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2003/06「もう1つのゴジラ効果」

 アメリカでは野球場はボールパークという。パークとはみんなが楽しむ公園のこと。ここはお父さんがピクニック気分で子供たちを連れてくる場所なのだ。

 日本ではプロ野球は12球団しかないが米国には大リーグの30球団の他、二軍に相当のマイナーリーグが4レベル182球団。さらに大リーグ機構とは別の、各地方都市が経営参加する独立リーグ50球団もあってプロチームは計262球団にもなる。

 そのそれぞれが地域密着の球場を持ち、入場券は4ドル前後から。球団も格安ホットドッグの日から花火大会、コンサートまであの手この手で地元ファンを喜ばせる。届ければ誕生日の人の名をアナウンスしてくれて観客みんなでハッピーバースデーを歌ったりもする。

 さて、第1号満塁本塁打という鮮烈なNYデビューを果たした松井は5月初めに国連本部そばの新築超高層アパートに引っ越しを完了、さてこれでやっと私生活も落ち着いて……と思いきや家具の片づけもそこそこにまたロードに発ち、また帰り……年間162試合もあるのだから大変だ。

 開幕前、NYに訪れていたある日本の球団関係者と食事をした。話は自然と松井のことになり、どのくらいの成績を残せるだろうかと聞くとこう答えた。「松井ってね、すごくいいやつなの。まじめで紳士で昔の王選手のタイプなんだね。だから考えすぎたりするとだめね。気を遣いすぎるのも心配。でも、実力は折紙付きだから、どんなことがあっても最後には帳尻が合うはずだよ」

 ぶつかるのは初めての投手ばかり。ストレスは想像に余りある。最近はその「考えすぎ」なのか、あまり調子がよろしくない。イチローのようにミートに徹すればそれなりに成績も出るのだろうが、期待はミートではなくてその先にあるスタンド入りだから重圧もいや増す。

 なのに打てなくとも彼は試合後にきちんと報道陣と話をするのである。取材の向こうにファンがいることを知っている。かつて同じチームに所属した日本人投手とは大違い。じつに大人だ。NYにいるときはお昼のセントラルパークで市民たちにまじってひとり黙々とジョギングしていたりもするのだ。

 野球は家族で見るもの。だから選手には子供たちのお手本たることが求められる。もう一つ、NYでスポーツエージェンシーの法務担当をしている友人の弁護士が松井に期待していることがある。

 「マツイを通して日本人の勤勉さとか正直さとか、自慢しないところとか、世界にはアメリカとは違うタイプの良き文化があるんだということを学びたいね。そうじゃないとこの国はどんどん傲慢になって世界中から嫌われる一方だ」と言う彼は、ブッシュ政権の対イラク攻撃を苦々しく見つめていた1人でもある。

 弱肉強食の世界を奢らず昂ぶらずのサムライが行く。おまけにそれがガンガン打つとなればアメリカはきっと学ぶ。そんな野球以外の「ゴジラ効果」を、おそらく世界中が、ひょっとしたらフランスあたりも、ひそかに期待している。

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