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2008-11映画『ミルク』公開

◎満場の観客から拍手が沸き起こった。30年前と現在とが呼応し合う映画『ミルク』。ぜひ日本でも一早い公開を!


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 今年の11月27日はちょうど同月の最終木曜日、つまりアメリカでは感謝祭の当日にあたりました。この日はまた30年前に、市政執行委員(市会議員のようなものです)だったハーヴィー・ミルクがサンフランシスコ市長のジョージ・モスコーネとともに市庁舎で暗殺された日でもあります。ゲイ男性であることを公言して初めて米国の公職選挙に当選した人物であるミルクのことは、もう多くの人が知っているでしょう。

 この30年目の命日に、私は公開されたばかりの彼の伝記映画映画『MILK』をマンハッタンで見てきました。終わった後、満員の場内で拍手がわき上がりました。すすり泣きの音も聞こえていました。私も泣きました。パワフルな映画でした。

 監督は自身もゲイであるガス・ヴァン・サント。これまでの作品はリヴァー・フィニックスとキアヌ・リーヴスが男娼役で主演した『マイ・プライベート・アイダホ』(91年)やマット・デイモン主演の『グッド・ウィル・ハンティング』(97年)、さらには99年にコロラド州で起きたコロンバイン高校銃乱射事件をテーマにした『エレファント』(03年)などが有名です。

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 今回の『MILK』は、なんといってもミルクを演じた主役のショーン・ペンのひたむきな役作りに感動します。一挙手一投足がまさにミルクその人なのです。同時に彼の恋人スコット・スミス役を演じたジェイムズ・フランコがじつにいい味を出しているんだなあ。この人は『スパイダーマン』で敵役をやったりしてこれまでは甘い青春俳優という枠から抜け出せていなかったのですが、スコットの造形はじつに素晴らしかった。

 60年代後半、ニューヨークのストーンウォールの暴動と同じくサンフランシスコでも警察によるゲイバー・バッシングが続いていました。オーラル・セックスは重罪で、70年には同市で90人近くがこの容疑で逮捕されていました。賃貸アパートで同性とセックスしているのがわかったら強制退去させられるし、ゲイバー摘発で一緒に逮捕されるのもイヤだから、ゲイたちは次第に夜の公園でセックスするようになります。すると当時の市長は警察に公園狩りを命じたのです。結果、71年に公園で逮捕されたゲイ男性はサンフランシスコでは2800人を数えました。ニューヨークですらたった63人だったのに。

 ミルクがサンフランシスコに移ってきたのは1972年のことです。ゲイの人口流入著しかったカストロ地区で恋人スコットと「カストロ・カメラ店」を開き、翌73年11月には早くも初めての市政執行委員選挙に立っています。カストロ地区に住み始めてすぐに、彼はコミュニティー・オルガナイザーになっていたんですね。これは次期大統領のバラク・オバマの最初の政治キャリアと同じ。地域運動のとりまとめ役みたいなものです。それで次第にミルクはゲイたちの窮状を代弁するようになった。

 たとえばトラック運転手たちの組合がビールの配給会社が同組合と契約してくれないとミルクに協力を求めると、ミルクは組合にもっとゲイの運転手を雇い入れるように要請する代わりにカストロ地区のゲイバーにビール購入の一斉ボイコットを訴えた。これが功を奏し、ビール会社は組合と契約することになったのです。また、あるゲイ男性2人が骨董店を開こうとしたとき、地元商店協会が営業許可を与えないように画策した。それでミルクは他のゲイ商店主とともにカストロに別の商工会を作って対抗。「ゲイはゲイの店から買うべきだ」というモットーを持っていたミルクは74年にはその商工会で露店祭りまで開催し、5千人という人出を集めてかつて地元商店協会が行ったどんなストリート・フェアよりも多くの売上をたたき出したのです。


 それでも公権力のゲイ・バッシングは続いていました。後に彼は、選挙に立ったのは「やるか黙るか、どっちかに決めなければならないところに来たんだと思う」と新聞インタビューに語っています。

 もっとも、彼はその市政執行委員選で2回連続で落選、次の州議会選挙も落選、そしてやっと4回目の選挙で市政執行委員当選にこぎ着いたのでした。

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 映画は、政治にかける彼の情熱を余すことなく伝えています。中でも、78年の州民投票「プロップ6(提案6号)」のエピソードが苛烈です。これは、ゲイ男女の教職員をゲイであるという理由だけでクビにできる法律を作ろうという提案でした。それが、わたしには同じくカリフォルニアの州民投票にかけられた、今年の同性婚禁止のプロップ8(提案8号)と重なって見えたのです。

 時代は、ミルクの死から30年経ってどう変わり、どう変わっていないのでしょう。それを、日本のみなさんにもぜひ観てもらいたいと思います。
(了)

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