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NYC GAY PRIDE 準備委員会インタビュー【2004年度資料】

●ゲイプライド実行委員会に聞く─100人パレードのできるまで


ウエストビレッジのビルの地下にあるHOP事務局(360度合成写真)

 ストーンウォールから35周年のニューヨーク・ゲイプライドマーチ本番10日前、6月20日にその準備委員会「ヘリテージ・オブ・プライド(HOP=プライドの継承)」に話を聞きに行った。事務局はクリストファーストリートの大きなアパートメントビルの地下(というか、ここの7階に昔、私も住んでいた)。100万人のゲイパレードはどうやって形になるのか。財務担当のラッセル・マーフィー(46)=以下「R」=とマーチ担当のミッシェル・イリミア(28)=同「M」=が教えてくれた。
        *

東京でもゲイマーチをやるんだよ。でも、みんな疲れちゃって毎年はできないというのが現状らしい。

M わかるわー。わたしたちも終わるたびにへとへとだもの。

いったいいつから準備は始まるわけ?

R 正式にはプライドが終わって7月から翌年の準備というふうになっているけど、じっさいはもう始まっている。つまり、6月のプライドが終わる前からすでに翌年のことは考えているね。やっていながらここは来年はこうしようとか。でもまあ7月かな。ボランティアを集めてご苦労さんパーティーもしなくちゃね。

どのくらいの人間が関わっているわけ?

M 年間を通してきちんと役職を持って関わる人間は30人くらい。そのほかにも30〜40人くらいの出入りがあるわね。だからコアメンバーは70人くらいかな。みんなボランティア。その中で中心を成すボードメンバー(理事会)は13人。つまり13人のディレクターがいる。

M 4つのイベント委員会があるの。プライドマーチだけでなく、それに付随する政治ラリー、プライドフェスト(お祭り)、ダンス・オン・ザ・ピア(ディスコ大会)の計4イベント。ほかにも財政委員会、広報報道委員会、参加協力呼びかけ委員会などで構成してる。

13人の理事会、委員長というのはリクルートしてくるわけ?

R みんな最初は普通のボランティアで、だんだん関わりが大きくなって委員長にまでなっちゃうんだね。ぼくの場合は93年にある参加グループの代表になってHOPにもボランティアで手伝いに参加したのが最初だった。
M わたしも99年にボランティアになったの。それから毎年。休みはなし。

仕事はべつに持ってるわけでしょ。

R ああもちろん。ぼくは「バレー・テック」というダンスカンパニーおよびダンス学校の財務担当をやっている。
M わたしは中学校の教諭。ニュージャージーの。

準備は具体的にはどう始めるの?

M 7月にまず理事会を招集するわけ。理事会は毎月開くんだけど、13人の委員がそれとは別にそれぞれの下の委員会も招集するのね。そこでまずは反省会よ。ここはうまく行ったけど、ここがだめだった。だから次はこうしなくちゃ、ということを出し合うのね。それがずっと一年間、続くわけ。

R 各イベント委員長というのは選挙で決めるんだが、連続性を持たせるために2年任期になっている。補佐役の書記は1年任期だけど。その選挙は9月に行って、そこから翌年に向けての新体制が始まる。幸いなことに、HOPでこのゲイプライドを仕切ることになってから今年で19年目なわけで、それでいろいろな歴史も資料も前例も残ってるから、何にもないところから一から始めるというわけではない。

HOPの前はどこがやっていたの?

クリストファーストリート・リベレーションデイ・コミティー。クリストファーストリート開放の日委員会。それが1984年に解散して、いまのヘリテージ・オブ・プライドが生まれたわけ。

どうして前身の委員会は解散したの?

R 財政問題だね。だれかがお金を持ち逃げしたんだ(笑)。その委員会というのは寄せ集めでね、いろんなグループの代表者が集まって作っていたんだ。それで毎年ゲイプライドのイベントが終わるともう後片付けにはやってこない。毎回毎回そうやって委員会自体を作り直さなければならなかった。そういうのは非効率的だし、それに代表者はどうしても自分のグループのことを第一に考える。政治的にも他のグループと折り合いが悪かったりすると準備段階でもめてまとまらない。それでHOPが誕生したわけさ。

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ラッセル・マーフィー

いまのHOPの予算はどのくらい?

R だいたい今年で120万ドルかな。毎年増えていってるね。初めて100万ドルを越えたのは2000年だ。たしかHOPの最初期は5万ドルくらいから始まったんじゃなかったっけな。
M 120万ドルの中にはもちろん企業などからの現物支給品の寄付も含まれているわよ。パレードの最中に配る水とか、印刷物とかもそうね。
R 今年は企業からのスポンサーシップでいまのところ16万ドルある。最終的にはもっと増えると思うけど。最終決算は8月か9月にならないとわからないんだ。でも、この2年ほどは企業からの寄付もかなり増えているね。企業以外にも多くの寄付があるから、収入の40%がそういう寄付かな。

他にはどんな収入源が?

R 最大の集金能力はダンスパーティーだよ。ダンス・オン・ザ・ピアね。それが最大の現金収入。チケット販売でね。だいたい37万5千ドルの売上がある。ダンスパーティーは18年目だけど、今年は2回ダンスパーティーを開くんだ。プライドマーチ前日の土曜日にもやることになった。場所はハドソン川沿いのいつものピア54。13丁目の公園ね。こっちは前売り20ドル。当日25ドル。プライド当日のダンス・オン・ザ・ピアは前売りの40ドルからあって、当日が65ドル。それにVIPチケットで120ドル。このダンスパーティーも最初はゲイ&レズビアン・コミュニティーセンターでボランティアたちのお楽しみ会みたいにして始まったものなんだけど、それがだんだん大きくなって現在に至るわけ。

ダンス開催での難しい点は何?

M 難しいというより、手順が大変ね。公園の使用許可とか舞台のセッティングとか音声やライトの手配とかトイレや救急車の手配もしなくちゃならないから。お金も入るけど手間も大変ってことね。
R それに費用もかさむ。たしかに37万5千ドルのチケット収入はあっても、ネットでの収入は18万ドルくらい。チケット収入の半分以上が経費になるわけだよね。

M ダンスには7〜8000人が集まるわけだから、安全なのか、そのへんをピアの公園当局に納得させられないと使用許可もおりない。交渉は結構面倒ね。でも、毎年交渉していると向こうも顔を憶えてくれているし、友情も信頼関係も生まれるから、だんだん楽にはなるわ。

R でも、今年は向こうのトップが変わって、最初から教え込まなきゃならなかったけどね。

警察はどう?

R 警察はぼくらのイベントは、大好きだよ。こんなに警察の厄介にならないイベントはニューヨークでは珍しいんだと思う。トラブルなんかないものね。

じゃあ年間を通じて最大の問題点というのは何?

M 毎年問題は違うからね。
R 常に抱えている問題は、ボランティア不足ってことかな。
M そうね、準備段階で途中でやめちゃう人もいるし、でも、途中から入ってくる人もいるしでどうにかやっているけれど、最初から最後まで付き合ってくれるボランティアが必要なの。たとえばマーチで100人、ダンスで100人くらいボランティアで関わってくれているんだけど、それじゃ足りないのよ。プライドマーチはボランティアは当日500人いるのね。内訳は、参加グループの代表たちもボランティアとして手伝うことになっていて、いまのところ200グループが参加するからそこからそれぞれ代表の2人を数えると400人ね、それにプラス、参加グループの受付係だとか車両の運転係だとかマーチの進行係を加えれば500人でしょ。でもできれば600人ほしい。
P ダンスのほうはボランティアは当日はHOPからは300〜400人かな。それにプラス、コミュニティーグループからも手伝いが来るから、みんなで1000人くらいかな。
M ラリーには100人、それからプライドフェストには50人。このフェストというのがまた大変でね。一日仕事なの。朝早くから準備が始まって、終わるのが夜の10時でしょ。
R フェストは93年からHOPが始めた。その前はHOPではなくてべつのところが売店やなにやらを出していたんだ。
P ラリーというのはマーチの一週間前のイベントで、GLBTに関する政治的な演説とかコンサートもやるイベント。プライドイベントの公式スタートを告げるオープニングイベントでもある。
R 政治的といっても、あまり政治的になってもいけないんで、むしろ、教育的っていうべきかな。
M 今年はもちろん同性婚の問題、それと大統領や連邦議員選挙などの投票呼びかけとかね。肝心なことは、すべての人たちが疎外感を感じないようにするってこと。そのためにLGBTを取り巻くすべての問題について話題に載せることが重要よね。

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パレードを滞りなく進めるためには連絡用のトランシーバーも不可欠

参加者の政治姿勢というのは変わってきた?

R 80年代はレーガン政権で、エイズ問題に対する政治不信が渦巻いていた。参加者はもっと政治的だったと思う。90年代はそれがすこし薄れたかなあ。94年にはストーンウォール25周年だったけど、あのときはラリーはやらなくて、国際的なグループ参加も目立ったね。日本からも、アカーが来てたよ。

いまの参加者はどう?

R いま、そうね、またすこし政治的になってきたんじゃないかなあ。あの、なんとかいう大統領が選挙によってではなく選択されてから(笑)、政治的にならざるを得ないような状況が続いているからね。それはいいことだと思うよ。みんな、仲間のことを考えるようにもなってきたし。
M わたしたちの世代も気づいてきたのね。政治的なこと、人権とかについても。

どの世代?
M わたしはいま28。ジェネレーションXよ(笑)。で、いままで眠っていた人権意識とかを、真剣に考えるようになってきた。クリントン政権のときはアメリカはもっと自由だったけど、いまはわたしたちの権利が奪われていると感じるようになっている。今年のマーチは、その意味でも大きな意義のあるものになると思ってるわ。みんな参加して、これが自分だっていうんだと思う。たとえあなたがそれを嫌っても、わたしたちはわたしたちの権利を示さなければならないって思ってると思うの。それがいまの政府に対するわたしたちの反対表明。

ところで、給料を払っているスタッフはいるの?

R 昨年から初めて導入した。フルタイムの、企業からのスポンサーシップを募るための専従責任者のスタッフを設置した。ビジネスデベロップメントマネジャー(企業開拓部長)ね。それと、今年はパートタイムでもう1人雇っている。ミニストレイティブ・アシスタント(運営補佐)。HOPの運営上の必要事項のまとめ役みたいなものだよ。以前から、そうね10年前の94年ごろから、たとえば4月から6月の追い込みの時期に事務仕事で人が足りなくなるんでお金を払って補充してきたけど、これまでは専従ではなかったんだ。

どうして給与スタッフが必要だったわけ?

M 時期だったんだと思うわ。大企業のスポンサーシップが入るようになってきて、HOPの理事会に担当者は設置していたんだけど、さっきも言ったように2年ごとに変わってしまうでしょ。でもそれじゃ企業のほうはやりづらいというわけよ。持続性ね、連続性。最初からまた人間関係から築いていかなけりゃならないのは非効率だし。わたしたちはそういう協力的な企業にいつもいっしょにいてもらいたいと思ってるの。毎年マーチに戻ってきてほしい。ただたんに資金協力をしてくれるというだけでなく、そういう大企業の名前があることだけでもずいぶんと意味のあることだから。100万人以上の人が、プライドマーチ当日にそれを応援してくれているたくさんの有名企業の名前を見るというのは、社会変革のたしかな一助になってると思うわ。

ところで、ボランティアって、どんな人たち?

R クリストファーストリートを歩けば、そこに歩いているような人たちだよ。
M 後ろを見てよ。ああいう人たち。人種も、年齢も、職業も、ほとんどすべてを網羅してるわ。ここはニューヨークよ。世界中から来ているすべての人がボランティアになってるわ。すごいことよね。こんなの、他の場所では味わえないわよ。
R ぜんぶ合わせると、そうだなあ、年間を通して2000人のボランティアが準備に関わっているかな。

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ご近所からTシャツの仕分けのボランティアに参加のデイヴィー、ハリエット、マイケル(左から)

パレードが終わったあとはどんな感じ?

M へとへとよ(笑)。
R 高揚と消耗の二つ、われにありって感じだね。
M そうそう。もう最高の気分であることは間違いない。だって、ずっと自分でやってきたことが目の前で形になって成功してよ、すごい仕事よ、それって。でも、同時に疲れきってるわね(笑)。最高に幸せな気分、と同時に、疲れすぎていて2、3週間はよくその幸福感に対応できないの。そのうちに知り合いだとか友だちだとかに通りで出会ったりするじゃない。そうすると会う人会う人が「すごかったわ、よかったわ」って言ってくれるでしょ。それから新聞を読んでも大きく取り上げられているもんだから、ああ、これをやり遂げたんだって実感できてね。もう、一日中にやにやして過ごしてるわ。

途中でもう投げ出したいって思ったことなんかないの?

M ないわ。マーチの準備ってときどきものすごく大変だけど、スタッフが後ろから支えてくれているし、年間を通していっしょに作業をやっているからね、信頼もしてるし、お互いの気持ちもわかるようになる。心を読めるっていうの? そういう感じ。そりゃ細かいことがたくさん持ち上がってきてうんざりすることもあるけどね。

でも、言い合いとかするでしょ?

R そりゃもう、それも仕事のうちだよ。
M ラッセルとわたしってもういつも意見が合わないのよ(笑)。でも、同じゴールに向かっているって知ってるからね。6月27日の夜にぜんぶうまく行ってることを目指しているわけで。細かいことなんかやってるうちに忘れちゃうわよ。

準備していて最悪のことって何?

M うーん、あまりないわよ。そうね、強いていえば、マーチのグループごとの順番を決めなくちゃ行けないことかな。どのグループも満足行く位置取りってなかなか難しいし、頭が痛いの。ときどき、「こんなグループの後ろはいやだっていってたじゃないの!」とか怒鳴られてる夢を見て目が覚めることがあるわ。でも、HOPの中ではひどい経験ってないわ。

R お金のことだからね、みんな考えたくないけど、ぼくはプロだし、いろいろみんなに注文付けたりするわけさ。だから、ぼくはどっちかというとみんなを怒鳴るほうだね。で、みんなはぼくを無視するって感じかな(笑)。

企業への寄付の呼びかけって、難しい?

R 最近は、もう黙っていても向こうの方から寄付をするって言ってくるんだ。LGBT関連で協力的な企業というのはすでにたくさんあるし、そういうところに毎年プライドイベントの企業向け資料パッケージやレターを送ったりもするけど。ことしは、フォルクスワーゲンが初めてスポンサーに加わった。彼らもLGBTのコミュニティーがどういう反応をするか、知りたいんだろうね。最初の年だからそんなに予算は大きくないけど、まあ、ちゃんと反応を見せてやって、そうすれば来年はもっと大きな金額とともに戻ってくれるだろうと。そういうのって、1つ1つなんだよ。一歩一歩というプロセス、ほんと、信頼関係だね。ぼくが関わった10年前というのは、いまと違うから、ほんとうに種まきだったよ。企業の関心というものを掘り起こさなきゃならなかった。
 3年前には例の専従スタッフを雇う前のビジネスデベロップメント(企業開拓)をぼくが担当したんだけど、企業との交渉をもうちょっと改善することにしたんだ。その過程でいくつかの企業を失いもした。だってさ、大企業のくせに3000ドルしか払わないっていうわけ。3000ドルで100万人以上、200万人への露出があるなんて、大企業にとってはぼろ儲けだろ。そういううまい汁は吸わせない。われわれにもちゃんとそれに見合う対価を払ってもらわないとね。マーケットがぼくらの側にある。それを正当に評価してもらわないことには、なにも始まらないんだ。ぼくらは確かに草の根団体から出発した。それをマーケットを持つまでに育て上げた。ならば、ちゃんとそれに見合うものを請求しましょう、というわけだよ。

東京でもね、数年前、ゲイに人気だったあるデパートがゲイ関連雑誌に取材を申し込まれて、ところがうちにはゲイのお客さまは必要ないって取材を拒否されたという話があるんだ。

M そういうことはニューヨークでだっていまも起きてるわよ。メーシーズ、知ってるでしょ。あのデパートだって、今年初めて、やっとスポンサーになったのよ。これまではだめだったの。それが、今年は初めてマーチにも参加して、しかもCEOまで歩くっていうじゃないの。そうやってゆっくりとだけど確実に企業というのもわたしたちのことをわかってきた。数というのは強いものよ。もしわたしたちがエクソンをボイコットしたら、あの巨大企業エクソンでもひどい目にあうことになるわ。フォルクスワーゲンだってわたしたちのボイコットは怖いの。だって、わたしたちは力なのよ。わたしたちを見くびっちゃいけないわ。こういうのって、ガンジー効果っていうのよ。わたしの命名だけど、非暴力不服従の抵抗よ。そうやって社会は変えていけるんだと思う。
(了)

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