅みたいなメレンゲ煎餅の翼、つぶつぶはチョコレートクッキーです。で、輝く頭の部分は飴なの。なかに、蜂蜜とアニスみたいなシロップが入っていて、すごく薄いもんだから口に含むとパリッと割れてジュワッとシロップが出てくる。うほほ。

まだ来るか!
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じつに穏やかなザバイヨーネっぽいミルフィーユと、奥はハックルベリーのソルベ、オレンジ敷き。

はあ、満腹です。

で、ここは屋内でオープンキッチン。
地下に仕込み部屋があるんだが、キッチンは4畳くらいしかない。
作ってるのはこの3人。
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左からマウロ、アキさん、ライアン。
アキさんはフィレンツェで6年、名門エノテカ・ピンキオッリで働いてて去年からニューヨーク。

そういうわけで、三ツ星を付けましたが、ただし、これはね、いわゆる知り合いの、お仲間の、おもてなしだから、特別料理なのかもしれません(ってか、きっとそう)。でもそれを割り引いても才気あふれる料理だったのは確かです。気を入れてもこういうのは作れないシェフは五万といるのです。
ですんでもしメニューどおりに頼むとしても、こういう才能の作る料理はきっとポテンシャルを持っている料理であるはずです。ぜひお試しあれ。それでご意見をいただければ幸いです。

May 14, 2007

Upstairs

2007-05-12
懐石・鮨・フレンチ
Upstairs at Bouley(ブーレイ・アップステアーズ)
☆☆☆
130 West Broadway
(corner of Duanes St.)
NY., NY.
212-219-1011

しかし、名だたる菊乃井やおけいすしやゴードン・ラムジーやらに同じ3つ☆を付けてるんだけど、どう考えてもここはまったく「格」ははるか下です。だって割烹においてはカウンター席というのは上席なんですが、ここはアメリカ。カウンター席はファストフード用と受け取られている席扱い。しかもその席はL字型で6席しかなくて、その向こうの調理スペースは1畳分もないようなところに2人の板前さんが入っているのです。

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(こうです。向うが三上さん、右側が山田さん)

おまけにここのウエイターたるやサービスは最低、さらにひどいことにじつにひんぱんに勘定書を間違える。百歩譲ってアメリカ人だから日本料理のことが分からないというのはしょうがないかもしれないが、頼んでもないものがついていたり、2人なのに3人の計算になっていたりは日常茶飯事。ですんで、ここで飲み食いする時は、最後に必ずきちんとビルを見てチェックアウトしなければ後から何でかなあといやな思い出し方をすることになります。ですんで必ずチェックアウトです。まるで満員電車から降りるたびにスリに遭わなかったかとポケットを確かめる癖がついてしまうようなもんです。

なのになんで☆3つを付けるのかは、ひとえにただただ、うまいからです。確かにここは美味しい。
そうじゃなきゃとうに来るのを辞めている。いやな思いをしても食べたくなる。困ったもんです。
前にも書いたが、☆の数はかなり客観的に料理の質です。もっといえば味だけの点数です。

さてこの日のアップステアーズは初夏のメニューに変わったということでのレビューです。

日本の食堂には大きく分けて割烹と料亭があります。もっとも、東京では料亭というのは政治家や経済界の重鎮たちが密談を兼ねて会食をするところ、みたいなイメージがありますんで、30代半ばで東京を離れた私なんぞには、しかも新聞社では社会部だったこともあって、世に言うバブル期ではあったもののそんな大層なところに行く機会なんぞそうそうあるはずもありませんでした。でも、京都の料亭というのは違うようですね。嵐山の吉兆はお昼でも3万円以上しますが、座敷に上がって上げ膳据え膳ですからその値付けもむべなるかな。でも菊乃井なんかはもっと安い。これに瓢亭を加えて3大料亭でしょうか。これはいわばフレンチでいえばグランメゾンです。客の要望に従ってきちっと台本を組み、多少の遊びはあろうものの寸分の隙もなく大団円までを演じ切る。交響曲を最終楽章まで奏でるようなもんです。

一方の割烹は即興が命のジャズライヴみたいなもん。レパートリーは用意してあるがその日そのときの客の反応で思いつくまま自分の抽き出しを開けて変奏してみる。このアップステアーズは、形式はファストフード・カウンターの扱いですが、心意気は割烹です。当意即妙、臨機応変。メニューどおりには事は運ばない。まあ、でもこの狭さでメニューにある料理も、つまりは店内のテーブル席から来る鮨の注文や一品料理の注文もさばかねばならないので大変でしょうがね。

先日来、デギュスタシオン、そして饗屋と出かけましたが、この2店、じつによいながらもメニューのバラエティがそう豊富というわけではないので、さてその辺のメニュー以外の守備範囲がどこまで広いのか、次の来店あたりから確かめてみたい気もします。

この日の一品目はシェフ三上さんの漬けた海鞘(ほや)に生雲丹を載せてアラレを散らしたもの。
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漬けたばかりの海鞘のその漬かりが浅くて、まだ生の海鞘の磯の香りが立ちのぼります。それをいいあんばいの塩が表層部分でくいっと押さえ込む。まさに海のミネラルの甘みと塩み。そこに雲丹の脂分の甘みが覆いかぶさる。絶妙です。海鞘はこのくらい漬かりが浅いうちのほうがいいかもしれません。いや、わからん。漬かり込んだら漬かり込んだでまた美味くなるかもしれない。そのほんの微妙な違いを知りたくなる、そんなミニマリズムの結晶です。

2品目は山田さんの作り立てのごま豆腐です。
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これは見事です。じつにクリーミーでごまの風味がぱあっと口の中に行き渡るのに、どこにも味の力みがない、じつに穏やかな、悟ったようなごま豆腐です。しかもこの日は出汁つゆでまっすぐ勝負です。かつ節がすごく利いているのに、そのうまみをすべて抱き込んでしまうような、やさしく、たおやかなごま豆腐。色気すら感じるわ。
すごいねえ、と言ったら、これ、山田さんが吉兆時代に学んだ作り方なんですって。そんで、吉兆はあの、精進料理の神さま、じゃねえか、仏さまか、といわれる尼さんで有名な大津の月心寺のごま豆腐の作り方を伝授してもらっているんですって。なるほどねえ。すごいもんだなあ。

そうしたらこんどは三上さんから、卵豆腐です。
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卵豆腐とはいえ、ひとくち口に含んで、やられました。フォワグラの脂を使ってる。三上さん、「これは月心寺ではなくて、うちの近所の◎×寺に伝わるもんです」なんて軽口を叩いていましたが、じつはこの日来る前に電話で冷たい茶碗蒸しとか食べたくなるんですよねと言ったら、これを作っていてくれてたというわけ。なかにはロブスターの身と海老の身とハートオブパームとそして百合の根が入ってました。うめえったらありゃしません。

次は焼き物です。
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これもすごかった。右側が鱧(はも)。どういう発想か、ヤングコーンを巻き込んで蒸して焼いてある。このヤングコーンが食感といい、不思議にアクセントとなって鱧のうまさを引き立てています。わさびもいい。
左側は太刀魚。これ、なんかの漬け焼きだなあ。ちょいと干してもあるんだろうか、素晴らしい旨味。おまけにアワビの出汁の入った鼈甲餡がかかっているのです。
ピンクのはギョウジャニンニクの茎の部分の甘酢漬けです。

ほんでもってお次はお肉と来ました。
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ラムです。うみゃー。
ちゃんと日本食になってるの。このラム、ブーレイの食材をかっぱらってきたっていってましたが、まあ、確かにものすごく質のいい、臭みのまったくないおいしい肉であるのでしょう。三上さんはそこにポケットを作って里芋のつぶしたのを忍び込ませ、そんで、どうやって味付けしたのかなあ、ひょっとしたら醤油と味醂と酒だけかもしれない、クセのある羊肉をとても素直な、おとなしいよい日本の子にしてくれました。添えの野菜の相性の良さはいうまでもありません。ラムの餡ときちんと通底しているのは野菜のすべてが出汁に浸されていたからです。

んで、次のこの穴子の煮こごりで私はぶっ飛びました。
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口に入れるや否や、イノシン酸もグルタミン酸もグアニル酸も、炸裂です。なんじゃ、これは、という感じ。
参りました。おまけに雲丹も入ってるし。
で、この煮こごり、その「こごり」方がふるふるなの。もう、固まるか固まらないかのそのちょうど境界線上で綱渡りしているような危うさ、淡さ。パン、と手を叩けばそれだけでタラタラと液体になってしまうような、そんな感じ。あの栗原はるみの危ういゼラチン菓子よりもさらに儚い陽炎のような。あはは。でね、じつはこの煮こごり、かなり黒七味が利いてるのです。それがでも逆に味の深みを教えてくれるのさ。ちょうど、海底に射し込む一条の夏の陽光が遠い海面までの距離を教えてくれるように。
ほんと、これ食ってて、途中、涙出るかと思ったくらい。
旨かった。

なんだか元気になって、まだ食える、って言ったら出てきたのがこれ。
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コウベビーフの切れ端(笑)をマグロに見立てて、ヅケにして焼いたものの上にとろろならぬ、長芋素麺を短く叩いたものを載せたもの。マグロの山かけの変形ですわね。でも、マグロとは違う牛肉のグレイン(筋め)の質感には、すりおろした芋ではなくてこうしてみじん切りのようにした長芋のほうがちょうど同じような食感、質感になって、それらが呼応し合って面白い効果を出しているのでした。こういうのを瞬間的に判断するというのか、それともそこまで理として考えているのではなく直観的にわかってしまうのか、その辺が三上さんのすごいところです。

いやいや、堪能しました。
このあとは鮨に移り、カニのミソ和え、鯛と千枚漬け、〆鯖、白ミル貝、大トロ、マグロ赤身漬け、ホタテ、いか、鯵叩き、と握りでいただきました。
腹いっぱい。大満足。
しっかし、この2人にちゃんとした場所とちゃんとした器を与えて、ちゃんとしたウェイティングスタッフで仕事をさせてあげたいものです。いや、言い方が違った。仕事をしていただいたら、客としてそんな幸福はありません。

で、しっかり、メートルディの持ってきたお勘定はこの日も2人で100ドル余計についておりました(笑)。
って、笑いごとじゃないわな。
いったい、どうしてこんな間違いをするんでしょうかね。困ったもんです。

March 16, 2007

菊乃井

07-02-21
京料理
菊乃井(赤坂店)
☆☆☆
東京都港区赤坂6-13-8
03-3568-6055

順番が入れ違っていますが、今回の東京訪問で、いわゆる「高級店」というものがだいたい料理の相場で15000円くらいだということがわかりました。消費税を入れると15750円ですか。酒は別ですが。

そしてここ菊乃井も夜の懐石は15000円(15750円)から始まり、18000円(18900円)、20000円(21000円)と3つのコースが用意されています。京都の本店はこれに24000円(25250円)というさらに上級のコースがあるそう。で、この日は15000円の懐石に、菊乃井という名前の冷酒(1000円)を戴きました。

結論から言うと、参りました。美味しかった。それも、とても、がつくほど。

何というのでしょうね、隙がない、というんでしょうか、いやそれでは一流ホテルの料理と同じです。かっちりと脇をかため隙なく料理を仕上げている。しかし同時に、この店は面白いのです。遊んでいる。それも絶対に軽はずみにはならない大人の遊び、とでもいうんでしょうかね。いやはや、参りました。

菊乃井は、懐石ではあるのですがその料理はどちらかというとおばんさい的なものもあったりで、キメてはいるけど気取ってはいません。主人の村田吉弘さんは1週おきに京都の本店と東京の赤坂店を行ったり来たりしているそうです。で、「うちはメシ屋です」と言います。ですんで、よくありがちな、一流店で酒を飲んで料理も食べて、さて終ったから帰ろう、となって、でもちょっと一息つきたい、気取らないラーメン屋にでもひょいと寄ろうか、ってえのがイヤなんだって、はは、それはそうでしょうね。

私はここで食べてみてつくづく、こういう店をふだんづかいの飲食店にしたいなあって思いました。
まあ、そんなことができればこの世の至福というもんです。
で、きっと京都本店をとっておきの店に、ってか? はは、それは贅沢に過ぎるわね。
でも、ちまたの多くの15000円の料理を食べている御仁は、いちどはここの15000円を食してみて、どこを軸足にしたいかいまいちど考えてみても損はないと思います。

ではさっそく再現しましょうかね。

赤坂のわかりづらい路地の、奥まった土地を見つけて建てたビルなんですが、通りから玄関に至るアプローチが逆L字型になっていて竹林ふうの分け入り感。うまい具合に京都ふうを醸し出す技有りです。で、建家にたどり着いて檜の玄関を開けると1階は右側に開けます。大きく2つの間に分かれていて、最初の部屋は13席のカウンターと小上がりに2卓。このカウンターがメインなのかしら。背景は一面のガラス窓で、塀を後ろに灯籠や木なんぞをあしらってちょっとした庭を演出しています。

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これでここが東京だということを忘れる(ほんとは忘れないけど)仕掛け。続きに靴を脱いで上がる6席のカウンターの間があって、そこはフロア部分に3卓のいす席もあります。で、2つのカウンターの後ろにはずらっと板前さんたちが並ぶ、という仕組みです。(2階は座敷だそうです)。

ここの店では若い白衣の小僧さんが席まで案内してくれて給仕もしてくれます。これが、おひょひょ、初々しくてまたかわいいんだわね。へへ。で、この小僧さんたち、18とか19とかなんでしょうが、客を相手に緊張してるのが如実にわかる。そりゃそうだね、お客に粗相をすることがどういうことか兄弟子たちにみっちり仕込まれているんでしょう。その緊張感が微笑ましい。で、食材のことがよくわかってなかったりする。で、しばしば調理場に聞きにいったり。あはは。ま、それも愛嬌ですけど、わたしみたいに「微笑ましいね」と思う客ばかりではないだろうから、がむばりましょうね。

で、席に着くと、この日は2月下旬、梅花酒というものが食前酒として供されました。ほのかに甘い日本酒に梅干しと梅の花びらで香りを付けたものです。きれいでしょ?
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そして、さて、先付けで出された熱い金子蒸しの、やさしさ。

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乾燥海鼠(ナマコ)を戻し、海鼠腸(コノワタ)を焼いて?そこに水晶餡(ま、銀餡のことです)を注ぐ。乾燥ナマコはそのむかし金と同じ値段で取引されたという貴重なものだったので「金子(きんこ)」というのね。それをぷるんぷるんに丁寧に戻して、味がないからコノワタ(海鼠の腸)を乗っける。銀餡のだしはしっかりしています。そこに生姜汁がちょっと載って、浅葱を散らす。海鼠の食感、それを包み込むとろりとしただし。この料理の失敗の仕方は百通りもあるだろうに、きちんと納まるところに納まるとこうも見事なさりげなさです。どうだ、というのではなく、どうぞ、という矜持、とでもいうのかしらね。いいなあ。

お次は八寸です。

八寸.JPG

北野天満宮の「天神さん」の梅花祭が2月、ということで(最初の梅花酒もそれなんですね)、この神社の有名な絵馬をかたどった皿に(しかしこういうことがわかると料理は絵解き謎解きのように知的なゲームにもなる)、さて、時計周りで12時の位置から、鰯と車海老の手綱鮨(鰯は〆てあって三つ葉の茎もいっしょに押されます)、鱈子の落雁仕立て(これが美味い。ほぐした鱈子を百合根と合わせ、金時人参の細かく切ったのを混ぜて型に入れて蒸したもの)、緑色は菜種の胡麻柚子和え、梅肉で染めた豆腐、白いのはだしでさっと炊いた白魚で、そこにちょっと黄色く添えたのが蕗の薹の味噌漬けの黄身そぼろ和え、透明な金色のが熨斗梅、お猪口には花山葵のおひたし。黒いのは丹波の黒豆ですよ。ほくほくです。

次は向付けで、おきまりのお造り。
明石の鯛と瀬戸内の車海老。添えは瀬戸内の海苔の酢の物ですって。へえ。
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も一個、こっちは小鮪(マグロの幼魚で、こしび、と読みます)の焼き霜造りとか。皮めを焼き付けてるんですわね。で、これはそのまま黄身醤油で食べるんだけど、この黄身醤油のうまいこと(写真に写ってない)。どうしてうまいの?って聞いたら、小僧さん、中に入って戻ってきて、「三日間漬け込むんです」って答え。漬けるというか、寝かすんだろうね。ふうむ、それでこんなに馴染んでるというか、熟成感あるのか。道理でマグロの脂身に負けないわけだ。

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次は煮物椀。本日は鴨しんじょうの薄氷仕立て。
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フランスのシャラン鴨のしんじょうです。九条葱と草餅を焼いて慈姑(くわい)も絵馬の形と干支の猪の形に抜いて中に入れてあります。そこに聖護院蕪をへいで(削いで)被せ、それが薄氷に見えますね。そんで金時人参と柚子を花形に抜いて落とし、ちょっと金箔を散らしてそれを雪に見立てる。
で、しんじょうにはトリュフを入れてあるとか言ってたけど、あまりそれは感じませんでした。ってか、鴨しんじょうがなんか肉肉してて、だしと調和してない。これはこの日、ゆいいつはてな?の料理だったかも。きれいだけどね。

次は焼き物で、この日は真魚鰹の南蛮焼き。
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わたし、お恥ずかしいことにまったく気づかなかったんですが、「南蛮」って関西料理では「葱」のことなんですってね。あはは。いやずっと「鴨南蛮」とか「南蛮漬け」とか「カレー南蛮」とかって、わたしは「唐辛子」のことかと思ってました。もちろん唐辛子のことも南蛮といいますが、料理の世界では大阪の難波村という、もとは有名な葱の産地だった「なんば」が訛ったか「なんばの」というのが訛ったか、そういう意味なんだって。あたしゃてっきり、七味を入れるその唐辛子だって……南蛮漬けも鷹の爪入れるじゃないの、ねえ。はは、ばかだねえ。当たり前すぎていちども訊いてこなかったことで、そういう勘違いのままってけっこうあるかもしれませんて思いましたです。へへ。恥ずかし。
で、この焼き物は普通でした。ちと乾きすぎ。焼き過ぎな感じ。味はうまいんだけど。ちょっと干してたのかな。

次に、お遊びが出てきました。懐石の、「中猪口(なかちょこ)」というやつですね。酒を飲んでいる私たちに、ちょっとした強肴(しいざかな)というか、まあ、中継ぎのつまみです。

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これは鮟肝(これがまたうまく仕込んである)を切って、そこに奈良漬けを載っけたもの。この組み合わせ、合うんですねえ。うまいわ。

それと河豚の白子の刺身に、新七味を散らしたもの。
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「新七味」って何だって思うでしょ? 村田さんいわく、「七味って、昔からずっと変わらないんですよ。七味、いろんな7つの味の組み合わせがあってもいいとちがいますか? ということで作ってみたんです」
で、その新しい七味の組み合わせは、ピメントの赤と緑、胡麻、柚子、山椒、葱、そしてバジルです。みんな乾燥させて砕いてる。で、このバジルが思いのほか主張して、面白いんですわ。
河豚の白子も上物です。わたしはいつもいってるように鱈の白子のほうが好きなんですがね、これは新七味の効果もあって美味かったわ。で、簡単に言うと、河豚の白子は生クリームなの。対して鱈の白子はミルク。これは好みでしょうね。

で、その鱈の白子は次の酢肴になって出てきました。
しかし、これ、デカすぎ。笑っちゃうくらい。うまいけどね。

酢の物.JPG

わたしがいちばん感動したのが次の京野菜の炊き合わせです(うまそうなんで写真撮るの忘れて食っちゃいました)。

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入っているのは聖護院蕪、海老芋、金時人参、壬生菜、湯葉、それに蟹餡を注いで楽焼きのスッポン鍋みたいなので炊いて出てくる。柚子が香ります。でも、野菜がごろごろと、料理としてはすごく豪胆なの。でも味はかぎりなくやさしく染み入る。くー。ひー。これ、うまいわ。参りました。

さて、もう腹いっぱいなのに、最後は河豚の雑炊で〆です。
河豚雑炊.JPG
河豚雑炊盛り.JPG

で、デザートも2種類から選んで、やっと終わりです。

柚子アイス.JPG
これは柚子アイス。

イチゴ.JPG
これはイチゴソルベにイチゴのスープ。

いや、どうもどうも、ありがとうございましたあ〜。満腹っす。

February 20, 2007

おけいすし

07-02-20

おけいすし
☆☆☆
東京都渋谷区神宮前2-3-26
03−3405−4610

たしか7年ほど前でしょうか、さいしょにここを訪れたのは。で、以来、日本に帰ってきて余裕のあるときはここでじっくりと飲み食いしています。でも、これまで都合6回ほどしか来ていないですけど。はは。

ここはね、「鮨屋さん」という枠ではないのかもしれません。酢飯と鮨種とで構成される総合的なコースメニューを供するレストラン。コンセプトとしてはフレンチなんでしょうね。わたしは基本的にそういうのが好きなんだわ。

こんにちは、といって予約の名前を告げて席に着くでしょ、すると2掬いほどの「酢飯のおじや」が大きな器にちょこっと出されます。そして「蛤の冷たいスープ」もおちょこで出てくる。これはね、お酒を飲むひとにまずは少し胃になにか入れてから、というサジェスチョンなのね。やさしいでしょ? で、ビールを頼むとあっさりした「湯通しキャベツと玉葱のサラダ仕立て」みたいな酢の物が小皿で出てきます。あ、「蛤汁」「キャベツのおひたし」って言葉を使えばよくある和食だなあ。でも、そういう「よくある感」じゃないのだわ。

ビールを注ぐと「ほうじ茶で煮たものすごくやわらかい蛸の足」が3cmほどのブツ切りで2切れ供されます。美味しいです。同じく「水蛸の頭と吸盤の刺身」が、長方形の皿に盛られます。身の下に練り梅が忍ばせてあります。美味しいです。

つぎにさりげなく緑の葉包みの握りが1つそっと置かれます。口に含んで、あ、これ、「桜の葉」の握りだ、と頭の中に春風が通り過ぎます。あれですね、桜餅の塩漬けの桜の葉。餅を包めるんだもの、酢飯を包めないはずがない。でもその発想はなかなか気づかないうれしいものじゃないですか。四六時中鮨のことを考えているプロに、代わっていろいろなものを発見してもらって、わたしたちはその上澄みだけを頂く。そしてそれにお金を払うわけです。代金というのはそういうことですわ。身代わり料。

お酒は冷酒で頼むと、たしかここは菊正が出てきます。ふつうの菊正です。純米ではあるかもしれないけど、酒が主役じゃないから、あまり個性が強い吟醸とか大吟醸ではない。で、刺身から出てきます。ってか、メニューがないのだと思う。いつも座ると自動的にいろんなものが出てくるから。お腹が減ってると言えば早めに鮨にスイッチする感じ。今日は鮨で行って、ともいえそうです。でも昨晩はなあんとなく飲みモードだったので、瀬谷正二さんもそれを察知したのでしょう。そんな感じで料理が出てきます。

まずは「大トロの1辺焦し」です。カウンターから正面に常に火を入れてあるコンロがあってそこに鬼おろしみたいな魚焼き器が渡してあります。なんか、金属は宇宙ロケットの素材らしいですよ。熱を受けても変形しないんだって。で、そこに大トロのブロックの一辺をのみ、じゅっと押し付けます。すると脂が焼けて煙がブワッと立つ。その煙を浴びてトロの表面が燻される。で、それを切って刺身とする。うんめえ。そこに、またぜんぜんテクスチャーの違う「鮪の血合いの佃煮ふう」もそっと小皿で差し出されます。とてもあっさりした、甘くない味付け。長時間煮込んだ牛スジにも似た食感です。酒が進みます。さらに「鮪中落ちと山葵の握り」が続きます。1つを真ん中ですとんと包丁で分けて、わたしと連れに半分ずつ。マグロの脂に負けない山葵の味だということは、かなりの量のわさびを入れて調和させている。その塩梅、これは必然だったのだと頷かされます。

続いて昆布〆平目の刺身、そして昆布〆平目の縁側の握り。この昆布〆はぐいっとしっかり。平目は拠って飴色に近く、その食感はモッチリねっとり。醤油につける必要もなく滋味に満ちています。

イカはもちろん先日のどこかのように甲イカではありません。墨烏賊の身と耳の刺身が細切りにしてその透明な身をさらしてきます。そこに烏賊墨と海老の頭のお吸い物が、そうね50ccほど、ちょこっと。うめえ。塩加減も絶妙。さらに「薄く切った塩鯨の脂身と皮」は、これは脂の質がやはり魚と違って、癖はあるけど好きなひとは好きだろうなあ。「氷頭なます」と「焼き北寄貝」は、今回、北海道で食べなかったんでうれしかったです。

「〆鯖の刺身」「〆鯖の塩焼き腹身」と続きます。さらに酒が進んで、「うちでいちばんうまいもの」と「生ウコンの輪切り」が5、6枚、出されました。石垣島だそうです。ふうん、日本ではウコンが流行ってるんだ。そういえば泊まっているとーちゃんちでも冷蔵庫に「ウコンの力」なんてドリンクが入ってますしね。

「口直しの味の濃いトマト」は、すごい味です。やっぱり日本はトマトがすごい。ここからそろそろ腹いっぱいで、握ってもらうことにしました。

最初は「昆布〆鱚の握り」。鱚は身が弱いので、昆布で〆たわけか。あまくてたいへんよろしい。
続いて「鮪赤身の漬け」。これは近年食った赤身で最高です。この部位なんだよね、いつも、求めてるのは。どこなんでしょう。身がほろほろと崩れるようなの、口ん中で。これ、部位に関係するんだよね、たしか。でも、うますぎてそのことを訊き忘れた。とほほ。

次も絶品。表面だけさっと蒸し器で煽った「雲丹の握り」。蒸し雲丹というのはうまいのに出逢ったことがない。ですからこれは蒸し雲丹ではないのです。雲丹を箱ごと蒸し器に入れてさっと熱にくぐらしてやる、って感じの手当てを施す。すると身が締まるのねえ。それで味もうまい具合に凝縮される。ひえーって感じなのだ、うまくて。

そうそう、次の「干瓢の巻物」を食べて、わたし、干瓢はかくあるべしというのを、ここで知ったのだなあと思い出しました。ぐいっと濃いめに甘辛く煮込んで、ぐいっと山葵を利かせる。江戸っ子だねえ、って感じの気っ風の良さ(干瓢巻きが江戸っ子文化なのかは知らねども)。

そういえばここの酢飯もわたし好みなの。ってか、ひょっとしたらインプリントなのかもね、ここで最初に鮨のすごさを知ったわけだから。
酢飯は、ほら、いつもいってるように、酢がきちんと利いているわけです。塩は入らない。砂糖も酢を立たせるためだけに最小限。で、しっかり「お酢し」。基本的に酢が好きだという母親譲りの好みの問題とはいえ、鮨は酢の飯であるというそのコンセプトどおりの味なのです。好きだなあ。

最後は「焼き穴子の握り」をどろりと詰めたたれのひと垂らしで。もう、100年もののバルサミコみたいなドロりさです。いいっすねえ。
デザートは「黒砂糖の卵焼き」。もうカステラ状態。それに包丁は入れず、握り職人のしっとりした手でむぎゅっともぐ。5cmX4cmくらいの角になりますかね。そうして「大蜆のみそ汁」で終ります。

写真、撮れませんでした。こういう店ではなんとなく、写真を撮るなんて作業がはなから浅ましいものに思えてしまい……。

おけいすしは鈴木正志さんという大将が始めた店で、じつは大将は、なんかわたしなんぞにはおっかなくて、この瀬谷さんとかその下の埼玉繭夢さん(本名だよん)に握ってもらったりするくらいがいちばん楽でくつろげます(大将は隣というか続きの間である「鈴政の部屋」で握っています)。お二人ともほとんど無駄口をたたきませんが、瀬谷さんは、シャレを言うときでも真面目な顔でちらっと口の端から漏らすように言う。それが下品に落ちないカギなんでしょうね。目が、これも仕事、という感じで茶目になってから軽口を発する。素晴らしいプロです。

上記のごとく食べて、なんどもお代わりの酒をもらって、2人で今宵は39800円。食べ物が1人15000円。銀座久兵衛と比べてなんとお得感のある店。残りはお酒と税金です。じつに納得の値付けではありませんか。

January 24, 2007

WD~50

2007-01-21
ニューアメリカン
WD~50
料理 ☆
デザート ☆☆☆
50 Clinton St.
New York, New York
212-477-2900

いまやニューヨークで最もヒップなレストラン街となっているクリントン・ストリートにこのレストランはあります。ロウワーイーストサイド、ハウストンの東端に近い位置から南に伸びる一角です。この一角の再開発のきっかけは1999年の71 Clinton Fresh Food というレストランでした。そこを父親とともに開いたのが今回、wd~50でシェフを務めるWylie Dufresne(ワイリー・デュフレスヌ)です。wd~50はもちろんそのシェフの頭文字と住所ナンバーから来ています。2003年4月の開店だそう。デュフレスヌはいま36歳、ジャン・ジョルジュでスーシェフを務めていたといいます。うーん、わたし、ジャン・ジョルジュ、あまり(というか、正直言うとまったく)感心したことがないの。

アップステアーズの真ちゃんと2人で行ってきました。NYは寒い日が続いています。6時半の予約。店構えはなんとなくちゃち。大学祭の模擬店みたいな感じは店に入ってすぐの白木のバーやクロークがベニヤみたいに見えるからでしょうね。でもメニューはずいぶんと強気です。アペタイザーが15ドル平均、メインは30ドル。ちょっとしたグランメゾンみたい。で、やっぱりここでも105ドルのテイスティングメニューを頼みました。それに65ドルのワイン・ペアリングです。

で、結果は、というか経過は、料理はほとんどディフォーメイション(変形)とディコンストラクション(脱構築)の「エル・ブリ」スタイルです。やっぱりフェランの革命は大きいんでしょう。でも、こういうスタイルを一度知ってしまった人たちに、果たして最初の「ええ? 何、これ? どうしてこうなるの? うわぁ、すごい、面白い!」っていう感動は、どうなんでしょう、再現されるのでしょうか。どっちかっていうと、ああ、頑張ってるなあ、ってなってしまうんですよね、私の場合。で、最終的には、それで美味いのかどうか、ということなんですよね、やっぱり。それに、たとえフェランがやっていないこと、やったことないこと、知りもしないことでも、こういうのって、あ、エル・ブリだなあって思われちゃうでしょ。それ、かわいそうですよね。たとえば英国バークシャーにあるヘストン・ブルメンタールの「ファット・ダック」。ゴーミヨーで19点、ミシュランで3☆というすごいレストランだけど、フェランがいなかったら、もっとすごいと思われてたろうなあと。

ま、御託を並べてないでとっとと食い始めましょうか。まあ、すごいってほどじゃないけど、まあまあ美味いですよ。まずくはない。でもね、あとで書きますが、ここはデザート。ペイストリー・シェフのアレックス・スッテューパック(Alex Stupak)ってのが、これは私、参りました。素晴らしい。26歳です。うーむ。

ということで、最初はどかんと「フラットブレッド」が配置されます。これ、どっちかというとインドのぱりぱりパンに似てるものすごく薄いクラッカーですね。
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で、ファーストコースは烏賊ヌードルですって。その上の褐色のヌードルはオリーブのジュースを固めた麺ですね。そこにパラパラとオレンジ・ソイル(乾燥オレンジの粉末です)がかかっていて、向こう側の緑のはアルグラ(ルッコラ)のペーストと呼んでます。烏賊はスクイッド、ちっちゃなヤリイカですね、それを湯がいて千切りにした。うーん、ヌードルには日本人は驚かないなあ。これではアルグラのペーストの味が際立って緑っぽくておいしかった。アルグラとオレンジって合いますからね。でもそれだけかなあ。

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2品目は、これ、目玉焼き(サニーサイド・アップ)。

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笑っちゃうけど、おいしいです。何かというと黄身は人参ジュースになんかの凝固剤を入れて丸く凍らせる。で、室温に戻すと表面だけが固まっていて形をホールドする。下の白身はココナッツジュース。それに上手い具合に寒天みたいなのを混ぜて、これ、ほんと白身の食感にそっくり。上にはカルダモン塩とオリーブオイルが掛かっています。人参ジュースがおいしいの。でココナッツの味と合わさって、いいコンビネーションです。これは買いですね。

3品目は、これ、わからんでしょ?

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料理名は「フォワグラ・イン・ザ・ラウンド」、つまり球形のフォワグラ。この薄い肌色の球体がフォワグラのペーストをメソセルロースで固めたやつね。黒っぽいボールはちっちゃな麦チョコ。緑はクレソンのピュレ。オレンジ色のちっちゃな粒は、あられです。食感および塩味の加味用ですかね。で、底にはバルサミコをフリーズドライして粉にして丸くしたのがちょっと入ってる。つまりフォワグラのチョコ風味バルサミック和え、って感じね。でも、よくわからん。フォワグラの味も薄くて、最初にちょっと感じるだけで、よくわからん。なんだか、何を言いたいんだか、わからん。まずくはないが、うまくもない。ふうん、って感じ。

次。

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向こう側は冷たいカニ肉のサラダロール、それにミントの千切りが載ってる。手前はあれよ、寿司屋のガリを天ぷらにしたやつ、下に刷毛で塗ってるのは発酵ブラックビーンのペーストね。豆鼓かね。もちょっとまろやかな味をしてたからブラジルの黒豆かしら。で、どんな味かって、想像するとおりの味ですよ。黒豆ペースト、ちょっと醤油っぽくていい感じ。でもそれだけ。

あ、真ちゃんはカニとエビ類がだめなんで、なんだっけ、スモークした鰻にブラッドオレンジのゼストが載って白い千切りは黒蕪(皮だけ黒いので切ったら白、何の意味があるのか?)。で、おかしいのが黄土色のゴミみたいなの、これ、鶏皮のペーストなんだってさ。味、けっこう強くてしょっぱかったです。

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次は5品目で、これ、ちゃんとした一品料理のたたずまいでした。
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スモークタンみたいな、ピクルドタンと言ってますがね、タンのハムみたいな感じのスライス。やわらかくて優しい味です。で、キューブはマヨネーズを揚げたんだって。これも凍らせて成形してパン粉つけて揚げたんだろうね。黒っぽい刷毛目はトマトのピュレにモラーシス(糖蜜)を混ぜたもん。モラーシスの味強すぎ。これはチョコレートとメキシコの乾燥ポブラノの「アンチョ」チリなんかを混ぜたほうが合うような気がしますね。左の端にはね、手前がロメインレタスの細かい賽の目切り。向うがレッドオニオンの乾燥粉末ね。

次はミソスープ、セサミヌードル、って言ってますが、味噌ではなくてお澄ましの濃いのですね。
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ジャパニーズスープをみんなミソスープと呼んでしまっているという、初歩的な誤解です。かわいいもんですが。で、胡麻ヌードルってのはこれ、プラスチック容器に入っていて、ちゅーっと押すとにゅるにゅると出てきて、スープの高温で固まるという仕組み。スープ、コンソメみたいに濃厚で悪くなかったです。だ〜か〜ら〜、ヌードルにはわれわれ、驚かないんだってば。

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次のはラングスティーン、つまり手長エビね。隠れてて分らんだろうけど、このエビ、おそらく50度くらいで加熱処理してて食感が生っぽくて甘くて透き通ってて、おいしい。べつに真っ赤なハイビスカスペーパーなるものは甘酸っぱくアクセントをつけるもんだろうけど、なんかもっと違うもののほうがいいなあ。エンダイブも三角に切って湯通しして冷やしてエビの色と食感に合わせてます。でね、下に敷いてあるソースみたいなのはソースじゃなくて、ポップコーンのピュレ。よくまあ考えるわね。ホント、ポップコーンの味がする。

真ちゃんはエビがだめだから、タルボットです。量がほんのちょっぴり。焼いてあって三角に切って、写真では右奥に重ねてあるのがそう。
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真ん中のオレンジはコーヒーとサフランのドレッシング、緑のはネギ風味のブルグァ(Bulger=小麦を半ゆでにし砕いて乾燥させたもの)。白い棒状のはサルシフィ(西洋牛蒡ですね)。ここね、さっきから言ってますが、野菜の料理の仕方が上手い。ちゃんと野菜の味がするのさ。それは買い。

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で、料理の最後はスクワブ(雛鳩)の胸肉のビーツまぶしロースト=右端。白いのはココナッツ・ペブル(小石)と。それに混じってる赤い塊はカタバミだっていってた。うーん、微妙な味でした。

というわけで、面白いっちゃ面白い。がんばってるっちゃがんばってる。だから☆あげるのにやぶさかではない。でも、ここはテイスティングより、アラカルトでちゃんと食べた方がいいのかもなあ、って思いました。でもふとこのロケーションに思い及ぶと、ここクリントン・ストリートは圧倒的に若者たち(20〜30歳代?)が多いんだ。するってえと、やっぱりこういうの、そういう人たちにはすごく面白いし刺激的なんだろうなあと思うのでもあります。店もそういう作りだしね。

とはいえ、しかし!
しかし!

次に出てきたデザートで私はぶっ飛びました。
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これ、真ん中の棒状のは柚子のカード(チーズみたいに牛乳を凝固させたもの)で、緑色の粉末やクリームはピスタチオなんだけど、驚いたのはこの白い泡です。何の味がしたと思います?
口に含んだとたん、え、これ、あれだよ、あれ、クリスマスのときのクリスマスツリーの匂いだよ。あの、樹脂の匂い。そんなの、食べるの? 聞いたら、spruce(トウヒ)風味のヨーグルトだって。ひー。
いや、驚いたのは「そんなもの」という意味だけではなく、柚子のカードとピスタチオと、そうしてそこにやや苦みのある木の香りを混ぜ込んで、出来上がった全体の味の、なんともいえぬほど刺激的かつ控えめな雄弁さ。これはすごい。甘さも絶妙。揮発性の樹脂のもたらす効果の、いやはや、参りましたね。寡聞にして、私は木を使った食べ物をこれまで知りませんでした。あ、シナモンは木といや木だけど……。あと、木の実もそうか。でも、いわんとすること、わかるでしょ?

続くコーヒーケーキ、リコッタの泡、マラスキーノチェリーのピュレ、チコリのアイスクリームの盛り合わせも、あーた、いいじゃありませんか。
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最後は生チョコの捻れたのにアヴォカドのピュレ、ライムのソルベ、そこにすっと一直線でリコリスのシロップが流れています。
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組み合わせの妙。おいしい。素晴らしい!
このアレックス・ステューパック、メニューを見たら他に「松の木」や「サッサフラス(米国のクスノキ)」のエキスを使ったり、梅干しも使ってるなあ。で、デザートの3コースメニューが25ドル、5コースが35ドルって! それだけを食いにここに来る価値あり。私はそのアレックスのデザートのために再訪いたします!(あらら、ウェブサイトの写真見たらかわいいじゃないすか。この日は日曜でいなかったのだ)。こいつは天才です。
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あ、ワインを書くの忘れた。ペアリング、あまり合ってないのもありましたが、おいしかったのはホワイトバーガンディーです。Pouilly-Fuisse のVV "La Croix" Robert-Denogent 2004。キャラメル、バター、スモークの風味が程よかった。あと、スクワブと一緒に出されたオーストリアのZweigelt Heinrich 2003もよかったです。私ら結構飲んだんで、65ドルの元は充分取りましたね。はは。

January 17, 2007

Gordon Ramsey at the London

2007-01-16
フレンチ
ゴードン・ラムゼイ(ザ・ロンドン・ホテルNY)
☆☆☆
151 W. 54th St. (btwn/5th & 6th Ave.)
Manhattan, New York
TEL ; 212-468-8888

ロンドンの三ツ星レストランが昨年11月にその名も「ザ・ロンドン」というニューヨークのホテルにやってきました。ここは以前、リーガ・ロイヤルというホテルだったのを改装改名したものです。ホテルを入ると右側にバーがあって、そこからさらに左奥にダイニングルームが扉を隔てて設けられています。ダイニングスペース自体はかなりこじんまりとしています。40席ちょっとでしょうか。四角く窓もなく、でもテーブルもゆったりと置いてあるし天井も高いのでなんとなくコージーな感じで悪くありません。壁の仕掛けもちょっと面白いです。パネルがね、羽根板のようにくるっと回転して、昼と夜とで雰囲気をがらっと変えられるんですって。有名なデザイナー、David Collins のデザインですって。

ひょんなことから友達のダニエルちゃんの予約に充当される形で2人でお食事です。この日はマンハッタン、この冬初めて零下で、ちゃんと冬でした。

それはさておき、席に着いて最初に「カナッペ」と称してトーストしたフレンチブレッドにクリームチーズに黒トリュフのピュレを混ぜたムース、それとおなじく手前のがなんか緑色してるけど何のムースだったっけ、これはたいして印象に残りませんでした。クリームチーズにトリュフはうちのパーティーでも今度作ろうっと。
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メニューは「プレステージ」という7皿のコース料理の他は、ヴェジタリアン用の「プレステージ」、そしてあとはアラカルトしかありません。プレステージは110ドルです。アラカルトも前菜とメインが1ページずつです。そんなに品数は多くありません。どうしようか迷って、でも最初だからふたりともコース料理にしました。

アミューズは「BLT」ですって置かれたのが、トマトウォーターのジェリーの上にレタスのフォームを載せ、その上にベーコンチップやキャラメライズド・オニオンを載っけたものです。いわゆるデコンストラクシオン(脱構築)ですね。

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まあ、こんなものかなと思ったのですが、次に出てきたもので、あ、おいしいな、って思い始めました。
それがこれです。

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フォワグラと鴨肉のテリーヌです。周りの野菜がピクルしてあります。これが野菜の味がしっかりとしてておいしいの。もちろんフォワグラもそれを固めているジェリーがいい感じなのです。野菜は人参でしょ、フレンチストリングビーンでしょ、カリフラワー、そしてオニオンクリーム。そこに茶色いのはポルトのソース。このピクルドの野菜はパリのル・サンクで食べたのに似ています。しっかりしてて、でも野菜、って感じ。それがフォワグラと鴨肉の重さに果敢に切り込んで(とはいっても量がちょっとだからそんな大げさなもんじゃなくて、舌の上での小さな戦い、って感じで微笑ましい)いくのですね。それに、この盛りつけ、かわいくない?

次はね、ロブスター・ラヴィオリにセロリルートのクリーム、貝のヴィネグレットソース、それで下にはサヴォイかしら、緑色のキャベツが敷いてありました。
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これもこのキャベツがしっかりキャベツの味がしておいしいの。で、ラヴィオリはロブスターだけじゃなくて、聞いたらサーモンと手長エビも入ってると。そしてこれをイタリアンでも中華でもないものにしてるのが、ハーブとしてチャービルを入れてるところでした。なるほどね、いいね、この「はは〜あ」感。

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次はブラックシーバスだから黒鱸?。んで、写真はソースのアーティチョークのヴルーテをかけてるところですね。緑色はジュリエンヌしたバジルです。写真ではアーティチョークのダイスも見えますね。赤いのはローストしたレッドベルペッパーだと思う。そんで、ここにもベーコンのビッツがちょっと混じってて、いい感じのコクを与えています。で、うまいの。ほんと。味も、濃いというのとはちょっと違って、なんていうのかなあ、アグレッシブなんだけど、オフェンシブではない? 積極的だけど攻撃してくるようではない。なんか不思議です。これがきっとゴードン・ラムゼイの特徴なんじゃないでしょうか? イギリス人ですよ、フランス人ではないイギリス人としてのフランス料理。なんか、きっと葛藤の末に見つけた道、みたいな感じがします。

ここで肉料理に移ります。ダニエルちゃんはヴェニスン(鹿肉)を頼み、わたしはでは、ということで残ったチョイスのラムを頼みました。

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ダニエルの鹿肉は、これは定番でもありますがチョコレートのソースでした。味見させてもらいました。あ、これ、ブーレイでも昔々、食べたことがあるって感じた。すっごく似ている。でもチョコレートの味がこっちの方が濃くて、こっちのほうがひょっとしたらおいしいかも。で、お肉の下にはビーツとセップ茸(ポルチーニ)が敷いてあった。このビーツもおいしい。ソースをかけたら周りのポテトピュレかな、花びらみたいできれいです。

わたしのラムローストは、これがマージョラム風味のジュ(肉汁ソース)でした。

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いや、うまいんだ、これが。
ラムって、ふつうはミントとかローズマリーとかあとは中東って感じのクミンとかがお決まりのハーブ及びスパイスですが、マージョラムです。マージョラムって、オレガノの親戚だけど、ドイツのソーセージとかに入れるハーブね。ミント系の香草だけどオレガノよりもなんか、もっと抹香臭いっていうか、もうちょっとお線香みたいな(あまり食欲をそそらないけど)、そういう珍しい味がしました、このソース。で、まさにさっきも触れた、果敢に迫ってくるけど攻撃的ではない、という感じの肉料理なのです。下にはタマネギのピュレだな。真ん中はロマーノレタスみたいなパクチョイみたいな。左の赤いのはトマトコンフィ、その下にはラムのコンフィ。向う側はクミン風味のなすび。

わたし、ふつう、肉料理にはそんなに感心したことがないのですが、ここは肉もとてもうまいというか、感心させてくれます。また来たいなあ、ほんと。でも、メニューが少ないから、来週また、ってなったら同じコースを食べることになるんだろうか? その日その日のシェフズメニューもないし。

きっと、まだ2カ月ほどのこのレストラン、シェフ・ラムゼイの準備したレシピどおりにやっているんだと思います。ちなみにここのエグゼキュテヴ・シェフはニール・ファーガソンという、30くらいかなあ、若いシェフです。(食事終わってから厨房に通してくれました)。東京のウェブサイトを覗いてみたらおなじようなメニューもあったんで、やはりレシピどおりでやってるんだろうね。
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で、食後はチーズと口直しデザートのチョイスがあります。
これは見ても分るとおり、チーズのほうがずっとお得(笑)。ともするとおまけして大盛りにしてくれたのかもしれないけど。
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口直しはローストしたパイナップルに砂糖コートしたシラントロ(香菜)。これはよくある組み合わせです。

で、本番デザートはアプリコットのスフレ。アマレットアイスクリーム添え。アイスだけじゃなくスフレのほうもアマレットというかアーモンドエクストラクトの香りにあふれておりました。

この日はそんなに込んでいなかったせいかウェイティングスタッフもとてもフレンドリーで、じつに満足できた夜でした。
ゴードン・ラムゼイ(ニューヨークではゴーゾン・ラムズィーと発音するけど)、わたしにイギリス人の料理を見直させました。また来たいです。そのときにニール・ファーガソンがどれだけレパートリーの中で遊んでくれるか。そしてそれがいかほどのものか(シェフとスーシェフって、じつは雲泥の差があるんですよね)。

メニューがもっと充実したら、ここはトップレストランの1つになるでしょう。
こりゃ、ロンドンに行ってみないとだめかしら。

ワインはニュージーランドのソーヴィニヨン・ブラン(50ドル)と、スペインのリョハでプロピエダード・レモンド2003年(75ドル)。この赤が美味かった。
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税金とチップを含めて、1人210ドルくらいでした。大満足。

December 25, 2006

Upstairs

12/23/2006
☆☆☆

和食というものは私たち日本人にとっては食べにいく前からある程度は予想のつくものです。だいたい味付けだってだしと醤油と味醂と酒。それに砂糖と塩と味噌とせいぜい酢が加わっての組み合わせ。食材だってほとんどは知っています。ですので、フレンチとか中華とかイタリアンとかスパニッシュとか並みいる世界◎大料理とかに比べると私たち日本人にとっては一般的にそうそう驚くようなバラエティがあるわけじゃない。いまでこそ懐石だなんだと威張っていますが、日本食ってそうおいしいもんではないのかもしれない。ペリーだかだれだかが日本に訪れて、文化的にはこれほど豊穣・芳醇な日本なのに、食べ物はどうしてこうも貧相でまずいのかって嘆いたという文献も残っている。まあ、その彼がどれほどの食通だったかは別として。

ところが、アップステアーズの三上さんの料理を食べるたびに思うのは、「ある程度予想」をしながらも、その予想よりも必ず1つあるいは2つ上の味を経験させてくれるということです。あるいはときに「上」ではなく、1つ、2つ、右とか左とか斜めあっちとかそっちとかの味。でもそのたびに次の機会に臨んだときの私の予想も広がっているわけですから、こりゃ続けるのは大変です。しかしそれがプロというものなのでしょう。で、いつも、ああ、食べにきてよかったあと思うのです。

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本日の突き出しは片口鰯の稚魚、白子(しらす)ですね。上に梅肉とトリュフのピュレが載っています。このトリュフが、海苔の香りを出します。しかし海苔ではこんなにも海苔の香りが出ないというパラドクスがあります。酢に出会うとより海苔の味が出てくるような気がします。

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穴子の昆布巻きです。きっと出し昆布を捨てるのがもったいないので巻いたんでしょうね(笑)。逆にその薄味が穴子の風味と釣り合っています。

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鮟鱇の煮こごり。いうことありません。ゼリーが口の中で融けるのと同時に味もしずかに消えていきます。なので次をまた口に運びたくなる。上質の旨味はあとを残さない。ふっと消えるのですね。で、記憶だけが残る。いうまでもないけど、化学調味料との違いはそこです。

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この鴨はいったん焼きます。それから蒸します。そして醤油と酒と味醂のつけ汁につけ込むらしい。そんなに熱を入れるのに肉はピンク色をしています。なによりもやわらかい。これを薄切りにして、この日は社長(デイヴィッド・ブーレイ)の持ち込んできたフォワグラのアルマニャック漬けの瓶詰めがあったのでそれを塗って?巻き込み、スチームオヴンで温めてなじませ、マイクログリーンを載っけて鴨の漬け醤油を垂らして供されました。フォワグラが思いのほかアルマニャックの香味が強く、鴨の味をかなり覆ってしまっていました。フォワグラを山葵とか柚子胡椒を塗る程度の量で(つまりは薬味として用いる感じで)やるとすごくおいしくなると思いました。フォワグラと鴨ですもの、とも和えですもんね、合わないわけがない。

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これは絶品です。鯛の上を覆っているのは蕪と長芋の摺りおろしです。とても控えめな銀餡がかかっています。で、ふつうは蕪は卵の白身と混ぜて蒸して固めるのですが、これは長芋と合わせてスチームすることで固まりました。で、芋のせいでほわほわです。そしてほんわりと甘い。これは口の中にその軽くて実体のないような清潔な甘さが広がります。くー、幸せものです。

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熨斗蚫と牛蒡のアイナメ巻き。間にあるのは金柑酒を仕込んだ金柑を煮たものであると。ほほ、梅酒で煮たみたいな味もする。おいしい。アイナメは軽くスモークしてありますが、このスモークは要らないんじゃないかしら? アイナメはそんなに強い味を持たないので、スモークで本来の味が隠れちゃうかも。牛蒡自体が土の香りがするので、その味で食するくらいがいいと思う。とはいえ、アメリカ人にはそれではわかりづらいかもしれませんね。じゃ、あるいは逆に牛蒡をスモークするか?

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ところで今日飲んだのはアルザスのピノグリです。かなり上級です。甘みがありますが、和食の甘みと呼応して邪魔になりませんでした。さいきん、和食に合うワインがたくさんあります。てか、まあ、おいしいワインはおいしいんだよね。もっとも日本酒の方がよいに決まっていますが、NYでは同じレヴェルの上級の日本酒は倍の値段がするのでワインでやる方がコストパフォーマンスがいいのですわ。

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これはハワイから直送の生のパルミット(Heart of Palm)、つまりナントカ椰子の若芽の芯です。それを出汁で煮て含める。すると食感はほとんど筍です。ふつうはわからんでしょう。だいたい、和食でパルミットがこういうふうに出てくるなんて予想しないもんね。それを鰹節にまぶして、はいどーぞ。

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私はこのそば団子のもちもちした食感が好きで、なんだかおいしい生麩のお団子を食べてるような感じもします。本日は中味は鴨? 鶏? ちょっと生姜を利かした醤油風味の粗い肉そぼろが入っていて、味の強弱が心地よい小鉢です。うまい。向うには自家製からすみ大根。今日のこのからすみ、熟成が進んでて美味かったああ。

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いやいや、これは南瓜としめじと蕪と蛸の吸盤の炊き合わせ。青いのは花韮ですか? きれいだわなあ。しかもこのお汁の美味いのなんのって。ずずーっと啜って、おお、幸せ。

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蚫の肝の醤油漬け。北海道生まれの私にはたまらんです。ご飯が欲しくなって、一口残してのちほど鮨に握ってもらいました。

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こっから鮨に。でも、カメラの電池が足りなくなって、4種類しか撮りませんでした。これは赤身の漬け。好物であります。

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本物の神戸牛。米国産のコービビーフではなくて、日本の神戸牛。牛脂はふつう融点が40度くらいで口の中では融けないのですが、これは融けました。大したもんです。上には擂りおろした生のニンニク。でもこれ、味が口に残る。そんで次の鮨までニンニクの味がしちゃう。私はニンニク要らないかな。あればカリカリに焼いたガーリックチップとか、山葵あるいはホースラディッシュ、または黒胡椒がいいと思います。

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これです、蚫の漬け肝を酢飯と和えて成形して蚫をぶつ切りにして小鉢に入れてスチームかけたのかな? まずいわけがないよね。最高。しかし、いったい何品食べたんだ? 満腹ひー。

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これがアップステアーズの和食カウンター。こんなちっちゃなところでやってるんですぞ。信じられんでしょ。

ということで、クリスマス・イヴイヴの夜を堪能させていただきました。
まっこと、ごちそうさまでした。

October 08, 2006

Bouley Upstairsまたもやwith Ferran Adria del Bulli

2006-10-07
☆☆☆

あー、あれからまた1年が経ったんだなあ、って感慨はじつは、ほんじつふたたびエル・ブリのフェランとこのレストランで再会して、ブログを見たら去年は10月30日だったんじゃない、ってわかったからです。

あれからわたしはこのアップステアーズにはNYにいるときは毎週多いときは3回は来ていて、その間、デイヴィッドはテストキッチンができてそっちに忙しくて行っちゃってるし、しかしアップステアーズは懐石シェフの三上マスターが相変わらず孤軍奮闘。最近は混乱していたサービスもなんとなく客にまではあからさまに混乱してるとはわからない程度に落ち着いてきて、そんでこの2年目の秋を迎えています。

本日は7時半からひとりで訪問しました。
ロングアイランドのビールを頼んだら、すかさず三上さんが居酒屋のごとくお通しを出してくれましたが、これがあなた、ホタテのヒモと身とを粕で和えたもの。これがなんとも甘くて、じつはこれですでに腰砕けになりました。たった30gほどのお通しですよ。

おまかせは秋めいて、あるいは本日はなんと気温13度しかなくて。そのせいかときに冬めいてぽかぽかするもの。
さんまを味噌と醤油で二度漬けしたものや、マナガツオを麹と酒と塩で〆たものとか、焼きも充実していましたが、わたしはそば団子というかそばがきというかそばニョッキというか(そば8割に白玉粉2割でこねたものだそうです)、それをだしで温めなおして牛蒡と青ネギで調味して、そんで例のトリュフのピュレの入ったとろみ汁を掛けてお椀みたいにしていただく、これで砕けた腰が元に戻ったほどに生き返りました。

和食ってのはね、ふつう、ひととおりぜんぶ味わったことのあるものしか出ないからよほどじゃないと驚かない。その点では日本人の客には不利だ。でも、不利だとか勝ちだとか負けだとか、そういうのはいいの、もう。そんな気分になれば上出来じゃないですか。そんで、ここはそういう店なんです。

で、それでフェラン・アドリアご一行様4人が10時に登場。だーれもウェイティングスタッフ、それが彼だとは知らずに「予約持ってるのか?」って、おいおい、そりゃ失礼だろー。私ちょーどカウンターのいちばん入り口寄りにいたので「あ、フェラン!」って気づいてご挨拶。おいおい、マネジャーのジョエルはどこだ、おまえ、そんなメニューなんか見せるなこのひとに、って差配して、テーブルに着かせるや、こんどばかりはフェランが何者かを(去年の訪問で)知っていた三上さんも、はりきって他の客と同じお任せコースを(笑)お出ししたわけですわ。

本日は最初は鴨と焼きなすね、それから松茸の土瓶蒸し。それからセザールがなんか本店から持ってきて、次に三上さんからサンマとマナガツオ、で、さんまはちょっと浸かり過ぎてしょっぱかったからたっぷりおからをまぶして出したら、「これは何だ?」ってご一行様、ご質問です。そんなこんなで、またまた楽しく1時近くまで。

今日は久しぶりに(パリ以来)ヴァンサンにも会えたし、パティスリーのアレックスにも会えたし、新しいソムリエのオリヴィエにも(これは本店からわざわざフェランにサーヴに来たんだが)会えたし、ま、よかったんでないかい、って、もちろん、おなかいっぱい、幸せな夜でありました。

フェランは来週月曜日、つまり9日にテストキッチンに来るという。わたしもちょっと仕事があってテストキッチンにお昼から行くことになっていて、そのときにでもまた話ができそうです。

September 06, 2006

テルツィーナ

2006-9-5
Ristorante Terzina
リストランテ テルツィーナ
☆☆☆

札幌市中央区南2条西1丁目 アスカビル2F
TEL 011- 242-0808

このレストランは、わたしが札幌でいちばん気に入っている店です。2003年の夏に見つけて、毎年帰るたびに訪れるようにしています。料理、接客、いずれもとても素晴らしい。ただの料理でもない。驚きもひらめきもちゃんと刷り込ませてある。うふふ、と思わず笑いが漏れることもある。しかして接客はあくまで軽やかに丁寧で……そう、だれを連れて行っても恥ずかしくありません。こういう店は札幌でなかなか難しいと思います。東京にあったら東京でも行く、ニューヨークにあったらニューヨークでもひんぱんに出向く、そういう店です。

で、この日はわたしは毋と母方の叔父夫妻の4人で、1人10500円のディナーコースを頼みました。

焼き茄子とアンチョビ
ガスパチョとデラウェア
生ハムとその日のソルベ
カリフラワーのババロア ブロッコリーのソース キャビアのせ
函館産アワビとミョウガの冷製カッペリーニ たまり醤油のジュレ添え
歯舞産活〆柳の舞と冬瓜のブロデット
イベリコ豚ホホ肉のグリーリア 色々お野菜とポルチーニ茸、イベリコチョリソーのカポナータを添えて
みやこ南瓜とパルミジャーノチーズのリゾット サマートリュフをたっぷりとかけて
北アカリ・無花果・ゴルゴンゾーラ
季節のフルーツとティラミス
プラムのソルベとフロマージュブランのムース ヴィンコットのカプチーノ
コーヒー

この感動をすこしでも伝えたいと皿ごとに料理の写真を撮ったのですが、じつはその写真、携帯電話のカメラでして、その携帯からどうやって取り出してよいのかわからんのです。はは。すんまそ。

で、料理は食べていただくしかない。コースは5000円、7000円もあります。アラカルトはパスタが1600円くらいから、肉や魚は2000円台からあります。どれを取っても大丈夫です。私が保証します。

それで今回、シェフのお名前を確認しようとメールを出したら、支配人の安住正弘さんから次のようなメールをいただきました。
「名前は小川 智司(さとし)と申します。リストランテ・テルツィーナ開業(2002年)からのスタッフです。
オープン当初はグランシェフの堀川がおりましたので、シェフではありませんでしたが1年間でメキメキと頭角を現し、他の先輩達を差し置いて23歳でシェフに大抜擢されました。(現在26歳)、今では完全にリストランテ・テルツィーナの料理をまかされております。」

26歳ですよ!
そうなんです。才能のある料理人は20歳そこそこから活躍します。世界的なシェフで26歳で開眼していなかったやつはいません。小川さん、これは期待できます。コースからなにか強弱のメロディーが流れているのです。それはたしかに彼の唄なんだろうなあと思わせるような波形です。

でも、今回、ちょっと量が少なかったよ〜(笑)。
冷製カッペリーニ、具がアワビと高価だったせいもあるかもしれないけど、ありゃあドンブリいっぱい喰いたいぞ!(って無理な注文)。ミョウガと醤油のジュレだなんて、もうしっかりトレンドも押さえてるしぃ……。

あとガスパチョとデラウェアの組み合わせはよかった。これも量が少なかったけど。
生ハムはそんでもってソルベの上にのっかるんじゃなくて、ソルベの入ったデミタスの縁と縁に蓋のように渡してある、その盛りつけのひねり。いいねえ。
カリフラワーのババロア ブロッコリーのソース キャビアのせ、ってのはこれまた優しい味で、攻めも守りも両方できるというその幅の広さを感じさせる逸品。じつはその10日前のブーレイのロワールでの結婚式の正餐で、スーシェフのセザールがカリフラワーのクリームソースを柚子果汁を塗った生の手長エビに合わせていたんだけど、そのソースと同じ味のバランスでした。おみごと。

柳の舞も、スープ仕立てのブロデットだもんねえ。サフラン風味でこれも技あり。

イベリコ豚のグリルも、切り身3枚じゃ足りなかったよー(ってまるでだだっ子状態ですな)。
リゾットもぐいっと攻めの味にトリュフですからねえ、くー、うまかった(大スプーン3杯くらいだったけど、ってしつこい!)。

そういうわけで、札幌はこの店で救われています。(でも、コートドールとかのフレンチも行ってないんで、ほんとはそう語るには早すぎるかも。一度4年前に行ったモリエールは明確に期待はずれでしたけどね)

August 27, 2006

Le Cinq(ル・サンク)

2006-8-26
Le Cinq(ル・サンク)
☆☆☆

31, avenue George V,
75008 Paris,
France
TEL 33 (0) 1 49 52 70 00

泣く子も黙るル・サンクに、8月の夏休みでどこも開いてなくてやっと予約が取れたランチで行ってきました。ご存じミシュランの3ツ星レストランです。ここに来ると、ミシュラン3ツ星というものの持つ意味がよくわかります。味やサービスは当たり前ですが、レストランそのものの持つ格調というのか、面構え、佇まいが違う。凛としていて、従業員みんながどうにかここを一生懸命素晴らしい店にしようと努力しているのが伝わってくる。その意気と格調がDNAの二重らせんみたいになってるんだなあ(ってわかるかね、この比喩?)

でね、素晴らしい応対というのがどういうものかを教えてくれるの。
ここのウェイティングスタッフと話をしていると、客との間合いの取り方がなんともいえず絶妙なんですね。上質な人間が、上質な教育を受けて、気取られないように客の顔を読んでいる。みごとなもんですわ。まあ、それだけのことをするプロとしての金を貰っているという矜持もあるんでしょう。

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テーブルセッティング。バターは有塩と無塩で、もっちりと粘質。オリーブオイルは2006年産の新物。スパイシーでグリーニー(青臭い)でおいしいでした。

さて料理はじつに堅実なものです。ホテルのレストランという性格でもあるんでしょうが、絶対に文句は出ない、出させない、という作り方をしている。これも客への応対と似ていて、とにかく減点される要素を徹底的に排除するという手法なんですね。その意味では面白さに欠けるともいえるけれど、ここの常連には面白さよりもこの(特級の)確実さ、(特級の)安心さ、(特級の)日常さ、を求めるともなく求めているひとが多いのでしょう。面白いものを求めるひとはもちろんここには来ないのかもね。もっと尖ったところに行く。ガニエールとかね。

この日のムニュは、それぞれにグラスのワインを合わせてもらいました。

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アミューズはトマトのコンフィテュール(タマネギとバジルをアクセントにしてとろとろに煮込んだもの)を添えたツナとオリーブのケーキ。ケーキといっても薄くて小さなスライスが2枚、これ、もすこし粉が少なければキシュになるくらいに卵の香りが高くて、ツナとオリーブがなんだか田舎っぽい懐かしい味で和ませてくれるって趣向っすね。しかし、この卵自体、そのままですっげえうまいやつなんだろーなあ。

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1皿目はタイのカルパッチョと称していたけど、出てきたのはソールでした。それがね、フグの薄造りみたいにして、きっと叩いて薄く伸して丸く切り取ったんだろうね、その下には皿の絵柄じゃなくて、オゼイユ(日本でいうスカンポの葉っぱです)とかセルフィーユとかの緑のものを散らしてそれが透けるようにしてあるの。魚は変わるけどル・サンクの定番です。日本料理だねえ。で、うえに一直線にクレームフレッシュと野菜のエスカベーシュ(なんてあるのかしら? そう説明されたけど)を引いて、レモンゼストもちょっと散らしてきれいですわー。そんでもってフルール・ド・セルをぱらぱらとやってカリカリと歯を楽しませる仕組み。完成品です。これ以上どうにもならない。

これにはブラン・ド・ブランのドミセックを。

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2品目はラビオリっていうんだけど、これも手が込んでる。うーん、スクィッド(小さなヤリイカ)のフリカッセとタジーヌの野菜をベッドにして、そのうえにラングスティーン(手長エビ)のラザーニアがのっかる。で、ソースはやはりラングスティーンのだしのリダクション。それをシトラスやコリアンダーでカットして注ぎ、さらに最後にアリサ・ソースをのっけてた。これ、Harissaというチュニジアあたりのピリッと辛いソースってか調味料のことです。

これにはオーストラリア・マーガレットリバーのセミヨンとソーヴィニヨン・ブランのブレンドでCullenっていう白。木の香りのするいいワインでした。

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3皿目はほわほわのタラのロースト。泡のフュメ(だし)のソースなんだけど、生のアーティチョークが薄切りになって付いてくるの。生のアーティチョークは初めて。漬け水のレモンの香りが残っていて、その酸味もうまい具合にソースに移って、おいしうございました。

これにはブルゴーニュのムルソー。Cote de Beaune 2003. J.M. Boillot, Eau Marc. いっしょに行ったワイン通のパトリスは2002年のほうがベターだと言っておりました。つまり、2003年は比してミネラル感が多すぎるのかな? でもムルソーはうまいわね、いつも。

お肉は、わたしとパトちゃんは子牛を頼みました。
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パトリスの嫁さんのマナエちゃんはラムです。
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お肉のナイフ、切れませんでした。これだけがこの日の減点。へへ、めっけ。
そんで、ラムの付け合わせの野菜の酢漬けがうまいのなんのって。子牛のほうも付け合わせの野菜が抜群にうまい。フランスって、すごい国だわ。
で、ウェイターにそう感動を伝えると、「日本の方はみなさんポテトピュレのほうに感心なさいますが、そちらはいかがですか?」っていわれました。うん、もちろんポテトピュレおいしいんだけど、これ、わたし、ブーレイで14年前から喰ってるんです。そういや14年前は顎が落ちるくらいびっくりしたもんなあ、たしかに。

これにはClos du Marqui 1999, St. Julienですね。

いやいや、上質で素敵なランチでした。デセールにはお茶のマスターがいてね、ワゴンでサービスしてくれるの。このひとね、右手が不自由なんだけど、それも普通に働いて客たちも普通にサービスされてる。
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この普通のレヴェルの上質さ、それがル・サンクのル・サンクたる所以なんでしょうな。

お値段は、ワインとチップを含めて、3人で500EUROくらいでした。75000円か。高いですわ。うん、かなり高い。ディナーじゃないんだよん。さて、ニホン人、高くてもありがたくいただきましたってことでしょうか。でも、ほんと、☆3つの味です。でも、高すぎですわね。

フランス、ユーロになってからものみな高しだとマナエちゃんがいってました。

December 04, 2005

エピセ(epicer)

2005-12-03
四川料理をワインと合わせて
エピセ
☆☆☆
東京都港区西麻布4-10-7
西麻布410ビル1F
03-5468-3996

前菜4点盛り
 金華豚の焼豚
 ピータンの焼きシシトウ添え 香辣醤(しゃんらーじゃん=熟成豆板醤)和え
 生ホタテの泡辣醤(ぽーらーじゃん=塩発酵の唐辛子)和え エシャロットなどの香り付け
 生クラゲに腐乳とホーツァイ(四川の漬け物)を刻んでタルタル状にした合えもの
大正えびと上海蟹のカニ肉とカニ味噌のチリソース
生ガキをさっと炙って3種のソースで
 キノコのソテーとオイスターソース(コーヒーの味もした)
 大根おろしと泡辣醤
 ネギと香菜のたたきにピーナッツオイル
鴨と下仁田ネギとナスの香辣醤炒め
西姫鶏(しーひーちー)とスッポンの中国醤油煮(干し椎茸、タケノコ、サヤエンドウ)
アンコウと里芋の四川甘酢辛子(朝天辣椒)炒め
湯葉の酸辣湯麺

Oregon Chardonnay Eyrie Vineyards
Chateau Montus Cuvee Prestige 1997 (Tonnat) Glass
Coppola Diamond Pinot Noir 2003 Glass

3つ星以上は何回か行ってこれは確かだと思ってから付けようと思っていますが、ここはそんな店です。ただうまいだけでなく、とにかく、うなる。五感の隅々まで沁みわたる旨味。後藤力也さんという、見た目は優しげなへなちょこ風の料理人が、こんなにもエッジーで大胆で考え抜かれた料理を出すんですわ。たまげるね。

ただね、中国料理ってずるいと思うんだよね。もう何千という既成の調味料が料理人の味方についているわけで、いわば、彼の後ろに何百という別の調理人が控えていると同じことなんです。それもほとんどが発酵調味料でしょう、発酵調味料にかなうもんなんかないわけですよ、ふつう。だって、発酵調味料って時間そのものだから。数だけではなく、発酵・熟成させるその長い年月という時間まで、さじ加減1つで味方に出来ちゃうわけですから。歴史ってこわいね。

中国料理、だからどー転んだってまずいわけない、と、思っちゃうんだけど、だけど、そんな何千もの調味料、指揮官、司令官としての,つまりはオルガナイザーとしての力量がないとただただ混乱するだけではあるんだろうね。その辺なのかなあ、中国料理の料理人の味の違いは。

このところ東京に帰るたびに訪れているこの「エピセ」、今回は前回(8月)よりもやや平坦だった前菜からのスタートで、おまけにやや塩っぱいのもあって、はて、ま、どうなるかと思いましたが、西姫鶏とスッポンの中国醤油煮込みでぶっ飛びました。訊けば醤油煮というのは北京料理、スッポンというのは上海だそうですが、いつもは四川の辛くて尖ってしかも深〜い料理で攻めてくる後藤さんが、こんなにもぽってりと温かく柔らかくふくよかな料理を出してきて、わたしゃ言葉を失うほど料理に集中してしまいました。うまいなあ、これは。幸せだなあ。まだ味を思い出しては唾が出てきます。

次のアンコウと里芋も一転、力技で、しかし、里芋がきちんと箸休めになっていて、ついつい腹一杯なのにまだ喰ってみたいなあ、喰い続けていたいなあ、と思わせ、最後に麺を頼んでしまいました。

これがまたあーた、酸辣湯なんだけどね、ちがうんだ。
何が違うって、ふつうあのどろっと片栗粉でとろみをつけて麺に絡めるでしょ、それが違うんです。まずはちゃんと麺とスープを作って、その上に酸辣のとろみを掛けるという、2重のテクスチャーになっているの。しかも、です、しかも、その酸辣のとろみがね、これがわざとドロッという部分とサラッという部分とを分けているのよ、つまり、つくるときに片栗を入れてからそんなに混ぜ合わせないで、そのままさっと掻き回して、そんなドロッの濃淡をわざと生じさせるわけ。
さらにさらに、酸辣湯の辣の辛みなんだが、これ、ショウガの辛みですよね、後藤さん。それと酸のほうだけど、これも酢というよりも古漬けの酸っぱさのような味がした。このふたつが相まって、じつにすっきりした、さわやかで軽い湯麺になっていたわけで。こうして、たんなる酸辣湯が、3重にも4重にも仕掛けを感じさせてくれて、うーむ、うなったねえ。
そのうなりに加え、腹が張り裂けそうだったうなりもあって。ヒー、苦しい。

ワインは食べ過ぎて白1本、プラス赤がグラスが2杯。
シャトー・モンテュのキュヴェは、実に力強くわたしは好きだったが、同伴のとんとんが首を傾げるものだから違うものを2杯目に。まあたしかに牛舎に敷いた小便まじりの藁のにおいがしたけれど、味は深くて強くて、また飲みたいよ。
2杯目のコッポラのピノノワールは、ブルーベリー・ヨーグルトの味でした。

食事は各1万円、最初のビールとワインも含めて計42500円。
まあ高いが、価値はありまするぞ。ワイン1本で済ませれば2人で3万円だけどね。
あー、書いてたらまた飲みたくなってきた。

October 30, 2005

Bouley Upstairs/Ferran Adria del Bulli

2005-10-30
☆☆☆

今夜こそは行くまいと思っていたのに、ともだちのオサムちゃんが誕生日近いの、とかいうんで、あ、じゃ、行こ、とまたまたまたまたアップステアーズに行っちゃった。

破産状態。

例によって三上さんのすっげえ京都味の絶品和食が数品出て、つぎにデイヴィッドのわけのわからんタルタルが出て、うぇー、うっめえ、三上さん、これ、わかる?っていってみんなで分析しようと思って何が入ってるんだか探ったんだけど、タラゴン? or ミント? 松の実? マスタードシード? コリアンダーシード?(これは自信なし) もちろん黒胡椒だよね? でもけっきょく分析したって再現が出来るわけでもなく、あ、バルサミコね、でも、もうや〜めたってなって、いやあ、うまいねえ、すっごいねえ、っとだけで堪能していいんじゃないの? そうそう、下に敷いてあるのはパッションフルーツのピュレにフレッシュグリーンピーのさっと茹でたののみじん切りだぜ。これを和えるとまたうまいんだ。でも、こんなに重ねてるのにぜんぜん重くならない。三上さんも、うまいですね、これはぁ、とか言っちゃって。

っとかなんとか天国気分でいたら、ごちゃごちゃと夜の11時なのにうるさいご一行さまが入ってきて、ほしたらグリルにいたデイビッドがあらって顔をして出てきてみんなとご挨拶してるから、いったいどんなセレブがきたのかね? と思ったら、あ〜た、エル・ブリのフェラン・アドリアさまご一行さまだった。

え? エル・ブリ、もう休み期間?

ま、そんなことは関係ないけど、デイビッドが三上さんにこいつは友達ですごいシェフだから、とにかく日本料理を出してくれって頼んでるんだけど、三上さん、フェランなんて知らないから、へ? って顔。で、ま、すっご有名なスペインのレストランの創設者で、ブーレイで出る泡のソースもこいつの発案だってくらいなのって説明して、でも、三上さん、いつも出してるのを出したらおいしいに決まってるよ、とかエンカレッジして、いろいろブレインストーミングして出したら、フェランちゃん、もううんうんうなづきながら5品食べてた。時々両方の親指を突き上げてTwo Thumbs Upね。

よかったよかった。

んで、デビちゃんが私をフェランに紹介してくれて、フェランちゃん、英語ぜーんぜんしゃべれないの。でも、通訳を介してデビちゃんなんか私のことぐちゃぐちゃ言ってるから、そのうちになんだかよくわからんうちにフェランちゃんからじかにエルブリに招待されたわ。ま、口だけだろうけどさ、行ったら一品くらいは増えるかも。30皿が31皿に変わるくらい。ふむ。

でもおもしろかった。
3巨頭、相まみえる。
そのウィットネス、目撃証人さね。
三上さんの和食どうだった?って訊いたら、70行くらいしゃべってた。シンプルと思ってはいけない、このだしの深さは、とかなんとかのたまうんだけど、yeah, I knew, って。は、失礼。

でもいいなあ、このくらいのプロフェッショナルは。
私もそういう感動をひとに与えたいもんだ。

フェランは、やっぱ、面構えが違う。
デイビッド・ブーレイも、同じ。
三上さんも同じ。

にんげん、面構えね。
それが本日の結論。