Main

July 02, 2007

魯山人

2007-06-28
京懐石
魯山人(Rosanjin)
☆なし
141 Duane Street, NY, NY 10013
212-346-7999

論評に値しません。
でも、書いちゃうのは、鳴り物入りで登場した「本格京懐石料理の店」と騒がれているからです。
この店がトライベッカにできてNYタイムズでも紹介され(評価ではなく、紹介記事です)、あちこちでここの経営者が(韓国人で高校から日本で教育を受けた元商社マンのジュンジン・パークという人)「まだニューヨークに紹介されていない日本料理がたくさんあるのに、創作和食に走るのもどうかと思う。江戸前はこういう味、バッテラはこういう味という、かくあるべき味をめざしたい」と語っているのを聞いたら、これは食べてみなくちゃと思うのは当然でしょう。

でも、食べてみて、あきまへん。一部で、京都の「たん熊」で修行した料理人が作っているとされていたのですが、本当でしょうか。とても信じられません。このどうでもよさは、ミッドタウンで高級懐石を自称する「杉山」と双璧のどうでもよさです。

酒の取り揃えが少ない、ワインがない、ビールはサッポロの瓶だけ、というのは料理とは関係ないのでまあこの際は問わないことにします。
で、150ドルのコース。
さいしょからいけません。
先付けなんですが、お盆の上に3つ並びました。
なにもいわない。
そういや、日本ではなにも説明せずに出してくるなあ、と気づくまでに時間がかかりました。
訊けばよかったのか。でも……(あとでわかります)。

さて肝心の料理は、
右に、鱧の梅肉。鱧が死んでいます。くたっとして、海老を茹でて叩いたのかと思った。
100_2302.JPG

真ん中にトコブシかアワビの殻にその貝の切り身とホタテが入っていて、そうして、なにを思ったかマヨネーズベースのグラタンになっています。おいおい、どこの修学旅行の旅館料理だ? おまけにレンコン乾いちゃって硬いの。
100_2301.JPG

左側に葛豆腐。枝豆がぽろぽろと入ってたけど、なんだか味がおかしい。微妙に安い子供のお菓子の味がする。そんで酢も入ったつゆの味がきつい。
で、支配人らしき年配男性に「これは何ですか?」と(やっと)訊いてみることに。
すると、「水無月でございます」
はい、それはわかっております。三角に切って葛なら、これは6月の和菓子「水無月」に模した料理です。でも、私が訊いているのはどういう味が入っているかであって、名前ではない。
100_2300.JPG

このおじさん、ダメです。よくわかってない。
というのも次がお椀で、しかもまたまた同じく鱧が出てきたんですけど、出汁がとても燻香が強くて、ふつうは上品な本枯れ節を使うんですけれど「これは荒節ですか?」と訊いたら、この支配人、「ええ、うちはちゃんと出汁をひいております」。
そんな、訊いていることは違うでしょう。
しかも「うちは出汁を引いてる」って、そんなこと自慢してどうするのよ。
100_2304.JPG

おまけにこの鱧のデカいこと。それに、向うっかわに写ってるの、あれ、揚げ豆腐です。なんで? どうして揚げ豆腐なんかがお椀に入ってるの? わけわかりません。味のバランスが崩れるでしょうが。

向う付けのお刺身が次に出てきたんですが、この器、織部ですが、いい感じでした。熊本オイスターがおいしかったです。そんなけ。で、出汁醤油とたまりとが2つ用意されてるんだが、これも説明ないんで、アメリカ人はわからんと思いますよ。どれをどっちにつけて食べるのか。
100_2305.JPG

次はおしのぎなんでしょうか、お鮨でした。トロと穴子のどちらかを選んでほしいと言われました。
1貫、つまり2個くるなら、べつに一つ一つでもいいんじゃないのかしら?
でも穴子を頼みましたら、この穴子、詰めがしょっぱいのと、穴子がばさばさしてるの。うそだろ、おい、ってな味。おまけにガリをこんなふうに三角に畳んだら食べづらくてしょうがないじゃないの。一枚一枚剥けっていうわけ? それともガブリと? 私は後者をやりましたが、結構噛み切れないものなのですよ。はは。
100_2306.JPG

でさあ、次のがまた観光旅館料理。カレイ(だっけ?)の南蛮。酢の物ですな。下にはウニとなんか(忘れた)のソース。
うーん。なんじゃい、これ。居酒屋「力」(ミッドタウンの飲み屋です。リキと呼びます。まあまあうまいよ)あたりで出てくれば、お、酒が進むねえ、でいいのかもしれないけど。
100_2308.JPG

焼き物は鱒かな。手前はアスパラの湯葉巻き。周りに垂らしてあるのはバジル入りのオリーブオイル。
100_2309.JPG

そんで次がウナギですからね。
100_2310.JPG

最後のご飯は餅米。うえに鯛かなんかが載ってて、空豆? そんで一汁一菜。
100_2311.JPG

なんか、ご飯、丸まっててお握りみたい。懐石で餅米って出るのかなあ。寡聞にして知りませんでした。

デザートは写真撮るのもやめました。クリームブリュレかバニラアイスか。

この店は早晩、潰れると思います。
やれやれ。
わたしたち、この日、この店で出てきた料理のこと、ひと言もテーブルで話題にしませんでした。こんなに料理好きの面子がそろってたのに。可笑しいねえ。

June 01, 2007

懐石・祇園松むろ

2007-05-31
懐石
祇園松むろ
☆☆
京都・祇園花見小路通り新橋下ル東側 祇園神聖ビル6階
075(531)0300

May 14, 2007

Upstairs

2007-05-12
懐石・鮨・フレンチ
Upstairs at Bouley(ブーレイ・アップステアーズ)
☆☆☆
130 West Broadway
(corner of Duanes St.)
NY., NY.
212-219-1011

しかし、名だたる菊乃井やおけいすしやゴードン・ラムジーやらに同じ3つ☆を付けてるんだけど、どう考えてもここはまったく「格」ははるか下です。だって割烹においてはカウンター席というのは上席なんですが、ここはアメリカ。カウンター席はファストフード用と受け取られている席扱い。しかもその席はL字型で6席しかなくて、その向こうの調理スペースは1畳分もないようなところに2人の板前さんが入っているのです。

100_1679.JPG
(こうです。向うが三上さん、右側が山田さん)

おまけにここのウエイターたるやサービスは最低、さらにひどいことにじつにひんぱんに勘定書を間違える。百歩譲ってアメリカ人だから日本料理のことが分からないというのはしょうがないかもしれないが、頼んでもないものがついていたり、2人なのに3人の計算になっていたりは日常茶飯事。ですんで、ここで飲み食いする時は、最後に必ずきちんとビルを見てチェックアウトしなければ後から何でかなあといやな思い出し方をすることになります。ですんで必ずチェックアウトです。まるで満員電車から降りるたびにスリに遭わなかったかとポケットを確かめる癖がついてしまうようなもんです。

なのになんで☆3つを付けるのかは、ひとえにただただ、うまいからです。確かにここは美味しい。
そうじゃなきゃとうに来るのを辞めている。いやな思いをしても食べたくなる。困ったもんです。
前にも書いたが、☆の数はかなり客観的に料理の質です。もっといえば味だけの点数です。

さてこの日のアップステアーズは初夏のメニューに変わったということでのレビューです。

日本の食堂には大きく分けて割烹と料亭があります。もっとも、東京では料亭というのは政治家や経済界の重鎮たちが密談を兼ねて会食をするところ、みたいなイメージがありますんで、30代半ばで東京を離れた私なんぞには、しかも新聞社では社会部だったこともあって、世に言うバブル期ではあったもののそんな大層なところに行く機会なんぞそうそうあるはずもありませんでした。でも、京都の料亭というのは違うようですね。嵐山の吉兆はお昼でも3万円以上しますが、座敷に上がって上げ膳据え膳ですからその値付けもむべなるかな。でも菊乃井なんかはもっと安い。これに瓢亭を加えて3大料亭でしょうか。これはいわばフレンチでいえばグランメゾンです。客の要望に従ってきちっと台本を組み、多少の遊びはあろうものの寸分の隙もなく大団円までを演じ切る。交響曲を最終楽章まで奏でるようなもんです。

一方の割烹は即興が命のジャズライヴみたいなもん。レパートリーは用意してあるがその日そのときの客の反応で思いつくまま自分の抽き出しを開けて変奏してみる。このアップステアーズは、形式はファストフード・カウンターの扱いですが、心意気は割烹です。当意即妙、臨機応変。メニューどおりには事は運ばない。まあ、でもこの狭さでメニューにある料理も、つまりは店内のテーブル席から来る鮨の注文や一品料理の注文もさばかねばならないので大変でしょうがね。

先日来、デギュスタシオン、そして饗屋と出かけましたが、この2店、じつによいながらもメニューのバラエティがそう豊富というわけではないので、さてその辺のメニュー以外の守備範囲がどこまで広いのか、次の来店あたりから確かめてみたい気もします。

この日の一品目はシェフ三上さんの漬けた海鞘(ほや)に生雲丹を載せてアラレを散らしたもの。
100_1668.JPG

漬けたばかりの海鞘のその漬かりが浅くて、まだ生の海鞘の磯の香りが立ちのぼります。それをいいあんばいの塩が表層部分でくいっと押さえ込む。まさに海のミネラルの甘みと塩み。そこに雲丹の脂分の甘みが覆いかぶさる。絶妙です。海鞘はこのくらい漬かりが浅いうちのほうがいいかもしれません。いや、わからん。漬かり込んだら漬かり込んだでまた美味くなるかもしれない。そのほんの微妙な違いを知りたくなる、そんなミニマリズムの結晶です。

2品目は山田さんの作り立てのごま豆腐です。
100_1674.JPG

これは見事です。じつにクリーミーでごまの風味がぱあっと口の中に行き渡るのに、どこにも味の力みがない、じつに穏やかな、悟ったようなごま豆腐です。しかもこの日は出汁つゆでまっすぐ勝負です。かつ節がすごく利いているのに、そのうまみをすべて抱き込んでしまうような、やさしく、たおやかなごま豆腐。色気すら感じるわ。
すごいねえ、と言ったら、これ、山田さんが吉兆時代に学んだ作り方なんですって。そんで、吉兆はあの、精進料理の神さま、じゃねえか、仏さまか、といわれる尼さんで有名な大津の月心寺のごま豆腐の作り方を伝授してもらっているんですって。なるほどねえ。すごいもんだなあ。

そうしたらこんどは三上さんから、卵豆腐です。
1675.jpg

卵豆腐とはいえ、ひとくち口に含んで、やられました。フォワグラの脂を使ってる。三上さん、「これは月心寺ではなくて、うちの近所の◎×寺に伝わるもんです」なんて軽口を叩いていましたが、じつはこの日来る前に電話で冷たい茶碗蒸しとか食べたくなるんですよねと言ったら、これを作っていてくれてたというわけ。なかにはロブスターの身と海老の身とハートオブパームとそして百合の根が入ってました。うめえったらありゃしません。

次は焼き物です。
100_1677.JPG

これもすごかった。右側が鱧(はも)。どういう発想か、ヤングコーンを巻き込んで蒸して焼いてある。このヤングコーンが食感といい、不思議にアクセントとなって鱧のうまさを引き立てています。わさびもいい。
左側は太刀魚。これ、なんかの漬け焼きだなあ。ちょいと干してもあるんだろうか、素晴らしい旨味。おまけにアワビの出汁の入った鼈甲餡がかかっているのです。
ピンクのはギョウジャニンニクの茎の部分の甘酢漬けです。

ほんでもってお次はお肉と来ました。
100_1683.JPG

ラムです。うみゃー。
ちゃんと日本食になってるの。このラム、ブーレイの食材をかっぱらってきたっていってましたが、まあ、確かにものすごく質のいい、臭みのまったくないおいしい肉であるのでしょう。三上さんはそこにポケットを作って里芋のつぶしたのを忍び込ませ、そんで、どうやって味付けしたのかなあ、ひょっとしたら醤油と味醂と酒だけかもしれない、クセのある羊肉をとても素直な、おとなしいよい日本の子にしてくれました。添えの野菜の相性の良さはいうまでもありません。ラムの餡ときちんと通底しているのは野菜のすべてが出汁に浸されていたからです。

んで、次のこの穴子の煮こごりで私はぶっ飛びました。
100_1685.JPG

口に入れるや否や、イノシン酸もグルタミン酸もグアニル酸も、炸裂です。なんじゃ、これは、という感じ。
参りました。おまけに雲丹も入ってるし。
で、この煮こごり、その「こごり」方がふるふるなの。もう、固まるか固まらないかのそのちょうど境界線上で綱渡りしているような危うさ、淡さ。パン、と手を叩けばそれだけでタラタラと液体になってしまうような、そんな感じ。あの栗原はるみの危ういゼラチン菓子よりもさらに儚い陽炎のような。あはは。でね、じつはこの煮こごり、かなり黒七味が利いてるのです。それがでも逆に味の深みを教えてくれるのさ。ちょうど、海底に射し込む一条の夏の陽光が遠い海面までの距離を教えてくれるように。
ほんと、これ食ってて、途中、涙出るかと思ったくらい。
旨かった。

なんだか元気になって、まだ食える、って言ったら出てきたのがこれ。
100_1687.JPG

コウベビーフの切れ端(笑)をマグロに見立てて、ヅケにして焼いたものの上にとろろならぬ、長芋素麺を短く叩いたものを載せたもの。マグロの山かけの変形ですわね。でも、マグロとは違う牛肉のグレイン(筋め)の質感には、すりおろした芋ではなくてこうしてみじん切りのようにした長芋のほうがちょうど同じような食感、質感になって、それらが呼応し合って面白い効果を出しているのでした。こういうのを瞬間的に判断するというのか、それともそこまで理として考えているのではなく直観的にわかってしまうのか、その辺が三上さんのすごいところです。

いやいや、堪能しました。
このあとは鮨に移り、カニのミソ和え、鯛と千枚漬け、〆鯖、白ミル貝、大トロ、マグロ赤身漬け、ホタテ、いか、鯵叩き、と握りでいただきました。
腹いっぱい。大満足。
しっかし、この2人にちゃんとした場所とちゃんとした器を与えて、ちゃんとしたウェイティングスタッフで仕事をさせてあげたいものです。いや、言い方が違った。仕事をしていただいたら、客としてそんな幸福はありません。

で、しっかり、メートルディの持ってきたお勘定はこの日も2人で100ドル余計についておりました(笑)。
って、笑いごとじゃないわな。
いったい、どうしてこんな間違いをするんでしょうかね。困ったもんです。

April 11, 2007

饗屋 Kyo ya

07-04-08
和食
饗屋(Kyo ya)
☆☆
94 E. 7th St.
New York, NY., 10009
212-982-4140

うーん、うまい。
こんなにちゃんと美味い店ができたのだ、ニューヨークに。しかも、イーストビレッジに!(7丁目のファースト・アベニューとアベニューAの間です、ってかファーストに近いけど)。食べ終わったときの感想は「こんなところに……!」でした。

素晴らしい店です。和食の店です。フュージョンではない。きちんと正しい和食の店。こういう店は潰してはいけません。まだ開店して10日くらいだと聞きます。
私たちが行ったこの日は日曜でしたが、ですんで客が少なかったのだと思いたいが、聞くとまだやはり知られていないようで、客足は鈍いと。看板出してないからかもしれないけどねー。
みなさん、ほどほどに口コミで知らせましょう。美味しいものを知っている人だけに知らせましょう。そうして適度に満杯の店に育てましょう。並ばないと入れない店にしては私たちが困ります!

前口上はそのくらいにして、なにがいいのかというともちろん出汁なんですけど、そのうえで味の塩梅です。ニューヨークの普通の和食の店はみんなお弁当屋さんの味になってしまいます。なんでもない炊き合わせや煮付けが真っ黒だったりしてがっかりします。それがここでは京料理のリズムをもってすっくと存在している。そこにあるのは同時に、押しつけがましくないほんのちょっとの気の利かせ方。

半地下の入り口を開けようとしたときに気がつきます。扉は重たい鉄製です。こんなずっしりした扉はふつうはグランメゾンのものです。そこからややUターン気味の回る動線に沿って客席部に入るとイスとテーブルがまたきちんとしています。この日はアップステアーズの三上さんと、パナソニックの会長夫人の3人の席。日本酒でしょうか、やはり、ということで手取川大吟醸を頼みました。73ドル。日本酒は高く付くのはしょうがありません。でも、この冷やし方、きれいでしょ? 効果的かどうかはべつにしても。ま、すぐ呑んじゃうんだしね。
100_1426.JPG

で、気持ちよく始まったテーブルで適当に料理を頼みました。その中から、一品目にきちんと「向付け」にあたる刺身が出てきました。鯛、ハマチ、サーモン、赤身と魚自体に珍しさはないもののきちんと揚がった場所を言ってくれます。それぞれに茗荷とかラディッシュとか紅タデ、花穂じそといった芽づま・穂づま、けんが載っていて、飾り包丁も入っています。サーブしてくれたミキさんは、山葵の隣に添えられていた、番茶で戻してきらきらと花開くようになった柏の実(バクダイカイ)を、漢字では「莫大海」当て字で「爆大開」と書くことをわざわざ紙に書いて教えてくれました。

二品目は生湯葉と雲丹の出汁合わせですが、湯葉の質もよいし実に濃厚ながら上品な味に仕上がっています。
100_1431.JPG

三品目は胡麻豆腐。これがまたアイディアですね、さいころ状に胡麻豆腐を切って、ガラスの器に入れて冷たいだしをたっぷりとひいてあるのです。で、季節の筍とオクラが散らしてあります。水貝の風情です。でも胡麻豆腐です。きれいだし、胡麻豆腐のくどさが口の中で出汁で洗われて、これがいいんだなあ。気が利いている、というのはこういうことです。
100_1433.JPG

続いて牛タンの味噌漬け。これもまたいい味してるんだ。タンの臭みがまったくないし、味噌の塩み、甘みがちょうどよい。で、真ん中のトマト、これ、日本のみたいに甘い。どこで買えるんだろ。
100_1434.JPG

次は大和芋の海苔巻き。いま、NYでは大和芋も手に入るんだねえ。
これはまあ普通だったけど、次のノレソレは酢にはカボスを使ってるのかなあ。ふつうの醸造酢の味じゃなかった。これも気が利いてる。
100_1441.JPG

私がこの日いちばんほほうと思ったのは、じつは次に頼んだ大根の田舎煮です。青梗菜と長ひじきが添えられています。そしてこの大根、めちゃくちゃ鰹節の味がするの。カツオなのかサバ節かもしれない。とにかくぐいっと味がしみこんで、それまでが上品だった分、なんだかうわ〜ってうれしくなっちゃうというかほこっとするというか、やられましたね、こりゃ。こういう序破急というかね、緩急というか、ツボというか、知ってますね、こいつぁ。
100_1443.JPG

そのほかにもね、あ、この辺で2本目の酒になったのかな、澤ノ井の木樽仕込みみたいなの。100ドルくらい。いや、酒が旨いわ、こういうのといっしょだと。で、白魚の唐揚げとか、イイダコと里芋の煮物とか、エビしんじょとお焦げの油炒めあんかけとか、ジャガイモ饅頭のキノコ餡とか、いや、いろいろ食べた食べた。

これはラムの北海道風のグリルですね。まあ、ジンギスカンだれです。漬け込んであるから肉がやわい。これはジンギスカンにうるさい北海道人の私にはやや中途半端だったかったかな。別にタレも付いてるんだけど、ちょっと甘い。もそっとスパイス、ショウガとシナモンかな、効かせてもおいしいかも。
100_1451.JPG

ほかにも、サバの味噌煮が、これがちゃんとちゃんとじつにうまかった。味醂の味がいいのかなあ。ニューヨークではどこもかしこも西京焼とかで出てくる銀ダラも、ここでは「赤酒煮」として供しています。

そう、つまりね、料理屋も頭を使わないとだめだということかね。
たとえばお茶を、こうやって客に選ばせるという楽しさもいい。これでカネが取れるんですもん。1ポット4ドルですよ。で、この青年はヤンくん。在日韓国人だそうです。だから日本語は母国語。ワインや酒にもなかなか詳しい。で、なんと、むかし我が家に同居していた信ちゃんと、かつて「酒蔵」で一緒に働いていたそうな。「信さんとマイミクシでつながってますよ」ですって。縁は異なものですなあ。
100_1456.JPG

ニューヨークでは珍しいことですが、ここは鮨を出しません。鮨を出さずにニューヨークで和食屋をやれるか。これは大命題。だから、つぶしてはいけないのです。

板長は園力(その・ちから)さんといいます。45歳だっけ? そのくらい。
で、厨房には煮方やデザート係など5人も日本人が入っていました。みんな若くて仲良さそうで、これだものしっかりしているはずです。

あーおいしかった。で、お会計は最初のビールから始めいぇこんなけ食って飲んで、最後に飯も頼んでデザートも食って、料理は1人90ドル。酒は1人60ドル。そこにチップと税金で、1人190ドルずつ払いました。
必ず再訪しましょう。
もういちど念を押しておきますが、みなさん、味の分らないヤツらにはここは教えないで、宝物にしましょうね。

March 16, 2007

菊乃井

07-02-21
京料理
菊乃井(赤坂店)
☆☆☆
東京都港区赤坂6-13-8
03-3568-6055

順番が入れ違っていますが、今回の東京訪問で、いわゆる「高級店」というものがだいたい料理の相場で15000円くらいだということがわかりました。消費税を入れると15750円ですか。酒は別ですが。

そしてここ菊乃井も夜の懐石は15000円(15750円)から始まり、18000円(18900円)、20000円(21000円)と3つのコースが用意されています。京都の本店はこれに24000円(25250円)というさらに上級のコースがあるそう。で、この日は15000円の懐石に、菊乃井という名前の冷酒(1000円)を戴きました。

結論から言うと、参りました。美味しかった。それも、とても、がつくほど。

何というのでしょうね、隙がない、というんでしょうか、いやそれでは一流ホテルの料理と同じです。かっちりと脇をかため隙なく料理を仕上げている。しかし同時に、この店は面白いのです。遊んでいる。それも絶対に軽はずみにはならない大人の遊び、とでもいうんでしょうかね。いやはや、参りました。

菊乃井は、懐石ではあるのですがその料理はどちらかというとおばんさい的なものもあったりで、キメてはいるけど気取ってはいません。主人の村田吉弘さんは1週おきに京都の本店と東京の赤坂店を行ったり来たりしているそうです。で、「うちはメシ屋です」と言います。ですんで、よくありがちな、一流店で酒を飲んで料理も食べて、さて終ったから帰ろう、となって、でもちょっと一息つきたい、気取らないラーメン屋にでもひょいと寄ろうか、ってえのがイヤなんだって、はは、それはそうでしょうね。

私はここで食べてみてつくづく、こういう店をふだんづかいの飲食店にしたいなあって思いました。
まあ、そんなことができればこの世の至福というもんです。
で、きっと京都本店をとっておきの店に、ってか? はは、それは贅沢に過ぎるわね。
でも、ちまたの多くの15000円の料理を食べている御仁は、いちどはここの15000円を食してみて、どこを軸足にしたいかいまいちど考えてみても損はないと思います。

ではさっそく再現しましょうかね。

赤坂のわかりづらい路地の、奥まった土地を見つけて建てたビルなんですが、通りから玄関に至るアプローチが逆L字型になっていて竹林ふうの分け入り感。うまい具合に京都ふうを醸し出す技有りです。で、建家にたどり着いて檜の玄関を開けると1階は右側に開けます。大きく2つの間に分かれていて、最初の部屋は13席のカウンターと小上がりに2卓。このカウンターがメインなのかしら。背景は一面のガラス窓で、塀を後ろに灯籠や木なんぞをあしらってちょっとした庭を演出しています。

カウンター.JPG

これでここが東京だということを忘れる(ほんとは忘れないけど)仕掛け。続きに靴を脱いで上がる6席のカウンターの間があって、そこはフロア部分に3卓のいす席もあります。で、2つのカウンターの後ろにはずらっと板前さんたちが並ぶ、という仕組みです。(2階は座敷だそうです)。

ここの店では若い白衣の小僧さんが席まで案内してくれて給仕もしてくれます。これが、おひょひょ、初々しくてまたかわいいんだわね。へへ。で、この小僧さんたち、18とか19とかなんでしょうが、客を相手に緊張してるのが如実にわかる。そりゃそうだね、お客に粗相をすることがどういうことか兄弟子たちにみっちり仕込まれているんでしょう。その緊張感が微笑ましい。で、食材のことがよくわかってなかったりする。で、しばしば調理場に聞きにいったり。あはは。ま、それも愛嬌ですけど、わたしみたいに「微笑ましいね」と思う客ばかりではないだろうから、がむばりましょうね。

で、席に着くと、この日は2月下旬、梅花酒というものが食前酒として供されました。ほのかに甘い日本酒に梅干しと梅の花びらで香りを付けたものです。きれいでしょ?
梅花酒.JPG

そして、さて、先付けで出された熱い金子蒸しの、やさしさ。

金子蒸し.JPG

乾燥海鼠(ナマコ)を戻し、海鼠腸(コノワタ)を焼いて?そこに水晶餡(ま、銀餡のことです)を注ぐ。乾燥ナマコはそのむかし金と同じ値段で取引されたという貴重なものだったので「金子(きんこ)」というのね。それをぷるんぷるんに丁寧に戻して、味がないからコノワタ(海鼠の腸)を乗っける。銀餡のだしはしっかりしています。そこに生姜汁がちょっと載って、浅葱を散らす。海鼠の食感、それを包み込むとろりとしただし。この料理の失敗の仕方は百通りもあるだろうに、きちんと納まるところに納まるとこうも見事なさりげなさです。どうだ、というのではなく、どうぞ、という矜持、とでもいうのかしらね。いいなあ。

お次は八寸です。

八寸.JPG

北野天満宮の「天神さん」の梅花祭が2月、ということで(最初の梅花酒もそれなんですね)、この神社の有名な絵馬をかたどった皿に(しかしこういうことがわかると料理は絵解き謎解きのように知的なゲームにもなる)、さて、時計周りで12時の位置から、鰯と車海老の手綱鮨(鰯は〆てあって三つ葉の茎もいっしょに押されます)、鱈子の落雁仕立て(これが美味い。ほぐした鱈子を百合根と合わせ、金時人参の細かく切ったのを混ぜて型に入れて蒸したもの)、緑色は菜種の胡麻柚子和え、梅肉で染めた豆腐、白いのはだしでさっと炊いた白魚で、そこにちょっと黄色く添えたのが蕗の薹の味噌漬けの黄身そぼろ和え、透明な金色のが熨斗梅、お猪口には花山葵のおひたし。黒いのは丹波の黒豆ですよ。ほくほくです。

次は向付けで、おきまりのお造り。
明石の鯛と瀬戸内の車海老。添えは瀬戸内の海苔の酢の物ですって。へえ。
お造り.JPG

も一個、こっちは小鮪(マグロの幼魚で、こしび、と読みます)の焼き霜造りとか。皮めを焼き付けてるんですわね。で、これはそのまま黄身醤油で食べるんだけど、この黄身醤油のうまいこと(写真に写ってない)。どうしてうまいの?って聞いたら、小僧さん、中に入って戻ってきて、「三日間漬け込むんです」って答え。漬けるというか、寝かすんだろうね。ふうむ、それでこんなに馴染んでるというか、熟成感あるのか。道理でマグロの脂身に負けないわけだ。

小鮪焼き霜造り.JPG

次は煮物椀。本日は鴨しんじょうの薄氷仕立て。
鴨シンジョウ.JPG

フランスのシャラン鴨のしんじょうです。九条葱と草餅を焼いて慈姑(くわい)も絵馬の形と干支の猪の形に抜いて中に入れてあります。そこに聖護院蕪をへいで(削いで)被せ、それが薄氷に見えますね。そんで金時人参と柚子を花形に抜いて落とし、ちょっと金箔を散らしてそれを雪に見立てる。
で、しんじょうにはトリュフを入れてあるとか言ってたけど、あまりそれは感じませんでした。ってか、鴨しんじょうがなんか肉肉してて、だしと調和してない。これはこの日、ゆいいつはてな?の料理だったかも。きれいだけどね。

次は焼き物で、この日は真魚鰹の南蛮焼き。
マナガツオ.JPG

わたし、お恥ずかしいことにまったく気づかなかったんですが、「南蛮」って関西料理では「葱」のことなんですってね。あはは。いやずっと「鴨南蛮」とか「南蛮漬け」とか「カレー南蛮」とかって、わたしは「唐辛子」のことかと思ってました。もちろん唐辛子のことも南蛮といいますが、料理の世界では大阪の難波村という、もとは有名な葱の産地だった「なんば」が訛ったか「なんばの」というのが訛ったか、そういう意味なんだって。あたしゃてっきり、七味を入れるその唐辛子だって……南蛮漬けも鷹の爪入れるじゃないの、ねえ。はは、ばかだねえ。当たり前すぎていちども訊いてこなかったことで、そういう勘違いのままってけっこうあるかもしれませんて思いましたです。へへ。恥ずかし。
で、この焼き物は普通でした。ちと乾きすぎ。焼き過ぎな感じ。味はうまいんだけど。ちょっと干してたのかな。

次に、お遊びが出てきました。懐石の、「中猪口(なかちょこ)」というやつですね。酒を飲んでいる私たちに、ちょっとした強肴(しいざかな)というか、まあ、中継ぎのつまみです。

鮟肝奈良漬け.JPG

これは鮟肝(これがまたうまく仕込んである)を切って、そこに奈良漬けを載っけたもの。この組み合わせ、合うんですねえ。うまいわ。

それと河豚の白子の刺身に、新七味を散らしたもの。
河豚白子.JPG

「新七味」って何だって思うでしょ? 村田さんいわく、「七味って、昔からずっと変わらないんですよ。七味、いろんな7つの味の組み合わせがあってもいいとちがいますか? ということで作ってみたんです」
で、その新しい七味の組み合わせは、ピメントの赤と緑、胡麻、柚子、山椒、葱、そしてバジルです。みんな乾燥させて砕いてる。で、このバジルが思いのほか主張して、面白いんですわ。
河豚の白子も上物です。わたしはいつもいってるように鱈の白子のほうが好きなんですがね、これは新七味の効果もあって美味かったわ。で、簡単に言うと、河豚の白子は生クリームなの。対して鱈の白子はミルク。これは好みでしょうね。

で、その鱈の白子は次の酢肴になって出てきました。
しかし、これ、デカすぎ。笑っちゃうくらい。うまいけどね。

酢の物.JPG

わたしがいちばん感動したのが次の京野菜の炊き合わせです(うまそうなんで写真撮るの忘れて食っちゃいました)。

京野菜.JPG

入っているのは聖護院蕪、海老芋、金時人参、壬生菜、湯葉、それに蟹餡を注いで楽焼きのスッポン鍋みたいなので炊いて出てくる。柚子が香ります。でも、野菜がごろごろと、料理としてはすごく豪胆なの。でも味はかぎりなくやさしく染み入る。くー。ひー。これ、うまいわ。参りました。

さて、もう腹いっぱいなのに、最後は河豚の雑炊で〆です。
河豚雑炊.JPG
河豚雑炊盛り.JPG

で、デザートも2種類から選んで、やっと終わりです。

柚子アイス.JPG
これは柚子アイス。

イチゴ.JPG
これはイチゴソルベにイチゴのスープ。

いや、どうもどうも、ありがとうございましたあ〜。満腹っす。

February 17, 2007

やくみや

2007-02-14
小料理・飲み屋
やくみや

東京・新宿歌舞伎町1-1-7-2F(ってか、ゴールデン街の並びの花園五番街の花園神社寄りです)
090-6702-4879

久しぶりにゴールデン街に入り込みました。するとあなた、いまゴールデン街、再開発っぽいってか新しいお店がたくさんできて、すごい様変わりです。話には聞いていましたが、いやはや、とてもトレンディー。みなさん相変わらずのちっちゃな店構えですが。

で、ここはあの乾きものしか出なかった時代のゴールデン街からは考えられない料理屋さんなのです。とはいえ店は2階にあって5〜6席だけのカウンター。3階にも6〜7人は入れるちょいの間があるそうですが。
そこに火器を持ち込んで、なんとちょっとした天ぷらなんかまで揚げてくれます。

カウンターの向こうで、林佐和さんという清楚な美人が、美少年のようにハンサムな動きで小アジの南蛮漬けを盛りつけたりカワハギを肝と刺身にしてくれたり鶏を柚子胡椒でグリルしてくれたりイワシの梅干し煮を小鉢盛りしたり、コゴミと蕗の薹と山ウドを天ぷらにしてくれたりセロリのおひたしを出してくれたりしてくれます。そしてそのそれぞれがきちんと日本料理の基本に忠実で(きちんとだしをとってるしね)、そこにさらに佐和さんの主張がさりげなく乗っている。

いちいちうなづいて食べたその中のイワシの梅干し煮は、ほんとに梅干しの味がすっと表に出てきていて、ふつう梅干し煮とはいっても隠し味程度にしか梅干しを使っていない遠慮したような臆病で凡庸な梅干し煮に出逢うことが多いのですが、佐和さんのはちゃんと梅干しなのです。それも押し付けがましくない程度にすっと立ち現れる梅干しの味。梅干し自体がおいしいんだね。そういったら、友達のおかあさん?だかがつくってくれた梅干しだそう。その他、その日その日で冷蔵庫から見繕ってきれいに料理を目の前で作ってくれる。聞けばやはり何軒かの料理屋さんできちんと働いてきた人なんですね。たんなる自分流ではない背筋の通り方。

お酒もおいしいのがおいてありますよ。はやりの焼酎も選んで各バラエティがそろえてある。日本酒もいい。ビールはハートランドの生をクリームのような泡で蓋して注ぎ入れてくれます。おまけにワインまで美味しかった。カリフォルニアのシラー「Heart of Claudia」、ボトルで3500円だって。よく見つけてきたねー、こういう値段で出せる美味しいワインを。それだけ取っても誠実な店だということがわかります。

こういう店は誠実な人しか行ってはいけません。大切にしなくてはならない店です。佐和さんとそのパートナーの女性の2人が切り盛りするこの店に、あるいはその2人に、意地悪をするやつはオレがゆるさない、ってそんな気分になる店です。ええ、わたし、完全に惚れてしまいました。はは。

December 25, 2006

Upstairs

12/23/2006
☆☆☆

和食というものは私たち日本人にとっては食べにいく前からある程度は予想のつくものです。だいたい味付けだってだしと醤油と味醂と酒。それに砂糖と塩と味噌とせいぜい酢が加わっての組み合わせ。食材だってほとんどは知っています。ですので、フレンチとか中華とかイタリアンとかスパニッシュとか並みいる世界◎大料理とかに比べると私たち日本人にとっては一般的にそうそう驚くようなバラエティがあるわけじゃない。いまでこそ懐石だなんだと威張っていますが、日本食ってそうおいしいもんではないのかもしれない。ペリーだかだれだかが日本に訪れて、文化的にはこれほど豊穣・芳醇な日本なのに、食べ物はどうしてこうも貧相でまずいのかって嘆いたという文献も残っている。まあ、その彼がどれほどの食通だったかは別として。

ところが、アップステアーズの三上さんの料理を食べるたびに思うのは、「ある程度予想」をしながらも、その予想よりも必ず1つあるいは2つ上の味を経験させてくれるということです。あるいはときに「上」ではなく、1つ、2つ、右とか左とか斜めあっちとかそっちとかの味。でもそのたびに次の機会に臨んだときの私の予想も広がっているわけですから、こりゃ続けるのは大変です。しかしそれがプロというものなのでしょう。で、いつも、ああ、食べにきてよかったあと思うのです。

shirasu.JPG

本日の突き出しは片口鰯の稚魚、白子(しらす)ですね。上に梅肉とトリュフのピュレが載っています。このトリュフが、海苔の香りを出します。しかし海苔ではこんなにも海苔の香りが出ないというパラドクスがあります。酢に出会うとより海苔の味が出てくるような気がします。

anago_kobu.JPG

穴子の昆布巻きです。きっと出し昆布を捨てるのがもったいないので巻いたんでしょうね(笑)。逆にその薄味が穴子の風味と釣り合っています。

ankou.JPG

鮟鱇の煮こごり。いうことありません。ゼリーが口の中で融けるのと同時に味もしずかに消えていきます。なので次をまた口に運びたくなる。上質の旨味はあとを残さない。ふっと消えるのですね。で、記憶だけが残る。いうまでもないけど、化学調味料との違いはそこです。

kamo_fois.JPG

この鴨はいったん焼きます。それから蒸します。そして醤油と酒と味醂のつけ汁につけ込むらしい。そんなに熱を入れるのに肉はピンク色をしています。なによりもやわらかい。これを薄切りにして、この日は社長(デイヴィッド・ブーレイ)の持ち込んできたフォワグラのアルマニャック漬けの瓶詰めがあったのでそれを塗って?巻き込み、スチームオヴンで温めてなじませ、マイクログリーンを載っけて鴨の漬け醤油を垂らして供されました。フォワグラが思いのほかアルマニャックの香味が強く、鴨の味をかなり覆ってしまっていました。フォワグラを山葵とか柚子胡椒を塗る程度の量で(つまりは薬味として用いる感じで)やるとすごくおいしくなると思いました。フォワグラと鴨ですもの、とも和えですもんね、合わないわけがない。

tai_shirayuki.JPG

これは絶品です。鯛の上を覆っているのは蕪と長芋の摺りおろしです。とても控えめな銀餡がかかっています。で、ふつうは蕪は卵の白身と混ぜて蒸して固めるのですが、これは長芋と合わせてスチームすることで固まりました。で、芋のせいでほわほわです。そしてほんわりと甘い。これは口の中にその軽くて実体のないような清潔な甘さが広がります。くー、幸せものです。

noshi_ainame.JPG

熨斗蚫と牛蒡のアイナメ巻き。間にあるのは金柑酒を仕込んだ金柑を煮たものであると。ほほ、梅酒で煮たみたいな味もする。おいしい。アイナメは軽くスモークしてありますが、このスモークは要らないんじゃないかしら? アイナメはそんなに強い味を持たないので、スモークで本来の味が隠れちゃうかも。牛蒡自体が土の香りがするので、その味で食するくらいがいいと思う。とはいえ、アメリカ人にはそれではわかりづらいかもしれませんね。じゃ、あるいは逆に牛蒡をスモークするか?

pinogris.JPG

ところで今日飲んだのはアルザスのピノグリです。かなり上級です。甘みがありますが、和食の甘みと呼応して邪魔になりませんでした。さいきん、和食に合うワインがたくさんあります。てか、まあ、おいしいワインはおいしいんだよね。もっとも日本酒の方がよいに決まっていますが、NYでは同じレヴェルの上級の日本酒は倍の値段がするのでワインでやる方がコストパフォーマンスがいいのですわ。

haertpalm.JPG

これはハワイから直送の生のパルミット(Heart of Palm)、つまりナントカ椰子の若芽の芯です。それを出汁で煮て含める。すると食感はほとんど筍です。ふつうはわからんでしょう。だいたい、和食でパルミットがこういうふうに出てくるなんて予想しないもんね。それを鰹節にまぶして、はいどーぞ。

sobadango.JPG

私はこのそば団子のもちもちした食感が好きで、なんだかおいしい生麩のお団子を食べてるような感じもします。本日は中味は鴨? 鶏? ちょっと生姜を利かした醤油風味の粗い肉そぼろが入っていて、味の強弱が心地よい小鉢です。うまい。向うには自家製からすみ大根。今日のこのからすみ、熟成が進んでて美味かったああ。

tako_takiawase.JPG

いやいや、これは南瓜としめじと蕪と蛸の吸盤の炊き合わせ。青いのは花韮ですか? きれいだわなあ。しかもこのお汁の美味いのなんのって。ずずーっと啜って、おお、幸せ。

kimo.jpg

蚫の肝の醤油漬け。北海道生まれの私にはたまらんです。ご飯が欲しくなって、一口残してのちほど鮨に握ってもらいました。

duke.jpg

こっから鮨に。でも、カメラの電池が足りなくなって、4種類しか撮りませんでした。これは赤身の漬け。好物であります。

kobegyu.jpg

本物の神戸牛。米国産のコービビーフではなくて、日本の神戸牛。牛脂はふつう融点が40度くらいで口の中では融けないのですが、これは融けました。大したもんです。上には擂りおろした生のニンニク。でもこれ、味が口に残る。そんで次の鮨までニンニクの味がしちゃう。私はニンニク要らないかな。あればカリカリに焼いたガーリックチップとか、山葵あるいはホースラディッシュ、または黒胡椒がいいと思います。

awabi.jpg

これです、蚫の漬け肝を酢飯と和えて成形して蚫をぶつ切りにして小鉢に入れてスチームかけたのかな? まずいわけがないよね。最高。しかし、いったい何品食べたんだ? 満腹ひー。

mikami.JPG

これがアップステアーズの和食カウンター。こんなちっちゃなところでやってるんですぞ。信じられんでしょ。

ということで、クリスマス・イヴイヴの夜を堪能させていただきました。
まっこと、ごちそうさまでした。

October 22, 2006

大賀 Oga

2006-10-21
ジャパニーズ・タパス
大賀 Oga
☆(暫定)
143 E. 47th St.
(bet. Lexington & 3rd Aves.)
Manhattan, NY 10017
TEL;212-308-5688
http://www.oganyc.com/

先日、エル・ブリのフェランご一行がNYにいたときに、どこかジャパニーズでお薦めのところはないかと訊かれて、いくつか挙げたうちの1つのここにアルザックの親爺さんともども訪れたらしく、まあ、ジャパニーズ・タパスという位置づけに興味を惹かれたのだと思われ。で、そのあとにここのシェフからわたしにまでお礼の電話が来て(どうもフェランがわたしから聞いたと言いおいたらしい)「フェランが興味を示していた糸唐辛子と針海苔をぜひお渡し願えないか」と請われ、わかりました、では、ということで行って参りました。

今年の初めのオープンらしく内装も新しくきれいでしゃれており、常駐のシェフは大賀さん本人ではなく(ボストンの本店と行ったり来たりの日々らしい)杉浦さんという若い方でした(って後から聞いたらもう四十代ですって)。でメニューを見ると、寿司(巻き物中心)と、温かいタパス、冷たいタパスというふうに並んでおるのですが、一見まあ居酒屋料理なのですね。そうした小鉢、小盛り料理をアメリカ人にもわかりやすく「タパス」と称したのでしょう。さてそれらを頼んでみようかと思っていましたらシェフが中でなにか特別にあしらえているそうで、それらを待つことにいたしました。ちなみにこの日は午後にチェルシーで「ジャパニーズ・レストラン・ショー」という見本市みたいなのが催されていて、プライベートパーティーで急遽お休みとなったアップステアーズのシェフ三上さんに誘われてそこに出向いた後、そのまま2人で(一軒を挟み)流れた次第。そこに同じくアップステアーズのシンちゃんも合流して、さらにはエル・ブリつながりであそこのスーシェフをやっていたマウロという若いイタリア人シェフも呼んじゃって、4人でわいわい、となりました。

で、杉浦さんの厨房から出てきたのは

自家製豆腐にマリネしたキノコをちょこんと飾って柚子ポン酢で食すもの
和牛のタルタルを紫のアンディーブにちょこんと載せて、梨のソースとアンチョビのソース(コンディメント)でそれぞれ食すもの
カブとサツマイモの揚げ出し
アーティチョークのすり流し風松茸のスープ

そのほかにメニューから頼んだもの

スパイシー・ツナ・トスタード(トスタード=揚げたトルティーヤ=の代わりにすし飯を海苔で挟んで天ぷらに揚げて、その上にタイの辛味調理料のスリラチャで和えたスパイシーツナをのっけたもの)
イカとイクラの巻き物のウニ載せ
アヴォカドとイカ・エビのコロッケ
ジンジャー・ラム(ラムのロースを黒ごまでまぶしてパン・ソテーし、生姜と醤油のソースで食すもの)
なす田楽(三種のソースで=黒、黄色、緑、ってことはホイシン系の甘味噌、西京+卵かな、それから緑は忘れた)
茶碗蒸し(とはいえ、豆乳の浅いカスタードで、おまけにモッツァレラがかかっていて、そこにイカやエビの表面に突き出しているところをトーチで軽く焼き付け、その上に鰹の出汁あんを掛けたもの)

そりゃね、特別料理含みですからおいしかったです。
とくによかったのはアーティチョークのすり流し風松茸スープ。これは絶品。
もうひとつは、上記の茶碗蒸しですね。これは面白い。焦げ味とモッツァレラが上質なあんの出汁と絡んで素敵。いいねえ。
あとひとつは、カブとサツマイモの揚げ出し。なんちゃないけど、野菜がほっとします。こういうの、けっこう発想自体が難しいのですよ。
この三品は素晴らしかったです。どこに出しても恥ずかしくない。

いずれも杉浦さんの味付けは押し付けがましくなく、塩加減もちょうどいい軽さ。ただ、お寿司(巻き物)はちょっとまだかな、という感じがします。アメリカ式のいわゆる変わり巻き物(変形)なんですが、何が言いたいのか、よくわからない。2種類しか食べてないですけどね。ウニ、イカ、いくらの巻き物は、みんなグチョッとした食感ですんで、キュウリとか沢庵とかなんか、カリッシャリッってのが入ってないとフォーカスが定まりません。トスタードのほうは、うーん、すし飯の天ぷらっての、成功してないんじゃないかしら。
でもまあ、本日は、☆1つ、という、とてもいい感じでしたが、“特別料理”込みということで、☆の評価は暫定とします。で、何気なくまたふらっと来てメニューからほかの面白いものを頼んでみます。

というところで、店の話は終わりですが、本日はそのほかにとても「なんだかなあ」という経験をしました。

お店に「ジャピオン」と「フロントライン」というNYの日本語フリーペーパーのライターと称する女性が2人取材(かそのまえの取材下調べ?)に来ていたらしく、杉浦さんが「エル・ブリのシェフが来ている」とマウロのことを伝えたのでしょう。そうしたら「エル・ブリのファンですってことで、ごあいさつをしたがっているんですけど紹介してよろしいでしょうか?」って杉浦さんから申し出が。「はいはい、いいですよ」と応えたんですが、その後にやってきたこの女性2人組、私たち他の3人は完全に目に入らないらしく、会釈もなにもせずにそのままマウロだけに名刺を上げたり話したり。その間3分ほどでしたが、私たちの席はその間じゅう、宙ぶらりんになるのです。

舞い上がっているせいでしょうけど、これは日本人によくあるいちばん悪い癖です。いっしょにいる人たちを無視する。眼中にない。あいさつもしない。ジャーナリスト失格以前に、いっちょまえのオトナとしてどうなの、それはすごく失礼なことではないのでしょうか、ジャピオンさん、フロントラインさん。

取材者というのは、周囲の空気を読めなければダメなのです。
ほんと、ニューヨークの日本人社会にはこうした自称ライター、自称ジャーナリスト、自称カメラマンというのがうじょうじょしていて、同じ肩書きで働く者としてときにとても迷惑ですらあります。もうちょっと修行してよね。そうやってあちこちでジャーナリズムの評判を落とすわけだからして、ことの失礼はキミだちだけの問題ではないのです。

October 08, 2006

Bouley Upstairsまたもやwith Ferran Adria del Bulli

2006-10-07
☆☆☆

あー、あれからまた1年が経ったんだなあ、って感慨はじつは、ほんじつふたたびエル・ブリのフェランとこのレストランで再会して、ブログを見たら去年は10月30日だったんじゃない、ってわかったからです。

あれからわたしはこのアップステアーズにはNYにいるときは毎週多いときは3回は来ていて、その間、デイヴィッドはテストキッチンができてそっちに忙しくて行っちゃってるし、しかしアップステアーズは懐石シェフの三上マスターが相変わらず孤軍奮闘。最近は混乱していたサービスもなんとなく客にまではあからさまに混乱してるとはわからない程度に落ち着いてきて、そんでこの2年目の秋を迎えています。

本日は7時半からひとりで訪問しました。
ロングアイランドのビールを頼んだら、すかさず三上さんが居酒屋のごとくお通しを出してくれましたが、これがあなた、ホタテのヒモと身とを粕で和えたもの。これがなんとも甘くて、じつはこれですでに腰砕けになりました。たった30gほどのお通しですよ。

おまかせは秋めいて、あるいは本日はなんと気温13度しかなくて。そのせいかときに冬めいてぽかぽかするもの。
さんまを味噌と醤油で二度漬けしたものや、マナガツオを麹と酒と塩で〆たものとか、焼きも充実していましたが、わたしはそば団子というかそばがきというかそばニョッキというか(そば8割に白玉粉2割でこねたものだそうです)、それをだしで温めなおして牛蒡と青ネギで調味して、そんで例のトリュフのピュレの入ったとろみ汁を掛けてお椀みたいにしていただく、これで砕けた腰が元に戻ったほどに生き返りました。

和食ってのはね、ふつう、ひととおりぜんぶ味わったことのあるものしか出ないからよほどじゃないと驚かない。その点では日本人の客には不利だ。でも、不利だとか勝ちだとか負けだとか、そういうのはいいの、もう。そんな気分になれば上出来じゃないですか。そんで、ここはそういう店なんです。

で、それでフェラン・アドリアご一行様4人が10時に登場。だーれもウェイティングスタッフ、それが彼だとは知らずに「予約持ってるのか?」って、おいおい、そりゃ失礼だろー。私ちょーどカウンターのいちばん入り口寄りにいたので「あ、フェラン!」って気づいてご挨拶。おいおい、マネジャーのジョエルはどこだ、おまえ、そんなメニューなんか見せるなこのひとに、って差配して、テーブルに着かせるや、こんどばかりはフェランが何者かを(去年の訪問で)知っていた三上さんも、はりきって他の客と同じお任せコースを(笑)お出ししたわけですわ。

本日は最初は鴨と焼きなすね、それから松茸の土瓶蒸し。それからセザールがなんか本店から持ってきて、次に三上さんからサンマとマナガツオ、で、さんまはちょっと浸かり過ぎてしょっぱかったからたっぷりおからをまぶして出したら、「これは何だ?」ってご一行様、ご質問です。そんなこんなで、またまた楽しく1時近くまで。

今日は久しぶりに(パリ以来)ヴァンサンにも会えたし、パティスリーのアレックスにも会えたし、新しいソムリエのオリヴィエにも(これは本店からわざわざフェランにサーヴに来たんだが)会えたし、ま、よかったんでないかい、って、もちろん、おなかいっぱい、幸せな夜でありました。

フェランは来週月曜日、つまり9日にテストキッチンに来るという。わたしもちょっと仕事があってテストキッチンにお昼から行くことになっていて、そのときにでもまた話ができそうです。

October 30, 2005

Bouley Upstairs/Ferran Adria del Bulli

2005-10-30
☆☆☆

今夜こそは行くまいと思っていたのに、ともだちのオサムちゃんが誕生日近いの、とかいうんで、あ、じゃ、行こ、とまたまたまたまたアップステアーズに行っちゃった。

破産状態。

例によって三上さんのすっげえ京都味の絶品和食が数品出て、つぎにデイヴィッドのわけのわからんタルタルが出て、うぇー、うっめえ、三上さん、これ、わかる?っていってみんなで分析しようと思って何が入ってるんだか探ったんだけど、タラゴン? or ミント? 松の実? マスタードシード? コリアンダーシード?(これは自信なし) もちろん黒胡椒だよね? でもけっきょく分析したって再現が出来るわけでもなく、あ、バルサミコね、でも、もうや〜めたってなって、いやあ、うまいねえ、すっごいねえ、っとだけで堪能していいんじゃないの? そうそう、下に敷いてあるのはパッションフルーツのピュレにフレッシュグリーンピーのさっと茹でたののみじん切りだぜ。これを和えるとまたうまいんだ。でも、こんなに重ねてるのにぜんぜん重くならない。三上さんも、うまいですね、これはぁ、とか言っちゃって。

っとかなんとか天国気分でいたら、ごちゃごちゃと夜の11時なのにうるさいご一行さまが入ってきて、ほしたらグリルにいたデイビッドがあらって顔をして出てきてみんなとご挨拶してるから、いったいどんなセレブがきたのかね? と思ったら、あ〜た、エル・ブリのフェラン・アドリアさまご一行さまだった。

え? エル・ブリ、もう休み期間?

ま、そんなことは関係ないけど、デイビッドが三上さんにこいつは友達ですごいシェフだから、とにかく日本料理を出してくれって頼んでるんだけど、三上さん、フェランなんて知らないから、へ? って顔。で、ま、すっご有名なスペインのレストランの創設者で、ブーレイで出る泡のソースもこいつの発案だってくらいなのって説明して、でも、三上さん、いつも出してるのを出したらおいしいに決まってるよ、とかエンカレッジして、いろいろブレインストーミングして出したら、フェランちゃん、もううんうんうなづきながら5品食べてた。時々両方の親指を突き上げてTwo Thumbs Upね。

よかったよかった。

んで、デビちゃんが私をフェランに紹介してくれて、フェランちゃん、英語ぜーんぜんしゃべれないの。でも、通訳を介してデビちゃんなんか私のことぐちゃぐちゃ言ってるから、そのうちになんだかよくわからんうちにフェランちゃんからじかにエルブリに招待されたわ。ま、口だけだろうけどさ、行ったら一品くらいは増えるかも。30皿が31皿に変わるくらい。ふむ。

でもおもしろかった。
3巨頭、相まみえる。
そのウィットネス、目撃証人さね。
三上さんの和食どうだった?って訊いたら、70行くらいしゃべってた。シンプルと思ってはいけない、このだしの深さは、とかなんとかのたまうんだけど、yeah, I knew, って。は、失礼。

でもいいなあ、このくらいのプロフェッショナルは。
私もそういう感動をひとに与えたいもんだ。

フェランは、やっぱ、面構えが違う。
デイビッド・ブーレイも、同じ。
三上さんも同じ。

にんげん、面構えね。
それが本日の結論。

October 10, 2005

Bouley Upstairs

2005-10-10 w/yoshie
Bouley Upstairs
☆☆☆☆
122 West Broadway NY., NY. USA
予約とらず


煮蚫の蚫煮汁と雲丹のソース
イタリアのママのズッキーニの酢漬けをニンニクとオイルで和えたものを刻み、真鯛の千切りといっしょに混ぜて
紋甲いかのウンベリア製プロシュート巻き&大根煮にマグロの脂身の炙り焼きをのせて酢みそを添えたもの
boiled skate & gnocchi with carrot & passion fruits sauce w/pomegranate, baby basil
sauteed bass and foie gras with truffle vinegar sauce & sliced baby green tomato
grilled swordfish with gin & red bell pepper sauce(?)
コーベビーフのブロイルの海苔ソース カボチャの煮付けを添えて


やっぱり、書き初めはここにしなくちゃならんだろうねえ。

おれはね、日本でバブルのときに新聞記者をしていて、まあ、適当に金はもらってたんだけど社会部記者だったもんで忙しくてさ、あんまりたいしたレストランなんか行かなかった。というか、時代って恐ろしいもんで、あのころ、80年代から90年代の初めにかけては、日本には、東京にさえ、おいしい地酒なんか出回っていなかったし、ワインなんて雲上の高級酒というか、バカ高かったから味もわかるほど飲めなかったわけさね。チーズに関しては何をか況や。

そんで、運あってニューヨークに来てさ、まあ、話せば長くなるけど、ワインは安いし、チーズは安いし、おまけにちょうどニューヨーク自体のグルメブームにかち合った幸運もあって、バルサミコなんてののうまさも初めて知って、オリーヴオイルとバルサミコだけでなんだって食べられるじゃん、とかって思ってたときに、知り合いのジュンコちゃんに、「おいしいところ、あるのよ。連れてってあげる」っていわれて、そんでトライベッカのBouleyってレストランに初めて連れて行ってもらったわけなのですよ。

緊張しましたねえ。なんせ、ジャケット着用でしょ、ネクタイなんかうまく締められないの、当時、おれ、自分では。

そしてさ,Duane Street にあった、昔のブーレイのね、厚く重い、大きな木製のドアを開けたらさ、箱入りの林檎が山になって積まれているの。そんでその香りが、ほわーんと清々しく我を包めり、なわけですよ。

4時間,あるいは5時間でしたね、シェフのお任せコース。
私が食べたのは、何だったのでしょう。地上のものではなかった、と思ったのは、それまでにちゃんとしたフレンチを食べたことがなかったから? いや、そんなことはないと思うんだ。美味いものは知ってたの。まずはうちの母親の美味いものはほんと美味くてね、それにB級グルメだって美味いものと美味くないものは知ってた。謙遜していわなかったが、一応高級料亭とかも役得で何度か行ったことがあるし、本格懐石だってフレンチだって日本では一応ちゃんとした一流店も知ってたわけですさ。

でも、違ったんです、このDavid Bouleyの作るもんは。なにからなにまで。
ジュンコちゃんはBouleyを知っていて、そんで、Davidもきっと自分で作って出してくれていたんだと思う。そのときも他のテーブルと出るものが微妙に違っていたから。ってか、当時、彼はほとんど毎日そうやって客ごとに特別な料理を出していたんだね。

で、毎月、通い始めました。
ずっと、1993年から、一時閉店の96年まで。
一度として同じものが出てきませんでした。
たった一度、なんだったけかなあ、魚かフォワグラか、焼き具合がなんだか違っていて、聞いたらDavidがいなくて別のスーシェフが焼いたんだってすまなそうにいわれた。そのときだけでした、出されたものに隙があったのは。

わからないのさ、なにがこういう味になっているのか。ソースがね。
まあ、果物と野菜のだしがキーなんだろうなあ。でも、食べてるうちに分析の意欲がへなへなと崩れ落ちて、美味さに身を委ねて陶酔してしまいたくなるの。

そんなかんなで13年。
で、本日も行ってきました。アップステアーズ。ブーレイ本店ではなくて、いま(2005年秋冬)はここでDavidがオープングリルの前に立って、客をオーディアンスに料理をしています。(2006年からはテストキッチンでやっていて、アップステアーズには深夜の客としてくるほうが多くなってますが)

先日、エリック・クラプトンが来てね、という話をDavidがうれしそうにするのだ。うれしそうなのはクラプトンが来たからじゃなくてね、クラプトンが、レコーディングのスタジオに籠っているとこれはおれの仕事じゃないって思うんだって言ったことがうれしかったらしい。おれにはオーディアンスが必要なんだ、って言うんですってよ。

Davidいわく、「そうなんだよ、オーディアンスがいることが必要なんだ。きみとか、エリックとか、他の常連のあの人とかこの人とか」って、そうかそうか、クラプトンもDavid Bouleyのオーディアンスなんだよね。一流ってのは、一流を相手にその話を自分の話にして喰ってしまうんだわのう。

いまアップステアーズには和食のNYトップである三上忠夫さんが寿司カウンターに入っていて、従って冒頭のようなメニューとなります。きょう面白かったのは、三上さんが出していると、Davidがやってきて、そろそろおれにも出させろと言って来ること。店に入ったときは「きょうはハンバーガーとピザを作ってやる」と、これまたいままで食べたことのないものを料理してやろうぞ、という顔だったのに、三上さんの出すものを見て3品とも魚にして来たのが面白かった。張り合ってるんだもんね、おたがい。クソっ,そう来るか、とかいって。

ああ、客冥利に尽きるなあ。これ以上、何を望めるレストランがこの世に存在するのだろうか。

料理はスッゲエが、サービスは混乱中。