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合掌 カート・ヴォネガット

ヴォネガットが亡くなった。84歳。
数週間前に転んで頭をケガしたらしい。痛ましいなあ。
でもなんだか、ヴォネガット的でもある。

若かったころ、何度となく彼の語る暗く乾いたユーモアに救われた。
ほんとうに辛く悲しいことは、こうやって笑いをともなって考えるものなのだ。

こないだから、じつは彼の書いていた言葉を思い出していた。
たしか「ジェイルバード」の中の逸話。
彼が講演会だかブックサイニングだかに出席したときの話だ。
たぶん十代初めの少年が彼の本を持ちながら彼に近づいてきて、こう言った。
「ヴォネガットさん、そうやってたくさん本を書いてきてあなたが言いたいことは、とどのつまり、愛は負けるが親切は勝つということですよね」

愛は負けるが親切は勝つ。
名言。
私は以来それをモットーにしてやってきた。

これはきっと彼が1965年に書いた「God Bless You, Mr. Rosewater」(ローズウォーターさんに、神のご加護を)の中で言っていたことを再掲したんだと思う。

「やあ、赤ちゃんたち、ようこそ地球へ。ここは夏は暑くて冬は寒いよ。ここは丸いし湿ってるし込み合ってもいる。それから、赤ちゃんたちよ、きみたちがここで手にするのはせいぜい100年ってなもんだ。わたしの知る限りそしてここでのルールはたった1つしかない、赤ちゃんたち──『てやんでえ、てめえら、やさしくなくちゃだめだぜ』」

でも、いまの前の恋人には、その親切も裏切られた。
愛は負け、親切も負けて、おれは空っぽになって、おれを負けさせてどうするんだって思った。

でも、いま、やっと、あれは例外だって思えるようになりつつある。
親切が負けたのは、あれはたまたま、人生で唯一の例外だったんだ。

それでまた、愛は負けるが親切は勝つ、と、頭の中で念仏みたいにこのフレーズが繰り返されていたここ50日ほど。

ヴォネガットの百万の嘘の中に真実がある。
若い人たち、いまひとたび、彼を読みなさい。
どの文庫も恐ろしく可笑しい警句に満ちている。
人生の神髄は、彼のアフォリズムの総体でしかない。
てやんでえ、てめえら、やさしくなくちゃだめなんだ

NY Times の訃報の最後は、ヴォネガットの2005年の最後のエッセイ集「A Man Without a Country」にある詩の一節で終わっている。

When the last living thing
最後の生き物が
has died on account of us,
わたしたちのせいで死んでしまったとき
how poetical it would be
思えばなんと詩的だろうか
if Earth could say,
仮に地球がこう言えるとしたら
in a voice floating up
湧きあがる声で
perhaps
そうたぶん
from the floor
あの
of the Grand Canyon,
グランドキャニオンの谷底から立ちのぼる声で
“It is done.”
「さあ、終わった」
People did not like it here.
人間はここが’好きじゃなかったんだ。

──合掌。
God Bless You, Mr. Vonnegut.
And thank you very much, Mr. Vonnegut.

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Comments

はじめまして。
東京に住む20代女子です。
いつも楽しみに読んでいます。
コメント欄の復活はとてもうれしいです。

カート・ヴォネガットは、作家のジョン・アーヴィングの大学の恩師だと聞いていました。「サイダーハウス・ルール」とか「ホテル・ニューハンプシャー」など、アーヴィングは好きな作家なので、彼に影響を与えたヴォネガットも読んでみようと思います。

かれは あたりまえのことを うつくしいことばで いう。
「ここは地球 夏はあつくて 冬はさむい」

わたしは なにもしらない赤ん坊のように 無心に それをむさぼる。
あア もっと きかせて。あなたのことばを。

いま はじめて目にしたように
せかいが まぶしい。

>まことさん、かがみさん

コメントありがとうございます。
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ヴォネガットは高校、大学と読んでいた作家なので、あのころの空気とかを思い出してしまいます。たしかに世界はいまよりもすこしまぶしかったような気がします。それが世界のせいなのか、自分のせいなのかわかりませんが。

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