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ミレニアルズVSブーマーズ

ニューハンプシャーの開票がいま終わりました。しかしすごかったですね。昨日まで、というか開票が始まるまで断然劣勢を伝えられたヒラリーが大方の予想を裏切ってオバマをかわす──直前の世論調査がこうも外れるとはなんとも珍しいことです。

オバマの後ろに若者たちのパワーがあるのはアイオワで見せつけられました。そうしたら今度はヒラリーの後ろの女性たち、年長者たちが踏ん張ったようです。じつはきょうは1月にしては記録的な暖かさで、ニューハンプシャーはほんとうはこの時期寒さに凍っていて年長者が気軽に外に出向いて投票できるような感じじゃないんです。それがニューヨークなんて16度ありましたからね、NHが何度だったかは知らないけど、同じようなもんでしょ。同じ暖気に包まれる地域だし。で、それが年長者たちを投票に出かけさせた。

もう1つ、直前のヒラリーの「涙目」が女性たちをかき立てたのかもしれません。おまけに夫のビルまでが元大統領としては掟破りのオバマ口撃に参戦したのですから、クリントン世代の発奮もあったかもしれません。何て言ったかというと「オバマは上院議員になってからの議会での投票行動はヒラリーとまったく同じだ。それが何で彼女を自分とは違う旧体制の政治家だと批判するのか。Gimme a break, そんなフェアリーテイルは聞いたことがない!」──ふつうは大統領職をやった人間がこんな非難の言辞は吐かないというので各局のニュースコメンテイターはかなり今朝から批判的にこれを報じていたんですよ。Gimme a break! というのもかなりきつい言葉なんでね。冗談も休み休み言え、みたいな。フェアリーテイルはおとぎ話=嘘っぱちって意味です。

そうしたもんをぜんぶ跳ね返しての勝利。これを「組織票で勝るヒラリーが勝った」とさっそく分析しているのは読売ですが、それは違うでしょう。今日のニューハンプシャーの投票者数の予想外の多さはそれでは説明できません。

ビル・クリントンが指摘したようにアイオワ・ショック後のヒラリーは「旧体制政治家」の代表のようにエドワーズにまで攻撃されました。「毎日どうしてやる気満々で元気でいられるの?」と一般有権者に質問されて「It's not easy, It's not easy...(たいへん、ほんと、たいへん)」と心情を吐露した一昨日のヒラリーは、男たちにいじめられて歯を食いしばって耐える女性でした。わたしなんぞ、見ていて「こういうヒラリーは初めてだな」と、べつに肩入れしてないけどなんだかかわいそうに思った。しかもそれさえも新聞に「うそ泣き」とか言われてね、これはたまったもんじゃないわなあ。これ、ぜったい女性への侮蔑だよ。おまけにあのやり取りの翻訳、日本の新聞、けっこう間違ってるんだもんね。

◎気を取り直して「私はこの国から多くの機会をもらってきた。あとにさがることはできないの」と語り、支持者の励ましを受けた。(産経)
◎さらに「後ずさりするわけにはいかない。(大統領として)用意できている人もいれば、できていない人もいる」と述べ(毎日)
◎クリントン氏は、涙がこぼれないように顔を上向きにし、「簡単じゃない」と2度繰り返した。その後、支持者の拍手で気を取り直すと、「でも後ずさりするわけにはいかない。(時事)
◎女性から「どうやったら、いつも元気ですてきでいられるの」と聞かれると、「簡単ではない。本気で正しいことをやっていると信じていない限り、できることではない。多くの機会を与えてくれたこの国を後戻りさせたくない」と、やや声を詰まらせ、目を潤ませた。(読売)

でもこれ、
"I have so many opportunities from this country. I just don't want to see us fall backwards, you know?"
"This is very personal for me. It's not just political. It's not just public. I see what's happening. And we have to reverse it,"
あたりの翻訳なんですね。

これ、自分が「後ずさりできない」っていってるんじゃないのさ。
「私はこの国からたくさんのチャンスをもらってきた。だから、(そんな)私たち(の国)が後戻りするのを見たくないの」「これはとても個人的なことでもある。ただの政治的課題とか、公共のこととか、それだけじゃなくて。私にはいま何が起きつつあるのかわかっている。だから私たちでそれを逆転させないとって思うの」

けっこう、なまの感じが出てるセリフなわけですよ。「選挙はゲームだって言う人もいるけど、それは私たちの国のことであり、私たちの子供たちの未来のこと、つまり私たちみんなのことなの」とかってね、なかなかパーソナルな物言いなんです。

で、例によってこのインタビューがあっというまにYouTubeなどでネットに大量に流れ出しました。その時点でオバマ対ヒラリーはある意味明確に「女性嫌悪の男性たちvs判官びいきの女性たち」の戦いになったのではないか。加えて「ミレニアルズvsベビーブーマーズ」の図式が浮かび上がってもきた。そんな感じがするのですね。

「ミレニアルズ」とは聞き慣れない言葉ですが、現在25歳以下の若者たちをアメリカでは21世紀になって選挙権(18歳)を得た「ミレニアルズ=新千年紀世代」と呼ぶんです。

世代論に関する「ジェネレーションズ」などの共著があるウィリアム・ストラウスとニール・ハウによれば、オバマ支持のミレニアルズはその上の30〜40歳代(オバマがこれですね)のX世代(憧れは遊牧民)やヒラリー世代のベビーブーマーズ世代(理想主義者)、さらにその上の70代の沈黙の世代(芸術家)とは異なり、さらに上のGI世代と似ているんだとか。

GI世代とは第二次大戦を戦い、国連やソーシャルセキュリティ(米国の社会保障制度)という時代基盤を作り、戦後経済の拡大を担い、宇宙に乗り出し、冷戦と共産主義の終焉を見届けた、公共意識の強い建設者の世代で、憧れはヒーローだそうです。

GI世代のように、ミレニアルズもまたイラク戦争や地球温暖化など危機の時代に青春を過ごすヒーロー世代です。祖国アメリカへの忠誠心も強く、社会的責任感もX世代やブーマーズよりも真剣。ウェブ上ではそんな彼らが活発に社会問題を話し合ったり世論調査に参加したり疑似選挙を試したりしていたそう。

なるほどそんな彼らが本物の選挙に出てきたわけですね。どうも大学のゼミなども後押しして好きな候補の選挙事務所にボランティアで入り、選挙を実地で勉強してもいるらしく、そんな彼らが機動部隊としてかつてない戸別訪問を展開し、仲間意識で若者票を掘り起こした。「デモクラシー・ナウ www.democracynow.org」によると、オバマ選対に入ったプリンストン大学の政治学科の女子学生は「実際の政治運動には関わってこなかったけれど、演説会の熱狂はまるでロックコンサートみたい」と楽しそうに話していました。たしかに支持者の勧誘は大好きなミュージシャンの前売りチケットの直売みたいなもんでしょう。

アイオワでのオバマの躍進を演出したのは、前回04年の倍以上となったそんな若者票だったのです。それはニューハンプシャーでも同様でした。CNNがヒラリー勝利の報を打つのにAP通信より10分ほど遅れたのは、同州での学生街の3カ所の投票所がまだ開いていなかったからです。

いずれにしてもどんどんいろんな要素が絡みはじめてますね。つまりそれだけ浮動票が動くということで、それも直前にがらっと変わるということで、これじゃ世論調査も当たらないわけです。いやあ、それにしてもニューハンプシャーは驚いた。面白いなあ。

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