« 2001/03「アイ・アム・ソーリーが言えなくて」 | Main | 2001/05「外交官はパーティーがお好き」 »

2001/04「笑うも手、黙るも手」

 愛媛丸といい中国軍機との接触墜落事故といい、軍絡みの外交事件がブッシュ政権を悩まし続ける。そのたびに米国の報道番組には若き黒人女性のライス補佐官がさっそうと登場して舌鋒鋭く状況を解説し、パウエル国務長官が登場して重々しく今後の対応を説明し、さらにはチェイニー副大統領が現れてシニカルとも映る冷徹さで大局を語るのである。

 では肝心のブッシュ大統領はというと、これがなんだかパッとしない。苦手の外交問題だからか、テレビカメラの前で重要なことを述べたあとでやけにひんぱんにニヤニヤする。それを後ろからライスさんが厳しい顔で見つめている。彼女は46歳なのだが、なんだか息子の研究発表を背後で見守る教育ママの視線なのだ。

 アメリカでは話をするときに笑ってはいけない。対して日本ではどんなときでも微笑んでいる人が多い。交通事故で人が死んだというのにテレビの取材に答えてニコニコ状況を説明する「近所の人」というのもたくさんいる。

 私がこちらに住み始めて困ったのもこれだった。冗談混じりの日常会話ならいいが、議論やインタビューで相手が重要な意見を言っているときにもどうも私は笑っているようなのだ。自分ではそれが自然だから当時は笑顔だという意識すらなかった。だが不意に「おまえはなぜ笑っているのか」と質されたのだ。「私が何かおかしなことを言っているか!」というのである。いやいやそうではない。この笑顔は潤滑油みたいなもので……と言い訳しても笑いはおかしいときのもの。つまり「笑える」あるいは「変な」のどちらかだ。それが米国での笑顔の常識なのだった。

 だからブッシュの笑顔は何なんだろうとアメリカ人の友人に訊くと、「あれはごまかし笑いさ」と間髪入れず返ってきた。「間違ったことを言っていないか、自分でも分からないんだ」。

 そういえばブッシュ氏は選挙前は中国を「パートナーではなく戦略的な競争相手」と明言していた。先日、その同じ彼が報道陣の質問に答えて「中国は戦略的なパートナー、いや競争相手、いやつまり戦略的な……」とどっちだったか混乱してまたごまかし笑いになった。ホワイトハウスでの公式記者会見を少なくして雑談式の質疑応答を好むのも、雑談ならば言質を取られないというわけか。

 彼の就任当初、紹介を兼ねてその頭のレベルを「森さんと同じくらい」と言い放った元首相がいた。その森さんは、言質を取られるのにウンザリして番記者と一言も言葉を交わさぬようになって去ってゆく。笑うも手、黙るも手だが、それは、説明責任こそが命である政治家にとってはあまりに情けない勝手である。

TrackBack

TrackBack URL for this entry:
http://www.kitamaruyuji.com/mt/mt-tb.cgi/272