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「あらゆる手段」って……

もう40年以上もニューヨークに住む尊敬する友人から電話がかかってきて「ねえ、教えて。安倍さんはどうして海外で働いている私たちを危険にさらすような演説をしたの? 最後の一人まで助けるとか言っておいて何もできないなら、何のための政府なの? 私たちは平和を貫く日本人だったのに、これからはテロや誘拐の対象になったの?」と聞かれました。それは私の問いでもあります。

安倍首相のエジプトでの2億ドル支援声明の文言が拙かったことは2つ前のこのブログ「原理には原理を」で紹介しました。日本人人質の2人が「イスラム国」の持ち駒になっていて、この犯罪者集団がその駒を使う最も有効なタイミングと大義名分を探っていた時にまんまとそれらを与えてしまった。そのカイロ演説がいかに拙かったかは、首相自身と外務省が自覚しているのです。なぜなら人質発覚後のイスラエル演説の語調がまるで違っていたからです。「イスラム国」の名指しは最初の呼びかけだけ。あとは「過激勢力」という間接表現。内容も日本の平和主義を前面に押し出したきわめて真っ当でまっすぐなもの。カイロ演説の勇ましさが呼び水だったと自覚していなければ、なぜこうも変わったのか。逆にいえば、なぜ初めからそういう演説をしなかったのか。

そして後藤さんも殺害されてしまいました。3日の国会で、安倍首相は「中東での演説が2人の身に危険を及ぼすのではないかという認識はあったのか?」と問われ「いたずらに刺激することは避けなければいけないが、同時にテロリストに過度に気配りする必要はない」と答弁しました。テロリストへの気配りなんか言っていません。「人質の命」への気配りでしょうに、この人は自分の保身のためにはこんな冷酷なすり替えをするのです。こんな時の答弁くらいもっと正面から堂々ときちんと誠実に答えたらどうなのでしょう。

おまけに言うに事欠いて「ご質問はまるでISILに対してですね、批判をしてはならないような印象を我々は受けるわけでありまして、それは正にテロリストに私は屈することになるんだろうと、こう思うわけであります」。この人は批判や疑義をかわすためならそんな愚劣な詭弁を弄する。

まだあります。安倍首相は後藤さん殺害を受けての声明で事務方が用意した「テロリストたちを決して許さない」との文言に「その罪を償わせる」と書き加えたのだそうです。

以前からこの人の言い返し癖、勇ましさの演出に危惧を表明してきましたが、この文言はCNNやNYタイムズなどでは「報復/復讐する」と紹介されています。NYタイムズの見出しは「Departing From Japan’s Pacifism, Shinzo Abe Vows Revenge for Killings(日本の平和主義から離れて、シンゾー・アベ 殺害の報復を誓う)」でした。それは日本政府として抗議したんでしょうか? 抗議してもシンゾー・アベの政治的言語の文脈ではそういう意味として明確に英訳した」と言われるのがオチでしょうが。

平和主義のはずの日本がなんとも情けない言われ様ですが、これはつまり平和憲法を変えてもいないのに、戦後日本の一貫した平和外交も変えてないのに、一内閣の一総理の積極的「解釈」変更と各種の演説によって、日本は世界に向けた「平和国家」という70年間の老舗看板を、勝手に降ろされてしまっているということなのでしょうか?

早くも政府は閣議で、今回の人質事件では「あらゆる手段を講じてきた。適切だった」との答弁書を決めたそうです。一方で菅官房長官は「イスラム国」は「テロ集団なので接触できる状況でなかった」とも明かしました。接触もできなかったのに「あらゆる手段を講じた」? 例えば接触して人質解放を成功させたフランス経由も試さなかった? つまり「イスラム国」のあの時の突然の要求変更は、2億ドルの身代金云々を告げたのに日本政府がぜんぜん何も接触してこなかったので、詮無く交渉相手をヨルダンに変えた、ということだったでしょうか? つまり初めから後藤さんらを救うための交渉などしてこなかったということなのでしょうか?

それを裏打ちするように、これも3日の参院予算委で岸田外相が、2人の拘束動画が公開された1月20日まで、在ヨルダン日本大使館に置いた現地対策本部の人員を増員していなかったことをしぶしぶ明らかにしました。つまり昨年8月の湯川さん拘束後の5カ月間、後藤さん拘束が発覚した11月になっても、現地はなにも対応を変えなかった。こういうのを「あらゆる手段を講じてきた」と言うのでしょうか?

冒頭に紹介した友人の「最後の一人まで助けるとか言っておいて何もできないなら、何のための政府なの?」という切実な問いに、いまの私は答えを知りません。

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