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1ドルの仕事、1億円の仕事

 先月のフォーブス誌によれば、米国の売上上位500社(Forbs 500ってやつです)の昨年のCEO平均報酬は1090万ドル(12億円)だったそうですね。うち51%、560万ドル分がストックオプションの行使で得た収入だそうですんで、そのまま給与というわけでもないんですが、12億円というのは1カ月に1億円の収入ですわ。

 トップのキャピタル・ワン・ファイナンシャルのリチャード・フェアバンクCEO(55)にいたっては、ほとんどストックオプションながら2億4930万ドル(275億円)の収入だったとか。こちらは1日で7500万円の計算。いったいどういう仕事や業務がそれほどのお金の価値に値するのか、浅学な私には皆目見当もつきません。ちなみに日本の上場企業の社長さんは年収で平均4000万円くらいなんですって。まあ、このくらいなら想像できる金額ではありますがね。

 とふと、その号が発売されてややした5月1日に、全米で「移民がいなくなった日」と題した中南米系移民の一斉スト及びデモが行われました。米国内で働いている不法移民は720万人に及ぶのですけど、そのとき、頭の中で、あ、この人たちがみんな1日分の賃金で10セントずつ少なく支払われていれば、フェアバンクさんへの1日7500万円がちょうど出てくる計算だな、と思っておりました。いや、これはとても失礼な素人比較ではあります。フェアバンクさんのお仕事はとてもストレスフルで、1日7500万円もらってちょうど割が合うほどなんだ、というのかもしれない。でもねえ。ほんと、フェアバンクさん、貰ってるということはそれだけの価値を生み出してるってこと。そんな巨額なお金をまいにち生み出しているのかしら? まあ、いずれにしても氏に行っているお金はだれかがどこかで生み出しているに違いはないのでしょう。

 私は、じつはダウンタウンのSOHOの入り口というか、あのハウストンとブロードウェイの角にあるクレイト&バレルって店が好きで、ふと散歩がてらに覗くこともしばしばです。品の良い食器とかグラスとかがポーランドとかあそこらへんから大量に輸入されているせいでしょうか、すっごく安い値段で売られてたりして、うちでよくパーティーをやってワイングラスも大量に仕込まねば割れたりしてすぐなくなっちゃうので、あそこで大振りのボルドーとかブルゴーニュ・タイプのグラスをバーゲンで3ドルくらいで買っちゃうわけです。で、クリスタルなんですよ。大量生産品ではありますがいちおう手吹きですし、そんなとき、3ドルじゃなくたとえ5ドルもらっても10ドルでさえ、私にはこのグラスは作れないなあと思ってしまってしょうがない。だいたいNYではガラスの工房を借りるだけでも何十ドルもしますし、話は違うがコットンの下着が3枚で9ドルとかも私にはぜったい作れない。こちとら文章を書いてるだけですからね、よく考えると、けっこう自己嫌悪のタネが仕込まれたりします。

 でね、こんなに安くていいのかなあ、と思うわけです。まあ、バカラの200ドルのグラスにはそれなりの,それこそ品格みたいなものさえ感じられますが、作れないにしても、200ドルなら作ってもいいかなとは思う。で、クレイト&バレルの方のグラスは everyday wine 用だからこれでじゅうぶん。しかし、3ドルって、おれはぜったいに作れないというより、作らない。そんなお金で仕事なんかできませんもの。

 付加価値まで含めた第1次や第2次産業製品の総体価値がそのまま社会全体の実体価値ではないのでしょうが、どこかで富は生み出されている。それがわずかずつではあるが最下層には少なく配分され、わずかだからたいして騒ぎ立てたり怒ったりするほどのことでもないけれど、そうやって見過ごしているうちに過少払い分が上位層に順次吸収されていって、それで最終的に何百人か何千人かの、宝くじ的な報酬へとつながっていく。塵も積もれば、の逆典型。とどのつまりはこれが「格差社会」の仕掛けなんでしょ? ま、昔いってた資本主義経済の弱肉強食、食物連鎖ってヤツだけど。

 宝くじ、といいましたがそうですわね。100円くらい簡単に出しちゃいます。気にならない。でも格差社会が宝くじと違うのは、当選者がだいたい決まっているってことです。

 その当選者層に入り込みたいという各人の意欲と努力が競争と切磋琢磨という社会のエネルギーを生み出すのだ、という論理はよくわかりますし賛成もしますよ。だが、いくらなんでもひと月に1億円というのは違うだろうという気がするんですよね。

 だって方や人目につかぬNYのチャイナタウンの縫製工場では、背広1着縫って工賃はわずか1ドル前後なんすよ。たった1ドル。それも違うでしょう。そう思わへん?

 アメリカンドリームはいまや、いつか当たると思ってもじつは当たりくじのないインチキゲームと同じになっているとちゃうかという指摘もあります。むかし、お祭りの夜店にそういうのがあったけど。日本では小泉が格差社会について「成功者をねたむ風潮、能力のある者の足をひっぱる風潮は厳に慎んでいかないとこの社会の発展はない」なんて格差社会とはまったく関係ないことをいってごまかしてましたが、アメリカみたいに1着1ドルと1カ月1億円ってな差が出来ている社会、だれか調整してくれないと、こんなふうにねたみたくなってからでは遅いんですわ。で、小泉政権の“推進”する格差社会というのは、政府の社会不均衡調整機能ってもんをはなから放棄しちゃった職務怠慢なんじゃないのと思う今日この頃です。

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