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2008-10Now He Sings, Now He Sobs

◎オバマが大統領になったその日、1つの少数者たちの夢は叶い、1つの少数者たちの夢は砕かれようとしていた……。


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 こういう写真を見せられるとげんなりします。これは、カリフォルニアで同性婚を禁止する「プロポジション8(提案8号)」に対し、住民投票が賛成多数に傾いて快哉を叫ぶ人たちです。

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 今回は締め切りを延ばしてもらって、大統領選挙の11月2日の結果を見てから書いています。その選挙でオバマがアメリカの次期大統領に選ばれたとき、この国の黒人たちの多くが涙していました。黒人といってもみんながみんな同じ境遇にあるわけでもなく、それぞれに生活信条も態度も性格も思想も違うでしょうからいっしょくたに「黒人」という枠をはめることはできない、とふつうならば言うでしょう。けれどこの夜、黒人たちは「黒人」だった。彼らに共通する「肌の色の歴史」を共有していた。それはぬぐい去れぬなにものかとして彼らのどこかにいまもあるのでしょう。その「負」が解放されて、彼らは涙したのです。
 翌朝のトーク番組「ザ・ヴュー」(ウーピー・ゴールドバーグやバーバラ・ウォルターズら4人の女性たちがかしましく世相を論じる番組です)でも、コメディアンで女優のシェリ・シェパードが感極まって声を詰まらせていました。「息子が『バラク・オバマ! やった、やった(We did it! We did it!)』って喜ぶの。わたし、思い出してた。子供のころ、家族にコメディアンか女優になりたいって言ったら『そんなこと言ってないで郵便局に行って仕事をもらってこい』って言われたことを。世間はわたしたちみたいな色付きの人間(黒人)にはそんなことをさせないって言われたことを。それでわたし、息子に言ったの。そう、あなたには制約(limitation)なんてないわ、できないことなんてないわ、って」

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 同じその日に、その制約を、その強制された「負」を、同性愛者たちはふたたび突きつけられました。当選したオバマが「黒人のアメリカもアジア系のアメリカも、ゲイのアメリカもストレートのアメリカもない。あるのはただユナイテッド(1つにまとまった)ステーツ・オブ。アメリカだ」と勝利宣言したと同じその日に、ストレートのアメリカがゲイのアメリカを否定したのです。

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 アリゾナ州、フロリダ州の同様の同性婚禁止提案はすでに過去にもあったことで、どうでもいいというのではないが負けは予想されていました。しかし、カリフォルニアではすでにこの4カ月あまりで1万8千件の同性カップルが結婚しているのです。彼ら/彼女たちの生活を、強奪する偏狭と非道とを、寛容と慈愛を説く宗教者たちが行いました。
 オバマ大統領の誕生でアメリカ社会が大きくリベラル寄りに振れた中での、また、リベラル色がきわめて強いカリフォルニアでのこの同性婚禁止提案の可決。票差は、同性婚禁止賛成が52・5%、反対が47・5%と5%ポイント。これで「結婚は男女間に限る」とする条項が州憲法に加わることになるのでしょうか。

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 CNNの出口調査からどういう人たちが同性婚に拒絶反応を示したのかを見てみましょう。
 この提案8号に対して、男性では53%、女性で52%が賛成でした。つまり同性婚は禁止すべきと思う人に性別上の差異はあまり認められなかったということです。
 ただし性別と人種を複合的に見ると、白人男性は51%が禁止派、白人女性は53%が同性婚容認派と、白人ではじゃっかん女性が寛容です。ところが黒人女性になると75%もが禁止賛成。対してラテン系では男性54%、女性52%が同性婚禁止派と、あまり差がありません。

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 純粋に人種だけだと白人は51%が同性婚容認。黒人は70%が禁止派。ラテン系は53%が禁止派、アジア系は逆に容認派が51%とやや寛容か。
 つまり、投票者全体の10%を占める黒人有権者たちの7割もが同性婚禁止派に加わったために、この提案8号が可決されたとも言えます。
 ところでこの黒人層は、カリフォルニアでは94%もがオバマに投票した人たちです。でも、同性婚には保守的だった。なぜか?
 じつは黒人層には教会に通う熱心なキリスト教徒が多いのです。つまり、リベラルなオバマの票を掘り起こせば起こすほど、保守的な同性婚反対票が増えるというねじれが起きていたのです。
 全体でも、プロテスタントの投票者の65%が、カトリックの64%が、この提案8号に賛成票を投じました。無宗教と答えた人は16%いましたが、そういう人は90%までが提案に反対しています。

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 年齢別を見ましょう。
 若い層、18歳〜29歳では61%が同性婚容認派でした。さらに詳しく見ると18歳〜24歳が64%と最も同性婚容認度が高く、25歳〜29歳では同59%でした。しかしそれ以上の年齢層はすべて同性婚禁止賛成が過半数で、30代は52%、40代では59%、50〜64歳では51%、65歳以上は61%もが賛成と、年齢層が上だと同性婚は受け入れられないということが如実に表れています。しかし40代がかなり偏狭ですね。働き盛りで性的にも旺盛だと、その分の揺り戻しでホモフォビアも強いのかもしれません。

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 それにしても若い層の受容度が大きいのが救いです。
 というのも、カリフォルニアでは2000年にも同じような同性婚禁止提案が行われ、そのときは61%が同性婚禁止派、39%が禁止反対派という大差だったのです。
 つまり、これは時間の問題だということなのです。もっとも、今回の6月からの同性結婚を届け出た人たちには高齢の人たちも多い。スタートレックの日系俳優のジョージ・タケイさんも71歳です。時間の問題、とは彼らにはまた別の意味でもあるのです。

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 サンフランシスコでは提案8号が可決と決まった11月5日夜(それはいまこれを書いている時なのですが)、市庁舎の前に数千人のゲイやレズビアンたちがキャンドルを持って集まっているそうです。まるでハーヴィー・ミルクが暗殺されたあの時のように。

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 LAタイムズはこの提案8号可決を覆すための訴訟が、すでに3件最高裁に起こされたと報じています。私たちはいま、歴史の変化と抵抗の、その潮目を目撃しています。
(了)

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