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2002/10「ホイッスルブロウワー(笛を吹く人)」

 企業の不正を暴く内部告発がこのところ大活躍している。日本ハムの牛肉偽装もマダムなんとかの賞味期限破りも東京電力の原発トラブル隠しもそんな告発者が改善のきっかけだった。米国でもエンロンやワールドコムの不正会計疑惑が内部告発者の協力で解明されつつある。

 ところで、内部告発者は会社から何らかの形で報復を受けることがほとんどだという調査結果が明らかになった。日本の話ではない、アメリカの話だ。東電の不正では原子炉等規制法に内部告発者を守る制度があったが、日本では内部告発者の保護は一般には法律に明記がない。それは米国も似たり寄ったりなのだ。

 米国では航空業界や原発の安全基準をめぐる問題に関してなど、十数もの連邦法がパッチワークのように内部告発者を守るようにはなっている。だが、企業の不正会計の内部告発はこの7月、例のエンロンなどの不祥事が相次いで初めて連邦法で保護されることになったばかり。いまでも選挙違反や司法妨害などでの内部告発者は法的な自己防衛の手段を持たない。こうして告発者の半数は告発後に会社をクビになり、残り多くも職場で嫌がらせや不当な扱いを受けているのだという(全米内部告発者センター調べ)。

 「内部告発」は英語では「ホイッスルブロウイング」という。笛を吹く行為。警官や審判がピピピッと笛を吹いて違反を制止するイメージ。仲間に危険を知らせるために笛を吹く行為もある。襲撃者をひるませるために大きく笛を鳴らすこともある。つまり「笛が吹かれたところでは悪いことが起きている」のだ。

 そんな言葉も立場を変えれば「密告」というニュアンスに変わってしまう。事実、「ホイッスルブロウワー」には「タレ込み屋」という意味もある。笛さえ吹かれなければ何事もなく平穏だったのに、というわけだ。その心理が告発者への嫌がらせや解雇につながるのだろう。

 だがそれはじつにねじくれた発想だ。こう考えるとわかりやすい。タレ込みという軽蔑的なニュアンスで内部告発を嫌悪する。そこには裏切りとか卑怯とかいう怨念もあるだろう。だが、タレ込みとは元々司直への犯罪情報の提供だ。タレ込まれる方は犯罪者なのである。その犯罪者側が情報提供者をなじる。これはどこか間違ってはいないか。もっとはっきり言えば、盗っ人猛々しいとはこういうことを言う。内部告発者は会社の腐敗と社会の危険を大声で知らせる功労者だ。だからこそいま、日本でも米国でも内部告発者を法律で守れという運動が起きているのである。

 雪印食品はつぶれた。大量の真面目な社員たちが失業した。その責は内部告発者にあるのではない。やむにやまれぬ内部告発が行われるまでその不祥事を放置していた管理職にある。そのことを周知徹底しない限り、内部告発に至る不正はまた起こるのである。

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