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トランプの家

政府閉鎖の原因であるメキシコ国境の壁建設をめぐり、トランプが「非常事態宣言」の可能性に触れたとき、ああこの人は本当によくテレビを見ているんだなと呆れると同時に感心もしたほどです。合衆国大統領には予算を作り出す権限はありません。予算編成権限は議会のものです。つまり国境の壁は、作ろうとしても大統領にはカネがない。

どこかに使えるカネがないか? 6年前、2013年から始まったネットフリックスの人気政治ドラマ『House of Cards(邦題ハウス・オブ・カード)』では、悪辣の極みのフランク・アンダーウッド大統領が自分の人気取り政策である雇用創出プログラム「アメリカ・ワークス」を実行に移すため、まさに非常事態宣言を行って連邦緊急事態管理庁(FEMA)にプールの30億ドルの災害緊急基金を転用するアイディアを思いつきます。

アンダーウッドは補佐官らに「非常事態とはどういうものだ?」と確認します。

補佐官は「スタフォード法によると、非常事態とは大統領の決定に基づく状況下で──」「つまり非常事態を決定するのは大統領ということだな。どんな場合でも?」「はい、人命や公衆衛生、治安を守る目的であれば」「失業は犯罪を増やし健康を害し社会を不安にする」「しかし訴訟になります」「訴訟になるころには(プログラムの)効用も理解される」「しかしこんな予算の再分配はこれまでどんな大統領もやったことがありません」「Thank you gentlemen. That's all I need!(ありがとう、諸君。知りたいのはそれだけだ!)」

「雇用プログラム」と「国境の壁建設」という違いはあれど、さらにカネの捻出さきがFEMAかどうか(報道では国防予算という説もあります)もありますが、非常事態宣言によるカネの捻出法は、まさにこれです。トランプがこのドラマからパクったという証拠はありませんが、まあ、本も読まずにテレビで"勉強"する大統領です。大統領の仕事や権限もアンダーウッドから学んで「いない」とも言えないのがこの人です。

ちなみにこの『ハウス・オブ・カード』、人を人とも思わぬ気持ち悪い大統領像をケヴィン・スペイシーが好演していたのですが、スペイシー本人が昨年、長きにわたる共演の若者たちなどへの性的虐待で告発され、昨年の最終シーズン6ではドラマ内ですでに死んでしまったことになっていました。それ以前に、権謀術数の限りを尽くして大統領にまで成り上がったこのアンダーウッドも、トランプが大統領に就任したシーズン5からはその破茶滅茶ぶりがそっくり現実の大統領にお株を奪われた格好で、物語もやや失速気味だったのです。

なにせマティスが辞任(トランプは解任だと言い換えましたが)する元となったシリア撤兵も「すぐとは言ってない。ISISが殲滅されるなどの条件が満たされればだ」。いやいやいやいや、大統領、あんた「掃討完了」「すでに撤退指示」と言ったでしょ──と1から10までこの調子ですから。

それにしても政府閉鎖に関する民主党とのやりとりを見ていると、この人はまるで北朝鮮のような瀬戸際外交ならぬ瀬戸際交渉が好きなようです。チキンゲームは、普通は(給与未払いの連邦職員らの)犠牲をもいとわない神経の持ち主が勝ちでしょう。しかし民主党もそんなトランプを止めよとの民意で下院多数派になったのですから、簡単に折れるわけにも行きません。

対中、対北朝鮮、対ロシア。本来なら今年はアメリカが最も毅然とした政策を取らねばならない年です。けれどトランプにとってはむしろ政府閉鎖のゴタゴタを言い訳に自分で仕事をしないで済むのがいいのかもしれません。なにせモラ0ー特別検察官チームの捜査報告や下院委員会での調査が迫っていて、面倒な大統領職などやってる場合じゃないわけで。よって北朝鮮はポンペイオ任せ、トルコや中東はボルトン任せ、対中貿易交渉はライトハイザーやナヴァロ任せ。国防長官も首席補佐官も司法長官もいないホワイトハウスの新年です。

ちなみに、「ハウス・オブ・カーズ」というのは「トランプのカードで組み立てた家」のこと。ちょっとした衝撃で壊れてしまうものの例えです。今更ですが、実に予言的な命名です。

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