« October 2018 | Main

January 30, 2019

大坂なおみという「窓」

昨秋の全米に次いで全豪オープンでも優勝という快挙、そして世界ランキング1位という大坂なおみ選手に日本中が湧いています。一方で、彼女が「国際」的になればなるほど彼女を「日本人」として持ち上げる日本のメディアの「非・国際」的あり方が異様に映ることにもなっています。

その一例が彼女のスポンサーでもある日清食品のネットアニメCMでした。そこで描かれた彼女の容姿が肌も白く髪の毛もふんわりしていて「大阪選手に見えない」との声が挙がり、それを欧米メディアが「ホワイトウォッシュ(白人化)」として取り上げたことで、日清側が急きょこのCMを公開中止にするという事態にもなりました。

まあ、アニメに描かれるキャラクターというのはだいたいが「非・日本人」的に目が大きかったり髪が黒じゃなかったりほぼ無国籍化しているんですが、日清側=アニメ作家側が彼女をどう見ても「非・大坂なおみ」的に「白く」変身させてしまった理由は何だったのでしょう? ともすると「黒く」描くことが逆に失礼に当たると"斟酌"した? だとすれば、それこそ「ホワイトウォッシュ」を肯定する大きな考え違いです。

日本の世間はどうも人種問題やそれに絡む人権問題については何周も遅れてしまっていて、自分たちが今どこにいるのかさえ考えていないようです。なので相変わらずコントなどでは黒人の役で顔を黒塗りにする「ブラックフェイス」が行われたり、黒人役のセリフが田舎弁だったりします。

60年代の黒人解放運動を通して「Black is Beautiful」と自尊を訴え、70年代にはアリサ・フランクリンが「I'm Gifted and Black(私は才能があって黒人)」と歌った意味を、日本社会では知る必要がなかった。対してハイチの父と日本の母の間に生まれた大阪選手は自分が白く描かれたことに関して「なぜみんなが怒っているのかはわかる」と、もちろん理解していました。

実はもう一つ、人種問題ではなく女性問題でも大阪選手は日本の世間の周回遅れを炙り出しています。それはやはり優勝記者会見で、日本のTVリポーターが対戦相手の感想を「日本語でお願いします」と求めた時のことです。

大阪選手は日本語では表現し切れないと思ったのでしょう、「英語で話します」と言ってクビトバ選手が2年前に強盗に利き手を刺される重傷を負ったこと、それを克服して決勝で戦ったことを称える立派なコメントをしました。

ところでなぜ「日本語でお願いします」と求められたのでしょう?

おそらくこれは、大阪選手のたどたどしく可愛らしい日本語を聞くことで、日本の視聴者とともに彼女を「カワイイ〜」と言って微笑ましく言祝ごうという企図だったのだろうと思います。それは無意識にであっても女子選手に、いや女子たち全般に、「可愛らしく微笑ましい」存在であることを強制する仕草になります。それは、日本ではあまり意識されませんが「国際的に」は明確に男性目線のセクシズムです。

しかも彼女の優勝以来、日本のTVのワイドショーでは大阪選手がいかに「日本人」らしいか、いかに「日本の誇り」かの話題を続けています。彼女が頭角を現してきた1年前には、彼女の褐色の肌やチリチリの髪を見て「日本人には見えないよなあ」と言っていた人も少なくなかった日本の世間が、いまは手のひらを返して「日本人」を強調するのです。

そんなとき私はいつも歌人枡野浩一さんの「野茂がもし世界のNOMOになろうとも君や私の手柄ではない」という短歌を思い出します。

大阪選手が、世界が日本を見る窓になっています。私の願いは、彼女が同時に、日本から世界を見る窓になってくれることです。もちろんそれは彼女の仕事ではなく、私たち日本に住む日本人の仕事です。

January 12, 2019

トランプの家

政府閉鎖の原因であるメキシコ国境の壁建設をめぐり、トランプが「非常事態宣言」の可能性に触れたとき、ああこの人は本当によくテレビを見ているんだなと呆れると同時に感心もしたほどです。合衆国大統領には予算を作り出す権限はありません。予算編成権限は議会のものです。つまり国境の壁は、作ろうとしても大統領にはカネがない。

どこかに使えるカネがないか? 6年前、2013年から始まったネットフリックスの人気政治ドラマ『House of Cards(邦題ハウス・オブ・カード)』では、悪辣の極みのフランク・アンダーウッド大統領が自分の人気取り政策である雇用創出プログラム「アメリカ・ワークス」を実行に移すため、まさに非常事態宣言を行って連邦緊急事態管理庁(FEMA)にプールの30億ドルの災害緊急基金を転用するアイディアを思いつきます。

アンダーウッドは補佐官らに「非常事態とはどういうものだ?」と確認します。

補佐官は「スタフォード法によると、非常事態とは大統領の決定に基づく状況下で──」「つまり非常事態を決定するのは大統領ということだな。どんな場合でも?」「はい、人命や公衆衛生、治安を守る目的であれば」「失業は犯罪を増やし健康を害し社会を不安にする」「しかし訴訟になります」「訴訟になるころには(プログラムの)効用も理解される」「しかしこんな予算の再分配はこれまでどんな大統領もやったことがありません」「Thank you gentlemen. That's all I need!(ありがとう、諸君。知りたいのはそれだけだ!)」

「雇用プログラム」と「国境の壁建設」という違いはあれど、さらにカネの捻出さきがFEMAかどうか(報道では国防予算という説もあります)もありますが、非常事態宣言によるカネの捻出法は、まさにこれです。トランプがこのドラマからパクったという証拠はありませんが、まあ、本も読まずにテレビで"勉強"する大統領です。大統領の仕事や権限もアンダーウッドから学んで「いない」とも言えないのがこの人です。

ちなみにこの『ハウス・オブ・カード』、人を人とも思わぬ気持ち悪い大統領像をケヴィン・スペイシーが好演していたのですが、スペイシー本人が昨年、長きにわたる共演の若者たちなどへの性的虐待で告発され、昨年の最終シーズン6ではドラマ内ですでに死んでしまったことになっていました。それ以前に、権謀術数の限りを尽くして大統領にまで成り上がったこのアンダーウッドも、トランプが大統領に就任したシーズン5からはその破茶滅茶ぶりがそっくり現実の大統領にお株を奪われた格好で、物語もやや失速気味だったのです。

なにせマティスが辞任(トランプは解任だと言い換えましたが)する元となったシリア撤兵も「すぐとは言ってない。ISISが殲滅されるなどの条件が満たされればだ」。いやいやいやいや、大統領、あんた「掃討完了」「すでに撤退指示」と言ったでしょ──と1から10までこの調子ですから。

それにしても政府閉鎖に関する民主党とのやりとりを見ていると、この人はまるで北朝鮮のような瀬戸際外交ならぬ瀬戸際交渉が好きなようです。チキンゲームは、普通は(給与未払いの連邦職員らの)犠牲をもいとわない神経の持ち主が勝ちでしょう。しかし民主党もそんなトランプを止めよとの民意で下院多数派になったのですから、簡単に折れるわけにも行きません。

対中、対北朝鮮、対ロシア。本来なら今年はアメリカが最も毅然とした政策を取らねばならない年です。けれどトランプにとってはむしろ政府閉鎖のゴタゴタを言い訳に自分で仕事をしないで済むのがいいのかもしれません。なにせモラ0ー特別検察官チームの捜査報告や下院委員会での調査が迫っていて、面倒な大統領職などやってる場合じゃないわけで。よって北朝鮮はポンペイオ任せ、トルコや中東はボルトン任せ、対中貿易交渉はライトハイザーやナヴァロ任せ。国防長官も首席補佐官も司法長官もいないホワイトハウスの新年です。

ちなみに、「ハウス・オブ・カーズ」というのは「トランプのカードで組み立てた家」のこと。ちょっとした衝撃で壊れてしまうものの例えです。今更ですが、実に予言的な命名です。